ガラード Zero100

岩崎千明

ステレオサウンド 30号(1974年3月発行)
「現在のマジックボックス オートチェンジャー」より

 トラッキング・エラー補正メカニズムという、理想に大きく近づいた形を、ほぼ完全な状態で取り入れたアームを着装している点で、ガラード・ZERO100は、単に画期的な、というありきたりの冠詞では言いつくせない、品質評価され得ない、真の高品質といい得る高級オートチェンジャーである。
 それは、かつてLP出現期からステレオ初期に至る10数年間、全世界を席巻した唯一無二のオートマチック・チェンジャーであったガラードの「誇りとのれん」に示したとっておきともいえるオートチェンジャー・メカニズムの具現化商品であり、それだけにこのZERO100に賭けた老舗・ガラードの意気ごみは熱くたくましい。
 しかし、である、残念なことに、これだけの理想形ともいえるほどのアームをそなえているにもかかわらず商品としてZERO100は成功をおさめたとはいい難いのではなかろうか。
 れそはなぜか。ZERO100を手許に引き寄せ、そのスタート・スイッチを入れてみれば、誰しも大よその判断を得よう。ガラード・ZERO100のオートマチックメカニズムは、まったく従来のガラードのオートチェンジャーのメカニズムを踏襲したものであることを知るだろう。
 今や、西ドイツからデュアルという強敵をむかえる現事態を、真向からむかい合うのではなく、その存在を外しかわして、自らの技術の伝統を少しも改めようとしない頑強な英国特有のブルドック魂ともいえる精神がそこにみられる。
 オートチェンジャーは、その内側をのぞけば判るように、こまかいパーツが精密に入り組んで、容易なことで変更、改良がきかいないのは、周知の事実であり、その為に商品サイクルがマニュアルプレーヤーよりも長くなる原因ともなっている訳だ。ガラードの場合、その自信あるメカニズムに自らの信頼をおき過ぎたのではないだろうか。10数年間、大きなメカニズムの変更なしに着実にチェンジャーを世に送り出した中で、ZERO100は作られた。外観はモダンにメカニズムの枠として生れ変っているが、内側は、かつてのベストセラーだった75、85さらに95とほとんど同じチェンジャーメカニズムをもっている。
 アームの上下、および、水平運動、レコードの落下などの動作がすばやく、不安を感じさせないだろうか。
 オートチェンジャーというパートに、マニアが求めるのは、やはりオートチェンジャーとしての不安を除いてくれるような完璧な動作なのではないだろうか。
 ZERO100に採用されたトーンアームは、冒頭に述べたようにトラッキングエラー、アンチスケーティングなどに対する補正が、理想的につきつめられている。スタティックバランス型の角型パイプアームに平行したリンクアームにより、ヘッドシェルのオフセット角を変化させ、トラッキングエラーを常時ゼロに保つその設計意図は充分うなずけるし、マグネットを使ったアンチスケーティング機構も効果は大きい。
 しかし、それはいくつかの理由によって過小評価をまぬがれない。
 例えばアーム基部のアクリル枠だ。アクリルという安っぽさは、あるいはデザインによって克服され得るかもしれないが、ZERO100のせっかくのトラッキングエラー・レスというその大きな特長をアクリルという材料によって一見した印象で安っぽくしてしまう。少なくとも日本のマニアは、そうみるに違いない。
 最後にZERO100の最大の難点はレコードのサポートメカニズムとレコード落下時のレコードの踊りである。
 わずかな、とタカをくくってはならぬ。ガラードのチェンジャーが西ドイツ製チェンジャーに押され、BSRにさえ追い越されようとする最大の原因は、このたったひとつの点にかかっているのだから。

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