瀬川冬樹
ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
各スピーカーの評価ばかりでなく、組合せや使いこなしのヒントまでをテーマに聴いた
上下二回に亙る予定の試聴テストの前半を終えた。30機種のスピーカーに共通のテストの方法について書いておく。
■試聴装置の選定──アンプ──
各スピーカーの評価ばかりでなく使いこなしを含めて解説するように、というテーマが私には与えられていたので、アンプやカートリッジには、それぞれ性格を異にする製品を数多く集めて、幅広くテストするよう配慮した。アンプはプリメイン型の中から大幅にキャラクターの違う三機種として
①トリオ KA7300D
②ヤマハ CA2000
③ラックス SQ38FD/II
を選んだ。②と③については42号の試聴記および推選機種の解説で書いたように、一方は最新型のTR(トランジスター)高級機、他方は旧製品ながらユニークな管球式ということで、全く対照的な音がするが共に優秀な製品だ。ただいずれも十五万円以上のいわゆる高級機に属するので、スピーカーによってはもう少し価格の安いプリメインアンプとのマッチングを確認する意味で、42号以降に発売された新製品の中から、私のテストした中では最も優秀だと思うトリオKA7300Dを加えた。中級機の中では音の品位の高いことと、音楽の表情をとてもよく生かす秀作だと思う。このトリオのいくらか味の濃い音に対して、ヤマハのややサラリと軽く明るい音との二つで、スピーカーの傾向をかなりよく掴むことができたと考えている。またSQ38FD/IIの場合は、この少々古めかしいところのある音を、暖かい良さとして生かすスピーカーと、逆に弱点として鳴らすスピーカーとがあって興味深かったが、結果的にはみれば、トランジスターの最新モデルのフレッシュな音と、38FD/IIのことに弦やヴォーカルで聴かせる滑らかな暖かさとを、それぞれに魅力として聴かせるようなスピーカーの方が、総じて優秀なスピーカーだと言える。こまかくは各試聴記をご参照頂きたいが、しかし私に与えられた枚数の中では、こういうこまかな面についてまで補足を加えるスペースがとれなくて残念な思いをした。
アンプとしては右以外に、セパレートの高級機を加えておく必要もあると考えて、
④ラックス 5C50+5F70+5M20+5E24
⑤マーク・レビンソン LNP2L+SAE MARK2500
の組合せを用意した。⑤は私の個人用のシステムで最も扱い馴れたいわばリファレンス用としての意味も持っているが、④の方は、最近の国産セパレートタイプの中でも、プリとメインの両方の出来栄えでバランスのとれたアンプという意味で使ってみたが、音質の点では十分に満足できた。またトーンコントロールアンプ5F70によって、周波数特性をかなり細かく調整して各スピーカーのくせを掴むことができたし、ピークインジケーター5E24でスピーカーに送り込まれるパワーを正確に読むことができてとても安心できた。ただ、5M20にはこういうテストには少々パワー不足に思えることがあって、せめて200W×2以上の出力が欲しかったが、その面はSAEの300W×2で補った。
■試聴装置の選定──プレイヤーとカートリッジ──
レコードプレーヤーは、それ自体しっかりしたものであればスピーカーのテストにはそう厳密なことを考える必要がないと思ったので、おそらく延べ数十時間に亙るであろうテストのあいだじゅう、レコードを何百回となくかけるたびに不愉快な思いをさせないでくれるように、デザインや操作性の面で個人的に気に入っているラックスのPD121とオーディオクラフトのAC300Cの組合せを用意した。
カートリッジは、オルトフォンMC20+マーク・レビンソンJC1AC/Pと、エレクトロアクースティック(エラック)STS455Eを最も多く使った。日頃常用して素性がよくわかっているからだが、このほかに、ADC(ZLM、XLM/III)、エンパイア(4000D/III)、EMT(XSD15)、ピカリング(XSV3000、XUV4500Q)、シュアー(V15/III)、オルトフォン(SPU-G/E、VMS20E)、テクニクス(EPC100C)などを、確認のために準備し、スピーカーによって使い分けてみた。なおこれ以外にも、本誌試聴室には市販のほとんどのカートリッジが揃っているので、必要に応じて随時各種を試みた。それらについても、アンプ同様、スペースの制約から細かなことを書けなかった点は残念だった。
■レコードについて
試聴用に選ぶレコードについてかなり誤解があるようなので解説を加えておきたい。おそらく別項にあるように、私の使うレコードは必ずしもすべてが最新録音ではないし、いわゆる話題の名盤というわけでもない。中にはここ数年来変らず使うレコードもある。それは、ごく限られた短い時間の中で、ほとんど瞬間的に音を聴き分け、評価するという目的のためには、自分の身体に染み込んでしまうほど永いあいだ何百回となく聴き馴染んだプログラムソースを使う方がよいと考えているからだ。最新録音盤では、まだそのどこにどういう音が入っているのかが、身体に染み込むほど耳に入りきっていない。少なくとも数ヵ月以上、毎日のように聴いた部分でなくては、自信の持てるようなテストができない。
また、いわゆる話題の名演、名盤をあまり使わないのは、私自身の全くの個人的な理由による。というのは、もしも自分が本当に音楽そのものを楽しみたいほどの良いレコードであれば、総試聴といういわば仕事の場ではなるべく耳にしたくない。プライベートの場で、菊機会を十分に選んで、音楽にのめり込みたい。そう思わせるほどのレコードを、何百回もの荒っぽい反復使用でキズものにしたくないし、どんな名演でも部分的に何百回も耳にすれば、感激も薄れてしまうだろう。そういうレコードは、原則としてテストには使わない。
もうひとつ、いまも書いたようにテストの場合は、一枚のレコードの中のせいぜい3分から長くても5分あいだぐらいの特定の部分だけを、何百回も反復して使う。とうぜん傷みも激しい。しかしまた、部分的にビリつきやポップノイズを生じはじめたような傷んだレコードも、その部分を正確に知っていれば、ポップノイズはトランジェントレスポンスのテストになるし、ビリついたプログラムソースが潜在的な歪を露頭させるため
に有効に働くことがままあるのだ。
要するに、テストソースというのは私にとってオシレーターの波形同様に音源としての方便のひとつにすぎないので、このレコードのこの部分がこう聴こえれば、あのレコードのあの部分がああ聴こえるはずだという計算が、頭の中で正確にできるような、自分にとって有用な基準尺度として使えることが条件だ。そのためには、あえて録音のよくないレコードを使うこともあるが、そういうレコードを私以外の人が入手しても、どの部分をどう聴きとるか、の基準が違えば何の約にも立たないだろう。
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試聴装置およびレコードを選んだ理由は以上のとおりである。これをもとに、本誌試聴室に用意してある各種のスピーカー置台やインシュレーターをいろいろ試み、レベルコントロールを大幅に動かしてみ、音量も大幅に変えながら、それぞれのスピーカーの隠れた性格まで読みとるべくテストした。
なお今回の試聴直前に、本誌試聴室に一部改修が加えられて音響特性が変ったが、部屋の音を十分に耳に馴染ませる時間が少なかったので、判断に誤りの生じないよう、リファレンス用としてJBL♯4343を用意して、常時参考にして比較した。今回の改修で従来よりも残響時間が短めになったせいとリファレンスを用意したために、むしろいままでよりも各スピーカーの差がはっきりと掴めたと思う。
■試聴レコード
●ベートーヴェン序曲集
カラヤン/ベルリン・フィル(独グラモフォン 2530 414)
●ブラームス:ピアノ協奏曲第1番・第2番
ギレリス/ヨッフム/ベルリン・フィル(グラモフォン MG8015/6)
●ベートーヴェン:七重奏楽曲 op.20
ウィーン・フィル室内アンサンブル(グラモフォン MG1060)
●シューマン:リーダークライスop.24
フィッシャー=ディスカウ(グラモフォン MG2498)
●孤独のスケッチ/バルバラ(フィリップス SFX5123)
●サイド・バイ・サイドVol.3
八城一夫ほか(オーディオ・ラボ ALJ-1047)
●アイヴ・ゴット・ザ・ミュージック・イン・ミー/テルマ・ヒューストン(米シェフィールドラボ-2)
その他、数枚適宜使用
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