最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その9)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

 先ほどもふれたアメリカのオーディオ機器の一時的な衰退あるいは不毛から脱出するきっかけを作ったのは、アンプの分野ではマーク・レビンソンの出現であったことに異論はあるまい。レビンソンは、1973年に、彼の最初の市販品LNP2型コントロールアンプを発売している。この製品が日本に広く知られるのは1976年以降のことになるが、永いあいだ、真の意味での優秀なオーディオアンプが誕生しなかったアメリカで、LNP2以後、続々と若い世代がアンプメーカーを興しはじめて、それらのほとんどが、スペック(規格)を発表する際に『レビンソンと比較して……』といった表現をとっていたことから、逆に、レビンソンの性能がいかに大きな影響を及ぼしたかが伺い知れる。
 LNPを最初に自宅で聴くことができたのは、1975年だった。この試聴はそして、マランツ、JBL、マッキントッシュ以来、絶えて久しくおぼえたことのなかった驚異をもたらしてくれた。JBL以後の新しいトランジスターアンプへの永いあいだの疑念を、LNP2は一挙に拭い去ってくれた。かつてあれほど、JBLの透明な解像力の良さに驚かされたはずなのに、LNP2を一度聴いたあとでは、JBLでさえすでに曇って聴こえた。電子工学の進歩を、ほんとうに思い知らされた。だが、SG520の発売が1963年。すると、マーク・レビンソンまでの10年ものあいだ、SG520は、トランジスター・プリアンプの王座を保ち続けたことになる。これもまた、たいした偉業と言ってよいだろう。
 さて久々に良いプリアンプにめぐり会って、わたくしの衝動買いの癖はたちまちLNP2を手に入れたが、実はこのコントロールアンプくらい、発売以後いろいろと手が加えられ、音質の改善されている製品も珍しい。LNP2がLNP2Lとなり、その後電源が新型のPLS153Lに改善された、という程度にしか、外観からの変化は見つけにくい。だが、実際には、増幅素子のオペアンプ・モジュールの変更、プリント基板やボリュウム・スイッチ類の改善、その他のこまかな改良等、LNP2の音質はずいぶん変化している。そして、改良のプロセスごとに、音質はいっそう透明度を増し、聴感上の音のひずみや濁りが減少して美しい音質にはいっそうの磨きがかけられてきた。我が家のLNP2も、やがてLNP2Lとなり、最近になって新電源つきの新製品にと、つごう三回、交換されている。もともとやすくないアンプだが、だからといって、一旦改良型の音を耳にしてしまうと、多少の無理をしてでも交換したくなるというのが口惜しいところだ。

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