最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その8)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

     V
 ……と、ようやくここからが本論のような形になってきたが、今回の本誌のアンプ特集の一環として、内外の話題作を比較試聴する機会が与えられたとき、ここまで書いてきたような、アンプの変遷が、わたくしの頭の中を去来したからだった。アンプの音質が、なんと向上したことだろう。また、なんと全体の音質の差が縮まってきたことだろう。だがそれでいて、数多くのアンプを短時日に集中的に聴きくらべて、その興奮が去ったあとで、レコード音楽の受けとめ手としてのわたくしたち愛好家の心に残る音が、果してどれだけあったのだろうか。かつて、マランツ、マッキントッシュ、JBLを、それぞれの音の個性のみごさゆえに、三者とも身辺に置きたいとさえ思った。それほどに聴き手を魅了する個性ある音が、果してこんにちどれほどあるか。そしてまた、こんにちのオーディオアンプが、それほどまでに個性のある音を鳴らすことを、ほんとうに目ざしているのかどうか。オーディオアンプの究極の理想が、もしも、よく言われるような「増幅度を持ったストレートワイヤー」にあるのならば、つまり、入力に加えられた音声電流を、可及的に正確に拡大することがアンプの理想の姿であるのなら、アンプ個々の音質の差は、なくなる方向にゆくべきではないのか。アンプの個性とは、結局のところアンプの不完全さ、未完成の状態をあらわしていることになるのではないのか……。
 そうした多くの設問について、限られたスペースでどれだけ言えるかはわからない。が、ともかく現実に聴きくらべたいくつかのアンプにことよせて、こんにちの、そして今後のアンプの問題のいくつかを考えてみたい。

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