最新セパレートアンプの魅力をたずねて(その4)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか」より

     III
 こうして何年かが過ぎた。わたくしのオーディオ装置はその間いろいろ変化したが、プリアンプのマランツ7だけは、これに勝るものがなく、そのままメインとして居坐りつづけた。前項で書き忘れたが、マランツのほかにもう一台、フィッシャーのモノーラル・プリアンプ(モデル80C)を、割安に手に入れて聴いてみたが、こちらの音は少しも驚くようなものではなかった。この音質なら、わたくしの作っていたプリアンプでも、むしろそれ以上に鳴っていた。ただ、さすがにキャリアを積んだメーカーだけあって、おそろしく小型に組んだ電源内蔵型なのに、ハムのきわめて少ない点には敬服した。
 と、また話が脱線しかかったが、つまりわたくしの体験の中で、マランツ7だけが飛び抜けて優秀な音を鳴らしたことを補足しておきたかったわけだ。
 ところで、マランツと並んでアメリカのオーディオ界で最高級アンプの名声を二分していたマッキントッシュについては、まだその真価を知る機会がなかった。すでに書いたように、マランツのプリ一台でも、そのころの貨幣価値からいってひどく高価であったため、当時の日本では、まだ、そういう高価なアンプを購入しようとする人はきわめて稀な存在だったから、製品そのものが専門店のウインドゥに並ぶ機会も稀だったし、まして、こんにちと違ってそういう製品を借りて聴けるような機会は全くなかった。それだからこそ、製品については、これもまたこんにちにくらべるとほとんど紹介される機会もなく、せいぜい海外の専門誌上での小さな広告などから、製品を知る以外に手がなかった。
 それだけに、わたくしたちのそれら製品に対する認識は、おそろしく片寄った先入観に支配されていたし、もっともらしい噂話に尾ひれがついて、製品の真価が曲げて伝えられていた。
 お恥ずかしい話だが、そういうわけで、マッキントッシュのアンプをごくたまにウインドゥの中で眺めても、スイッチの入っていない彼は、あの黒いガラスのパネルに金色の文字、そして両サイドにもツマミにも金色がふんだんに使ってあることが目につくばかり。電源を入れるとその金文字が美しいグリーンに一変するということなど、全く知らない。まさに井の中の蛙そのままだが、別にわたくしばかりではない、オーディオに相当以上の興味を持っているアマチュアでも、ほとんどの人は同じような状況に置かれていた。
 とうぜん、マッキントッシュのMC240や275の音質の良さ、おそらくマランツ7と同じ頃に聴いたとしたら、同じくらい驚かされたに違いないその音質について知ったのは、もう少しあとになってからだった。
     *
 昭和41年暮に、「ステレオサウンド」誌の創刊号が発刊された。ほんとうの意味でのオーディオ専門の定期刊行物がここで初めて誕生したわけだが、編集兼発行人の原田勲氏は、それ以前のこの分野の誰もが考えたことのなかったもうれつな計画を立てた。その頃日本で入手できた内外のアンプを、できるだけ数多く集めて、同条件で比較試聴しようという、こんにちではステレオサウンド誌のひとつのパターンになってしまったいわゆる〝総まくりテスト〟を、ステレオサウンド誌42年夏号(創刊第三号)で実現させたのである。
 この頃になると、わたくし自身もすでに内外の代表的な製品のいくつかを、自分で購入もしていたし、また他の雑誌の取材等でいくつか実際に聴いてはいたがしかし、レシーバー(総合アンプ)からプリメイン、そしてセパレートまで、そして当時は真空管式トランジスター式とが半々に入り交じっていたような状況下で、65機種もの製品を一同に終結させての比較試聴というのは、全く生れて初めての体験だった。ステレオサウンド誌自身もまだ試聴室を持っていなくて、わたくしの家、といっても妻の実家の庭に建っていた六畳と四畳半、二間きりの狭い家に、岡俊雄、山中敬三の両氏にお越し頂いての試聴だったが、初夏の頃、前後一週間近くを尽くしての大がかりな比較になった。そこではじめて、わたくしばかりでなく岡、山中の両氏も、マッキントッシュの凄さを知らされたのであった。

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