Monthly Archives: 6月 1992

エレクトロコンパニエット ECI-1

井上卓也

ステレオサウンド 103号(1992年6月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 ヨーロッパ系のプリメインアンプは古くからルボックスの製品が輸入されており、すでに高い評価を得ているが、最近では、コンパクトでそれなりに楽しく音楽が聴けるミュージカルフィデリティやオーラデザインなどの製品が注目を集めている。今回ご紹介するエレクトロコンパニエットのECI1は、このところ話題となっているプリメインアンプのもう一つの潮流である、アインシュタインを代表とするハイエンド指向の範疇に属する製品である。
 同社は74年にノルウェーのオスロで設立されたアンプメーカーである。初期の製品は、マッティ・オタラとジャン・ロストロが設計した25Wのパワーアンプで、一時注目を集めた動的歪をテーマとしたマッティ・オタラ理論のベースとなったアンプであったということだ。
 ECI1は同社のコンシュマー用アンプとして最初のソリッドステート式アンプで、高スルーレイト、優れたオープンループ特性や高い瞬間最大電流供給能力などをテーマとした設計である。定格入力は0・5Vで、ラインアンプとパワーアンプの2ブロック構成のシンプルな構成が採用され、各ブロックは無帰還型ではなくNF回路を最適条件に設定し、動的歪を低減するマッティ・オタラ理論に基づいた考え方が受け継がれている模様で、一種の懐かしさが感じられる設計思想である。
 電源部は600VA/chトロイダルトランスと整流用の2000μF電解コンデンサーは4・7μFポリカーボネイトフィルムと0・1μFポリプロピレン・フィルムコンデンサーを並列接続とした構成で、これは国内製品では、かつてサンスイのプリメインアンプの電源部に採用された実績があり、サウンドコントロールに効果的なテクニックである。
 パネルデザインは簡潔そのもので、厚みが十分にあるアクリルを使ったクリーンな質感は、現代アンプらしいよい雰囲気をもっている。
 信号を加えてからのウォームアップタイムは短く、100W+100Wのパワーをもちながら、50W+50W級のシャープで反応の速いクリアーな音を聴かせる辺りはかなりオーディオ的な醍醐味を味わえる。
 音色はナチュラルな帯域バランスでキャラクターも少なく、素直でわずかに薄化粧をしたような音の磨かれ方は独自の魅力である。
 音場感は見通しがよく、やや奥に広がる傾向で音像もリアルに定位する。試聴室で聴いた印象は全体的に心地良いものだったが、スピーカーがJBL4344では荷が重いようだった。これは組み合せるスピーカーを考慮すれば難なくクリアーできるものであり、アインシュタイン、パイオニアの高級プリメインと共に今後注目されることだろう。

ソニック・フロンティア SFL-1

井上卓也

ステレオサウンド 103号(1992年6月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 カナダのオンタリオに本拠を置くソニックフロンティアは、管球式アンプを専門に製作しているブランドである。当初はキットのみを提供するメーカーであったようだが、その後完成品としてステレオパワーアンプSFS50、同80を発売。そして、今回ライン入力専用のプリアンプSFL1を発表した。
 なお、同社の製品はこれ以外にも今年のサマーCESで発表される予定の管球式モノーラルパワーアンプやフォノイコライザーアンプなどがある。
 やや色調を抑えたシルバーとゴールドの2トーンカラーのフロントパネルは、ボリュウム、バランス、セレクターの3個のツマミとレバースイッチをシンメトリカルに配置したシンプルなデザインにまとめられている。機能は4系統のライン入力とCD用のダイレクト入力および1系統のテープ入出力といった必要最少限に抑えられた設計で、その他にはミューティングスイッチがある程度だ。
 プリアンプとしての利得は20dBで、アナログ時代のラインアンプの標準的な値であるが、現在のプリアンプとしてはややハイゲイン型である。
 回路構成上の詳細は不明だが、アンプ構成はFETと6DJ8双3極管1本を使ったハイブリッド型で、当初のサンプルモデルでは12AT7が使われていたが、正式モデルには音質面から6DJ8が選ばれ標準仕様となっている。
 回路は当然のことながら基板上に組み込まれ、グラスエポキシ系の板厚3mmのやや厚い材料が使われているが、シンプルな構成のアンプであるだけに部品の選択が直接音質に関係をもつ。抵抗、コンデンサー、スイッチや配線材料はVishay、Cardasなどの銘柄を選択使用している。また、ボリュウムとバランスにはAPS製レーザートリムの可変抵抗を採用している。
 まずノーマルインプットからCD信号を入力してウォームアップを待つ。穏やかでウォームトーン系のやや音色が暗い音というのが最初の印象である。組合せたパワーアンプはアキュフェーズのA100である。試聴の際は、アンプの筐体が十分に熱くなるまでウォームアップはしてあるが、信号を入力してからの音の変化はかなりゆるや
かなタイプであり、15〜20分間ほどで次第にベール感が薄らぎ、音場感的な見通しも良くなり、柔らかい雰囲気のある音が聴かれるようになる。
 積極的に音を聴かせるタイプではないが、固有のキャラクターは少なく、ほどよい鮮度感を備えたしっとりとした音は、長時間にわたり音楽を聴くファンに好適なモデルといえる。惜しむらくは同社のパワーアンプSFS80との組合せが確認できなかったことである。