Monthly Archives: 3月 1980 - Page 3

ダイヤトーン DS-70C

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 3ウェイ・3スピーカーのフロアー型システムで、エンクロージュアはバスレフ。ウーファーは33cmと大き目だが、全体はフロアー型としてはスリムで、締ったまとまりである。ユニットそれぞれも構成も大変オーソドックスなシステムといってよいが、このシステムの最大の特徴は、ウーファーにHCコーンを使っていることだ。音は、バランスはよいが、透明度がやや物足りなく、俗にいう抜けの悪さが感じられる。ヴァイオリンは滑らかで、耳障りな刺々しさは出ないが、逆に、少々細かい音の再現が不十分で鈍い感じを受ける。ピアノも精緻な音ではなく、大掴みに、まろやかに聴きよく響くタイプ。低音は、しなやかさがなく、コンコンという癖がつきまとう。ダイヤトーンとしては、音像のエッジのシャープさもやや期待はずれという感じだ。しかし、全体にスムーズで聴きよい響き、ローレベルからハイレベルまでのリニアリティのよさ、帯域バランスのよさなどは、さすがにキャリアのあるメーカーらしく、広い音楽の適応性をもつ。

総合採点:8

テクニクス SB-3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 デンオンよりはサイズが大きいにしても、同様に背面を壁に近寄せて設置しないと低音の量感が不足する。エラック径のカートリッジでは、デンオン以上に中音域が硬く張り出して気難しい音になりやすく、カートリッジやアンプの選び方にやや注意が要る。トゥイーターのレベルの調整に敏感に反応するので、相当こまかく合わせこんでやる必要がありそうだ。設計者の石井伸一郎氏からのサジェッションがあって、トゥイーター前面の透明なプラスチックのプロテクターを取り外してみた(ごく注意深くやる必要あり)。このほうが高域が素直になってよい。これらの調整と組合せでピントがあってきてからは、わりあいにふくよかさも出てきて、デンオンよりはスケールも大きく、なかなか聴きごたえのする音が鳴りはじめた。反面、使いこなしにちょっと気をゆるめると、中域のクセが出やすいし、そのせいもあるのか、高域端(ハイエンド)がすっきり伸びたという感じがしにくい。やや気難し型のスピーカーといえそうだ。

総合採点:8

●9項目採点表
音域の広さ:6
バランス:6
質感:5
スケール感:6
ステレオエフェクト:6
耐入力・ダイナミックレンジ:6
音の魅力度:5
組合せ:やや選ぶ
設置・調整:やや難し

ガウス・オプトニカ CP-3820

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 個々のサウンドのクォリティはかなり高いと思う。音のエネルギーの提示も、無理がなく、このましい。低い方の音も、適度にふくらむようなことなく、くっきりしまって、力を充分に感じさせる。❸のレコードでのバルツァのはった声が硬くならないあたりに、このスピーカーの実力のほどがしのばれるというべきかもしれない。ただ、音像は、いくぶん大きめだ。もし、音の風格というようなことでいうと、もう一歩みがきあげが必要のようだ。このスピーカーシステムの魅力ともいうべき独特の迫力を殺さず、全体としてのまとまりのよさを獲得するためには、使い手のそれなりの努力が必要だろう。また、その努力のかいがあるスピーカーシステムでもある。中域のはった、エネルギー感にみちた、このスピーカーシステムのきかせる音は、ちょっとほかではあじわえない、その意味では独自のものだ。

総合採点:7

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(ほどほど)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(好ましい)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)

タンノイ Super Red Monitor

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 声のまろやかさ、ホルンのひびきののびやかさ、あるいは弦楽器のなめらかなひびきといった点で、あじわいぶかいところがある。破綻のない、まとまりのいい音をきかせるスピーカーシステムといういい方も、多分、できるにちがいない。音像が適度にふくらむようなこともなく、くっきり定位するあたりも、このスピーカーのよさのひとつとしてあげられる。ただ、重量級のサウンドというべきか、重く、しかも力にみちた音の提示ということになると、かならずしも充分とはいいかたい。声でも、❸できける強いはった声などは、硬くなる。❷でのピアノの音にも、力にみちたものであってほしいと思う。しなやかな、あるいはつややかなひびきは、本当にすばらしいし、全体としてのまとまりもわるくないが、ダイナミックな表現力という点では、どうしてもものたりなさを感じないではいられない。

総合採点:8

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(物足りない)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(ほどほど)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)

Lo-D D-3300M

井上卓也

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 メタルテープ実用化以前に、カセットデッキにマイクロコンピューターを導入し、多種多様なカセットテープを最適条件に自動調整可能とした世界初の製品が、Lo−D D5500DDであった。ここで採用されたATRS(オートマチック・テープ・レスポンス・サーチ)システムは、マイコンにより、テープ一巻ごとに最適バイアス量、中低域、中域と高域の3点可変イコライザーによる録音・再生周波数のフラット化、録音・再生感度補正の3項目を自動調整する機能である。
 メタルテープ対応型となったD5500Mと同時に発表されたATRSシステム採用の第2弾製品が、D3300Mである。ATRSシステムをIC化し、マイコン内部の計算処理を5ビット化し精度向上した新ATRSシステムは、自動調整時間が約10秒に短縮された。
 D3300Mの新ATRSシステムは、テープセレクタースイッチを選択後、ATRSを動作させる手順である。5つのメモリー回路をもつため、自動調整した5種類のテープデータが保存可能だ。電源を切っても内蔵電池でバックアップされているので、データが消えるおそれはない。また、バックアップ電池が消耗した場合には、バッテリーインジケーターが点滅し警告する。
 テープトランスポートは、ICロジック回路採用のメカニズム操作系を採用し、独自のデッキ用ユニトルクモーター採用のDDデュアルキャプスタン方式2モーター型メカニズムである。ヘッド構成は、コンビネーション型3ヘッドを採用。録音・再生コンビネーションヘッドは、録音と再生ギャップ間隔が1・4mmのクローズギャップ型。表面はメタルテープ対応のチタン溶射仕上げされ、ヘッド形状は録音ギャップと再生ギャップにテープの圧着力が効率よく集中するハイパーボリック型である。
 機能は、オートリワインダー、オートプレイ、メモリーリワインド、REC・MUTE、タイマー録音/再生、−40dB〜+10dBのワイドレンジピークメーターなど標準的で、性能優先型の設計である。
 D3300Mは、推奨テープにLo−Dの各種テープがあり、バイアスやイコライザー量は、これらのテープに対して最適量がプッシュボタンのテープセレクターに記録され、電池でバックアップしているが、ATRSを備え任意のテープが最適条件で使えるメリットがあるため、試聴室にあった各社のテープをATRSで調整して使うことにする。デッキ自体が穏やかな性質をもち、聴感上の周波数帯域がナチュラルで、やや暖色系の柔らかく滑らか音であり、ATRSの効果もあって、各テープの個性をマイルドにして聴かせる傾向をもつ。テープヒスに代表される聴感上のノイズは少ないタイプだ。録音レベルは標準的な範囲をこさない程度にセットすれば、このデッキ本来のキャラクターを活かした音が得られる。また、ATRSのため、ドルビー回路が本来の機能を発揮できるのもメリットである。

ESS PS-8A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 背面にパッシヴラジエーターがついているため、壁面(硬い壁が必要)との間隔、及びエンクロージュアの高さの調整が必要だ。レベルコントロールはノーマルの指定がないが、試聴した条件ではほぼ中央でよかった。独特のトゥイーターの音が素直で質が高く、やかましさや不自然さを殆ど感じさせない。ウーファーとのつながりも以前の製品よりずっと改善されている。低音の鳴り方に、一種独特の脂の乗った粘りあるいはヴァイタリティ、加えて重量感があるので、重心の低い、つまり浮わついたところのない腰の坐りのよい音がする。パワーには相当に強いようで、かなり放り込んでもやかましくなったりきつくなったりしない。ヴォーカル、ポップス、ロック等にも好ましいことはもちろんだが、ヴァイオリンの倍音もかなり美しく弦特有の音色が自然で、十分に楽しめる。低音がややドスンという感じになりやすいので、そこをどう使いこなすかが、生かし方の鍵といえそうだ。

総合採点:8

●9項目採点表
音域の広さ:7
バランス:8
質感:7
スケール感:7
ステレオエフェクト:7
耐入力・ダイナミックレンジ:8
音の魅力度:7
組合せ:普通
設置・調整:やや難し

フォステクス GZ100

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 3ウェイ3スピーカーのブックシェルフ型だが、ブックシェルフ型としてはかなり大型の製品である。ウーファーは30cm口径で、エンクロージュアは密閉型である。同社でRP型と称するトゥイーターは平面振動板を使ったもので、RPとはレギュラー・フェイズのイニシャルをとったもの。さて、音についてだが、エネルギーバランスはとれているから、何を聴いても大きな破綻はきたさないし、音楽のバランスや造形がくずれることは内。RP型トゥイーターは技術的な新味はあるが、どうやらこのユニットが、このシステムの音を特長づけているように聴こえる。レコードのノイズ成分が不自然にピーキーで耳ざわりなのがそれで、ヴァイオリンのしなやかな質感が十分美しく再生されないようだ。ウーファー、スコーカーの領域でなんとかカバーできる帯域分布にある楽音は、まずまずの鳴り方といえる。全体に生硬な音といった印象で、楽音の品位がよく出ないのである。音楽表現の機微や音色のデリカシーまではあまり期待できない。

総合採点:7

ナカミチ Nakamichi 680ZX

井上卓也

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 昨年、480、580、600ZXシリーズと3シリーズの新製品群を一挙に発表し注目を集めたナカミチの事実上のトップモデルの製品が、この680ZXである。各シリーズともに、テープトランスポート系のメカニズムは新開発のデュアルキャプスタン方式で、テープのたるみ自動除去機構付。カセットハーフ側のテープパッドをメカニズムにより押し、テープパッドなしに使う独自の構想により設計されたタイプである。600ZXシリーズは、再生ヘッドの自動アジマス調整機構を備えるのが他のシリーズにない特長であり、なかでも680ZXは、テープ速度が半速を含む2段切替型であるのが目立つ点だ。
 600ZXシリーズは、他のナカミチのシリーズとは型番と機能の相関性が異なり、660ZXは録音・再生独立ヘッド採用で、アンプ系が録音・再生兼用型で、670ZXが独立3ヘッドの標準型である。
 型番末尾のZXは、自動アジマス調整付の意味で、内蔵発振器を使いキャリブレーション時には録音ヘッドアジマス(垂直角度)をモーター駆動で自動調整をし、20kHzをこす周波数特性をギャランティするユニークなメカニズムを装備している。この機構は、カセットハーフの機械的強度のバラツキによる特性劣化を補償できるメリットをもつ。とくに、半速で15kHzという高域特性を確保するために不可欠のものだ。
テープトランスポート系は、2モーター方式フルロジック型の操作系と周波数分散型ダブルキャプスタン方式に特長がある。ヘッドは、録音、再生独立型で、独自のクリスタロイを磁性材料に使い、再生ヘッドギャップは、標準速度で30kHzをクリアーさせるため0・6ミクロンと狭い。
 アンプ系はDC録音アンプ、ダブルNF回路を採用し、メタルテープのダイナミックレンジを十分にクリアーする性能を備える。機能面では、ピーク・VU、キャリブレーションなど多用途ワイドスケール蛍光ディスプレイ、18曲までの自動頭出し機構、2速度に切替わるキューイング機構、ピッチコントロール、REC・MUTE、マスターボリュウム、3種類のテープに対し、標準速度と半速にそれぞれ左右独立した感度調整機構を備えた性能と機能を両立させた特長があるが、マイクアンプは省略された。
 680ZXにメタル、コバルト、LHの各社のテープを組み合わせて使用してみる。走行系の安定度は抜群に優れ、ヘッドを含みアンプ系のマージンが十分にある。メタルテープ使用では、ドルビーレベルを0dBとしたレベルメーターのフルスケールまで録音レベルを上げても、さして破綻を示さない。デッキの性質は、粒立ちがクリアーで緻密さのあるやや寒色系の音で、帯域感は広くスッキリとしたクォリティの高い音である。ドルビー使用の半速でもコバルト系テープで必要にして十分なクォリティが得られ、並のデッキ標準速度に匹敵する。かなり厳しいディスクファンの耳にもこのデッキ音は、余裕をもって答えられるだけの見事なクォリティをもつ。

ビクター SX-7II

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 独特の透明感・プレゼンスのよさは私が高く評価していたものだが、今回の試聴ではそれが目立っては感じられなかった。どういうわけだか判然としない。試聴条件のためか、この製品について特にそうなのか、あるいは他製品との相対的な印象でそうなったのか……。試聴感は決して悪いものではなかったが、思っていたほどよくなかったというのが正直な感想である。しかし、全体のバランスといい明解な音像再現能力といい、良い点はたくさんある。かなり大音量再生を試みても安定した力感を楽しめるという能力の大きさは、やはり優れたスピーカーだと思う。ただ、外国製品の優れたものと比較せざるを得ない今回の試聴条件では、音色の再現能力に限界があって、もっと瑞々しくほれぼれするような音であるべき演奏の魅力が、十二分には発揮されない嫌いがあった。レコード音楽愛好家としては、それがたとえスピーカー固有のものだとしても、そこから聴こえる演奏と一体化した音色の音楽的愉悦感を否定できるものではない。

総合採点:9

インフィニティ Reference Standard 2.5

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 ❶のレコードの、すっきりしてもたつかず、さわやかでべとつかないきこえ方は、実にすばらしかった。トランペットの音が、中央奥の方からすっとのびてきてきこえ、ききてをうきうきさせた。まさに軽快という言葉がぴったりの音のきこえ方だった。ところが、❷のレコードになると、低い方の音がしまりきれていないということだろうが、グルダによってうちならされたピアノの強い音が、あきらかになりにくい。声のかすれ、あるいはその語りかけるような表情は、申し分なくあきらかにされていた。以上のようなことから、重より軽、暗より明、硬より軟の提示にひいでているということがいえそうだ。❸のレコードでのオーケストラのひびきのひろがりはすばらしいが、フォルテによるアタックは、本来の迫力を示しきれなかった。魅力にとんだスピーカーシステムだが、もう少し力強さに反応できるとなおこのましい。

総合採点:7

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(好ましい)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(ほどほど)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(ほどほど)

ビクター Zero-5

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 独特のトゥイーターの音色を、やや意識させる傾向に強調してあって、たとえばブルックナーの交響曲でも、また逆にベラフォンテの古い実況録音盤のような場合でも、つまりかなり傾向の異なるプログラムソースのいずれの場合でも、一種キラキラした固有の音色が聴きとれる。たとえばシンバルはシンシンというような感じ、そして弦の場合でもヴァイオリンの上音でときたまシリンというような感じのやや金属性の音がつきまとう。トゥイーターレベルを0から−3までのあいだで調整すると、この傾向はいくぶんおさえることはできるが、エラックの新型のような中〜高域のきつめのカートリッジでは、どうもうまくない。中音域以下では、たとえばキングズ・シンガーズのバリトン、バスの声域で、置き方をよく調整しないと、やや風呂場的響きに近くなりやすい。総じて味つけの濃い、わりあい個性の強いスピーカーだと思った。

総合採点:7

●9項目採点表
音域の広さ:7
バランス:6
質感:6
スケール感:7
ステレオエフェクト:6
耐入力・ダイナミックレンジ:7
音の魅力度:5
組合せ:やや選ぶ
設置・調整:普通

ESS PS-8A

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 ハイルドライバーというユニークな高域ユニットを使ったESSのシステムは、当初から幾多の改良がなされ、最新の製品では非常に洗練された音になった。このPS8Aは、シリーズ中の最もポピュラーな製品で、20cmウーファーとの2ウェイでこれを25cm径のドロンコーン付エンクロージュアに収めている。全体によくコントロールされたウェルバランスな音で、音色には艶やかな魅力と弾むようなしなやかさがある。といって、決して全体に強いトーンキャラクターがあるわけではなく、ごくハイエンドの癖と感じられる部分を除けば、おおむね音楽的効果としてプラスする範囲の色づきだ。ピアノの響きは美しく演奏の表現がよく生きる。一音一音がとぎれるようなことがなく、よく歌いよく和して聴こえる。ヴァイオリンは、ごく高い倍音領域に癖と感じられるキャラクターがあるが、それ故にか繊細で美しい印象ともなる。かなりのハイレベル再生でも安定で、ジャズ系ソースにも力感のある再現が可能。質的にも立派なものだった。

総合採点:9

パイオニア S-933

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 高級ブックシェルフ型スピーカーとしての面目躍如たる製品。3ウェイ3スピーカーをバスレフ型エンクロージュアにまとめているが、各ユニットのクォリティは大変に高い。そして、その三つのユニットがそれぞれ異なった構造のものながら、全体の音のまとめが巧みで完成度の高いシステムとなっている。欲をいうと、もう一つ明るく澄み切ってほしいところもあるが、楽音の固有の質感をよく鳴らし分けるし、余韻や空間の再現もかなり満足のいくものだ。まろやかな楽器の質感の再生は見事で、音に暖かみと幅がある。ヴァイオリンも倍音成分のバランスがナチュラルでスムーズだし、ピアノもよく歌ってくれる。オーケストラのハーモニーも重厚なテクスチュアがよく再生されるが、やや中低音が重い気もしなくはない。この帯域がもう少し軽やかになればもっといい。ハイレベル再生も安心して聴けるのでポピュラー系の音楽のスポーティな聴き方にも十分対応する。充実したジャズやロックのサウンドを浴びることができた。

総合採点:10

エレクトロボイス Interface:AIII

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 30cmドロンコーン付エンクロージュアに20cmウーファーとドーム型トゥイーターがつき、さらに専用イコライザーが付属するという独特な設計のブックシェルフが+ヒーカーである。最大入力がピークで250Wというヘビーデューティ仕様をみても、このスピーカーのたくましさがそうぞうできる。再生音はかなり特長のあるもので、密度の高い充実した音の触感は魅力的だ。しかし、全体のバランスは決して端正とはいえず、かなり個性的といわざるを得ない。オーケストラの分厚いハーモニーの再生は見事なものだが、人によってはこのアクの強さについていけないかもしれない。私にとってはそれほど違和感のあるものではないのだが、音楽によってはもっと繊細で端然とした響きも欲しくなる。音楽が無機的に白けることはないが、とくに押しつけがましい印象になるようだ。好き嫌いのはっきりわかれるスピーカーだと思うが、それにしてもスピーカーというものは程度の差こそあれ、嗜好の対象とならざるを得ないものなのである。

総合採点:8

エレクトロボイス Interface:DII

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 このスピーカーに関しては、設置のしかたで、あれこれ工夫をしてみた。台にのせたりおろしたり、台を高くしたり低くしたり、さまざま試みてみたが、なっとくいくような音をきくことができなかった。一種独特のたくましさをそなえた音ということができよう。ひびきの表情より力を強調する傾向がある。エリプソンの対極にある音ということもできるにちがいない。低い方の音の力強さは、なかなかすばらしい。いかなるひびきもあいまいにせず、くっきりと示す。その思いきりのよさは、それなりに魅力だ。ただ、いかにも、インティメイトな表情に不足する。批判的ないい方になってしまうが、この音のおしだし方のたくましさは、上質のPAをきいているような気持にさせる。高い方の音に、もうひとつ輝きがあり、すっきりとぬけた感じがあれば、このスピーカーの力強さに対する反応もいきるのだろうが。

総合採点:7

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(ほどほど)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(ほどほど)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(ほどほど)

コーラル X-VII

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 製品としてはかなり力のこもった入念な作りであるが、音は力感の再現に片寄って聴こえる。そのため、堂々とした迫力でロック調のポップスを聴くには効果的だ。全体のバランスもよくとれていて、性能的には高い水準を維持していることがわかる。しかし、繊細な要素、音楽の微妙なニュアンス、演奏表現の細やかな機微といったものの重要なプログラムソースの再生となると、残念ながら未だ洗練度が足りないようだ。ピアノのレガートが演奏されているようには響かず、一つ一つの音がぶつ切れになり、表現の雑な演奏に聴こえる嫌いがあるし、ヴァイオリンの音にもやや金属的な響きがつきまとい、トゥイーターかスコーカーの振動系の物性的な固有のキャラクターが出てしまう。シャシュの声も少々安っぽくキンキン響くし、オーケストラのトゥッティも華美にすぎる。もっと落ち着いた、しっとりとした味わいとして響くはずのレコードがそうした音になるということは、スピーカー設計上の一つの難題なのであろう。

総合採点:7

ロジャース PM110

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 小型スピーカーらしい、きちんとまとまった端正な音で、KEF303と比較すると、豊潤さでは劣るが、端正さでは勝ると思う。ヴァイオリン・ソロなどは大変品位の高い立派な音で、この楽器の特質をよく再現してくれる。触感のリアリティまで精緻に聴くことができる。ピアノになると、ややスケール感の点で不満が出るが、控え目ながら美しい鳴り方で、キメの細かいタッチが美しい。ジャズやロックになると、さすがにスケールと迫力の点で物足りなく、イメージとしてもKEF303の敵ではない。しかし、極端に低域が不足するというようなアンバランスさはないのが立派である。シンバルやブラシングの繊細な音色の鳴らし分けはたいしたもので、そうした音色のデリカシーの点では高く評価してよい。これもまたKEF同様、しかるべき低域システムを付加してかなり本格的なスピーカーとして組み上げてみたい意欲を感じさせるに十分な魅力を持っている。もちろん、このままでも十分魅力があることはいうまでもない。

総合採点:8

パイオニア Exclusive Model 3401W

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 このスピーカーのきかせる音は、おそらくアップ・トゥー・デイトな音とはいえないだろう。どことなくおっとりしている。ききてをゆったりした気持にさせる音ということもできるかもしれない。ひびきの質は、あくまでもふっくらとしている。だからといって、個々の音に敏感に反応しきれていないかというと、そうではない。ただ、やはりどうしても、❶のレコードできけるような音楽より、❷ないしは❸のレコードできけるような音楽で、このスピーカー本来のもちあじが発揮されるということはいえるだろう。そして、もうひとあじ、高い方の音に輝きが加われば、全体としてのサウンドイメージが新鮮になるということがいえそうだ。このききてをたっぷりとつつむような音には、一種の風格がある。よくもわるくも、大人の音ということがいえるのかもしれず、そこがこのスピーカーに対する評価のわかれるところだろう。

総合採点:9

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(ほどほど)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(好ましい)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)

KEF Model 303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 キャビネットはプラスチック製。しかも外装に金をかけないためだろう、四周をグリルクロスで囲っていて、天板部分はおそらくキズを目立たせないための配慮か、粗い砂目に仕上げてある。レベルコントロールは無い……というように、およそ無愛想のこの小っぽけなスピーカーが、実はびっくりするほどバランスのよい、そして渋い控えめながらこういう価格としてはおどろくほど質の高い音を聴かせる。クラシックはまあまあ聴かせてもポップスで腰くだけになるような古いイギリスのスピーカーの弱点は、303ではほとんど改善されている。音がやせてもいず太りすぎてもせず、冷たくも細くもならず適度のあたたかさで、音楽愛好家を十分満足させるだろう。床から30センチ以上持ち上げ、背面も壁にあまり近づけず、できるだけ左右にひらいて設置するとよい。小型ローコストでも、いわゆるセカンドスピーカー的存在でなく、十分とはゆかないまでもけっこう聴きごたえする佳作だ。

総合採点:10

●9項目採点表
音域の広さ:7
バランス:9
質感:8
スケール感:6
ステレオエフェクト:8
耐入力・ダイナミックレンジ:6
音の魅力度:8
組合せ:普通
設置・調整:普通

トリオ LS-202

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 どちらかといえば細身のそしていくぶん骨張ったようなところのある音。ただし歪感は少なく、たとえばブルックナーの交響曲のような場合でも、積み重なりあった多様な音たちの響き合い溶け合う感じが、割合うまく出る。強奏でもやかましさのないのは、中〜高域がややおさえぎみであるせいだろうか。一見硬い音なのにその点はダイヤトーン(DS32B)と対照的だ。ただ、歌い手の声質によっては、ちょっと歯のすき間から音の洩れるような感じになる場合があり、それは、とぅいーたーと中音域との質的なつながりの問題、及びときとしてやや出しゃばりぎみに鳴るためらしい。けれどトゥイーターのレベルを一段下げると、絞りすぎて歯ランスがくずれる。また、レコードのスクラッチノイズに固有のピッチの感じとれるヒスがつきまとう点も、トゥイーターをことさら意識させる結果となっているようだ。以前聴いた試作機のときは、もっと滑らかでつながりの良い、なかなか素敵な音がしたが。

総合採点:8

●9項目採点表
音域の広さ:7
バランス:6
質感:6
スケール感:7
ステレオエフェクト:7
耐入力・ダイナミックレンジ:7
音の魅力度:7
組合せ:やや選ぶ
設置・調整:やや難し

テクニクス SB-7

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 全体としてのまとまりや、この素直ともいえる透明な音は優れた水準のものだろう。音の汚れや音色に強い癖のないスピーカーである……というように、どこといって欠点を指摘することができない。帯域バランスもよくとれているし歪感もない。楽器の特質もよく再生し、ローレベルからハイレベルまでのリニアリティもよい。しかし、一番不満なのは、演奏の表現がフラットになって表情が乏しい。つまり、音響的にはともかく、音楽的には不満が残るのである。細かくいえば、一つ一つの楽音にしてもどこか生命感に乏しいのが不思議だ。たとえばピアノの粒立ちが立体的なイメージにならない。クレッシェンド、デクレッシェンドが音量的には行なわれても、生きたエクスプレッションが失われてしまう。美しい音だし、ハイパワー再生をしたときの音量も結構なものだが、真の迫力たり得ないのである。優れた特性のスピーカーなのだろうが、こうした音楽の充足感に一つの不満が残るのが惜しまれる。不満を強調しすぎだが……。

総合採点:8

エスプリ APM-8

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 まさに見た目どおりの律義な、そしてかなり真面目な鳴り方。さすがにエンクロージュアの大きさが生かされて、悠揚せまらざる風格のある音だ。鳴り方がおっとりしているからでなくトーン自体がどちらかといえばいくぶん暗くなる傾向はあるにしても、相当に素性がいいし、音のバランスやつながりもみごとだ。レベルコントロールには0・1dBきざみの目盛が入っているが、実際、0・5dBの変化にもピタリと反応する。調整を追い込んでゆけば0・3dB以下まで合わせこめるのではないだろうか。これほど正確に反応するということは、相当に練り上げられた結果だといえる。音の色づけをおさえているが、無色か無味になる手前で止まっているのも見事だ。ただ、何となく冷たい才気を感じて、ここにほんのわずか、聴き手をハッピーにさせる活気、あるいはほんのりとした色気や艶が乗ってくれれば、これは第一級のスピーカーになりうる。100万円は安くないが、しかしすごいスピーカーだ。

総合採点:8

●9項目採点表
音域の広さ:10
バランス:9
質感:9
スケール感:10
ステレオエフェクト:9
耐入力・ダイナミックレンジ:10
音の魅力度:7
組合せ:普通
設置・調整:普通

デンオン SC-304

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 国産のスピーカー、ことにヤマハのようなサラッとした音と比較すると、いくぶんこってりと艶が乗る感じで、音の重心もやや低く、たとえばヴァイオリンの胴の鳴る音などもヤマハ(NS100M)より実感をもってきこえる。ポップス系の実況(ライヴ)録音などでも、会場のひろがりがとてもよく出て雰囲気感の描写も暖かいが、反面、鳴っている音自体の力あるいは実体感という点では、ダイヤトーン(DS32B)のあパワフルな充実感には及ばない。それはおそらく三菱よりも中音域が張っているためだろう。加えてトゥイーターの上限がスッとよく伸びているため、音の味の濃い割には爽やかな印象もあり、総じてなかなか良いスピーカーだと思う。背面は壁に近寄せぎみ。あまり低い位置に置かない方がよかった。カートリッジはDL303のようにくせの少ない音がよく合うのは当然かもしれないが、アンプにも同様のことがいえそうで、あまりアクの強くない音のアンプ──たとえばL01A等──が合うように思った。

総合採点:8

●9項目採点表
音域の広さ:7
バランス:7
質感:7
スケール感:6
ステレオエフェクト:7
耐入力・ダイナミックレンジ:7
音の魅力度:7
組合せ:やや選ぶ
設置・調整:やさしい

ロジャース LS5/8

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 新しく紹介された今回のモデルでは、アンプは外に置く形に変っている。最初のモデルにくらべると、低音域を少しゆるめて音にふくらみをもたせたように感じられ、潔癖症的な印象が、多少楽天的傾向に変ったように思われる。しかし大すじでの音色やバランスのよさ、そして響きの豊かになったことによって、いわゆるモニター的な冷たさではなく、基本的にはできるかぎり入力を正確に再生しながら、鑑賞者をくつろがせ楽しませるような音の作り方に、ロジャース系の音色が加わったことが認められる。低音がふくらんでいる部分は、鳴らし方、置き方、あるいはプログラムソースによっては、多少肥大ぎみにも思えることがあり、引締った音の好きな人には嫌われるかもしれないが、が、少なくともクラシックのソースを聴くかぎり、KEF105IIの厳格な潔癖さに対して、やや麻薬的な色あいの妖しさは、相当の魅力ともいえそうだ。ちょっと効果で容易に手が出せないが。

総合採点:9

●9項目採点表
音域の広さ:9
バランス:9
質感:9
スケール感:9
ステレオエフェクト:9
耐入力・ダイナミックレンジ:8
音の魅力度:10
組合せ:やや選ぶ
設置・調整:工夫要

ソニー SS-G5a

井上卓也

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ソニーを代表するスピーカーシステム、Gシリーズの中核をなすSS−G5は、細部に改良が加えられ、SS−G5aとして新発売された。
 独自のブラムライン方式ユニット配置、高域指向性の向上とバッフル板振動モードを制御するAGボードの採用、バスレフ方式のエンクロージュアなどは変らない。30cmウーファーは、ボイスコイル直径が50mmから70mmとなり、磁束密度が25%増加して、高剛性リブコルゲーション付ストレートコーンの特長が一段と発揮されるようになった。8cmバランスドライブの中音ユニットは、新開発コーンが採用され、音色が明るく分解能が向上している。ネットワークは伝送ロスを減らすため、パターン厚70μのプリント基板を採用。ウーファー用コイルは音響素材SBMCで固め、機械的な振動を抑えるなど、新技術と高精度部品を採用した音質重視設計である。
 試聴室では標準に使っている高さ60cmのアングルに乗せて使ったが、表情は抑えられ低域は重く、音離れが悪かった。床上20cm程度の強度ある台にセットすると、音色が明るく腰の強い低域をベースにした活気があるクリアーな中域と、華やかな印象の高域が効果的なバランスを保ち、質的にも高い音となる。サランネットを外した状態では、高域のレベル2時半の位置で