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マークレビンソン LNP-2L + ML-2L

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 単体でのML2Lの音の説明が、すなわちLNP2Lと組み合せたときの音そのものなのだから、組み合わせての印象はそちらを参照して頂くことにして、ここではもう少し別のこまかなことを補足する。まずML2Lは、電源を入れてから動作の安定するまでに少なくとも30分。さらに音質の安定するまでには鳴らしはじめてから2時間以上が必要だ。また、あまりデッドに仕上げたリスニングルームや低域の調整に不備のあるスピーカーシステムとの組合せでは、かなりやせた感じの音に仕上りやすいので注意が要る。またLNP2Lは、ゲイン切換(パネル右端上のツマミ)が10または20のところが最も音のバランスが良いと私は思う。ゲインが高すぎるときは、メーター両わきのレベルコントロールで−10ないし−15程度まで絞っても、ゲイン切換はできるだけ20以上を保ちたい。単体のところでも書いたように、別売のバッファーアンプを追加すること。一旦電源を入れから、使わないときでも電源を切らない。

マークレビンソン ML-1L + ML-2L

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 LNP2Lは組み合わせたときとくらべて、音質がどう変化するのか、が興味の中心だろう。単体のところでも書いたように、旧JC2からML1Lと型番が変ると共に内容も一新されたために、旧型ほどの両者の音の差はなくなって、ほんの紙一重のちがい、とでもいえるほどになってきたが、むしろこのクラスになればその紙一重が重要だ。したがって聴感上はきわめてわずかの差をやや拡大して書くことになるが、一例を上げれば、菅野録音のベーゼンドルファーのあのこってりと脂と艶の乗った響きの部分、あるいはシェフィールドののテルマ・ヒューストンの黒人独特の照りのある声の艶、などが、LNPにくらべるとわずかに厚みの減る傾向になる。またクラシック全般については、LNPよりもMLの方が、これもほんのわずかながら音が硬めに仕上がる。ことにM得る2Lとの組合せでは、両者ともぜい肉をことさらおさえる傾向があるため、かなり細身の音に聴こえがちだ。

マークレビンソン HQD System

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
「マーク・レビンソンHQDシステムを聴いて」より

 マーク・レビンソンについてはいまさら改めて紹介の必要もないと思うが、アメリカのコネチカット州の郊外に生まれた、音楽家としてもまたオーディオエンジニアとして非常に有能な若者で、一九七三年に発表したローノイズ・プリアンプLNP2によって一躍世に認められ、いまや世界最高のアンプリファイアーのメーカーとして確実な地盤を築いた。彼の工場は、総員20名そこそこの小企業だが、妥協を許さずに常に最高の製品しか発表しないという姿勢が評価を高めて、ここ数年来、アメリカ国内でもマーク・レビンソンの成功に刺激されて中小のアンプメーカーが次々と名乗りを上げはじめたが、それらのほとんどが、発表資料の中に「マーク・レビンソンに比較して云々」という表現でデータを発表している例が多いことをみても、逆に、マーク・レビンソンの性能や声価のいかに高いかを読みとることができる。
 数年前から社名をMLAS(マーク・レビンソン・オーディオ・システム)と改称したことに現われているように、マーク・レビンソンは、自らの理想とするオーディオを、単にアンプの高性能化だけでは実現できないことを知っていたようだ。実際、二年前に来日したときにすでに「いま全く新しい構想のスピーカーシステムを実験している。やがてこれは市販するつもりだ」と語っていた。
 また、昨年からは彼の録音による半実験的なレコードの制作もはじめていることからも、彼自身が、プログラムソースからスピーカーシステムに至る一連のプロセスに、すべて自分で責任を持って手を下すことを最終目的としていることが読みとれた。本誌45号418ページの特別インタビューの中でも、彼自身がこうした理想について語っているが、とりわけ興味深かったのは、スピーカーシステムとしてQUADのESLを二本パラレルにドライブする、いわゆる「ダブル・クォード」システムを芯に据えた彼のHQDスピーカーシステム。もうひとつは、プロ用として誰もが全幅の信頼を置いて使っているスイス・スチューダーのプロフェッショナル・テープレコーダーA80の、エレクトロニクス(録音再生アンプ)部分が気に入らないので、トランスポート(メカニズム)だけを購入してエレクトロニクスをMLASで組込んだ、マーク・レビンソン=スチューダー、およびその普及機としてのマーク・レビンソン=ルボックスを市販する計画を持っている……という部分であった。これらの話はマーク自身の口からすでに聞いてはいたが、彼がそのオーディオ・システムの一切をほぼ完成させて、東京でデモンストレーションをする、というニュースを耳にして、想像していたよりも完成の早いことに驚くと共に、非常な期待を持って試聴に臨んだ。
 試聴会は2月3日(金)が予定されていたが、レビンソンとその輸入元RFエンタープライゼスの特別なはからいで、本誌のレギュラー筆者を中心に、2月2日の夜、前もって特別試聴会が催された。以下の感想はそのときのリポートである。
     *
 試聴の場所は、3日のディーラー筋への発表を前提として、赤坂プリンスホテルの一室があてられた。ごくふつうの宴会場で、席につくと、マーク・レビンソンは例の神経質な表情で、この部屋が自分の再生システムにとってやや広すぎる上に、音響特性がデッドすぎると、しきりに言いわけをした。
 HQDシステムは、ダブル・クォードESLに100Hzから7kHzまでの、ほとんどの音域を受け持たせ、100hz以下の重低音域に、別の大型エンクロージュアに収めたハートレイの24インチ(60センチ)ウーファー224HSを、そして7khz以上にデッカ=ケリィのリボン・トゥイーターの、フロントホーンを取り外したのを、それぞれ組み合わせた彼のオリジナルシステムで、ハートレイ、クォード、デッカの頭文字を合わせてHQDシステムと呼ぶ。各帯域はそれぞれ専用のパワーアンプでドライブされるが、そのために彼は、ピュアAクラス動作のモノーラル・パワーアンプML2Lを開発した。出力は8Ω負荷で25ワットと小さく、しかも消費電力は一台あたり400ワット。これが、片チャンネルの高・中・低に各一台ずつ、合計六台使われるのだから、スイッチを入れた瞬間から、パワーアンプだけで2・4キロワットの電力を消費しはじめるという凄まじさである。
 彼自身が、例のマークレビンソン=スチューダーで録音した秒速30インチ(76センチ)の2トラックテープがレビンソン=スチューダーのデッキに装着されて、まずギターのソロが鳴りはじめた。ギターの音色は、スピーカーがそれを鳴らしているといった不自然さがなくて、全く誇張がなく、物足りないほどさりげなく鳴ってくる。左右のスピーカーの配置(ひろげかたや角度)とそれに対する試聴位置は、あらかじめマークによって細心に調整されていたが、しかしギターの音源が、椅子に腰かけた耳の高さよりももう少し高いところに呈示される。ギタリストがリスナーよりも高いステージ上で弾いているような印象だ。これは、二台のQUADがかなり高い位置に支持されていることによるものだろう。むしろ聴き手が立ち上がってしまう方が、演奏者と聴き手が同じ平面にいる感じになる。
 もうひとつ、ギターという楽器は音源として決して大きくないが、再生される音はどちらかというと左右のスピーカーのあいだに音像がひろがって焦点が大
きくなる傾向がある。これはHQDシステムそのものの特性なのか、あるいは録音のとりかたでそう聴こえるのか明らかでない。
 しかしその点を除けば、ギターの音はきわめてナチュラルであった。
 次にマークの選んだのはコンボジャズ、そしてそれよりもう少し編成の大きなブラス中心のバンド演奏。近頃、耳を刺すほどのハイパワーでの再生に馴れはじめている私たちの耳には、マークのセットするボリュウム・レベルはどうにも物足りない。もう少しレベルを上げてくれ、と言おうと思うのだが、彼をみていると、神経質そうに耳をかしげては、LNP2Lのマスターボリュウムを1~2dBの範囲で細かく動かしていて、とうてい6dBとか10dBとか単位で音量を上げてくれといえる雰囲気ではない。彼は仕切りに、QUAD・ESLがまだ十分にチャージアップしていないのだ、完全に電荷がチャージすれば、もう少しパワーを上げられるし、音もさらにタイトになる、といっていた。このパワーは、おそらく一般家庭──というよりマーク自身の部屋は20畳あまりのアメリカの中流家庭としては必ずしも広くないリビングルームだということだが、そういう部屋──では、一応満足のゆく音量になるのだろう。が、試聴当日は、かなり物足りなさを憶えた。音量の点では、24インチ・ウーファーの低音を、予想したようなパワフルな感じでは彼は鳴らさずに、あくまでも、存在を気づかせないような控えめなレベルにコントロールして聴かせる。
 念のため一般市販のディスクレコードを所望したら、セル指揮の「コリオラン」序曲(ロンドン)をかけてくれた。ハーモニィはきわめて良好だし、弦の各セクションの動きも自然さを失わずに明瞭に鳴らし分ける。非常に繊細で、粗さが少しもなく、むしろひっそりとおさえて、慎重に、注意深く鳴ってくる感じで、それはいかにもマーク・レビンソンの人柄のように、決してハメを外すことのない誠実な鳴り方に思えた。プログラムソースからスピーカーまでを彼自身がすべてコントロールして鳴らした音なのだから、試聴室の条件が悪かったといっても、これがマークの意図する再生音なのだと考えてよいだろう。
 だとすると、私自身は、この同じシステムを使っても、もう少しハメを外す方向に、もう少しメリハリをつけて、豊かさを強調して鳴らしたくなる。この辺のことになると、マルチアンプであるだけにかなり扱い手の自由にできる。おそらくこのシステムには、もっとバーバリスティックな音を鳴らす可能性があるとにらんだ。
 マーク・レビンソンによれば、レビンソン=スチューダーのデッキを含めてスピーカーまでの全システムと、そのために彼が制作して随時供給する30インチスピードのレコーデッド・テープ、そして彼の予告にもあるようにおそらくは近い将来ディスクプレーヤーが発表される。過去のオーディオ史をふりかえってみて、アンプやスピーカーやデッキ単体に名器は少なくないが、ひとりの人間がプログラムソースからスピーカーまでを、しかも最高のレベルで完成させた例は、他に類を見ないだろう。

マークレビンソン LNP-2L

菅野沖彦

ステレオ別冊「あなたのステレオ設計 ’77」(1977年夏発行)
「’77優良コンポーネントカタログ」より

 マーク・レヴィンソンという名前の示すように同名のオーディオマニアが、あらゆる贅を尽くして作り上げた最高級プリアンプである。選び抜かれたパーツの一つ一つにその意気込みと、最新のテクノロジーが感じられる。全体はモジュール8個による構成で、いかにも現代アンプの代表的存在にふさわしい。この製品は最新の改良型で従来のものより、さらに安定したコントロールが実現している。使い手にはかなりの知識が必要だ。

マークレビンソン LNP-2L

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 アメリカのマーク・レビンソンのセンセイショナルなプリアンプ。思う存分、自分の意志と力を製品に生かし、自分の名を冠して、それを売るというスピリットは日本のメーカーにはない魅力。最高級のパーツを使った大変高価な製品だが、さすがに、製作者と直接対話が可能なほど生命のある作品である。

マークレビンソン LNP-2L

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 電源部を大型化した改良型(末尾にLがつく)になって、本体の外観は殆ど変わらないが、音質は全く別のアンプのようにまた一段と向上した。+20dBまでだったゲイン切換が+40dBまでになったが、これを絞り気味に使うとどうも音が冴えないので、ややオーバーゲインで使わざるをえないのが難しい。

マークレビンソン LNP-2, JC-2, LNC-2

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 設計者兼社長のマーク・レビンソンは、まだ30才前の若いエンジニアだが、ジャズのベイシストとして名前の載ったレコードも出ている。非常に個性の強い、しかし極めて繊細で神経質なパーフェクショニストだ。たとえば測定器で最高のデータまで追いつめた段階から、自分の装置で音を聴きながらディテールの修整に少なくとも一年から二年の時間をかけて一台のプロトモデルを完成する。また彼はマルチアンプで聴いているので、とうぜんパワーアンプの試作もしているが、まだ満足のゆく性能が得られないので市販しないという。完璧主義者ぶりがよくあらわれている話だ。
 こうして作られたプリアンプLNP2は、いかにも新世代のエレクトロニクスの成果を思わせる。緻密でクリアーで、どんな微細な音をも忠実に増幅してくるような、そして歪みっぽい音や雑音をあくまでも注意深くとり除いた音質に、マーク・レビンソンの繊細な神経が通っているようだ。これを聴いたあとで聴くほかのプリアンプでは、何か大切な信号を増幅し損ねているような気さえする。
 増幅素子をはじめあらゆるパーツ類には、現在望みうる最高クラスが採用され、それがこのアンプを高価にしている大きな理由だが、たとえば最近の可変抵抗器に新型が採用されたLNP2やJC2では、従来の製品よりもいっそう歪みが減少し解像力が向上し、音がよりニュートラルになっていることが明らかに聴きとれ、パーツ一個といえども音質に大きな影響を及ぼすことがわかる。レベルコントロールのツマミの向う側に何もついてないかのようにきわめて軽く廻ることで見分けがつく。
 JC2はLNPからトーンコントロールやメーター回路および常用しないコントロールを除いて、最少限必要な増幅素子だけを内蔵した簡潔なアンプで、測定データはLNPより良いぐらいだというマークの言い分だが、音楽の表現力の幅と深さでLNPはやはり価格が倍だけのことはあると思う。しかもJC2の怖ろしいほどの解像力の良さに大半のプリアンプが遠く及ばないことからも、LNPがいっそうただものでないことがわかる。
 LNC2は、マルチアンプを愛好するレビンソンらしい新型のチャンネルデバイダー。チャンネル・レベルコントロールに0・1dB刻みの目盛りのついた精密級が使われているあたりにも、マークのパーフェクショニストぶりが読みとれるが、デバイダーだけでプリアンプと同じ価格という点でも、回路にいかに凝っているか、その音質追求の執念のすごさが伺い知れる。やがておそらく、ものすごいパワーアンプが発表されるにちがいない。
 レビンソンのアンプは、本体と電源ユニットは別のケースになっている。それはSN比を最良に保つためであることはいうまでもないが、そのどれも電源スイッチを持っていない。マークに言わせれば、LNPもJCも消費電力がきわめて僅かだし、電源は常時入れっぱなしにしておく方が働作も安定するから、スイッチを切る必要がない、というのである。

マークレビンソン LNP-2

瀬川冬樹

月刊PLAYBOY 7月号(1975年6月発行)
「私は音の《美食家(グルマン)》だ」より

アメリカには、超弩級のマニアがいる。マーク・レヴィンソンもそのひとり。まだまだ納得がいかないといいながら、世界最高のプリアンプをつくった。
黒ヒョウを思わせるパネル前面に並ぶ無数のツマミは、ただひたすら、カートリッジがひろった音を、忠実無比にスピーカーに送りこむ。このプリアンプあってこそ、カートリッジもスピーカーも、その真価を発揮するといえる。ビューティフルなメカが、ハッピーなサウンドを生む好例だ。アメリカ、マーク・レヴィンソンLNP2(プリアンプ)108万円。

マークレビンソン LNP-2

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 きめ細かなゲイン調整と、トーンコントロール、それにピーク指示のできる精密音量レベル計など、JC2より音質はやや甘いが機能的にずっと充実している。しかし高価だ。

マークレビンソン JC-2

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 ひとつひとつの音が実にかっきりと鮮明で、入ってきたあらゆる信号を細大漏らさず忠実に増幅しているという印象。SNも優秀。ばかげて高価だがほかにこういう音質はない。

マークレビンソン JC-1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 オルトフォンやFRなど、小出力のMCカートリッジを併用したときの、音の澄明かつ自然で、おそろしく解像力の良い鮮明な音質にびっくりする。カートリッジの評価が変わる。

マークレビンソン JC-2

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 とてつもない値段で、こういう趣味的製品が出てくるところが面白い。買う買わぬは別として、このような製品の存在が是非あってほしいという意味でとりあげた。

マークレビンソン JC-2

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 近代プリアンプの動向を見、近代的プリアンプの動向を見事に結実させた機種である。ローレベルが美しく、音の色彩感が、これほど豊かに表現されるアンプはないだろう。良い意味での手づくりの味だ。

マークレビンソン LNP-2, JC-1

マークレビンソンのコントロールアンプLNP2、ヘッドアンプJC1の広告(輸入元:シュリロ貿易)
(スイングジャーナル 1974年6月号掲載)

lnp2