菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
デンマークのオルトフォンが発売した最新設計によるもので、素晴らしいパフォーマンスを持つ。高性能で高品位な傑作である。従来のオルトフォンとは違って音もより現代的で、すっきりしてしなやかだが、決して弱々しいものではない。意欲的な設計と精密な作りは、さすがにオルトフォン・カートリッジの名門の貫禄である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
デンマークのオルトフォンが発売した最新設計によるもので、素晴らしいパフォーマンスを持つ。高性能で高品位な傑作である。従来のオルトフォンとは違って音もより現代的で、すっきりしてしなやかだが、決して弱々しいものではない。意欲的な設計と精密な作りは、さすがにオルトフォン・カートリッジの名門の貫禄である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
TP90スタティックバランス型トーンアームを付属するカートリッジレスのセミオート・プレーヤーシステムである。ほどほどの価格で、さりげなくアナログディスクを楽しみたい人達に広く薦められる製品である。トーレンスらしいバランス感覚が好ましいし、ブラックアッシュ仕上げも地味だがブラックディスクによく似合う。
菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
イギリスで作られるユニークな手作りのアナログプレーヤーである。これはカーボンファイバー製のトーンアーム付システムである。スタート時はターンテーブルを手で回してやらなければならない。負荷がなくても自身では起動不可能な弱いトルクのモーターで、自重25キロのターンテーブルはベルト駆動される。実に静粛である。
菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
SMEのトーンアーム3012Rを装備したセミオート・プレーヤーでカートリッジは付いていない。本格派のアナログプレーヤーの標準的な製品といったところである。音はトーレンスらしい適正なダンピングとQのコントロールにより、大人の雰囲気を持ち、柔軟性と高解像感のバランスは中庸を保っている。
井上卓也
ステレオサウンド 130号(1999年3月発行)
「いま聴きたい魅惑のコンポーネント特選70機種」より
SPUに始まったオルトフォンは、現在かなりのモデルがラインナップされており、そのおもな製品は、SPU系の数多くのヴァリエーションもデルと、振動系を軽量化し、おもに空芯コイルを採用したハイコンプライアンスモデルに分かれ、校舎の発展形として、新構造磁気回路採用の新モデルが今年登場することが予定されている。
SPUクラシックGEは、SPUシリーズ中では比較的に地味なモデルであるが、可能な限りの材料を集め、オリジナルSPUの復刻版を作ろうとする、温故知新的な開発思想そのものが、ひじょうに魅力的と言えるだろう。
’87年に発表されたこのGEは、針先にはオリジナルの円錐針ではなく、楕円針を採用している。これは、オリジナルSPU独自のウォームトーンの豊かで安定感のある音は、それ自体は実に素晴らしいものがあるが、新しいプログラムソースが求める音の分解能、つまりシャープさに不満が残り、これをカバーするには、楕円針がナチュラルでふさわしく、音的にも十分満足できる成果があったからである。
現在のSPUクラシックGEは、Gシェル材料が変更され、樹脂から金属になり、かつてのポッテリとした柔らかさはないが、逆に現代的な音の魅力を得たようだ。アナ
ログディスクが存在する限り、SPUが手元にないと落ち着かないのが本音。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
No.26LプリアンプのフォノEQを独立させたデュアルモノ構成の製品。電源部は分離型で、No.26Lと併用する場合はプリアンプから供給するが、単独使用ではPL226SL電源と組み合わす。単独電源のほうが明らかに1ランク上の音を聴かせ、電源の重要性を確認できる。価格対満足度の高さは海外製品中抜群。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
同社のトップランクプリアンプC290のプラグイン型フォノEQを独立させた製品。筐体に余裕があるため回路間および部品相互間の干渉が少なくなり、フォノEQで最高の性能と音質を誇っていた従来のC270の見事な音が甦った印象は、アナログディスクファンにとって何物にもかえがたい貴重な存在である。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
ステレオLP以前のLPやSPが各社各様に多彩を極めた独自の録音/再生カーブに対応可能な可変型イコライザー採用は、貴重な文化資産を当時のバランスで現代に再現するために大変に有意義な機能。独自のAクラス増幅、平衡入力を備え、さすがに超高級だけにディスクの音が瑞々しく非常に魅力的に聴ける。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
シェル一体型の業務用MC型TSD15をコンシュマー用に単体化した製品。ボディはアルミのムク材を加工し自重12gとしている。鉄芯に20Ωのコイルを巻いた発電系は1mVの高い出力電圧を得ており、直接MM用EQで使用可能。高能率型ならではのパワフルでダイナミックな音は異質な魅力として心に刻まれるようだ。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
カンチレバーレスの空芯純ムービングコイル型という究極のメカニズムを開発し、次第に完成度を高め、パーメンダーを使う強力磁気回路と組み合わせたトップモデルがRex。アームの高さ調整とインサイドフォースキャンセラー値が使用上の要点となるが、針先自体が直接コイルを駆動する音は未体験の領域。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
ダイレクトカップリング方式可動鉄片型の発電方式は、ステレオ初期に英デッカが提唱したタテ/ヨコ型として開発した構造で、ウエストレックスの45/45方式対応のためマトリックス接続により45/45化したもの。甦ったデッカである本機は垂直系のカンチレバー採用が特徴で、いかにも針先が音溝を直接拾う音はスリリングだ。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
「エキサイティングコンポーネント」より
オルトフォンといえば、まずSPUを想像しないオーディオファイルはいないであろう。
ステレオLPが登場した翌年の’59年にステレオ・ピックアップの頭文字をモデルナンバーとして開発されたこのカートリッジは、正方形の鉄心に井桁状にコイルを巻いた発電系と、この巻枠の中心に完全な振動系支点を設け、ゴムダンパーと金属線で支持系とする構造である。これは現在においても、いわゆるオルトフォン型として数多くのカートリッジメーカーに採用されているように、ステレオMC型の究極の発電機構といっても過言ではない。オーディオの歴史に残る素晴らしい大発明であろう。
以後、37年を経過した現在のディジタル・プログラムソース時代になっても、SPUの王座はいささかの揺るぎもなく、初期のSPUを現在聴いても、その音は歳月を超えて実に素晴らしいものなのである。
現在に至るSPUの歴史は、その後SPUなるモデルナンバーが付けられた各種の製品が続々と開発されたため、オルトフォン・ファンにとっても確実にモデルナンバーと、その音を整理して認識している人は、さほど多くないであろう。
今回発表されたSPUの新製品、マイスター・シルヴァーは、SPUの開発者ロバート・グッドマンセンが在籍50年の表彰と、デンマーク王国文化功労賞の受賞を機に原点に戻り、SPUを超えるSPUとして開発した’92年のマイスターをさらに超える、SPUの究極モデルとして作られた製品である。
最大のポイントは、同和鉱業・中央研究所が世界で初めて開発した純度99・9999%以上の超高純度銀線をコイルに採用したことで、オルトフォンとしては昨年のMCローマンに次ぐ超高純度銀線採用のモデルだ。ちなみに銀というと、JISの2種銀地金で99・95%、1種で主に感光材料に使用する銀で99・99%であり、銅線ではタフピッチ銅と同程度の純度しかない、とのことだ。
コイル線以外にも磁気回路、振動系は全面的に見直され、1・5Ωで0・32mVという高効率を得ている。
R・グッドマンセンが、「これこそ我が生涯最高のSPUと躊躇なく言える」と自ら語った、と云われるマイスター・シルヴァーは、SPUの雰囲気を残しながら前人未到のMC型の音を実感させられる絶妙な音である。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
非常に個性的なデザインで、純A級シングル動作らしい清澄にして程よく音の輪郭をつけて聴かせるSimply Two/Four専用のフォノEQ。電源はプリメインから供給を受けるが、DC点火のヒーター電源はEQ内に設けてあることが興味深い。活き活きとしたアナログならではの音は安心して音楽が聴ける。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
1989年発売以来、世界的に超ベストセラーを続ける非常にトータルバランスの優れた製品。SL1200/1300系のモデルは、想像を超えた物凄い量を販売した実績があるだけに、世界各国の規格をクリアーしており、都市地域の強力なTV妨害や電源からの雑音排除能力が抜群に高く、安定した音は特筆に値する。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
古くはTD150以来の伝統をもつ2重構造ターンテーブル採用のサーボベルト駆動ターンテーブルは、サスペンション系が横揺れに強いリーフスプリング型となり、防振性能はさすがに抜群。組み合わせるアームは、現在、最も安定し各種カートリッジとの対応性が広いSME3009オートリフター付で総合性能は抜群。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
歴史と伝統を誇るビクターの「HMV」を冠したHMVシリーズ用に、現在では異例の新開発で完成されたが、独自のコアレスDDモーターの採用でメインテナンスフリーとした構想は注目点だ。マホガニーのキャビネットにコンパクトにまとめられ、HMVシリーズ専用ラックに組み込んだときの大人の雰囲気をもつまとまりが絶妙。
井上卓也
ステレオサウンド 121号(1996年12月発行)
特集・「ザ・ベストバイ コンポーネントランキング710選」より
現在では完全に開発不可能な超弩級アナログプレーヤーが生産されていることは、アナログディスクファンにとって素直に感謝すべきであろう。超重量級ターンテーブルを空気軸受で浮かし、ディスクを吸着する機能は、究極の方式として現在に至るまで前人未到の頂点を極めた設計である。生産続行を切望する超弩級機だ。
井上卓也
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より
SIMPLY−PHONOは、入力部に47kΩ、100Ω、50Ω、22Ω/100pFのインピーダンス切替が可能。回路構成は、初段がグリッドリークバイアスの3極管1段増幅、2段目との段間にCR型フォノイコライザー素子が組み込まれており、2段目はセルフバイアスの3極管増幅、それに続いてカソードフォロワーの出力段が設けられている。
井上卓也
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より
ステレオ初期に、一点支持型トーンアームの先端にカートリッジを固定した、非常に未来志向型のステレオユニポイズを発表したピカリング社は、モノーラルLP時代からカートリッジの名門として高い評価が与えられた専門メーカーだ。そしてステレオLP時代となった’61年に、当時のピカリング社の社長であったW・O・スタントン氏が、同社のトップランクモデルに特別にスタントンのブランドを与えたことが、そもそものスタントン・ブランドの誕生である。同社カートリッジの発電方式は、MM型を中心にIM型も加えた、まさに適材適所の自由な設計が特徴だ。
スタントンの評価を最初に高めたモデルが、’69年発売のIM型681EEで、その暖かみがありシャープな音は記憶に新しい。後に500、600シリーズが加わる。また、ディスクにブラシを接触させ、振動系の安定度を向上させるダスタマティックも注目された。
’80年になると、MM型のコイルを極限まで減らしたローインピーダンス(3Ω)の製品980LZSを発表した。このタイプは、すでに業務用としてはグレース、オーディオテクニカで製品化されていたが、基本的にはヘッドアンプ専用でトランスにはマッチしない。これ以後は針先形状が問題とされた時代で、同社ではステレオヒドロンが、その回答だ。
WOS100は、チタンコートのボディに設計者W・O・スタントンのシグネチュアを刻んだ同社技術の集大成モデル。ブラシ付3・3mV出力のエネルギッシュで力強く、繊細さも見事なモデルだ。
681EEE MKIIIは、681系の最新版。チタンコートボディ、サファイアコート・カンチレバーに菱形形状チップを採用している。
トラックマスターELは、逆回転の頭出しにも耐える振動系とスタイラスに蛍光塗料コート・ヘッドシェル一体型だ。
井上卓也
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より
ピカリングは、1946年にニューヨークでノーマン・ピカリング氏が創立したカートリッジメーカーで、独自のマグネティック型発電方式で注目された。’58年にはそのステレオ版を発表し、その後、ダスタマティック・ブラシとアース付スタイラスアッセンブリーを開発。そしてMM型、MI型(可動鉄芯・マグネティック型)を加え、’73年には超高域再生特性が要求されるCD4用4チャンネルカートリッジを海外ではじめて発売するだけの、高度な針先形状と振動系などの技術を備えていたことで注目集めた。
この成果により、針先形状の研究と振動系の軽量化、発電方式の新構造化が一段と図られ、以後の広帯域型への発展のベースとなった。
注目したいことは、ターンテーブルの軸受部にドーナッツ型磁石を設け、この反発作用でターンテーブルをフローティングするジャイロポイズ方式の開発だ。これが’76年発売のプレーヤーシステムFA145Jに採用された。この発展型が国産のマグネフロートである。
トーンアーム関係では、アーム支持部に水平回転軸のみを設け、先端部に上下方向にスイングするカートリッジ取付け部をもつユニークなタイプを開発。これはピカリング型と呼ばれ、LP時代にはオイルダンプ型と人気を二分する存在であったことを懐かしく思い出されるファンも少なくないだろう。独自のMI型ともども、国内にコピー・ピカリングが出現したことを考えても、同社技術の影響力は大きい。
625E−S2は、同社の伝統を最も色濃く継承するMI型で、S2はヘッドシェル付。滑らかでウォームなサウンドはアメリカンポップスなどに最適。
625DJは、デリケートな扱いが要求されるカートリッジを、強く逞しく、ノンブレーカブルに変身させた個性派。重針圧、耐逆回転性、蛍光ポイント付針先、針先保護Vガードと装備は抜群。
150DJは出力8mV、円錐針、2〜4gの重針圧、信頼性と経済性の両面から、DJから最も信頼されている定番モデル。ジュークボックスでの成果の反映か。
井上卓也
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より
ヘルマン・トーレンスがオルゴール製造のためにトーレンスSAを創立したのは1883年で、その後、蓄音器、ハーモニカ、電磁型ピックアップ、電気式レコードプレーヤー、トラッキングエラーレス・ピックアップ、ラジオから業務用円盤録音機、SP用オートチェンジャーなどを順次開発。60年代になるとEMTフランツ社と共同出資の形態をとるようになった。
オーディオファンの間で一躍注目されるようになったのは、57年のTD124ベルト・アイドラー型フォノモーターの登場からだ。本機は、当時リファレンスとして評価の高かった英ガラード社の♯301アイドラードライブ型に比べ、圧倒的にワウ・フラッターが少なく、静かなターンテーブルとして究極のモデルといわれた。現在でも、現用モデルとして、愛用するファンは多いと思う。
以後、TD124のオートチェンジャー版、ターンテーブルを非磁性体化したMK2と続くが、この当時が世界の王座に君臨していた栄光の時代であり、80年代のトーレンス・リファレンスが超弩級機としての頂点であろう。
TD520RW/3012Rは、16極シンクロナスモーターを電子制御で使うダブルターンテーブル型ベルト駆動アームレスプレーヤーTD520RWに、ロングサイズのSMEの3012Rトーンアームを組み合わせたモデル。さすがにメカニズムの見事さは抜群で、要所を絶妙に押さえたトータルバランスの良さは感激ものだ。現代のリファレンス機として、アナログならではの音を楽しみたいときに、最も信頼性の高い素晴らしいシステムだ。セオリーどおりに微調整すれば、想像を超えた音が楽しめ、軽針圧型から重針圧型までのカートリッジとの対応性も穏やかである。
TD318MKIIIは、同社の技術をベーシックモデルに結集した快心作。このところのアナログディスクの復活に的を絞った、素晴らしく良く出来た音の良い注目の新製品だ。
菅野沖彦
レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より
EMTの新世代プロ用機で、主に放送局用として開発された。フォノイコライザー内蔵で、トーンアームは有名なTSD15他同社のカートリッジ専用のダイナミックバランス型が付属。ユーザーの趣味で、あれこれモディファイする自由はない。
その性格上、安定性、信頼性、耐久性重視で作られていて趣味性とは無縁のはずである。ところが、音を聴くと圧倒的な説得力を持ち、きわめて豊かな表現力を聴かせることに驚くばかりである。一体どこからこんな音の魅力が出てくるのであろうか? 作る側も音のことは意識がないはずである。しかも、技術的には古い既成の枠を一歩も出ていないものであり、特性も、素材や作りも、ひたすら前述した業務用の命題に基づいた設計製造にすぎない。トーンアームは同形のものを私も手元に持っているが、現在の水準からすれば、お粗末といっても過言ではない代物である。カートリッジもまた然りであり、一体、音の技術の進歩とは何か? を考えさせられる。
血沸き肉踊るように生き生きと音楽を奏でる、その鳴りっぷりのよさは何なのか? シェリングのヴァイオリンなどは、たしかに繊細な味わいや集中性の高い毅然としたものではなく、むしろ豪放な演奏に聞えるし、「トスカ」はトゥッティでうるさく、肌理の細やかな音触の機微は聴けない。しかし、他のプレーヤーでは得られない生命感が充実しているのである。これからすると他の音は、細かい部分にこだわりすぎて肝心のエッセンスを取りこぼしているようにさえ感じられるのだ。
「ベラフォンテ」のライヴや古いモノーラルの「エラ&ルイ」、「ロリンズ」などは、デリカシーよりバイタリティとエモーションが重要な意味をもつ音楽だけに、また、録音時期も古いだけに圧倒的にこのプレーヤーがよかった。アナログレコードの、ベルエポックを感じさせてくれた音だ。機械としての魅力も備えている。
菅野沖彦
レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より
35kgの本体と、28kgのターンテーブル。つまり計63kgの重量級レコードプレーヤーである。そして、何よりも大きな特徴はターンテーブルがエアーフロート方式であることだろう。重量級のハイエナーシャ・ターンテーブルの安定した回転は高音質に有利であるが、これを静粛かつ長時間の耐久性を保証して回転支持することは容易ではない。エアーフロートにより非接触で支持する方法は理想的で、これをエアーベアリング方式という。
摩擦はなく、機械振動によるノイズの発生も少ないし支持部の摩耗も心配ない。これに加えてこのプレーヤーはディスクをエアーでターンテーブルに吸着する方式を採用した。これは音質上、必ずしも有利とばかりは言いきれない難しさを抱えているが、この辺りを長年のキャリアーで巧みにコントロールしたことがロングライフにつながったのであろう。平面性の点では強力に吸着するのがよいが、ターンテーブルと一体化すれば、それで音もよくなるとは単純に言いきれない。
このプレーヤーは聴感上のS/Nがよく、バックグラウンドが安定静粛でローレベルが透徹している。エネルギーバランスは妥当で、しっかりした造形感が得られる。音にウェイトがあり聴き応えがある。シェリングのヴァイオリンの音触は高域の肌理が細かく刺激感がなく美しいが、もう一つ繊細な切れ味がほしい気もした。無い物ねだりではあるが……。
「トスカ」では、ボトムエンドの伸びによりスケールの大きいステージが展開。滑らかな高音域により汚れのないトゥッティが楽しめる。「エラ&ルイ」のモノーラルは、実にすっきりして位相のよさを感じさせた。ジャズも重量級プレーヤー独特の安定感で、ベースは太いが高密度の充実したサウンドである。心配なのは長年の使用上の安定度と信頼性だが、柳沢功力氏の愛用品であるから問題はなかろう。BA600防振ベース上にセットされた姿はさすがに立派である。
菅野沖彦
レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より
現代的なアナログレコードプレーヤーである。その素材がそれを物語り、アクリル素材を用いた複雑なサンドイッチ構造材と、スプリングなしのハードサスペンションという特徴をもつ。アナログプレーヤーには思想がある、と他の項で述べたが、この思想の違いが音の違いとなって表れるから、これはまた、音の嗜好や感性の違いといってもいいだろう。
このメーカーは、柔かいスプリングのフローティング構造を嫌う。しかし当然、ハードなサスほど置き台やフロアーなどの環境の影響を受けやすい。本体の素材のQのコントロールや、ダンピングだけでは外部からのダイナミックな影響は避けきれないとするのがソフトサスペンション派の主張だ。しかし、音触やエネルギーバランスのコントロールは、たしかに、この製品のようなハードサスの方がすっきりいく。
だが、ストイックにこれを押し進めるとリジッド派に至る。そうなるとすべてのバネとダンピングを否定し、Qの分散も嫌いひたすら剛性や振動速度の世界に狂い、自身の設計を過信し、結局、強烈な物性の持つ固有の音に判断力を奪われ、その特異な音ゆえに、その製品の音を唯一無二の孤高の品位と思い込むのである。
話がそれたが、このプレーヤーはもちろん、そんな偏向性の強いものではない。オプションにエアーサスペンション・ベースがあることからも設計者のバランス感覚が理解できる。楽音の自然さとリアリティがよく再現され、エネルギーバランスも妥当である。エアーサス使用では、さらに音の品位が向上し、シェリングの音が見事に蘇るのである。外部環境からフリーになるこの効果は大きい。通常の試聴条件では、置き台の固有音響特性で若干不明瞭になる
のがわかる。組み合わせたトーンアームはグラハム・エンジニアリング製。プレーヤー本体ベースはSMEとも互換性をもつようだ。
菅野沖彦
レコードリスナーズ アナログバイブル(ステレオサウンド別冊・1996年6月発行)
「注目モデルの徹底試聴 レコードプレーヤー」より
SMEのロバートソン・アイクマンがアナログオーディオ界で果たした功績は偉大である。シェル交換式ユニヴアーサル・トーンアーム3009、3012は世界中のトーンアームの範となった。しかし、オルトフォンとともにその4ピンのカートリッジ・シェル交換システムの提唱者自らが、後に理想としたトーンアームはインテグラル。そのシリーズVの性能をフルに発揮すべく開発したレコードプレーヤーが、独自のゼロQ理論のサスペンション構造によるモデル30であった。
その後、普及タイプとして発表されたのがシリーズIVトーンアームであり、モデル20プレーヤーである。現行製品はそのモーターと電源部をリファインしてMK2になっている。さすがにモデル30は作りも凝っていて高価であり受注生産だが、このモデル20はカタログモデルだけに、構造的にも簡略化して、特徴を維持しながらコストダウンを図っている。
独特のダンピングのためと思われる音触感にまず気づいた。「クロイツェル・ソナタ」の楽音より、バックグラウンド・ノイズが超低域の伸びのせいか他のプレーヤーと違う。シェリングのヴァイオリンは、粘りのある温度感の高い音にやや戸惑う。いい音ではあるが、もう少し鋭く透徹ではないか? という気もした。ピアノも温かく弾力感に富んでいて官能的だ。SMEの音といってよいものであろう、その厚味のある立体感は説得力をもっている。
「トスカ」もそうだ。どっしりと安定感のあるエネルギーバランスで、弾力性のある立体的な質感である。多彩な音色は変化に富み、支配的な色づけはないのだが、質づけ? とでもいったらいいような、独特の音触世界がある。オルトフォンのSPUの世界も、色ではなく質に独特のものがあるのではないか? と思うのである。この辺がきわめて興味深く、オーディオ的であると思うのだ。とくにアナログ的魅力の世界ともいえるだろう。
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