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グレース F-8L

岩崎千明

スイングジャーナル 2月号(1968年1月発行)
「ベスト・セラー診断」より

 おそらくカートリッジの分野では今や世界のトップメイカーといえる米国シュア社が、最高級品の新型カートリッジV15タイプIIを発表したのは昨春であった。
 すでに、それまでの製品V15でさえ、多くの高級オーディオ・マニアや音楽ファンから、これ以上は考えられないほどの称賛の辞を贈られていた。いわく「音が透明」、いわく「立あがりの音の良さが抜群」、いわく「豊かな音楽性、しかもシャープな音の分解能」……。しかし、その評価の中には、アバタもエクボ式な賛辞もなくはない。国内で求めることができるカートリッジの中で、おそらく最高価格であったことが、そのあやまちをおかさせたのであろう。
 そしてタイプIIが、67年春に突如28、000円と、さらに高価格で発表された。今までの評価の言葉は、今度こそ本当であった。今までのV15をほめちぎっていた方の中に、新型に対しての称賛の言葉をついに探しえなかった人も少なくはない。しかしその人でさえ、V15タイプIIを愛用しはじめたのであった。
 しかし、このタイプIIを初めて見たとき、その基本的な態度に、すでに発表済みの国産の高級カートリッジと酷似している点をいくつか見出してがくぜんとしたのであった。音質的にも似ているその国産カートリッジが、「グレースF8」(¥12、500)である。シュア・タイプIIがとり入れたと思われる点を列記してみよう。
 ①カンチ・レバーの形状
 ②カンチ・レバーの垂直に対する角度(21度)
 ③コイル・アセンブリーの傾斜と形状
 さらに興味深いのは、シュア社がタイプIIの発表に際してのメッセージは、「カートリッジはどうあらねばならないか」という問題点をコンピューターで解答した内容である。
 グレースがNHK技研の共同開発を始めるに当って提出したレポートの、その箇条書と順序こそ違え、内容はほとんどそっくりであるといえる点である。
 それを要約すると、次の2点である。性能の安定性ととりあつかいやすさ。そしてトレース特性とクロストーク特性。しかも特筆できるのはグレースのF8の発表は’66年秋のオーディオ・フェアであり、シュアV15タイプIIの突然の発表に先だつことなんと8か月前である点だ。タイプIIとF8Lは発売期日こそほとんど同じだが、その狙っていた線がまったく同じであったのは、注目に値しよう。
 多くは語る必要がない。そのF8の優秀性と狙いの正しいことは、何よりもまずその売れ行きが示そう。
 従来コイル型がマグネット型にすぐれると言われていた高級カートリッジの常識は、こうしてグレースとシュアの新型によって崩れ去り、F8は国内カートリッジ中のベストセラーにのし上ったことは、誰もが認めよう。
 その優秀性の一端を示そう。クロストーク特性をながめてみればわかるように、10、000c/sを越える音域でさえ20dB(つまり1/10)を越すほどだ。クロストークの原因が、根本的にはカンチ・レバーの局部的共振であることを考えれば、これはそのまま、ずばぬけた周波特性を意味しようし、その点でもシュアのタイプIIの超高域におけるクロストークの劣化よりはるかにすぐれ、この点、まさにF8は世界的な傑作といいうるのである。そしてこの評価は、当分の間は変ることはあるまい。そしてその優秀性は、グレースの「一度出た製品は向上させよう」というそのポリシーの成果である。旧製品F7はシュアのコピーからスタートしたのであるが、F8はシュアがまねたとも言えそうだ。
 しかし、この世界的な傑作を生んだすぐれた技術を内蔵するグレースに一言注文をつけたい。ムービング・マグネット型はシュア社の特許で、世界に進出することを阻まれている。そこでマグネット型からさらに一歩進んだ、例えば、ムービング・アイアン型でもいい、グレースだけの完全なるオリジナル製品がほしいと思うのである。

外国製の組合せ型

菅野沖彦

スイングジャーナル 12月号(1967年11月発行)
「SJオーディオ・コーナー 特集/ステレオ装置読本」より

外国製の組合せ型
 外国製品の組合せについて書く前に、現在、国産パーツの水準が世界的に第一級といえるものが多い中にあって、なおかつ輸入製品が存在することについてふれておかねばなるまい。いうまでもなく、オーディオ・パーツは科学の産物で、その多くは商品としての品質の均一性をもつべく管理のゆきとどいたメーカー製品である。したがって、製品の性能は理論と測定による物理特性によって設計、製造の一貫性が保れるべきだ。一口に技術水準といういい方をすれば日本と諸外国との間に差は認められない。ある分野では日本のほうが優れている面すらある。しかし、これは理論、設計面について特にいえることで、実際の製造面になると必ずしもそうはいかない。特に材質面と音に対する感性の二点においては最高級品を比較した場合、たしかに外国品には一日の長のある製品を散見する。そしてまた、外国の専門メーカーの歴史と伝統そして豊富なデーターの集積とは国内メーカーが一朝一夕には追いつけないものかもしれない。また、最も大きな相違点である音のちがい、これこそ血のちがいであり、土のちがいであり、環境のちがいであるといわざるを得ない。よくいわれることだが、物理特性のみをもってしては外国の一級品が必らずしも国産パーツを凌駕しない。しかし、結果として出てくる音には強い個性と充実した密度の高い音が存在し、ジャズや西洋音楽の特質と密着したアトモスフィアをもって圧倒的な説得力をもった製品が存在するのである。この差はよく紙一重といわれる。
 このように、国産製品の水準が高度化した現在、未だ輸入品の一部には立派に存在価値のある、なくてはならぬ逸品がある。それらは、もはや機器としての性能以上に音楽を創造する芸術作品といえるほどの風格すら備え、見る喜び、持つ誇りといった充実感が優れた再生音と共に強く感じられるのである。
 それでは、そうした外国製品のみによる組合せの実例をご紹介しよう
★組合せA
〈カートリッジ〉シュアー㈸V15II
〈トーン・アーム〉SME・3009
〈ターンテーブル〉トーレンス・TD124II
〈アンプ〉JBL・SG520E、SE401E
〈スピーカー〉JBL・075(高音)、375+537-500(中音)、LE15A(低音)、N500、N7000(ネットワーク)
合計 約120万円(含箱類)
 アメリカ製品を基調とした最高級組合せとなると価格も100万を越える。このクォリティは今のところ国産では絶対に得られないといってもいいだろう。ただし、この装置を生かすには部屋が小さくとも12畳相当、できれば30畳程度の広さが欲しい。このクラスになると、いかなるプログラム・ソース(音楽)にもペストリプロダクションを得られる。
★組合せB
〈カートリッジ〉オルトフォン・S L15+2-15K
〈トーン・アーム〉SME・3012
〈ターンテーブル〉ガラード・401
〈アンプ〉マッキントッシュ・C22、MC275
〈スピーカー〉タンノイ・GRF
合計 約112万円
 前者がアメリカ調とすれば、これはヨーロッパの香り豊かな重厚な装置である。音のキャラクターはかなりちがう。最高級品でも装置の音質が全く傾向のちがうものがでてくるといったことは外国製品のメーカーの主張が感じられ興味深い。本来、クォリティが上れば上るほど装置の個性はなくなるという考え方に対する一つの示唆といえるかもしれない。

モジュラー型再生装置

菅野沖彦

スイングジャーナル 12月号(1967年11月発行)
「SJオーディオ・コーナー 特集/ステレオ装置読本」より

モジュラー型再生装置
 再生装置を生活の中にとけこませること、これは、家庭での音楽のあり方のひとつのパターンである。音楽は生活の中で趣味としてだけ存在するものではあるまい。時には照明やインテリア・デザインなどとともに生活環境を味つけし、豊かにし、私たちの情緒を明るく、また、楽しく、そして安定させるのに役立つ。BGMのあり方についてはいろいろ意見もあろう。あんなに音楽を安売りして、年がら年中ばらまかれては音楽に対する私たちの感情がいつのまにか麻痺してしまうという人もある。たしかに、音というのは、意志によって聴くまいとしても耳から入ってきてしまうために、それを望まない人にとっては大変迷惑な話である。しかし、家庭生活に音楽が豊かに溢れるということを私は好む。そして、ホテルやレストランでの押しつけがましい与えられ方とちがい、自分の家で自由に選択して、時と場合によって好みに合った音楽を流すのだから、何んら不都合はない。
 こうした再生装置の使い方に最も適したものがモジュラー・タイプである。そして、これは特にデザイン、機能からモジュラー・タイプを眺めた時にいえることで、音質本位に見ると、姿、形に似合わないスケールの大きい本格的な再生音が得られるものもある。つまり、モジュラー・タイプと一口にいっても、さらに一つ一つの製品について詳しく調べてみるといろいろな考え方によって製造されているものがある。
 モジュラー・タイプの大きな特長は、プレイヤーとアンプ部が一つのユニットに(モジュール化)まとめられているということで、しかも、かなりコンパクトに、フラットなコンポジションになっている。ちょうど従来のプレイヤーだけ独立したものと同じ程度の容積にアンプまで組込まれている。そして、左右スピーカー・システムはセパレートとして部屋の条件に応じて配置のバリエーションは大幅に処理できる。ただ、ここでお断りしておかなければならないことは、小型ならばすべてモジュラー・タイプと呼んでいるわけではないということ。用語上の問題をとやかくいうと面倒なことになるが、今、この業界でモジュラーと呼んでいるものは、小型高級器のことで、2〜3万円の普及器は指さない。大ざっばには5万円以上の製品で、使用パーツ(アーム、カートリッジ、モーターなど)が本格派としての条件をそなえているものを意味すると考えていいだろう。
 モジュラーに限ったことではないが、メーカーの完成品を選ぶにあたって必要なことは、メーカー完成品というものは、入口のカートリッジから出口のスピーカーに至るオーバー・オールでバランスがとられているものだから、後日、どこか一部を交換してクォリティの向上を計ることは大変むずかしいということを知っておくことだ。したがって性来機械いじりが好きで、再生装置に興味をもち、あれこれ自分でいじり廻わしそうな気がする人は敬遠したほうがいい。反対に機械に弱く、音楽が大好き、部屋に美しく調和させた再生装置を欲しいといった方には、下手な組合わせ方でマニア気取りになるよりも、専門メーカーが十分検討してまとめあげた完成品がいい。
 本格的なスケールの大きな音を望む方には、パイオニアのC−600、コロムビアCNS−100、トリオNT−55、オットー1カスタムなどがいい。特にC600、オットー1などはよくまとまった万能的な装置である。NT−55は高音の切れ味のよいシャーブな快音が得られジャズ・ファンにおすすめできる。やや予算も少なめで、生活の伴奏として大らかに楽しもうという向きには、トリオNT−35、ビクターMSL−8、コーラルVS−3300、ナショナル・メカニシア2、シャープ白馬などと豊富な機種がある。VS−3300はモジュラー・ホワイトと称しオール・ホワイト仕上げのユニークな製品で、これからの再生装置のデザインを家具的に一歩っっこんだ美しいもの。

トリオ TW-61

岩崎千明

スイングジャーナル 11月号(1967年10月発行)
「SJオーディオ・コーナー ベスト・セラー診断」より

 編集部から「トリオのTW61をどう思うか」というよな電話を頂いたのは、厳しい日中の残暑を忘れたような夜風に乗って、庭の虫の音がクーラーを止めた室内に流れる。
 そんな9月の夜だった。
「トリオの傑作という呼声が高いし、近来のベスト・セラー製品でしょう」と答えた。そういえば私の友人のジャズ・ファン、それも音にうるさい上、本人がかなりの技術を持った奴が、TW61をぜひ欲しいと思うんだが、といってきて、トリオに頼んでみたら「ちょうど在庫が売切れてしまったので少し待ってくれ……」という返事があったのが3か月前だったっけ。
 トリオの製品が、機械いじりの好きな技術者に愛されるのは、理由がないわけではない。トリオというメーカーが、エレクトロニクス技術に強いこと、そして、その開発した最新技術を、常に製品に反映して、ユニークな魅力的な製品を、他社にさきがけて発表する点も、技術者には大きな共感を呼ぼう。
 トランジスタ・アンプという商品を、量産化とした形で、市場にまっ先に送り出したのも、トリオのこのファイティング・スピリットの現れだし、始めての本格的なトランジスタ・ハイファイ・ステレオ・アンプもトリオの栄光としてステレオ・アンプ史上に残ろう。
 さて、TW61、そういうわけでしみじみと音に接したことがなかったので、編集部の依頼もあることだし、トリオの神田松住町角の東京試聴室へ、翌日を足をしのばした。
 室の片側にずらりと並んだ最近の製品群、それをまずひとわたり聞いてみた。そして、TW61、うわこにたがわずベスト・セラーを誇るだけのことがあるなあと思ったのである。
 トリオのアンプ群、大きく分けてその音色により2系統あるようだ。その一方は、一時期私も毎日スイッチを入れ、ベイシーのフルバンドを轟かしたTW80A、豊かで迫力に満ちた低音と、ややきらびやかな高音が、ライブな部屋で特に効果的な、華麗ともいえる再生をしてくれた。
 その後この音色をややおとなしくし、きりりと引締めた80D、この線上にはチューナーつきアンプTW880も加えられよう。
 もうひとつの音色、静かといえるほどかなりおとなしく、ちょっと聞くと音域の広さをあまり感じさせないが、一般に技術向上を思わせ、高級な音楽ファンをも納得させる音色であり、これを代表するのがTW61である。そしてこの線上にあるのがチューナーつきアンプTW510であり、やや小出力のマイナーモデルTW31である。
 よく、本物の演奏はいくら聞いても疲れないといわれる。このTW61は、まさにそういう音に思われた。「ねえ、君、一日中聞いていて、どのアンプが一番欲しい?」試聴室の係のエクボがチャーミングなお嬢さんにそう聞いてみた。「そりゃあ、サプリーム1だわ、その次は、これね」TW510であった。つまりTW61にチューナーを組合せた総合アンプが510。やっぱりね。
 TW61、まずなんといったって安い! この値段は、まず音を聞いたら想像できない。31、600円!
 トランジスタ・アンプの永い経験と技術、それに量産体制とが、この価値を生みだし得たといえよう。
 ソリッド・ステートらしくブラック・パネルにゴールドつまみをあしらって、カチッとまとめてある。この小さなかたまりに秘めた出力が50ワットという強馬力ぶりは若いマニアにはたまらないであろう。つまみに触れる。なるほど友人の技術者がしびれたはずだ。アクセサリー回路が完全だ。
 2系統のスピーカーを切換えたりいっしょに鳴らすこともできるし、ピックアップを2つ切換えることもできる。むろんハイファイ・テーププレイヤーを最高に発揮するテープヘッド入力もついている。そして、テープ録音端子、録音しながら聞けるモニター端子とそのスイッチ。
 ところでトランジスタ・アンプは故障しやすくないか、とよくいわれる。トリオのアンプは全部特許の自動復帰保護装置つきだ。故障を誘起する異常事態になると、アンプが自動的に動作を止め、それを直すと動作を始める。安心できる装置である。

アコーステック ACOUSTECH II, ACOUSTECH IA

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 このアンプは、音色の柔らかさ・おとなしさをことさらに意識させる。マランツ、マッキントッシュ、ダイナコ、JBLと並らべて切換えてみると、アコースティックがもっともソフトな音質で、JBLの浮き上るような繊細感のある音質と対照的な両極に位置した。あまりにも違う音色が不思議で、トーンコントロールのとレベルのツマミを、アコースティックをプラスの方に2ステップ上げ、JBLを二目盛下げてみたが、本質的な音の傾向は少しも変らない。つまりこれが、良くも悪くも両者のキャラクターなのであった。
 このソフトな音は、管球式アンプのやらかさとは全然性質の違うもので、かえってトランジスターということを無理に意識させられて、個人的には好きになれない。この独特の音色は、パワーアンプよりもプリアンプの方で作られたもののようであった。

JBL SG520, SE400S

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 音の豊潤さでマッキントッシュに一歩譲るが、それよりももうひと桁ばかり分解能に優れている。たとえていえばマッキントッシュが満々と水をたたえた湖なら、JBLは水の量では勝てなくとも水の透明度に於て桁ちがいによく湖の底の底まで見通せるという音だ。マッキントッシュにJBLの透明な分解能が加われば、あるいはJBLにマッキントッシュの豊潤さがあれば申し分ないアンプになる。JBLのすばらしい低域特性は、スピーカーの低域が1オクターブも伸びたような錯覚を起させる。JBLとマッキントッシュの両方の良さを兼ね備えたアンプを、私はぜひ自分の手で作ってみたい気がする。
 アンプとしてみれば、JBLにはスピーカーを選ぶ弱みがある。タンノイ15、アルテック604などは、JBLでは音が硬くなる。やはりトランジスター・アンプの弱点といえようか。

マッキントッシュ C22, MC275

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 こういう音になると、もはや表現の言葉につまってしまう。たとえば、池田圭氏がよく使われる「その音は澄んでいて柔らかく、迫力があって深い」という表現は、一旦このアンプの音を聴いたあとでは至言ともいえるが、しかしまだ言い足りないもどかしさがある。充実して緻密。豊潤かつ精緻である。この豊かで深い味わいは、他の63機種からは得られなかった。
 おもしろいことに、このままプリをマランツ7型(7Tではない)に変えるともうこの音にはならないし、ましてC22を他のパワーアンプと組み合わせてもこうはならない。もちろん微妙な違いと云ってしまえばそれまでだが、この微妙な違いがどうでもよいという人には、音の世界の楽しさはわかってもらえまい。スピーカーを選ばずよく鳴る点でも最高だった。

マランツ Model 7T, Model 15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 私にとっては、永いあいだ使い馴染んできた管球式のプリアンプ、MODEL7と、TR化した7Tとどう違うかという点が、実は興味の中心だった。
 結果からいうと、管球式のMODEL7が良かった。音の輪郭がくっきりとして、音と音とのけじめが明瞭で、しかもやわらかい。7Tの方は、音の輪郭に少しよけいなものがつきまとう感じで、パースペクティヴな再現の能力も管球式にいくらか劣っていた。
 メインアンプも、ほんとうは、8Bと15の比較をしたかったがこれは果せなかった。しかしMODEL15に関していえば、一層成功したアンプのように思われた。ただし音の味わいはどうにも不足で、他のTRアンプ同様、スピーカーを選ぶ傾向がやはりあった。

QUAD 22, II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 素直ではったりのない、ごく正統的な音質であった。
 わたくしが家でタンノイを鳴らすとき、殆んどアンプにはQUADを選んでいる。つまりタンノイと結びついた形で、QUADの音質が頭にあった。切換比較で他のオーソドックスな音質のアンプと同じ音で鳴った時、実は少々びっくりした。びっくりしたのは、しかしわたくしの日常のそういう体験にほかならないだろう。
 タンノイは、自社のスピーカーを駆動するアンプにQUADを推賞しているそうだ。しかしこのアンプに固有の音色というものが特に無いとすれば、その理由は負荷インピーダンスの変動に強いという点かもしれない。これはおおかたのアンプの持っていない特徴である。
 10数年前にすでにこのアンプがあったというのは驚異的なことだろう。

ダイナコ PAS-3X, Stereo 120

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 パワーアンプ♯120は、発売当初からウォーム・トーン(温かい音色)ということを強調していただけあってトランジスターアンプの中では、充実感のある力強いマッシヴな音質だった。
 ただ、PAS3Xと組み合わせた場合には、プリアンプの方のキャラクターがそれに加わって、もう少しソフトで丸くなって、音の解像力が少し不足する感じになる。もうだいぶ以前に発表されたまま未発売のトランジスタープリアンプPAT4と組み合わせればおそらく全体にもう少し品位の高い音になるだろうと思う。現にプリアンプだけほかのものに変えると、音のグレイドはずっと向上する。
 しかしプリメイン合わせた輸入価格の13万6千円というのは、性能を考えお買徳であろう。

サンスイ CA-303, BA-202, BA-303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 CA303+BA3030の場合と、メインアンプをBA202に変えた場合とで、音質が相当に変った。ということは、二種類のパワーアンプがそれぞれに音色を持っているということだろうか。
 BA202の組合せでは、音がなんとなくくすんで冴えない。その点BA303に変えると、割合にバランスの良い音質になるが、しかしトータルで19万4千円という価格から評価すると、もう少し品位の高い再生音が得られても良いのではないかと感じた。
 そのあとCA303に別のパワーアンプを組み合わせてみたが、プリアンプの方は外観や、操作性を別にすれば、水準以上の音質をもつと思った。

ビクター PST-1000, MST-1000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 MST1000に関しては、パネルフェイスの好みを別とすれば、世界第一級のパワーアンプだといっても誇張ではないだろう。尤も価格の方も国産最高で、JBLエナジャイザーあたりの輸入価格と同じでは、うっかり甘い点数も着けられないが、ともかく音質にもパワーキャラクターにもまず問題はない。しかしこのアンプにして、タンノイやアルテックが、マッキントッシュ275のような魅惑的な音では鳴らないというのは、やはりトランジスターのどうにもならない弱点なのだろうか。
 PST1000は、本格的なプログラムイコライザーがこの価格で買えると思うとお買徳品だが、じぇいびーえるのプリあたりとくらべると、弱小レベルで音の美しさをもう一段改善できたら素晴らしいプリアンプになると思った。

ラックス PL45, MQ36

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 はじめPL45とMQ36お組合せで聴いてみたが、何かもうひとつ音に冴えが無く、全体に靄がかかったように輪郭が甘く抜けが悪い。この原因を掴むため、試みにPL45とMQ36を切り離して、それぞれを素性の判っているプリアンプ、メインアンプに互いに組合せを変えてテストしてみたところ、どうやら問題はPL45の方にあることが判明した。
 MQ36は、テクニクス20AやビクターMST1000と並んで,まさに優劣つけ難い、優れたパーフォーマンスを持った品位の高いパワーアンプであることが感じられた。特にデザインを含めて評価すると、これは立派に世界水準をゆく製品といえる。
 その点、PL45には、まだ解決すべき問題が残されていると思われた。

テクニクス Technics 10A, Technics 20A, Technics 40A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 10Aと20Aの組合せでは、バランスの良く品位の高い第一級の再生音が得られた。20Aはいかにも重量級の大型アンプだが、充実感のある音質で、スピーカーシステムをほとんど選ばず一様に見事によく鳴らした。特に20Aは、パワーアンプとして球と石とを問わず非常に完成されたパワーアンプである。
 その点40Aは、ダンピングファクターをマイナスからプラスまで大きく連続的に変化できるというメリットはユニークだけれど、20Aの高品位の音質を聴いたあとでは少々聴き劣りした。しかしスピーカーの音色を音は場にコントロールできるのは強みである。

エロイカ Phoenix70

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 プリアンプとメインアンプが、一体になって互いに過不足なく全力を発揮し合っているという印象で、音のバランスも非常に良いし、温かさと充実感があって、音のキメも細かく繊細で解像力がよいし、音がたっぷりしていてハイレベルでも不安感が無い。たとえばマランツとかマッキントッシュといった著名アンプを聴くときの安心感と一脈通じる豊かな快さにひたることができる。プリ・メイン合わせて12万弱というとQUADやダイナコよりも安く、この音質と機能は十分に満足できるだろう。
 スピーカーの選り好みも少なく、タンノイ、アルテック、グッドマンなどアンプでよい音のしにくいスピーカーにも向く特性は何といっても管球式の良い面をよく生かした設計の強みだといえる。

マックトン XC-5, MXA-50

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 プリ・メイン合わせて9万円近いとなると、比較の対象として、ソニーのTA1120Aや、もう少し安いものでビクターの200シリーズとかラックスSQ301などが浮かんでくるが、XC5+XMA50の音は、それらの良くできたアンプと同列に比較することに困惑を感じるほど、硬く異質なものであった。
 3万円、4万円台のアンプならいざ知らず、合計9万円近くのアンプを市場に送りユーザーからその代償を受けとるためには、どの程度の特性を具えどういう水準のデザインと仕上げをするべきか、このメーカーには、最近のレベルの高い各社のアンプについて、虚心に再考されることを望むだけである。

ビクター MCP-200, MCM-200

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 実は昨年の暮の、音楽之友社刊「ステレオのすべて」の中でも、このアンプを推賞したひとりとして、今回のアンプの結果には多少の心配を抱いていたが、こうして切換比較してみて、この音質が立派に第一級のものだと確認できたのはうれしかった。
 ただプリとメインをくらべると、価格の上から無条件に奨められるプリアンプの方で、MCM200の方はほんのわずかだが音がのびきらない感じがあるのは、出力があまり大きくないせいだろうか。
 MCP200の方は、たとえばマランツの7Tあたりと十分太刀打ち出来ると書くと読者は、眉にツバをつけるかもしれないが、片や16万円、片や3万円台という価格を考えると、機能の点、使いやすさ、SNの上では劣るとしても、音質そのものはここまでくればほんの紙一重のちがいだと思う。

マッキントッシュ MA5100

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 使いやすさとかスピーカーの選り好みなど総合的に評価すると仲々良いアンプだけれど、JBLと並ぶと相当聴き劣りする。マッキントッシュのアンプは275に限る。

トリオ Supreme 1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 プリアンプ、チャンネル・フィルターおよびメインアンプ3台で十六万六千円という価格は、ビクターの200シリーズで同じ揃えかたをした価格より2万円ほど安いことを考えると、決して高価とはいえない。となるとこれはビクターとの比較になるわけだが、今回はサプリーム1の低音用アンプ(この部分は全音域用としても設計されている)のみ使って、単なるプリメインアンプとして試聴してみたかぎりでは、音のキャラクターがビクターよりも少し強いように感じられた。トリオではこのアンプに、特にボザークの組合せを推奨しているようなので、あるいはそれを考えに入れた上での音を作っているのかもしれない。TR臭さはほとんど感じられなかった。

JBL SA600

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 このアンプの特徴はよくのびた低域特性と、ローレベルでも澄んだ切れこみの良い解像力の良さに集約される。低域の良さはオルガンの再生によく現われて、このアンプを使うとスピーカーの低域がグンと延びたように思われる。一方、音量を絞り込んだときにもディテールを少しも失わない切れ込みの良さは、まるで澄んだ深い湖を覗き込む感じである。しかしスピーカーはかなり選ぶ。

ソニー TA-1120A, TA-1080

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 TA1120Aは国産のプリメインの中では文句なしに最高の性能。ただタンノイやアルテックのようなスピーカーでは、なぜか音に闊達さが失われてお面白く聴けない。弦やチェンバロが硬く平面的になる傾向があった。マッキントッシュ5100やJBL600もこれに似た傾向があるのは、トランジスターの限界だろうか。TA1080の方は今や少々魅力に欠ける。

5万円〜6万円クラスのプリメインアンプの印象

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 プリメイン型も6万円前後となると、音質の点でも機能や操作のおもしろさの点からも、最高クラスのアンプに非常に接近してくる。たとえば、カートリッジやスピーカーシステムに世界最高水準のものを組み合わせても、アンプの方でそう位負けしないということで、ここから上野アンプの音質の差は非常に微妙なものになってくる。つまりこの辺からが、オーディオアンプとして正統かつ本格的なクラストいうわけだ。

ラックス SQ301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 これも試作品だが、良いアンプだと思った。オーソドックスでバランスの良い音質。音の奥行きがいくらか平面的になるような傾向はあったが、管球式に似た温かい肌ざわりと、いろいろなタイプのスピーカーに順応する良さは高く買える。AU777同様にいじるところがたくさんあって、マニアにとっても楽しいアンプだ。きめ細かな神経のゆきとどいた作り方は、さすがに手馴れたもの、この水準をぜひとも落さずに量産化されることを望みたい。

エロイカ Almighty-55

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 素直で重厚なたっぷりした量感のある音質。高域でもう少し鮮明な切れ込みを示してくれれば申し分ないが、適度に潤いのある爽やかな音質は管球式の良さだろう。スピーカーの選り好みをしないで、どのタイプも美しく鳴らしてくれた。

ジュピター CS-33

瀬川冬樹

ステレオサウンド 3号(1967年6月発行)
「内外アンプ65機種の総試聴記と組合せ」より

 試作品だったから正確な評価は下すべきではないかもしれないが、誘導雑音が多く、三極管にしては硬質の音で潤いが無かった。