Category Archives: アンプ関係 - Page 10

スレッショルド SA/3

井上卓也

ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円以上100万円未満の価格帯のパワーアンプ15機種のパーソナルテスト」より

フラットでピチッとした印象の帯域レスポンスと、適度に硬質でクッキリと粒立つ明快な音が特徴のアンプだ。音像は少し大きくまとまるが、クリアーに立ち、音場感も素直に拡がる。プログラムソースとの対応は、音の傾向から予測したよりはナチュラルで適度にエッジの効いた判りやすい音として聴かせる。金管合奏は安定感があり、濃やかさは少ないが、金管らしい響きは、かなりリアルだ。ビル・エバンスは程よく古く、これは楽しい、という音だ。

音質:83
魅力度:86

アカイ AM-A90

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 アカイからAM−A70とAM−A90の2モデルのプリメインアンプが発売された。アカイ・ブランドのアンプ類といえば、海外での評価が高く、ヨーロッパでは、知名度の高いブランドとしてオーディオショウでのブースの盛況ぶりに驚かされたものだが、本格的なプリメインアンプとして国内で発売されたのは、思えばこれが最初であろう。
 ブラックフェイスのパネルに標準的な440mm幅という外観は、流行かもしれないが画一的であり、各社間、各機種間のアイデンティティが薄いものだが、今回のアカイのように、単品コンポーネントのアンプのジャンルに初登場的な参入ともなれば、外観やブランドイメージに関係なく、本質的な基本性能と音質などで既存のメーカーと戦える、という意味では、ブラックフェイス一辺倒の傾向は、むしろ歓迎すべきものと思われる。
 新製品の技術的ポイントは、オープン・ループ・サーキット搭載にあるようだ。
 内容的には、オーバーオールのNFBループが存在しない、シンプルでストレートな回路のことで『ダイナミックな特性に優れ、NFBアンプでは再生できなかった音楽情報が再生される』という、やや過激な表現で説明されている。
 今回試聴した製品は、上級機種のAM−A90である。プリメインアンプとしては、ビデオ系の映像と音声の入出力を備えた、いわゆるAV対応型で、アカイのブランドイメージとしては当然の帰結だ。
 フォノイコライザーはMC型、MM型切替使用のタイプで、MC型使用時のカートリッジロード抵抗は100Ωであり、最大許容入力25mV、MM型使用時、定格入力感度2mVに対し最大許容入力250mVと、本格派の設計が見受けられる。
 パワーアンプ部は、このところひとつの動向になりかかっているパワーMOS型FETを出力段に採用し、145W+145W(6Ω負荷時)のパワーをもち、NFBレスのオープン・ループ・サーキットを採用している。電源部は、電源トランスにトロイダルトランスを採用しているが、ジュニアモデルのAM−A70と共通外形寸法の筐体を採用しながら、パワーアップをしたための対処であろう。
 機能面は、パワーアンプにストレートに信号を送るラインストレートスイッチ、独立型RECセレクターなど標準的装備だ。
 AM−A90は、素直で、基本を十分に押えた設計が感じられる、適度にストレートで、色付けの少ない音をもっている。フォノイコライザーは、昨今では軽視されがちだが、スクラッチノイズの質と量も水準以上で、よく調整されている。現在の技術と材料を駆使し、真面目に作れば、それなりの成果が確実に得られるという好例であり、いわゆる音づくりに専念しがちな先発メーカーへの小気味よい警鐘という印象。

サンスイ AU-D707XCD DECADE

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 CD時代のオンリーCDプリメインアンプを特徴として、アンプのサンスイから、AU−D707XCDディケードが新発売された。このアンプのもつ意味を簡単にいえば、MC型MM型対応のフォノイコライザーを省略し、CDプレーヤーに代表される、ハイレベルの高クォリティなプログラム専用のシンプル・イズ・ペスト的考え方に徹底した設計ということができる。
 CDプレーヤーが普及するにつれ、CDプレーヤー自体の問題点であるデジタル系のノイズや高周波の不要噂射が、筐体やAC電源を介して、アナログディスクの再生系に影響を与え、音が混濁し、鮮度感を大幅に損うことが次第に認識されるようになっているが、逆に、アナログディスク用のフォノイコライザーアンプが、プリメインアンプの筐体内で、フラットアンプやトーンコントロールアンプなどに影響を与え、CDならではの圧倒的な情報量や鮮度感、反応のシャープさを損っているのも事実で、最近のようにアナログディスクを使わずCD専用の使い方が増えると、このフォノイコライザーの妨害は無視しかねる問題だ。
 ちなみに、CD専用の使い方の場合に、フォノ入力に、最近では少なくなったが、入力をショートするショートプラグ(シールド線をプラグの近くで切り、芯線と外被を結んで作ることもできる)を挿して、再びCDの音を聴いてみれば、結果は明瞭だ。高域が素直に伸び、爽やかで、透明感のある音に変わっているはずだ。これは、注意して聴かなくても容易に判かる差だ。
 これを徹底して追求すると、フォノイコライザーアンプを取り外すことになるわけだ。因果関係は明瞭で、問題点はないが、フォノイコライザーアンプを省くことには慣例的に決断を要求されることになる。
 その他の変更点は、信号系が基板経由から信号ケーブルに、ヒートシンクと電源コードの強化、4連ボリュウムとアルミ・ムク削り出しツマミ採用、ランプのDC点灯化などの他、入力系の8系統化などがあり、かなり手作業の必要な高性能化である。
 CDダイレクト時には、専用ボリュウム経由で信号は、ツインダイヤモンドXバランスアンプに、他のアンプをバイパスして送られるため、約10dBのゲイン差があり、通常使用レベルでの音量差を少なくする特殊カーブを採用している。なお、CDダイレクト時には、ボリュウムツマミの12時位置にオレンジ色のパイロットランプがつく。
 基本的にCD直接、チューナーetc、TAPEとADAPTORの4系統の入力系があり、それぞれで音質や音色、音場感などが変わるが、変化が問題ではなく、この変化を利用して使うのがユーザー側の、素直な対応というべきであろう。CD直接が、たしかにナチュラルで色付けは少ないが、少し内省的ソフトさがある音だ。平均的な要求の場合には、アダプター入力やテープ1/2も適度に輪郭がつき楽しめる。

エアータイト ATM-1

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 詳細は割愛するが、当然の帰結とでもいうべきオーディオのスペシャリティメーカーの誕生と、その第一弾製品の登場だ。簡単にいえば、旧某社の営業担当と技術系担当者が『音を出す測定器ではなく、音楽を楽しみ、使い込むに従い愛着のわいてくる製品開発』を会社設立の目的として発足したA&M社の開発による、管球タイプのステレオパワーアンプがATM1であり、エアータイトがそのブランドネームだ。
 ATM1は、管球タイプパワーアンプの最大のポイントである出力トランスには、放送局用や防衛庁規格のトランスをつくる技術力と実績を誇るタムラ製作所の製品を採用している。定インダクタンス型で、トランスの特性を左右するアンバランスのDC電流が10mAと大きく、トランスの実損失が最低限の0・25dBのタイプだ。
 電源部の電源トランスや、リップルを減らすためのチョークコイルは、構造的にウナリの出ることが不可避ともいえるもので、この振動がオーディオ信号を変調し、音質劣化の原因となるものだが、ここでは、余裕のある1ランク上のタイプを採用し対処している。シャーシは一部に銅メッキ処理がされ、前面のパネル部分は、8mmアルミ押出し材のアルマイト・ヘアーライン仕上げで、シャーシはメタリック塗装4段階重ね塗り仕上げ、ツマミもアルミ削り出し製である。
 回路構成は、いわゆるリーク・ミュラード型といわれる方式のようで、初段の電圧増幅は、左右チャンネル共通の12AX7採用、位相反転12AU7、終段6CA7のUL接続、整流用に2本の5AR4使用というのが大きな特徴である。整流管か半導体ダイオードかは、音質上でも興味のある注目のポイントだ。その他、使用部品は、ソケット類にラックス製とシンチ製、半固定VRに密閉型大型巻線型、無酸素銅配線材も採用する。音に影響のあるプリント基板の排除も特徴のひとつ。機能面では、フロントパネルとバックパネルに2系統の入力端子があり、フロントのCDダイレクト端子は、最短距離で初段に信号を送る。完成品は100時間のエージングを行い、再び最終調整をするという、管球タイプのポイントを押えた品質管理が実施されており、その価格対性能・音質は非常に高いものであるといえる。
 CDを使いパワーアンプ特集の試聴に準じ、単体で聴く。基本的に、特定のキャラクターを排除し、ナチュラルな音を志向した方向の音だ。帯域バランスは適度の広さで、帯域内の音色変化やエネルギー的なアンバランスが少ない。丹念に減点法で欠点を抑えて作られた印象が強く、その意味では信頼感が高いが、音楽的な表現力では、キャラククーの少なさ色付けの少なさが、やや物足りなさに通じる。タンノイ系や英国系全域ユニットと組み合わせたいパワーアンプだ。

ジェルマックス model-65

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

「BEST PRODUCTS」より

『あなたの常識である《原音》の概念が、今、完全に変わります。オーディオ界最大のタブーが今、破られた』とのキャッチフレーズで登場した、管球タイプのコントロールアンプがジェルマックスmodel65である。
 詳細は不明であるが、その特徴を記すと、アンプの回路内の電解コンデンサーに、歪やSN比、位相ズレなどの音に与えるマイナスの要素があり、この原因が電解コンデンサーの物理的なイオン歪によるものであるとのことだ。長期間にわたりコンデンサーの問題に取り組み、劇的に物理的性質を改善した結果が『BLACK GATE』の名称のコンデンサーとして開発され、レコード会社のカッティングアンプに採用され、従来ではノイズにマスクされ切捨てなければならない信号帯を、すべて記録できるようになり、アナログディスクを革新するスーパーアナログ時代の到来を告げる出来事になったが、このコンデンサーを世界で初めて全面採用したのが、このコントロールアンプである、とのことだ。
 回路面では、この無歪コンデンサーの性能を完全に引き出すために、OTB(オクターブ・トリプル・バイパス)システムを採用し、全オーディオ帯域の歪を完全に取り除くことに成功しているという。
 主入力債号源をアナログディスクとし、管球タイプNFイコライザーを採用し、すべての電源には損失の異なる3種類のコンデンサーを採用(これがOTBシステムか?)。また、超ローレベルのSN比を実現するため、ヒーター点火回路には、独自設計の超安定化電源を採用している。
 さらに、信号系電源の『STLX』、方向性活性リッツ線、低損失ピンジャック、OFC電源コード、非磁性体の抵抗器とシャーシ採用など、すべてのパーツは無歪と完全動作を支えている。以上が、model65の説明書にあった内容の説明だ。
 定格からみれば、フォノイコライザー利得が32・4dB、フラットアンプ利得がmaxで24dBあり、使用真空管は、12AY7×3、12AX7×1、12AU7×1で、整流はダイオード使用である。
 なお、専用の接続コードとして古河電工と共同開発の柔軟性のあるリッツ線構造のオーディオケーブルが付属。50m以上の延長でも音質変化は皆無とのことだ。
 パワーアンプにPOA3000ZとエアータイトATM1を用意をし、アナログディスクとCDで音を聴く。基本的に、スムーズで、適度に抜けのよい音だが、やや中高域に輝やかしいキャラクターがあり、これが繊細さとして聴かせるために効果的に働いているようである。プログラムソースのメインをアナログディスクとするだけに、フォノイコライザーはよく調整してあるようで、ノイズの質は水準以上だ。キャラクターは付属ケーブルにあるが、適否は試聴用機器との兼ね合いであろう。

パイオニア C-90, M-90

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 本格的なデジタル&AV時代に、多機能にして音質を優先するという、二律背反な追求を実現させた新製品が、セパレート型アンプC90とM90である。
 コントロールアンプC90は、多様化とともに、ハイグレード化するオーディオとビデオ信号に対応するために、オーディオ入力6系統、ビデオ入力6系統などの入出力端子を備え、リモコン操作も可能だ。
 設計面での最大のポイントは、コントロールアンプという同じ筐体中で、ビデオ信号を入出力する機能を備えると、いかに努力をしたとしてもアースや電源からのリケージで、ビデオ信号がアナログ信号に影響を与え、音質を劣化し、多機能とハイクォリティの音質は両立しないのが当然のことであり『アンプにビデオ信号を入れると音が悪くなる』という定説がうまれることになるが、パイオニアでは独自の技術開発によるAVアイソレーションテクノロジー(特許出顔中)により、入力信号間の干渉を徹底して排除した点にある。
 その内容は、左右オーディオ系とビデオ系に専用電源トランスを使う電源トランスのアイソレーション、オーディオ回路とビデオ回路のアースラインを独立させ、なおかつビデオ系の最終シャーシアースをオーディオ系に対してフローティングし干渉を抑える電気的アイソレーション、映像系と音声系入出力端子の距離をとり配置するとともに、基板の独立使用、シールド板などによるメカニズム的な飛付きを遮断するアイソレーションと、アナログディスクやCD演奏中には使っていないビデオ系の電源を切るビデオ電源オート・オフ機能の四つのテクニックが使われている。
 機能面では、リモートコントロールを駆使できることが最大の魅力のポイントだ。アルミ削り出しムクのツマミは、クラッチ付モータードライブ機構を備えており、SR仕様(パイオニア統一システムリモコン)専用リモコンユニットを標準装備しており、入力切替、ボリュウム調整などの他に、パイオニア製品のCDプレーヤー、LDプレーヤー、VTR、チューナー、カセットデッキなどの他のコンポーネントの主な操作も可能である。
 また、映像関係の機能には録再出力系にシャープネス、ディテールとノイズキャンセル調整付きビデオエンハンサー装備だ。
 EXCLUSIVEを受継いだ音質重視設計は、筐体の銅メッキシャーンとビスの全面採用、基板防振パッドと70μ銅箔基板、無酸素銅線配線材、黄銅キャップ抵抗、無酸素銅線極性表示の電源コードや樹脂とアルミによる2重構造フロントパネル、ポリカーボネイト製脚部の採用などがある。
 回路面ではシンプル・イズ・ベストを基本に、高品位MC型力−トリッジ再生を目指したハイブリッドMCトランス方式、多電源方式を基盤としたモノコンストラクション化とロジック化による信号経路の最短化設計などが見受けられる。
 M90は単純なパワーアンプと思われる外観をもつが、内容的には2系統のボリュウムコントロール可能な入力と一般的な入力の3系統をもつ、ファンクション付パワーアンプというユニークな構成で、パワーアンプ単体で必要にして最低限の機能を備え、プリメインアンプ的に備える魅力は、一度発表されてしまえば簡単に判かることだが、セパレート型アンプの基盤をゆるがしかねない。多様化する現在のマルチプログラム化とシンプル化の両面を満足させる企画の勝利ともいえる成果だ。
 パワー段は、4個並列接続(片チャンネル8個)、200W+200W(8Ω)ダイナミックパワー310W(8Ω)810W(2Ω)のパワーを誇り、ノンスイッチング回路TypeII採用である。電源部は左右独立トランス採用、銅メッキのシャーシとビスなどはC90と共通である。ただし、重量級電源トランスを2個採用しているために、筐体はトランスを支えるH型構造と黄銅のムク材の柱を介したトランス専用脚を含む5個のポリカーボネイト製脚部に特徴がある。なお、フロントパネルはC90共通の2度のアルマイト処理、バフ研磨の漆調のエ芸晶的な仕上げである。
 C90とM90の組合せは、多機能型の印象の枠を超えた、予想以上に十分に磨き込まれた、細かく滑らかな音の粒状性をもつことにまず驚かされる。このクォリティは、オーディオ専用としても見事なものがあり、アナログディスクも、スクラッチノイズの質と量からみて、水準以上の音質と音場感を聴かせる。試みにM90単体にする。2系統の可変入力間の音の差も抑えられており、さすがにダイレクトな鮮度感は高くは、当然ながら自然な結果だ。

マッキントッシュ MC2500

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 能率の低いGS1を鳴らしきる最高のアンプはこれだ。ヴァイオリンの質感もしなやかで申し分なし。ピアノも輝かしくボディもふっくらしてタッチが生きる。弦楽合奏も、刺激的な音は一切無縁でリアリティのあるものだった。オーケストラのトゥッティはまったく堂々たるもので、いかなるクレッシェンドにも安心してついていける。ブラスの輝きと強さはこのアンプならではの感じが強い。メル・トーメのヴォーカルは暖かく、うるおいがあって最高。

オンキョー Grand Integra M-510

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 GS1を鳴らすために開発されたといってよいM510パワーアンプだけあって、大変よいマッチングだ。しかし、このアンプをJBL4344で聴いた時のファットな感じは、ここでも感じられる。オンキョーの好きな音なのだろう。また、弦、木管の鳴らし分け、フルート、オーボエの音色の識別などがややあまい。高域の弦の質感がややざらついた感触であるが、それだけにタッチは鮮やか。明るく艶麗な響きはP500に一脈通じるものだが、一味違う。

マイケルソン&オースチン TVA-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 GS1はやはりアンプの違いをよく出すスピーカーだ。このアンプのもつ脂ののった、こくのある音にスピーカーが豹変する。やや粗さも出るが、この熱気のある音は、特にクレーメル、アルゲリッチのベートーヴェンの、レコードとしては稀に聴ける精気の一貫した流れをもつ演奏に同質の生命力を表現した。メル・トーメの歌が実にバタ臭く、味が一段と濃厚になる。大オーケストラはさすがに、やや濁りのあるトゥッティだった。もう倍のパワーが必要だ。

ウエスギ UTY-5

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 低能率スピーカーにはパワー不足を覚悟しながら、あえて組み合わせてみた。大音量は無理だが、実用的に十分だ。UTY5を4台使えば問題は解決するし、価格的にもスピーカーとバランスする。この、しなやかでさわやかな弦の音はなんとも美しく、木管と弦の音の響きの対照がリアルで素晴らしい。アルゲリッチのピアノが一つ激しさと脂っこさが不足するが、きわめて透徹だ。GS1の質の高さを浮き彫りにするには最適のアンプといえるだろう。

アキュフェーズ P-500

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 クレーメルのヴァイオリンが滑らかすぎるくらい滑らかで、彼の音としては甘美にすぎると思われるが、独特の魅力ではある。弦合奏も少々ねばりと艶が誇張されるが、これまた色っぽく魅力である。もう一つ各楽器の質感を明確に鳴らし分けてくれたらと惜しまれる。オーケストラも、もう少し鋭い粒立ちがあったほうがリアリティが出ると思われる。このアンプで鳴らすGS1の音は、他のアンプでは味わえない艶麗なもので好みが分かれるだろうが得難い美音。

カウンターポイント SA-4

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 一度鳴らしてみたかった組合せである。当たった。実に魅力的なコンビネーションである。クレーメルのヴァイオリンはやや美化され過ぎるが、輝きと粘りのある質感で、ボーイングの力感が感じられるようにリアルであった。ピアノの音色の透明感と冴えは見事なものだ。弦合奏のなんとも魅力的な動きの実感と音色の美しさ。ふっくらとした弦の弓の弾力性が感じられるかの如きであった。アンプがスピーカーによって魅力を引き出された感じであった。

クレル KSA-100MKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 MKIIになって一味、あの魅力は失ったとはいえ、クレルのアンプというのはマッキントッシュの対極にあって高い次元の音をもっていると思うので組み合わせてみた。これは意外にJBL4344を鳴らしたときよりも生き生きとしてくる。XRT18のグラマラスな肉体を引き締めて、しかも、スピーカーのきめの細かくしなやかな高域にマッチして思わぬ美音にうっとりさせられた。このスピーカーのほうがアンプを高く評価することになるだろう。

マッキントッシュ MC7270

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 この優れたステレオフォニックスビーカーシステムにとってベストマッチのアンプであることが確認できた。ただ、JBL4344をあれほど魅力的に鳴らしたアンプだが、ここではXRT18の陰に廻って、そこから自然な音をさり気なく鳴らす縁の下の力持ちといった感じになる。しかし他のアンプで一通り鳴らした音を思い起こすと、やはりこの音がもっとも自然で素直で、かつ魅力的だ。音場の見透しといい、各楽音の質感といい、最高のレベルである。

パイオニア Exclusive M5

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 瑞々しいヴァイオリン。毅然として精神性の高いクレーメルのヴァイオリンが生きる。緻密で細やかな音はXRT18の甘口を辛口の方向へ持っていくが、決して細身にしたり神経質に過ぎることはない。ただ、漂うような空間感や、脂ののった濃艶な魅力は希薄になる。メル・トーメは現代的な感覚が生きて実にさわやかで軽やかになる。頭で考えるほどの違和感はなく、難をいえばスピーカーのパワーハンドリングに対してアンプのパワーがやや不足すること。

オンキョー Grand Integra M-510

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 この組合せはやや期待はずれに終わった。クレーメルの音が太くなり過ぎるし、艶や甘美な情緒が理を過ぎる。それでいて高域にやや粗さも出るようだ。弦楽合奏では、ざらつきとさえ感じるような、このスピーカーでは考えられない質感が出てくるのには驚かされた。擦弦のタッチが強調されるようである。また、大編成オーケストラのppも十分さわやかとはいえないし、fでの金管がひとつ輝きに不足する。このアンプは明らかにJBL4344のほうが活きる。

ネストロビック α-1

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ビクター Zero-L10での試聴)
 中域の明快さと独特のアンプのキャラクターが、どうスピーカーと対比を示すかを期待した組合せであるが、予想以上に中域の質感が甘く、粒立ちに欠けるために、少しセッティングを変えて、中域の明快さを出してみる。柔らかく、甘い低域の質感が改善され、適度に中域の粒立ちがあり、表情に活気がある。音場感的にもクリアーな拡がりと、シャープな音像定位である。プログラムソースとの対応は、適、不適が出るタイプではあるが、個性は魅力的。

クレル KSA-100MKII

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ビクター Zero-L10での試聴)
 素直なレスポンスと安定感のある鳴り方が特徴。低域は適度に柔らかさもあり、響きが豊かに加わり、安定感のあるプレゼンスは充分に楽しめそうな音だ。音場感はゆったりと拡がり、音像はやや大きく、スピーカーの奥にスンナリと立つタイプだ。良い意味で、スピーカーのアグレッシブな特徴を適度にカバーし、4ウェイらしい音で聴かせるこのアンプの力量は、注目に値するものだ。プログラムソースでは、モーツァルトとヴォーカリーズが雰囲気良し。

マイケルソン&オースチン TVA-1

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ビクター Zero-L10での試聴)
 鋭角的な低域の角が、柔らかくなり、アンプ独特の艶やかさが活きて、バランスがよく、伸びやかさがあるクォリティの高い音だ。音場感はナチュラルに拡がり、クッキリとした音像が、スピーカーの少し前に立つ。やや天井の低さが残るが、これはフェーダーとして使ったカウンターポイントSA121stのキャラクターとの関連である。プログラムソースに対しては、全体に絵画的にアクセントをつけて聴かせるが、響きもあり、それなりにまとまる。

パイオニア Exclusive M4a

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ビクター Zero-L10での試聴)
 広帯域型志向のスピーカーに、適度に枠をはめ、安定感を加える働きをするアンプだ。低域の輪郭がクッキリとした点はスピーカー独自の味で、これと、シャープで、鋭角的な中域から高域がバランスをしている。音場感は平均的で、前後方向のパースペクティブはやや不足気味だ。音像は適度の大きさで、輪郭はシャープ。プログラムソースとの対応は個性型で、全体にメリハリをつけて、硬質にまとめる。ディフィニッションのよさが必要だ。

サンスイ B-2201L

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ビクター Zero-L10での試聴)
 広帯域型のスピーカーとアンプのみがもつ、いかにも現代的という表現に相応しいレスポンスの音だ。低域は柔らかさ、伸びやかさがあり、芯の甘さが少し感じられるが、軽快で、滑らかで適度な反応の速さが、この組合せの最大の魅力だ。音場感はスッキリと拡がり、音像は小さくまとまり、ディフィニッションが良く、プレゼンスは見事だ。プログラムソースには、素直に反応を示し、音楽のある環境のエアーボリュウム、空気感を感じさせる再現性は魅力的。

ローランドリサーチ MODEL 5

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(アルテック 620J Monitorでの試聴)
 音の表情を僅かに抑える傾向が残るが、総合的なまとまりの良さではこのアンプがベストだ。帯域バランス、音色、表現力、音場感再現性など、減点法的に聴いても、マイナス要因が少なく、それでいて無味乾燥にならず、音楽的にも十分に楽しめるのが大変に魅力的。低域は柔らかく豊かで、質感に優れ、中域には適度な芯があり、高域もしなやかだ。音の粒子もキレイに磨かれ、とかく大味な面が残りがちな海外製品としては例外的で、長く使える音だ。

フッターマン OTL-4

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(アルテック 620J Monitorでの試聴)
 滑らかに、伸びやかなレスポンスを聴かせるアンプだ。広帯域型のバランスで、少し薄さが残るが、洗練されたイメージのナチュラルなプレゼンスは非常に魅力的だ。カンターテ・ドミノのサラッとした抜けがよく、ホールの大きさを感じさせる響きの軽やかさ、ディフィニッションの良さは一聴に値する。モーツァルトはサロン風に響き、天井の高さも十分にあり、雰囲気は見事。幻想は少し音が遠くなり、これはパワー不足。ヴォーカリーズは声が抜群の実体感。

オーディオリサーチ D-70

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(アルテック 620J Monitorでの試聴)
 豊かさがあり、適度な油っこさもあり、落ち着いて楽しめる音だ。低域は豊かで、安定感があり、程よく力感もあり、ゆったりと音を聴かせる基盤となっている。音場感は、ややスピーカーの奥に拡がるが、音像の輪郭はシャープで、リアリティも水準以上だ。プログラムソースとの対応は、少し適、不適があり、全体に線を太く、マクロ的にまとめ、アンチCDファンには一聴に値する魅力があるだろう。線が細く、積極性が抑えられたスピーカーに好適。

ロバートソンオーディオ 4010

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(アルテック 620J Monitorでの試聴)
 特徴のある押出しのよい低域をベースとした、安定感のあるバランスと、まとまりのよい音をもつアンプだ。中域は程よく芯があり、音に輪郭をつけて聴かせ、まとまりの良さの基盤となっている。プログラムソースとの対応は、全体に少し小さくまとめるが、わざとらしさがない。音場感的にも、素直に拡がるプレゼンスで聴かせる。カンターテ・ドミノは、会場内の温度と湿度がやや高く感じられ、モーツァルトは、雰囲気よく小さくまとまり、素直さが特徴。