Category Archives: 海外ブランド - Page 30

EMT XSD15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 EMTのカートリッジTSDシリーズは、ほんらい、同社のプレーヤーデッキに組合わされるいわばプレーヤーシステムの系の中のパーツであり、単売のカートリッジだと考えないほうがいいが、それでもTSDの魅力の半面なりを味わいたいという向きのために、オルトフォン/SME型のコネクターに代えたXSDが用意されている。この音の魅力を生かすには、アームやプレーヤーシステムの選び方が相当に制限される。

トーレンス TD126MKIIIBC

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 スイス・トーレンス社のターンテーブルは、TD125以来、150、160などすべて、亜鉛ダイキャストの重いターンテーブルをベルトドライブで廻すという方式で一貫している。同社ではS/N比の向上の点でのメリットを強調しているが、DDを聴き馴れた耳でTD126の音を聴くと、同じレコードが、あれ? なんでこんなに音が良いのだろう! と驚かされる。音の良さの理由は私には正確には判らないが、ともかくこれが事実なのだ。

マイケルソン&オースチン TVA-1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 トランジスターの素子も回路技術も格段に向上して、素晴らしい音質のアンプが作られるようになったこんにち、効率の悪い、発熱の大きい、ときとして動作不安定になりやすい管球アンプをあえて採るというからには、音質の面で、こんにちのトランジスターアンプに望めない+アルファを持っていること、が条件になる。TVA−1の音はどちらかといえば女性的で、艶やかさ、色っぽさを特長とする。ふくよかでたっぷりして、ほどよく脂の乗った音。

ロジャース PM510

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 LS3/5Aは英国BBC現用の最も小さいモニタースピーカーだが、同じシリーズで最も大きいのがLS5/8。これにはバイアンプドライブのパワーアンプシステム(QUAD製)が附属しているが、それを、普通のLCネットワークに代えて、扱いやすくしたのがPM510。クラシック全般、中でも弦合奏やオペラ等の音や声の音色や音場の自然さ、美しさ、という点で、いまのところ頂点のひとつにあるスピーカーと言ってよい。

ロジャース LS3/5A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 周知のように英国BBCの開発になるミニモニターだが、同局の認可をとってロジャースとオーディオマスターの2社から、製品が市販されている。大きさからいって、スケール雄大といった音はとても望めない反面、精巧な縮尺模型を眺める驚きに似た緻密な音場再現と、繊細な弦の響きなど、他に類のない魅力だろう。KEF303を、安心して家事のまかせられる堅実女房とすれば、こちらは少し神経質だが魅力的な恋人、か。

JBL 4301B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 #4350、#4345、#4343等を頂点とするJBLスタジオモニターシリーズの末弟。KEF303同様に20cmウーファーとコーン型トゥイーターの2ウェイ。だが音質は対照的で、ジャズ、フュージョン、ロック等の叩き込んでくるパーカッションの迫力は、小型とはいえやはりJBL。明るい軽快なカリフォルニア・サウンド。ちょっと小粋で魅力的なスピーカーだ。

KEF Model 303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 20cmウーファーとドーム型トゥイーターの2ウェイ。キャビネットはプラスチック成型を主体とし、外装はストレッチクロスでぐるりと囲んで、徹底的にコストダウンした作り方。レベルコントロールもついていない。が、その分だけ音質はさすが、で、バランスよく、大入力にも耐え、どちらかといえば地味な音色だが音楽を選ばず楽しませる。最近の製品はストレッチクロスの色が6色用意され、好みによって選べる。

EMT TSD15

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 このカートリッジでは、EMT独自のコネクター規格によるものだから、一般のトーンアームには取付けて使うことが出来ない。その場合にはXSD15を選ぶようになっている。同社のトーンアーム929か997と共に使うカートリッジだ。豊潤剛健な音質で、バランスは重厚で安定したものだ。デリカシーや透明度といった、軽量のコンプライアンス型では得られない充実したサウンドが好みの分れるところだろう。高貴な風格だ。

JBL L150A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 発売後約1年半を経たL150の小改良型で、改良のポイントは、第一にグリルクロスを外してみるとすく目につくが、ドームトゥイーターが、旧型の黒い色からアルミニウム系の金属質の色に変っている。おそらくL112のトゥイーターと同等かまたは同じ技術で作られていると思う。
 第二は内蔵の分割回路の改良とのことで、これは外からはみえない。
 たまたま、別項で紹介しているアキュフェイズの500W(M100)の試聴と重なっていたので、遊びついでに、エージングをかねて、思い切りパワーを放り込んでみた(マイ・リトル・スウェード・シューズ/西 直樹 トリオPA9209)。M100のピークインジケーターが、一瞬、640W! を指示するほどの、といっても、目の前で演奏している、あるいは演奏者たちの間に入れてもらったような音量。しかし鳴り終えてしばらくは耳がジーンと鳴っているような、いささかショッキングな音量で一曲聴いてみるが、実に整然とバランスが整って、安定感があり、ユニットがハイパワーで飛ぶのではないかなどといったおそれは少しも感じさせない。ウッドベースはよく引き締って、しかし量感と弾みがあるし、ピアノの打鍵の切れこみ、ドラムスの叩き込んだエネルギーと音離れのよさ、実に爽快な一瞬を味わった。
 このあと、もっとふつうのアンプに戻してフュージョンその他のポップス、ヴォーカル等を聴いたが、抑制の利いたややクールな鳴り方で、全体にバランスのよく整っていること、旧型ではトゥイーターの上限に少しクセっぽい音のあったがよく取り除かれていること、総体に改良のあとははっきり認められた。
 ただ、旧型が、ときに少々きわどい音を鳴らしながらも、その反面として、難しいクラシックの弦の音にさえも、一種の魅力的な味わいを示したのに比較すると、総体に音がやや艶消しの質感、あるいは乾いた方向に調整されているので、結局、新製品はポップス系をよりよく再現する方向に徹したのではないかと想像した。
 設置のしかたはとても楽で、特別に台を用意せずにゆかの上にそのまま置いても、低域の音離れもよいし、背面は共振のない固い壁ならむしろぴったりつけてしまってさしつかえない。

マッキントッシュ MC2205

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 マッキントッシュのパワーアンプのシリーズ中の代表機種である。例のグラスイルミネーションパネルをもつアンプとして、現在のところ最大のパワーをもった製品だ。パワーガードサーキットにより、ノンクリッピングのドライブが可能で、伝統のアウトプットとランスの使用により、高効率、高信頼度をもっている。暖かく重厚な音の品位の高さはマッキントッシュアンプならではのもので〝価値ある製品〟といえる。

ルボックス B710

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 たとえば、カートリッジを比較の例にあげてみると、一方にオルトフォンMC30又はMC20MKII、他方にデンオンDL303又はテクニクス100CMK3を対比させてみると、オルトフォンをしばらく聴いたあとで国産に切換えると、肉食が菜食になったような、油絵が水彩になったような、そういう何か根元的な違いを誰もが感じる。もう少し具体的にいえば、同じ一枚のレコードの音が、オルトフォンではこってりと肉付きあるいは厚みを感じさせる。色彩があざやかになる。音が立体的になる。あるいは西欧人の身体つきのように、起伏がはっきりしていて、一見やせているようにみえても厚みがある、というような。
 反面、西欧人の肌が日本人のキメ細かい肌にかなわないように、滑らかな肌ざわり、キメの細かさ、という点では絶対に国産が強い。日本人の細やかな神経を反映して、音がどこまでも細かく分解されてゆく。歪が少ない。一旦それを聴くと、オルトフォンはいかにも大掴みに聴こえる。しかし大掴みに全体のバランスを整える。国産品は、概して部分の細やかさに気をとられて、全体としてみると、どうも細い。弱々しい。本当のエネルギーが弱い。
 B710とナカミチ1000ZXLとの比較で、まさにそういう差を感じた。そしてここでテープまで変えると、その差はいっそう大きく開き、ナカミチにはTDKのSA又はマクセルのXLIIを、そしてB710には、今回小西六がアンペックスと提携して新発売するマグナックスのGMIIを、それぞれ組み合わせると、国産はハイ上がりのロー抑え、いわゆる右上り特性の、ややキャンつきぎみの細身の音に聴こえるし、ルボックスはその正反対に、中〜低域に厚みのたっぷりある、土台のしっかりした、ボディの豊かな音に仕上る。そしてとうぜんのことに、こういう音はクラシックの音楽を極上のバランスで楽しませる。総体に、派手さをおさえて音を渋く、落ち着きのある色合いを聴かせるのだが、こういう音は、残念ながらこれまで国産のどのデッキからも聴くことができなかった。
 試聴はほとんどドルビーONの状態。そしてメカニズムその他の詳細については、残念ながら紙数の制約のため割愛せざるを得なかった。

JBL L300A

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 JBLのスピーカーシステムとして、代表的な存在といってよいであろう。プロユースの4333シリーズに相当する内容のコンシュマー用であり、外観フィニッシュもずっとファニチュア的雰囲気が濃く、好感のもてるものだ。38cmウーファー、音響レンズ付ホーン型スコーカー、ホーン型トゥイーターの3ウェイ・3ユニット構成で、エンクロージュアはパイプダクトのバスレフ方式をとる。明解精緻なJBLサウンドだ。

セクエラ Model 1

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 業務用の通信機で使われる受信周波数附近の電波を視覚的に見せるパノラミック・スコープ・アダプターをFMチューナーに導入した世界唯一の製品である。価格的にはFMチューナーの常識を破る超高価な製品であるが、その性能、機能を通信業務用の受信機のレベルからみれば、むしろ、ローコストともいえるだろう。ナチュラルでS/N比の優れた音は、FMチューナー的な音ではないが、フィデリティの高さは送信機の質を上まわる。

エンパイア 4000D/III LAC

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 カンチレバー内部に特殊構造を施した現在のダイナミック・インターフェース・シリーズはエンパイアの最新モデルであるが、スタンダードなカンチレバー採用の製品のトップモデルが、この4000DIII/LACである。ワイドレンジ型で、音の粒子が微粒子型であるため、ソフトでスムーズな音とシステムによっては誤解されるが、高度なシステムでは、非常にシャープで繊細な音でMC型以上となり、現在でもリファレンスの位置づけを持つ。

オルトフォン MC10MKII

オルトフォンのカートリッジMC10MKIIの広告(輸入元:ハーマンインターナショナル)
(別冊FM fan 30号掲載)

MC10MKII

トーレンス Reference

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはトーレンスの新製品で、本来トーレンスの研究用に作り上げられた製品である。それを超マニアの要望があって一般にも売ることになったもので、実に超ド級にふさわしいものすごいプレイヤーシステムだ。トーンアームが三本付くようになっており、スタンダードとしてはトーレンス自体のアーム、カートリッジ、EMTのアームとカートリッジ、そして好みのアーム、カートリッジを付けるようになっているり 全重量は90kgに達するが、このプレイヤーはリンソンデックやトーレンスの126のところでも述べたような、フローティング・マウンティングという思想を守っている。それでターンテーブルボードのものすごい重量をリーフスプリングとコイルスプリングで吊っている。しかも吊りの張力をコントロールできるようになっていて、共振周波数を1Hzから5Hzの間でもってコントロールできるという、凝った構造になっている。
 ターンテーブルは超ド級にもかかわらず、ノーマルな30cmのものが付いている。ベルトドライブとフローティングというトーレンスの思想を守ったターンテーブルだ。当然これは値段的にいっても、EMTの927に比して考えざるを得ないのだが、927はプロフェッショナル・ユースを志しているのに対して、これは言うならばコンシューマー・プロダクツのためのレファレンスだ。
音質 音質もまた927と比較して言うことになるが、927で私が戸惑いを感じたほど、レコード以上ではないかと思うような強引な力強い音ではない。しかし、力強さという点ではいささかも不満はない。しなやかさ、繊細さ、柔らかさという、つまり音楽的情緒では、私にはこちらの方がずっと満たされる。927の場合には、ちょうど仕事をして聴いている時のモニターの音のような気がした。モニターをしている時は、情緒までうんぬんしている余裕はないが、自分自身、家に帰って聴く音というのは全然違う。これは、自分が家に帰ってきて聴く時の、最高品位の音を出してくれるプレイヤーだと思う。
 柔軟性が出ていて、音楽がずっとのびのびしている。非常にバランスもすばらしくて、血の通った低音から、本当に過不足のない輝かしさのある高音まで実にしなやかだ。決して耳障りではなくて、それでいて頼りない音にはならない高域だ。こういうフルレンジにおいて、いささかの冷たさもトゲトゲしさも出てこない。解像力がものすごくよくて、音の奥行きの深さ、広がりとか各楽器の質感の響き分けとかというものは、レコードに入っている音楽的な響きを全くそのまま出してくれる。ただ、これはTSD15で聴いた時の印象であって、トーレンスのカートリッジ、アームで聴いた時にはちょっと問題があったように思う。品位の点では、TSD15の方がいいと思った。また、使い手によって自分の好きなアームとカートリッジを付けることができるけれども、ここでの試聴レポートでは触れない。たまたまTSD15を使った限りにおいて大きな差が出たが、それでいてこの二つは共通して他のいかなるプレイヤーとも全く次元を異にする音だった。

EMT 927Dst

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーシステムは非常に特殊なもので、決して家庭用のプレイヤーではない。プロ用としても超ド級であって、何しろターンテーブルの大きさが16インチ径もある。これはカッティングしたラッカーマスターを検聴する目的で開発されたという。この下の930が放送局用のプレイヤーとして使われているが、ターンテーブルはもっと小さい。カッティングの検聴用ということだが残念なことに、私はこういうプレイヤーを実際にカッティングルームで使っている例をまだ知らない。カッティングルームの場合には、カッターマシンをターンテーブルに置いたままで聴けるようになっているので、このプレイヤーシステムの本当の使い方がどこにあるのか、私自身はっきり知らない。おそらくEMTとしてディスク再生機のあるべき姿を追求すればこうなった、というふうに解釈するのが本当ではないかと思う。
 もちろんこれはEMTのトーンアームとカートリッジを使うものであって、ユニバーサルタイプではない。TSD15を標準として使う。そしてイコライザーを内蔵していて、ライン出力を取り出すという方法をとっている。付属機構がいろいろ付いていて、針先のポジションがはっきりスケールで見られるようになっていて、レコードをかけるには確かに完璧を期したプレイヤーだ。
音質 駆動方式は今回の中では唯一のリム方式である。音質はもうケタ違いといっていい。今回聴いた最高級プレイヤーの中でも、これは一次元を画したたくましい音だ。はじけるようなベース、うなるようなバスドラム、パーカッションの立ち上がりの機敏な音、目も覚めんばかりだった。ピアノのスケールが一段と大きくなって、今までのものと違ってしまった、というふうに楽器のスケール感が変わって聴こえる。そして全帯域にわたって、実に朗々と響いている。同じレコードがこういう音になるとは信じがたい。
 とにかくこの重量のかかった音──音の目方という表現が許されるならば──これは全く今までとはケタ違いの目方がかかった音だ。そして音のパワーというものがものすごい。実際これはどういうことだろうか。レコード自体がこれだけ猛々しく鳴るべきものなのか、このプレイヤーがこういう音を出しているものなのか判断に苦しむ。とにかく次元を異にした猛烈な力強い音だ。もちろん帯域バランスとかはよくとれているし、クセがどこへ出るというものでもない。本当に最低域から最高域までを、ものすごい充実感と確実性と重量感を持って、スケールの大きな圧倒的な音を聴かせてくれる。
 まさにプレイヤーシステムによる音の違いとして、本当にひしひしと感じさせられた。948と同じTSD15を使ってテストしたが、カートリッジが同じであるにもかかわらず、同じEMTの中でもスケールがガーンと大きくなった。ましてやほかのプレイヤーシステムと比較してみた時には、相当違う音になる。こういう音を一度聴かされると、確かにほかのプレイヤーの音はどこかひ弱だ。しかしいい音には違いないが、レコードそのものがこういう音なのかどうか、疑いを持つほどに堂々たる音だ。もう圧倒されて、これは別格だという表現を使わざるをえないプレイヤーだった。

EMT 948

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはEMTの新製品だ。コンセプトとしては、放送送り出し用のターンテーブルということで、従来の930に匹敵する製品だ。930と同じくイコライザーを内蔵していて、ライン出力が取り出せるようになっている。
 また、放送機器として使うために、使い勝手が非常によく考えられている。けい光灯のようなものが付いていて、それがついてからすべてのスイッチがオンされる。もちろんマーキングがあって、頭出しも非常に便利だし、スイッチ一つで逆転が可能というところも大変に便利な構造ということがいえる。これはカートリッジ、アーム付きであって、EMTのTSD15を使う。それ以外のカートリッジは使えない。
 この948はターンテーブルがベルトからダイレクトドライブになった。このへんも新しい世代のEMTのプレイヤーシステムといえると思う。アクリルのカバーも付いていて、カバーは密閉式ではなく、両サイドがあいており、中にキャビティーができることによる害は比較的避けられている。その他の仕上げの点では、さすがにEMTらしく非常に精度の高いものだ。従来のEMTの持っていた重厚なイメージとは違って、これは非常にモダンなイメージにまとめ上げられた、これ自体大変に美しいターンテーブルシステムということができると思う。実際にはインシュレーターが付いているはずだが、今回はそれがなかったために、インシュレーターなしで使ったけれども、ハウリングには問題がなかったように思う。
音質 一つ気になった点は、ある低域に特定の周波数に共振が出ることだ。ほかのプレイヤーにない、ある種のベースの特定なピッチが少々強く出すぎるという感じがあった。全体には非常に締まった、むしろゴリゴリしたような低音だけれども、ある一点でそれがやたらにブーミーになる。音の感じとしては、全体に彫りの深い音だと思う。大体これは、カートリッジのTSD15の性格ももちろんあると思うが、やはりよくできたターンテーブルだからだろう。端正な響きで非常に魅力的だ。ただ中域のピアノの響きがちょっと伸びきらず、少しやせるというところが感じられたけれども、このへんはカートリッジのせいなのか、アームのせいなのか、あるいはターンテーブルシステムのせいなのか、トータルで聴いているためはっきりわからない。とにかく日本のプレイヤーとは次元を異にしている。クラシックのオーケストラをかけた時に、実にニュアンス豊かで品位の感じられる音になる。ふくらみがあって、それでいて解像力が優れていて、彫りの深い響きが鳴る。これはもう伝統としか言いようがない。EMTの930、927の音と比べて、これらの音の魅力をよく知っている人には変わったなと感じられるかもしれないけれども、確かに変わった部分はあるにせよ、持っている本質は変わらないと思う。あくまでも力強く、しっかりとした解像力でえぐるように音を鳴らす。それでいて決して雰囲気は即物的にならず、重厚なすばらしい風格を持った響きを持つという、EMT独自の個性はここでも明らかに感じられた。

リン LP-12 + LV-II

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーはスコットランドの製品で、大きな特徴はフローティングマウントシステムを採用していることだ。トーレンスのTD126シリーズと同じような考え方である。これは大体ヨーロッパのプレイヤーシステムの主流だ。このことに関してはほかのところでもう少し詳しく述べたい。このリンソンデックの場合は、フローティングが大変うまくできている。見た目にはあまり有難味のない、この値段に匹敵しない仕上げ、デザインで、おそらく普通の人がちょっと見ただけでは、これは五、六万円のプレイヤーじゃないかと思うだろう。プレイヤーは音がよければいいということではなくて、見た目も非常に重要な要素だと思うので、この点に関してはリンソンデックに対する私の評価は非常に低い。いかにいい音がしても、高級プレイヤーシステムとして家庭に持ってきて、大事に扱おうという気が起きないようなデザインではダメだと思う。ここまですばらしいものを作りながら、このデザインで平然としているリンソンデックのセンスには私としてはちょっと共感しかねる。ところが実際に音を聴いてみるとこれがビックリ。私はリンソンデックのプレイヤーはオーディオ界の七不思議の一つだと思っているけれども、とにかく大変に音のすばらしいものだ。今回は、リンソンデックが最近出したアサックというカートリッジを付けて試聴した。トータルでリン・ディスク・システムと呼ぶ。
音質 このアサックを付けて試聴した感じでの音は、とにかく非常に重心の低い落ち着いたエネルギーバランスで、ピアノを聴いても打楽器を聴いてもガッチリとした、しっかりとした音で実に重厚、剛健というか、音楽の表現力が非常にたくましく躍動する。やや繊細さには欠けるような感じがして、もう少しデリカシーの再現ができればいいと思うが、しかしこの力と豊かさがわれわれの聴感には非常に心地よいバランスだ。これは非常に特異なものだと思う。ベースの太くたくましい、ズシンとくるような響きの豊かさというのはほかのプレイヤーと一線を画して魅力のあるものだと思う。ただベースの音色的な細やかな変化はあまりきかれない。そういう意味では先ほど述べた、繊細さに欠けるということにも通じるかもしれない。それからリズムは下へ下へ、グングン押しつける傾向のリズムで、上へはねる傾向には聴こえない。このへんがこのプレイヤーの特色だろう。しかし、ドラムス、ベースはジャズを聴いても迫力十分だし、オーケストラを聴いた時の厚みのある低音弦楽器部分の怒とうのように迫る響きはなかなかのもの。管の音もバスクラとかバスーンとか、そのへんの領域の音が非常に奥深く、深々と鳴ってくれる。こういうところが、このプレイヤーならではの充実した再生音だろうと思う。奥行き、音場感、これもなかなか豊かで、ステレオフォニックな音場感がこういうように再現されるというのは、プレイヤーの共振モードが大変にうまくコントロールされているのだと思う。私の感じたところによると、500Hzから800Hzあたりが非常に豊かに響いてくる。これが音楽を奥深く感じさせることになっているのではないかと思う。高域の弦楽器群、バイオリンのハイピッチの音などは、決してしなやかとまではいかないけれども、とげとげしくもない。

リン LP12, ITTOK LV-II, ASAK

リンのターンテーブルLP12、トーンアームITTOK LV-II、カートリッジASAKの広告(輸入元;オーデックス)
(別冊FM fan 30号掲載)

LP12

B&O Beogram8000

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これは完全なプレイヤーシステム。このプレイヤーは全く観点を変えてつかまないと見当違いなことになる。特に今回聴いた十六機種中、設計のコンセプトから、あるいは使われる目的が全然違うものだ。これを同列でもって比較するということは見当違いの評価になってしまう。
 つまりこのプレイヤーは最高級のシステムコンポーネントのプレイヤーである。B&Oのカセットデッキ、プレイヤー、レシーバー、それにスピーカーを一つのシステムとして構成した時に真価を発揮する。エレクトロニクスコントロールでは最も早く先鞭を切ったプレイヤーで、これはその最新モデルだ。そして各コンポーネントをシステム化することによって全部自由にリモートコントロールできるという、大変すばらしいものだ。デザインの斬新さと美しさ、これはもう比類のないものでデンマークのモダンデザインの極といってもいいほどすばらしい。
 内容的にも相当高度な内容を持ってはいる。まず、同社が随分前から採用していたリニアトラッキング・インテグラルアームで、しかもカートリッジと一体型である。ただ一体型にしてはプラグインというのがちょっと気になる。
音質 この中で同列に評価すると非常に気の毒なことになる。こういう複雑な構造を持って、しかも非常に薄型の形になっていて各部が大変デリケートであると同時に、そんなに重量のあるものではないので、これをこのクラスの重量級のターンテーブルシステムと比較するとやはり音ではかなわない。まず低音がこの二十万、三十万円というターンテーブルの中で比較したら全然比較にならない。低音は出ない。無理やり出せばメカのノイズが出てくる。従ってこれに見合ったシステムで再生した時にすばらしい音楽的な音を聴かせる。超ド級のもの、例えばマッキントッシュの2500にJBLの4343Bなんかでグァーンとやることは、まさにベオブラム8000を顕微鏡で拡大したようなことになる。だから、根本的に考え方を変えてかからなければならないので、音に関してはあまり詳しく触れるのはやめておく。
 ただこのシステムの魅力、こういうデザイン感覚は絶対にオーディオ製品には必要だと思う。これは飛び抜けている。今回出てきた半分ぐらいは多少なりともこのデザイン感覚を見習って欲しいと思う。とにかく美しいすばらしいプレイヤーシステムだ。特に最近はエレクトロニクス・コントロールのターンテーブルシステムがたくさん出てきているが、その範とするに足るものではないか。
 オーディオというのは音そのものをよくするだけでは片手落ちで、結果的にはまず気分よくならなければならない。だからゴチャゴチャ配線を引き回して、すごい重量級の道具を置いて気分のいい人はそれでいい。しかし世の中はそういう人だけではない。部屋をきれいに掃除してすばらしいインテリアでもって気分よく音楽が楽しめる。そういうことを優先する人にとってはこのプレイヤーはすばらしいものだと思う。
 オーディオは、どんなメカ派でも音質派でも音楽を聴く。音楽を聴くことということだったら、やはりその範囲の中でセンスというものに関心を持たなければおかしい。

トーレンス TD126MKIIIBC

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 高級ターンテーブルの中では、安直に使える家庭用の高級ターンテーブルというイメージが非常に強い。トーレンスの思想であるクッションによってモーター部分とアームのベース部分と一体にして浮かせるという構造のターンテーブルシステム。見た感じからいくと、おそらく二十万円に近いと思えないイージーハンドリングな感じを持つ。構造的には別に目新しいところはなくて、DCモーターによるベルトドライブ。特に重量級とはいえないが、回転メカニズムを支えて、そしてトーンアームを明確に支えるコンストラクションの部分はがっちりと出来ている。
 当然だが、何といっても浮かしたターンテーブルというのはやはり外部からのショックに強くて針とびが少ない。ハウリングマージンも取れる。最近のように低域がどんどん伸びてきている場合にはこのハウリングマージンを重量だけで押えていくのは並大抵のことではない。50kg、60kg程度では押え切れるものではない。そういう意味から、このトーレンスのようないき方のフローティングシステムというのは、大きなメリットを持っている。日本においては、このフローティングはあまり受け入れられず、どちらかというと、どんどん重量で固めていく傾向のようだが、それ一辺倒の思想は改めてもいいのではないかと思う。このシステムにはアームが付いてカートリッジレスのものと、アームレスのものとあるが今回はアームレスを試聴した。
音質 テストにはオーディオクラフトのAC3000MCのトーンアーム、オルトフォンのMC20MKIIをつけて聴いたが、音の点でのバランスはとにかくものすごくいいターンテーブルだ。
 操作性は慣れれば非常に明快だが、スピード切り替えとスターターが一緒になっていて、OFFスイッチはアームの手元についている。慣れればこれは大変使いやすいマニュアルターンテーブルだ。
 いま日本だけでなくて、世界的にDDモーターが全盛時代を占めている。この時代にベルトドライブに固執しているのは一、二のメーカーだけだが、そのメーカーには技術的な主張があるわけだ。実際に音を聴いてみても、このベルトドライブの持っているよさというのは何となくわかるような気がする。明らかな欠陥がDDにあったり、ベルトにあったり、ということではないから明確にいうのは困難にしても、ベルトドライブが持っている音の穏やかさというか、滑らかさというか、非常に温か味を感じる音だ。
 具体的に言うと、ややピアノの音が高域音にうわずるところがある。これは、もちろんカートリッジとトーンアームというものの音をいろいろなターンテーブルで聴いた平均より、という意味だ。それから音の密度、締まり具合というものが、完全にこのクラスの最高級のプレイヤーと比べるとやや甘いというところがあるが、それがまた音の穏やかさというか、聴きやすさということにつながってくる。オーケストラの低域のコントラバス、チェロなどの楽器の持っているブーミーなボディというのがよく出る。そういう点ではこのシステムはよく楽器の、そういう独特な音の傾向というものを出してくれたと思う。全体的にとにかく音楽らしく聴かしてくれるいいターンテーブルだった。

KEF Model 105.4, Model 103.2

KEFのスピーカーシステムModel 105.4、Model 103.2の広告(輸入元:BSRジャパン)
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

KEF105

オーラトーン 5C, 5S, 5W, 5RC

オーラトーンのスピーカーシステム5C、5S、5W、5RCの広告(輸入元:トーマス)
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

Auratone

マッキントッシュ XRT20

マッキントッシュのスピーカーシステムXRT20の広告(輸入元:ヤマギワ貿易)
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

XRT20