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JBL SA600

岩崎千明

スイングジャーナル 3月号(1969年2月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 私のリスニング・ルームには時折米国のハイファイ・マニアが出入りする。都下の米空軍基地の将校たちである。米国ハイファイ界のニュースなども話題になるが、彼らにとってもジム・ランシングという名は超高級イメージである。日本ではジム・ランシングと同じ程度にハイ・グレードと思われているARスピーカーというのは優秀品には違いないがどこにでもあり、いつでも買える身近なパーツのようだ。ところが「ランシング」のブランドは多いに買気をそそられる魅力、またこれを使うことによる大いなるプライドを持てる商品というように価値づけられているようである。
 ジム・ランシングは本来スピーカー・メーカーで音響専門であったが60年代に入って、ステレオ・アンプを発売した。それ以前から「エナジザー」と名でパワー・アンプが出ており、ごく高級のスピーカー・システムに組み込まれて存在した。
 独立したアンプ商品としての第一陣はプリ・アンプSG520であったがパワー・アンプを組み込んだSA600が、2年ほど前から米国内で発売され、マニアに注目されている。このSA600の優秀さはいろいろな形で、昨年中の米国オーディオ誌に採り上げられているが、その代表的な一例を68年春のエレクトロニクス・ワールド誌にみてみよう。この雑誌はかなり技術的な専門誌であるが、この号には、米国市場にある20種の代表的なアンプの特性を権威ある研究所でテストした比較書がのせてある。
 その試聴結果をみて、私は眼を疑ったほどである。ジムランSA600の最大出力についてメーカー発表の規格値は左右40/40ワットの最大出力になっているのに、試験によると「60/60ワットを超える出力がとり出せる」となっている。つまり規格値を超えること50%も最大出力が大きいという点である。むろん20種のテスト製品の中で、これほどゆとりある設計は、ジムランのアンプだけであることはいうまでもない。
 この点にジムランというメーカーの製品に対する考え方、メーカーのポリシーを感じることができる。ほかの性能も一般のアンプにくらべてずばぬけて優秀であり、20種中、ベストにランクされていたのもむろんである。
 SA600のこの優れた性能は、あなたが技術的にくわしい方なら、このアンプの回路をみれば完全に納得がいくはずだ。そこには普通のアンプとは全然違った技術を見ることができよう。コンピューターの中の回路と同系の、バランスド・アンプの技術が中心となっているのである。ジムランでは、これをTサーキットと呼んでおり、ハイ・ファイ用として特許回路である。コンピューターと同じくらい厳しく、しかも安定な動作がこの回路でなら楽々とこなせるはずだ。SA600のこのTサーキットはジムランのもうひとつのアンプSE400シリーズに採用されているが、さらに後面パネルはスピーカー組込み用SE408パワー・アンプの前面パネルとまったく同じデザインであり、パワー・アンプがほとんど同じことが外観からもうかがい知ることができる。アンプの後面についているべきターミナルは、ジムラン独特のケース底面に集められており、実際に使用の際の合理的な設計が、身近に感じられる。
 SA600は日本市場価格は24万だが、プリ・アンプSG520がデザインこそ豪華だがほぼ同じ価格。さらにパワー・アンプSE400シリーズが、20万円弱ということで、この両者を回路的に組み合せたSA600の価格としては割安で、このアンプがベスト・バイとなるのもうなずけよう。

シュアー V15 TypeII, M75E Type2

シュアーのカートリッジV15 TypeII、M75E Type2の広告(輸入元:バルコム)
(スイングジャーナル 1969年2月号掲載)

V15II

シュアー M44-5, M75G, M75E TypeII

シュアーのカートリッジM44-5、M75G、M75E TypeIIの広告(輸入元:バルコム)
(スイングジャーナル 1969年1月号掲載)

M75

アルテック 419A

菅野沖彦

スイングジャーナル 1月号(1968年12月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 アルテックといえばオーディオに関心のある人でその名を知らぬ人はあるまい。アメリカのスピーカーといえば、アルテックとジムランの名がすぐ浮ぶ。ジムランはもともとアルテックから分れた会社で、アルテックがプロ用機器をもっぱら手がけジムランが家庭用を主力にしていることもよく知られている。もっとも、このプロ用と家庭用なる区別は、なにによってなされるのかははなはだ不明瞭であって厳重な規格や定義があるわけではない。しかし、現実にその両者の差は優劣ということではなくて、製品のもっている特長、個性に現れているといってよいだろう。
 ところで、スピーカーというものは、音響機器の中でももっともむづかしいものであることはたびたび書いてきた。つまり、優劣を決定するのに占める物理特性のパーセンテージがアンプなどより低いのである。直接空気中に音波を放射して音を出すものだけに使用条件や音響空間の特性も千差万別で、そうした整備統一も容易ではない。そして音質、音色の主観的判定となると実に厄介な問題を包含しているわけだ。それだけに、業務用、一般用という区別はスピーカーにとって大きな問題とされる。業務用スピーカーといえばモニター・スピーカーといったほうが早く、モニター・スピーカーとはなにか? という論議は時々聞かれる。
 モニター・スピーカーはよくいえば基準になり得る優れた特性のスピーカーというイメージがあるし、逆にひねれば味もそっけもない音のスピーカーというイメージにもなるのではないか。
 この辺がモニター・スピーカーとは何かという論議の焦点だ。私としては、モニター・スピーカーと鑑賞用スピーカーの区別は音質や音良の面ではつけるべきではなく、良いスピーカーはいずれにも良いと考えている。強いてモニター・スピーカーに要求するとすれば、許容入力であって、少々のパワーでこわれるものはモニターとしては困る。実演と同次元で再生することが多いから、かなりの音量をだすことが必要なのである。ただし、許容入力は常に能率とのバランスで見るべきで、同じ20ワットの入力でも能率が異れば出しうる音量はまったくちがってくる。この点、アルテックのスピーカーはすべて大変能率がよく、許容入力も大きい。絶対の信頼感がある。そしてさらにその音質は音楽性豊かというべき味わいぶかいものだ。
 今度発売される419Aというユニットは30cmの全帯域型で、きわめて独創的なものだ。バイフレックスといって2つのコーンが一体になったような構造で1000Hzをさかいに周波数を分担している。この2つのコーンはそれぞれ異ったコンプライアンスと包角をもっており、さらにセンターにアルミ・ドームのラジエターで高域の輻射をしている。これは30cmスピーカーとしては小型なパイプダクト式のキャビネットに収められ〝マラガ〟というシステムとして発売されるという。
 私の聴いたところでは実に明晰な解像力をもっていて音像がしっかりときまる。固有の附随音が少く、抜けのよいすっきりとした再生音であった。マッシヴなクォリティは他のアルテックのスピーカーに共通したものだ。また能率のずばぬけてよいことも特筆すべきで.大音量でジャズを肌で感じるにはもってこいのスピーカーであろう。モニターとして鑑賞用として広く推薦したい製品。
 欲をいうならば最高域が不足なので、同社の3000HトゥイーターをN3000Hネットワークと共にブラスすると一段と冴えると思う。

トーレンス TD124

岩崎千明

スイングジャーナル 12月号(1968年11月発行)
「ベスト・セラー診断」より

「縁(円)の下の力持ち」という言葉がぴったりのハイ・パートがターンテーブルだ。事実ハイ・ファイ装置がそのすばらしさを発揮しようとすればするほどターンテーブルは重要となる。装置が高級なら高級なほど、その性能を十分に引き出すためにターンテーブルが重要になってくる。
 さて、10数年近く前のことだったが、あるスピーカーの大メーカーの定例コンサートで用いるアンプに初めてOTLを使用したことかある。OTLアンプがメーカーによって公開の場で鳴らされた最初のことだった。大出力真空管を10数本並べたそのアンプは、今までになく高性能を発揮し、とくに超低域のものすごい底力には目をみはったものだった。低音出力が落ちるトランスがないためであるが、そのアンプを試聴したときに当時の市販ターンテーブルはすべてゴロが出て使いものにならなかった。その時点において海外製品もすべて失格であった。そのメーカーのYは有能なのでベルト・ドライヴ・モーターを作ってコンサートは無事終ったように記憶する。
 セットが高級化すればするほど、保守的で伝統的な技術によって作られる部分でありながら、性能の向上が求められる部分といえる。
 ステレオ時代になり、レコードの水平方向に加え垂直方向にも音が吹き込まれるようになり、ターンテーブルの性能はさらに高度なものが望まれるようになる。そしてベルト・ドライヴ機構が高級品の常識にさえなってきた。さらに最近は〝2重ターンテーブル〟が新技術として注目されてきている。
 この2重ターンテーブルは、小口径の軽いメインテーブルが、ベルトドライヴされそのテーブルの上にドーナッツ状の重い大口径テーブルが乗ることになっている。これにより、モーター軸が太くなるので、ベルトに力が加わりトルクが増し、しかもモーター軸が極所的にぴっぱることがなくなるので、ベルトの部分ののびがなくなる。さらにターンテーブルの外周部分だけが重いのでフライホイール(はずみ車)効果も大きく、機構的、動作的に理想といえる。これが今まで国内製品で実現しなかったのは、2つのターンテーブルがぴったり合うのがむづかしくまた経年変化により外側がそったりしてしまうことであった。
 さてこのすぐれた機構を最初に実現したターンテーブルこそ、スイスのトーレンス社のTD124である。しかもこのターンテーブルはなんと1950年代の後期、つまり今から10年前に製品化されているのである。
 トーレンスTD124はさらに大きな技術を内蔵する。そのひとつは、モーター軸がベルトをドライヴするのではなく、一度アソビ車(アイドラー)を介してベルトをドライヴしている点である。つまり、これによりモーター自体の振動は2重に吸収され弱められる。それからもうひとつは2つのターンテーブルの上にさらに軽金属のプレートが乗っていて、これがインスタント・ストップ(瞬間停止)のときちょっと動くことにより、メインテーブルの回転と関係なく停止できうる点だ。このサブ・プレートの入っているおかげでカートリッジの磁界の影響を防ぐことができるのも大きな利点である。
 67年末より、外部分の重量級テーブルも軽金属にかえられII型と改められた。これで、いかに強いマグネットのカートリッジを用いても、テーブルの金属を吸引して針圧が変るという欠点も完全に解消した。
 ヨーロッパを廻ると、各国のスタジオで業務用として使用されるトーレンスTD124をしばしば見かけるという。今後もプロ用、高級マニア用として、ますます注目を集めるターンテーブルであろう。

シュアー M44-5

シュアーのカートリッジM44-5の広告(輸入元:バルコム貿易)
(スイングジャーナル 1968年11月号掲載)

M44

アルテック A7

アルテックのスピーカーシステムA7の広告(輸入元:エレクトリ)
(スイングジャーナル 1968年11月号掲載)

ALTEC

JBL SA600, SG520, SE400S, SE408S

JBLのプリメインアンプSA600、コントロールアンプSG520、パワーアンプSE400S、SE408Sの広告(輸入元:山水電気)
(スイングジャーナル 1968年11月号掲載)

JBLamp

JBL Lancer 44, Lancer 77, Lancer 101, Trimline, LE8T, LE175DLH, LE20, LE10A, LE14A, PR8, PR10, LX10, LX4-2, サンスイ SP-LE8T

JBLのスピーカーシステムLancer 44、Lancer 77、Lancer 101、Trimline、スピーカーユニットLE8T、LE175DLH、LE20、LE10A、LE14A、PR8、PR10、LX10、LX4-2、サンスイのスピーカーシステムSP-LE8Tの広告(輸入元:山水電気)
(スイングジャーナル 1968年10月号掲載)

JBL

SME 3009

菅野沖彦

スイングジャーナル 10月号(1968年9月発行)
「ベスト・セラー診断」より

 トーン・アームの最高級品は何かときくと、誰の口からも即座にSMEの3字が帰ってくる。SMEアームは現在のトーン・アームの王座にある。
 SMEアームが英国から日本へ入ってきたのはずい分前のことだ。はっきりした記憶はないが、5年にはなるだろう。その間にオーディオ機器は急速な進歩をとげているし、特にプレーヤー関係パーツは軽針圧の傾向が大きく支配し、多くのカートリッジやアームが改良に改良という形で消えたり変貌したりした。しかし、SMEアームは細部のちょっとした変更以外、形を変えていない。しかも今だに現役として最高の性能を誇っているのである。この製品がいかに高い完成度をもっていたかが分ろうというものであるし、現在のオーディオ技術の水準を数年前に確保していたともいえるのである。現在のどれほど多くのアームがSMEに方向を指示され、SMEのもつ特性を追いかけたことか。そして、SMEが数年前に現れたことによって国産アームに対する一般の要求度が著しくシビアーで高度なものになったのも事実である。数々の新機構、当時として考え得た総てのアクセサリー類、最高の機質と精密な仕上げSMEアームはその完璧で安定した動作と、溢れるばかりの機械美、抜群の耐久性など、すべて私自身でたしかめた優秀製品なのである。価格の高いことも相当なものだが、実際に数年間使ってみると十分それに応えるものであることがわかる。手元の数台のプレーヤーにつけられた他のアームが、あるいはガタになり、あるいは動作が鈍くなって交換されていく中に、SMEのアームだけは全く買った時と同じ状態の外観と性能を維持しているのである。
 SMEアームの特長について簡単にふれておくと、6つのポイントが考えられる。①ナイフ・エッジ方式による高感度、高耐久性の支持、②インサイドフォース・キャンセラー機構、③ラテラル・バランサー、㈬スライドベース方式、④油圧式、アーム・リフタ一機構、⑤ヘッド・アングル可変がそれである。これらの特長は現在では高級アームのほとんどが備えているから今更とも思えるかもしれないが、それらはすべてSMEによって初めて実現されたものといってよいのである。S. M. E. LIMITED, という会社は英国のサセックスにあるらしいが、もともと大変なオーディオ・マニアが自分の理想とする機構をすべて備えたアームを作ろうという夢から生れた製品であり、会社であるという。
 ナイフ・エッジ方式というのは今でもあまり他に類がなく、これはアームの上下動方向の支持が鋭利なカミソリの匁先で支えられているものだ。左右の回転はベアリング式を採用している。この支持方式と精度の高さのためにアームの実効質量はそう軽くはないにもかかわらず、1グラム以下の軽針圧トレース、レコードのソリなどに対する追従性も見事な性能を発揮するのである。そして、それでこそ、かえってアームのマスの大きさが適応カートリッジの範囲を拡げてユニバーサルな特質をもつことに役立っている。トランス内蔵のオルトフォンなどの重いカートリッジから、穴あきの軽量シェルにつけた自重約10グラムの軽いものまでいずれにも優れた低域特性が得られる。インサイドフォース・キャンセラー機構はずい分批判もあびてはいるが、その後の多くのメーカーが踏襲している事実は否定できない。マニア気質の満足度というものを考えると、実害を示す以外に反論はできない。リフターはいまだにどの製品のものより動作確実で実用的。スライドベースはオーバー・ハング調整には絶対に有利。高価なのと扱いの難しさが欠点といえばいえるが、それこそぜいたくな楽しさというものだ。

トーレンス TD124/II

トーレンスのターンテーブルTD124/IIの広告(輸入元:銀座さくら屋)
(スイングジャーナル 1968年7月号掲載)

TD124

シュアー V15 TypeII

菅野沖彦

スイングジャーナル 10月号(1968年9月発行)
「ベスト・セラー診断」より

 この製品については今さら説明することのほうが無駄と思えるほど、オーディオ・マニア間では有名な製品で、最高級カートリッジとして名実共に第一級の製品なのである。シュア一社はアメリカの音響機器メーカーで、もともとマイクロフォンの専門メーカーだった。カートリッジはステレオ時代になってから急に名声が上り、現在ではアメリカを代表する有力メーカーとして世界的に、その高性能と豊富な種類、大きな販売実績を誇っている。V15IIの特長について一言にしていえば、最も安定した動作をもった素直な音のカートリッジということになるだろう。私がこのカートリッジを初めて手にした時その宣伝文句が、トラッカビリティという新語をもって、レコード溝への追従能力の抜群さをうたっていたために、手持ちのほとんどのカートリッジがビリつきを生じるレコードをかけたのにもかかわらず、V15IIはまったく悠然と歪みなく再生してしまったことだ。〝トラッカビリティ〟という言葉はシュア一社のつくった新造語だが、カートリッジの針先がレコードの溝を完全になぞる能力といった意味である。カートリッジの本来の役目が、レコードの溝を針でなぞって、それによって起る振動を電気のエネルギーに変えるというものだから、その性能はまず、完全に溝の動きに追従しきれるかどうかということが条件であることは理解していただけるだろう。
 したがって、よくいわれるように、MM型とMC型とかいったことよりも、本当は針先の形状、大きさ、針のついた金属棒(カンチレバー)や、これを支えるダンパーと支点などの材質や組立て具合のほうが根本的な条件として大切なわけだ。シュアーV15IIはMM型つまり、ムービング・マグネット・タイプといって、小さな磁石を針と一緒に振動させて磁場の中に巻かれたコイルから電気を誘発するという方式のカートリッジだ。そして、溝を忠実になぞるというカートリッジの必要最小条件を満足させることによって、周波特性や音色の素直さといったむずかしい条件を含む諸問題を一挙に解決したのである。ちょっと表現がむずかしいが、それまでのカートリッジが周波数特性とか、弱音から強音までの幅や直線性、または左右の分離能力による臨場感の再現、音楽を生き生きと再現する豊かな音色といったような問題について多角的に、あちらこちらから検討され、手さぐりで改良されていたのに対し、V15IIは、そういったいくつもの条件を針の追従能力を徹底的に追求することによってのみ解決してしまったというような気がするのである。このためには情報分析をコンピューターによっておこなうなど、データの豊富な蓄積と積極的な実験精神、技術者が軽視しがちな経験の裏付けによる直感力といった人間の能力の結集によるところが大きい。
 V15IIは28、000円という高価格だから決して一般的とはいえない。一般的には同社のM44シリーズがベストセラーであろう。しかし、このカートリッジはマニア間ではたしかにベストセラーといってもよいほどの売行きを示している。経済的に余裕があれば、投資に見合った結果は必ず得られる製品だと思う。好みの強い個性的な音を求めると見当ちがいで、レコードに入っている音をかなり忠実に再生する信頼感あふれるカートリッジだと思う。かなり…と書いたように、これが決して終着点とは思えない。しかし、V15IIはカートリッジとしておさえなければならない大切なポイントを、他製品に先がけておさえた、つまり最もビリツキの少ない安定した製品だ。

オルトフォン社長に聞く

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1968年5月発行)
「オルトフォン社長に聞く」より

 オルトフォンといえば世界一のカートリッジの代名詞。まず、その名を知らぬ人はいないだろう。しかし意外にそれ以上のことは詳しく知られていない。無理もない。オルトフォンというメーカーは北欧デンマークにあって、本来プロ機器専門のメーカーなのである。メッキ設備からプレス機、そしてカッティング・マシーンなど、レコードを製造するためのすべての機械を作っている特殊なメーカーである。そして、そのカートリッジとトーン・アームだけが、一般愛好家にも縁がある商品で、このところ高級ファンを中心に広く使われるようになった。オルトフォンという名前を聴いただけで、艶やかで重厚な、豊かに響く音がイメージ・アップするファンも少なくないだろう。オルト(ギリシャ語のパーフェクト、つまり完全)フォン(ラテン語の音)の名のごとく、それは現在、私たちが入手し得る最高のカートリッジである。
 このオルトフォンの社長ハ−ゲン・オルセン氏が初めて来日した。それを機会に早速オルセン氏に会見を求め、オルトフォンという企業について、それを代表するオルセン氏の、音についての考えなどを詳しく聴くことができた。私の質問に答えるオルセン氏は気品のある初老の紳士でおだやかな風貌の中にも鋭い感性と技術者らしい潔癖性をしのばせる。
 以下、氏との対話をもとに筆者の印象も加えて紹介するとしよう。
 まず、オルトフォンという会社、正しくはフォノフィルム・インダストリーとはいかなる会社か?
「1918年に二人のトーキー・エンジニア、ピーターセンとポールセンによって創設されました。そして、1943年ぐらいまで、トーキー関係の仕事を専門としてきたのですが、この年からレコード製造機器の製造を始めました。この頃はデンマークは第二次大戦中で大変困難な時代でしたが、1946年に初めてカッター・ヘッドを完成しました。これはヘッドからのフィードバックによってカッティングしている音をモニターできるという点で世界で初めてのヘッドでした。このカッター・ヘッドで切った原盤を試聴するについて、よいカートリッジがないことを知り、続いてカートリッジの製造に着手したわけです。もちろん、当時はモノーラル・カートリッジで、タイプA、タイプCと呼ばれるものです。このタイプCカートリッジは大変好評で世界中のレコード会社や放送局からの注文が殺到しました。1951年から数年間のことです。そしてステレオ時代になったのですが、初期のステレオには問題がありましたが、私共が最初のステレオ用のカッターヘッドを作ったのは1959年で、同時にステレオ用のムービング・コイル・カートリッジを作りました。これが、SPUシリーズです。私共の会社は全部手づくりで製品を仕上げていますので、そんなに数はできません(現在月産7000個)、同じ形のものでも年々性能の向上があります。」
 思ったより新しい会社だ。タイプA、タイプCのモノーラル・カートリッジも日本での使用者が少くない。そしてSPUシリーズというカートリッジは、オルトフォンの名を完全に浸透させた傑作で、ステレオ・カートリッジの名品である。その後、S15という新型を出したが、残念ながらあまり評判時よくなかった。これについてオルセン氏は
「S15は優れたカートリッジです。SPUより一段と進歩した製品です。しかし、一つだけ、このカートリッジについて誤解されていることがあると思うのです。それは、ヴァーティカル角が完全に15度のカッティング・ヘッドで切られたレコードだけを考えて設計されている点です。実際にアメリカや日本ではカッティング角が15度のものばかりではなく、そうしたことでこのカートリッジが受け入れられなかったかもしれません。」
 ちょっと本誌の読者にはむずかしいかもしれないが、S15も悪くはないということだ。そして、1年後にその不評の巻き返しを計るかのごとくSL15が発売されたのであった。このSL15は期待にそむかぬ優秀な製品で好評を得た。
「SL15はS15より設計基準を広げ、広い適応性を計りました。同時にSPU、S15の開発時にはできなかったことをSL15では実現しています。SL15は今までのオルトフォンの中での最高のカートリッジです。」
 自信満々のオルセン氏は説得力をもって語る。
 オルセン氏がこの会見を通じてもっとも強調したことは、音響機器についてのセールス・トーク、つまり宣伝文句のナンセンスについてであった。オルトフォンのカートリッジやアームについて大きな宣伝文句をもって表現されることは好まないというのである。オルセン氏の語ることはすべて技術的な裏付けのあることであり誇大な表現は一切しないということをくり返しくり返し力説しながらカートリッジの針圧の軽量化の必要性と、一方では過度になる危険性、針先のコンプライアンスについての最適値についてなど、こまかい技術的な話しが続いた。
 ところで、カートリッジの最終チェックはどういう方法をとるか。つまり、測定できるファクターはすべて厳格に測定することはもちろん、私の聴きたかったのは音を決めるにあたって耳による聴感をどう扱っているかの問題だった。
「ご質問の聴感テストについてですが、実は製品の開発、チェックを問わず、これをたいへん重視しています。新しい機構や仕様を採用する時、新製品の開発にあたっては、たくさんの耳のよい人たちにモニターしてもらって意見をききます。そして、私たちの社内での試聴を最終決定にします。製品の検査としては100個に1個の抜きとりで最終測定と試聴をします。私の経験では、100個に1個の割に検査していけばまず問題はないと思うのです。なぜなら、各プロセスにおいて厳重な検査がされ、組立てはすべて手で慎重におこなわれるからです。」
 聴感テストにはどういうレコードを使うか? これは大変重要な問題である。つまり、聴感によるテストには、聴感と科学的な分析とを関連づけて耳を測定器のように利用する方法と、もう一つ完全に感覚器として美意識に結びつけて評価するものとがあるからだ。後者の場合は、とくにどんなレコードを演奏するかということは非常に重要なことだといわねばなるまい。
「試聴に使うレコードは90%以上ドイツ・グラモフォンのレコードです。」
 しめた! 実際私はそう思った。実は飛び上らんばかりに嬉しかった。ドイツ・グラモフォンのレコードはクラシックが中心だから本誌の読者にはあまり縁のない話と思われるかもしれないが、オルトフォンのカートリッジほどグラモフォンのレコードを、すばらしく再現するものはない。これは私がつね日頃感じていたことで、私なりの空想で、オルトフォンのカートリッジとグラモフォンのレコードの音溝の形状とは非常によくあい、相互関係的なものがあるのではないかと、思っていたのである。というよりも、グラモフォンのレコードはオルトフォン以外のカートリッジでかけた場合、音色に異質なものが加わるというような事だけではなく、時に歪っぼい不安定な再生音になることすらあるのだ。そして、逆は真なりとはいかないところが不思義で、オルトフォンのカートリッジはいかなるレコードをかけても不安定になることがない。これは、オルセン氏の次の説明が理解の糸口となるように思われる。
「商品としての機械は誰がどう使おうと常に安定した動作が得られるものでなければなりません。そのためには極度に軽い針圧や、高いコンプライアンスは好ましくないと思います。また、針先の形状は非常に重要です。特に最近のダ円針については問題があります。私共はカッターを作っていますので、レコードの溝については徹底的に解析しています。一口にダ円いっても正確なダ円針はそうありません。オルトフォンの針先はそうした点で完全に磨かれ、検査されています。」
 これをまとめて私なりに解釈するとこういうことになる。聴感によるテストのうち、感覚的な美的判断という点では、オルトフォンのカートリッジは、あの重厚な豊かなグラモフォン・レコードの響きへの共感をもってなされる。つまり、ジャズ・ファンにはやや縁遠いが、それはベートーヴェンやブラームスの、そしてベルリン・フィルの伝統的な重厚な響きである。そして、カッティング・マシーンのメーカー、オルトフォンのレコードへの徹底的な理解の成果は、オルトフォン・カートリッジの機器としての万能性、安定性として現われている。この結論は、次のような少々意地の悪い質問によって導きだしたものである。〝オルセンさん、もしAという人がオルトフォン・カートリッジを買って、カラヤン指揮のベルリン・フィルによるベートーヴェンの交響曲をグラモフォン・レコードで聴き、すばらしいカートリッジだといったとします。そして、Bという人はコロムビア盤のマイルス・デヴィスを聴いて不満をもらしたとします。あなたはこれをどう解釈されますか?〟

アルテック Magnificent (A7-500W-1)

アルテックのスピーカーシステムMagnificent (A7-500W-1)の広告(輸入元:エレクトリ)
(スイングジャーナル 1968年6月号掲載)

A7-500W

サンスイ AU-555, アコースティックリサーチ AR-Amp

岩崎千明

無線と実験 6月号(1968年5月発行)
「新型プリメインアンプを試聴する サンスイAU-555」より

まえおき
 この原稿を本誌に間に合わせることができたのは、編集者の大へんな努力のたまものといえます。というのはこの原稿がきわめて特殊のケースにより、特殊な状態のもとで書かれたため締切りぎりぎりだったからです。
 メーカー以外の人間が、この原稿を書いた時点で未発表の製品を手にすることができるのは、ちょっと例のないことだろうと思うからです。そして、この原稿のネタとなった新型アンプを見せて頂いた山水電完KKにも誌面をかりてお礼を申し上げます。
 山水から新型アンプが出るという噂を伝え聞かれたのは、東京で桜の満開に近い頃のことだった。もっともこの種の噂というものは、しょっちゅ出るものらしい。そして、それは多くの場合、競争メーカーから出される作戦的なもののようである。相手メーカーから新型発売のニュースが流されるというのは、ちょっと変な感じがするが、需要者は現時点での製品を買うことをためらってしまうことになるので、そのメーカーの製品販売を直接押えるという巧妙な戦略的作戦になるわけだ。
 もっとも新型発表近いという時に、いやがらせを兼ねてすっぱぬきを強行して、発売される新型のイメージを薄れさせようというイジワルな兢争メーカーも少なくない。
 この辺の事情は、もっと商売の額の多い、したがって競争もはげしいクルマのメーカーを見れば、Hi−Fiメーカーにおけるより高度のテクニックが展開され、実例から判断のたしになるようだ。
 ちょうどその頃、昔からの友人でくるま気狂いのトーキ関係の技術屋さんから、アンプを探してくれないかと依頼されていた。手軽に使えて、手軽に買えて、しかも性能も十分よく、多用途のHi−Fiアンプというめんどうな希望だった。
 その時点で、これを探すと、市場にはトリオのTW61ぐらいしかない。ラックスSQ77Tの方が好きなんだが、あれは音楽マニア用にしか作っていないとうそぶいたかたの顛を思い出して、これ幸いときっかけに利用して山水に尋ねてみたのである。「どこからそんなことを聞いたんですかねえ! 確かに出ることは出ますが、5月の予定なんですよ」というメーカー側の返事だった。そこでもうひとふんばり、ずうずうしくも、それを見せてくれないか、と強引に頼みこんでみた。
 いいわけが成功したかどうか、条件づきでこの未発表のアンプを見せてもらうことにこぎつけた。

ARのアンプ
 ところで、山水のその時点では未発表であったその新型アンプが、手元に届けられる数日前に、私は米国市場における普及型アンプとして注目されるべき製品に接した。おそらく、この数年間、米国市易のベストセラーになるに間違いないであろうこのアンプというのは、ARのアンプである。
 ARは日本ではブックシェルフ型のスピーカー・メーカーとしてのみ有名である。56年、アコースティック・サスペンション方式という、特殊のスピーカーをひっさげてデビューしたアコースティック・リサーチは、もと米国オーディオ誌の編集者として聞こえたエドガー・ビルチューが、この特殊スピーカーでデビューした新進メーカーである。
 60年代初頭のステレオ初期になって、スピーカーを2つ必要とする時期になるや、小型で大型なみの豊かな低音が、たちまち人気となり、305mmと203mmの2ウェイであったAR1から、AR2型になるや、米国きってのベストセラースピーカーとなったものだ。
 その頃の在米の友人たちの噂を聞き、早速購入した62年製の、高音用がまたドーム・ラジェターでない126mm2本がまえのAR2、オリジナルは、一昨年までの私のメイン・スピーカーとして、また今でももっとも楽しめるスピーカー・システムとして、ジムランのLE8Tと共に数多い手元の中でも、音出しのチャンスの多いスピーカーである。
 今日ではAR3が、そしてその改良型のAR3aがAR社のスピーカーの主力製品で、これらのスピーカーのずばぬけた低音を通して、日本でもあまりにも評判の高いAR社だが、米国内では、スピーカーと並んで家庭用レコード・プレーヤーのまぎれもないベストセラーAR・XA(テンエー)のメーカーとしても知られている。
 これについて書くのはまた次の機会として、超小型モーターによりライト・ウェイト・ターンテーブルをベルトで回す独特のメカの超薄型プレーヤーは、セカンド・プレーヤーとして実に快的である。
 スピーカー、プレーヤー共米国市場ベストセラーのこのAR社が出したアンプということで、注目されるこのアンプのショッキングな点のひとつは型番がないことである。つまりAR社はこのアンプだけしかアンプの製品を出さないことを意味する。いかに自信に満ちたことか!
 このアンプは、2ヵ年間の完全保証を打出しているのも、トランジスターアンプ最大の難点であるパワーTr破損という点を解決してしまっていることを意味しよう。
 そんなバックグランドで、このアンプをのぞこう。
 さてARのアンプ、ひとくちでいうなら非常に広い需要層を対象にしたインテグレーテッドアンプだ。これは今までの同社の出してきたスピーカー、プレーヤーをみればわかることであるし、アンプ自体のシンプルなデザインをみれば一目瞭然だ。
 特に入力切替が”PHONO” “TUNER” “TAPE”のただ3つしかないことや、電源スイッチがボリューム連動であることからもうかがい知れる。しかし中をみて、そこに入力トランスがあったことに気がかりがのこる。日本の多くのマニアはトランスのアレルギーがひどいようだ。この入力トランスにかなりの反応を示すに違いない。
 しかし音をきいてみると、この素直なややソフトな静かな音、そしていざフォルテとなる時のすさまじい迫力からは、トランスの有無などは全然問題とはならない。それよりも、信頼性を第一と考えて、あえて入力トランス・ドライブを採用したAR社の良心を知る。
 しかも、このアンプの性能を知るとき、さらに真価を見直さざるを得ない。各チャンネルの出力は。4?負荷でクリッピング点において60Wをこえ、両チャンネル動作時で、50Wをしのぐ大出力ぶりだ。これはAR社の主力スピーカーである、AR3または AR3aが4Ωとかなり低いインピーダンスのため、トランジスターアンプ時代の今になって低負荷のため、オーバーロードとなりがちで、たとえばソニーのアンプなどでは動作中フォルテの時、しばしばスイッチを入れなおさなければならなくなる。
 低負荷はど出力の出る傾向のトランジスター時代に、AR3の4Ωというインピーダンスは8Ωが標準の今、やや低すぎて使い難いという非難がないでもなかったのだが、こうしてAR社アンプが発表されると、ARスピーカーをもつ者はARアンプを買いたくなるように、スピーカーを作った59年から、すでにトランジスターアンプの欠点と長所を熟知して、あえて4Ωとしていた企画性のうまさは舌を巻く思いだ。

AU555は日本のマニア向け
 新入荷のARのアンプは、ひとくちにいうなら「合理性のかたまり」である。これに触れて数日後、日本市場で最新である山水の新型アンプAU555に接した。
 両者がきわめて広いマニア層を対象として企画されたものである点、また偶然であろうがその外形寸法もほぼ同じで、規格の上でもよく似た点が少なくない。しかし、その根本にある相違点は日本のマニアのあり方を熟知した山水と、あくまで米国のマニアを対象としたARの違いに他ならない。
 まず第一に、出力の大きさである。山水は20W−20Wを基準としているのに対し、ARでは50Wと倍のパワーをもっている。日本の家屋構造を考えると片側20Wは妥当な線であろう、日本市場で最近ベストセラーのブックシェルフ型スピーカーを次々に発表する山水のSPシリーズの製品をみると、全面的にこの種のものとしては高能率である点を注目したい。
  SPシリ−ズの音が好評の大きなポイントは、その充実した中音域にあるのだが、これはあまりマスの大きくないコーン紙をもった大口径ウーファーによってのみみたされる特長であり、これが今までの国産Hi−Fiスピーカーと違った好ましい音色を作る大きな因となっている。
 そして、このような高能率スピーカーをドライブするのなら、あえて大出カアンプを必要とすることはないであろう。大出力はそのまま大出力Trと大型の電源を条件とすることとなり、強いては高価格につながる。
 山水のアンプではこれをおさえて高品質化を他にそそいでいる。そのひとつはアクセサリー回路の充実である。最近のマニアの傾向として、マルチ化が著しいが、万事マルチ化をしたがるぜいたくマニアの傾向のひとつの表れとしてカートリッジや、アームをまたスピーカー・システムを複数個もつことが最近のマニアの通例であり、これの完全利用のための入力、出力回路のマルチ化が、新型アンプでは大きなセーリング・ポイントとなってきている。
 このAU555もこの点が特に充実していることはパネル面をみてもうなずける。
 このアンプの兄貴分にあたる最近のベストセラーAU777そっくりのパネルがいかにもマニア向。一見AU777の4/5というところだが、外観的なデザインだけでなく性能の方もほぼそういうことができる。
 このアンプの中味をみると、そこにはまさに山水らしい信頼性に重点をおいた技術を知らされる。ガッチリしたシールド板は、AU111とまったく同じ構造で、プリアンプ部をそっくりかこみ、正面右端の入力切替スイッチのスイッチ・ウェファーの背部は、そうくり組みこまれたイコライザーの小基板が、高いSNを保つための巧妙な手段となっている。
 その上部には、トーン・コントロールのCRと共にプリアンプ増幅段の基板が配され、その全体をガッチリと厚い鉄板のL字型シールドが掩う。パワー用ステージは、これも一体のプリント基板がシャシー上に取付けられているが、総じてプリント基板上のパーツの配置が、この種の量産アンプには珍らしいくらいスッキリと整理されているのも、検討が十分加えられていることを物語る一面だ。
 パワー用のTrはシャシー背面パネル下部を内側にL型に曲げて、そこに下から取付けられており、背面パネル全体が放熱板として利用されるという巧妙なユニークな構造で、放熱板が特に不要となり、量産時に価格を下げる有力な手段だ。
 山水のアンプにはどれにもこの種の巧妙で合理的で、しかも優れたアイデアが散見できるが、メカに強い設計屋がいるに違いない。ずらりと並ぶスイッチの切れ味もかなりいい線をいっているが、特筆できるのはスピーカー端子だ。下をちょっと押さえて、小さな穴にスピーカーリード線をちょっと差し込んではなすだけで固定できるのは、うれしい。トランジスターアンプでは出力リード線のもつれなどが原因で、出力Trを破壊してしまうことがよくあるが、この端子なら間違いないし、もつれも起すまい。
 さて、音を出してみると、このアンプの良さはまさに納得させられてしまう。ゆとりのあるパワーが重低音域の豊かな迫力となって圧倒される。しかも音全体のイメージとしては、AU777それと同じく冷徹な明解性の高い音だ。

ケチをつけると……
 まず回路をみてそのケミカル・コンデンサーの多いのが気になる。丁寧なこととはいうものの間違いないからなんでも使っておけという、万事ことなかれ主義の優等生的設計屋さんの手法をみる思いだ。もっとも丁寧すぎてケチをつけるのはお門違いかもしれない。
 もうひとつ、PHONO端子のSNの良さに比べ、AUX端子のSNが意外なくらい良くない。回路図をみるに至って了解したが、全入力がNFを深くしたイコライザ−のトップから入っており、TAPEやDIN端子だけがイコライザー次段から加えられるようになっている最近のアンプでは、これが常識のようだがAUX端子の感度を上げるのが目的ではあるが、SNの多少の劣化は、入力が大きいから問題とされないのだろう。
 そして、最後にもうひとつケチをつけるなら、バランスつまみとボリュームつまみは、操作上ぜひ逆配置につけておきたかったと思う。つまり入力切替えのすぐ隣がボリュームつまみ、そしてその次に繁度の低いバランスを置くべきであろう。
 ともあれ,山水のAU555その3万円台というお値段としては破格の内容の魅力的新製品といえよう。

QUAD 33, 303, ダイナコ PAT4

岩崎千明

無線と実験 5月号(1968年4月発行)
「最近の海外Hi-Fiアンプの傾向」より

まえがき
 近着の米国オーディオ誌を眺めていたら、変ったことに気付いた。最近のオーディオやハイファイ誌に小型のFMラジオの広告が多いことである。それも1頁あるいは2頁みひらきという堂々たる広告でありながら、そのラジオはステレオ・アダプターもついていない程度の、小型パーソナル・タイプである。しかし、そのFMラジオは、本格的なHi−Fiメーカーで作られていることが興味をそそった。
 Hi−Fiアンプの最大メーカーから総合メーカー的な色合を濃くしているフィッシャー社、ブックシェルフ型スピーカー・メーカーとしてARと並び、最近はモジュラー・ステレオから完全な総合メーカーへと脱皮をとげて登り坂のKLH社、カートリッジ・メーカーとしてシュアに並ぶ高品質をもって鳴り、最近はスピーカー・システム、アンプへと手を拡げているADC社など、そうそうたる一流メーカーの手で、小型FMラジオがどんどん作られているのは何を示すか?
 その辺の事情を調べてみたら面白いことが判った。昨年末は米国市場においてFMラジオが爆発的に売れて、民需電子産業としてカラー・テレビに次ぐ売行きだったとか。これはFM放送網の拡充した50年代後期以来の流行だということである。
 何が理由で、今どろFMラジオが急激に売れてきたか。この辺が今年の米国市場のHi−Fi界のアンプの行き方と決して無関係ではなさそうなのである。
 そこでFMラジオが今までとどこが違うか。その技術的背景を考えてみよう。昨年末以来のFMラジオは、むろん例外なくトランジスター化されている。そしてその技術を踏台とLて、Hi−Fiメーカー製ラジオは、コンパクトながら、かなり完全な密閉型スピーカー部を備えているのが特長だ。管球式では小型ラジオのスペースの多くはシャシーにとられてしまうが、Tr化されればごく小型の基板以外は全部スピーカーが占められる。
 グッドマンのマキシム・タイプのスピーカーは米国でUTCが一手に引受けてマキシマスという名で売っていたが、その売行きは当初における予想を下まわって大したことはなかったが、その技術はモジュラー・ステレオのスピーカーにおいて生かされ、さらに今日、小型FMラジオにおいて真価を発揮しているわけである。
 もうひとつ、FMラジオで見逃がされないのは、フロント・エンドへFETを採入れることにより、永年問題となっていた強力電波による過大入力のクロストークの解決である。Hi−FiアンプのFETの採用はスコット社のチューナー・アンプを皮切りにシャーウッド、ケンウッドなどから今日では大部分の製品に採用されているが、これはFETの量産体制が備わった67年における大きな進歩であった。FMラジオの大流行は、「FETの採用により今までのクロストークの問題が解消し、Tr化によりスピーカー・システムを充実させることができ得た」ことが理由だ。

アンプの大きな流れ
 米国のHi−Fiアンプを見るとき、FM小型ラジオの著しい売行きからも判断できるように、Hi−Fiレシーバーが今や完全に庶民の実用品となってきている点を見逃がせない。そこで、Hi−Fiアンプのあり方も日本での場合とかなり違っており、その辺のことを了解していないと全般的傾向を判断しにくいいわけである。
 今年度のアンプ界における傾向で注目できるのは、マランツ18にみられるような、超一流ブランドによるレシーバー、つまりチューナーつきアンプの出現である。価格700〜500ドルという従来の倍の価格の高級アンプが狙うのはどんな層か。マランツ以外に、マッキントッシュ、アルテック、スコット フィッシャー、さらにソニーからもこの級の豪華型が発表されており、高級アンプはますます高級化、デラックス化の道をたどりつつある。
 スコット、フィッシャーなどの場合には、その一連の製品のイメージアップが大きな目的であるが、マランツ、マッキントッシュ、アルテックなどにおいてははっきりした目的があり、それがハイファイ・マニアでないオーソドックスな高級音楽ファン、ないし金持ちの一般市民に狙いを合せた製品であることは間違いなかろう。
 これと対照的に一般のHi−Fiアンプ、特にチューナーつきのレシーバーと呼ばれる総合アンプは全般的傾向として低価格の方向に進んでいる。米国でもっとも一般的な名声をもつフィッシャーを例にとると500ドルの700Tの最高ブランドを頂点にしていながら一般向けは200ドル級という、今までにない低価格の200Tと普及化されているのが判る。
 ケンウッド、パイオニア、サンスイなど日本製米国向けのアンプにもこの傾向はみられ、これらの製品はそのままの型で日本市場に出ているので如実に見ることができる。ハイファイ産業は今やマニアだけの物でなく一般市民の間に大きく根を下してきているのだ。

日本市場での海外アンプ
 米国市場でのデラックス化を反映して、日本に最近入ってきたアンプも多くが超高級品である。30万円前後の高価格だ。マランツ18、アルテック711B、フィッシャー700T。最近発表されたソニー6060やパイオニアの1500T、トリオの1300、サンスイでも同級のものがあるというが、米国市場では全て超豪華型といわれる級だ。
 これらのレシーバーは取扱いやすさを考えれば、一般向けという点に焦点を合わせた以外の技術的グレードの点で、今までのプリメイン型よりも高級であるといわれる。
 しかし今日の日本における需要層であるマニアの立場からはちょっと物足りない点が多い。たとえば入力端子が、本格的高級機なみにたくさんほしい。またチャンネル・アンプ化のためプリアンプ、メインアンプを独立して使いたいなど、数え上げればきりがない。日本製の高級アンプでは、こういうマニアの要望がほぼ完全に実現されているだけに海外アンプに対する物足りなさは一層だ。
 しかし、考えてみると日本のマニアのレベルはおそらく世界一ではなかろうか。チャンネル・アンプにしても日本ではかなり多く実用されているのに、米国市場ではアコースティックX以外の商品はなく、むろんマニアの間でそれが実用化している例も聞いたことがない程度だ。最近では米オーディオ誌の3月号に、チャンネル・アンプの記事がアコースティックXを例としてのっているのが珍らしいほどだ。特にステレオ期以後において、マニアに関しては日本の方が水準が上である。
 67年のコンシューマー・レポートの米国市場におけるアンプのテスト・レポートにおいても、日本製アンプがパイオニアの1000TAをはじめ、輸出専門メーカー製などがフィッシャー、スコットとならび、上位にランクされていることからも日本製品のグレードの高さが判ろうというものだ。これは結局、日本のハイファイ需要層の底辺の広さと、そしてマニアの満点の高さが製品に反映しているのだといえる。

ダイナコとクワッド
 さて、コンシューマー・レポートといえば、そのトップ・ランクの製品が、米国で低価格製品の異色とされているダイナコであった。
 ダイナコはアクロ・サウンドの技術者であったD・ハフナー氏が戦後アンプ・キットのメーカーとしてスタートした独特なメーカーである。この社の製品の高品質ぶりは定評があるのだが、最近、米国市場を湧かしているアンプは次のようなものがある。
 マランツ初のチューナー・アンプ〝モデル18〟、マッキントッシュ初のチューナー・アンプ〝1500〟とその改良型〝1700〟、これは終段は球で7591をPPとしたトランスつきだ。そしてこの高級2機種に対してARが初めて出すアンプ、そしてこのダイナコのTr化されたアンプのシリーズ、メインアンプの〝ステレオ120〟と、プリアンプの〝PAT4〟である。
 コンシューマー・レポートにおけるダイナコは管球プリアンプ〝PAS3X〟、とTrパワーアンプ〝ステレオ120〟だ。Trプリアンプ〝PAT4〟はすでに一昨年末に発表され、一部の商品が出まわっていたものだが、メーカーとしても「PAT4が必らずしもPAS3Xよりも優れているとはいわない」という微妙ないい方で、その販売に力を入れてることをしなかったものだ。それはTr化に伴いトラブルの予測ないしは実際に起きていたに違いなく、現実に市場に出ていた〝PAT4〟は全製品ダイナコの手で回収されたと伝えられていた。
 しかし、昨年、67年暮以来、そのS/Nに関するトラブルも解消し予期の高性能に達したようで、68年度は大々的に〝PAT4〟を売る方針のようだ。
 そしてその第一陣はすでに米市場で好評をもって迎えられ、日本でも4月には発売れよう。
 〝ステレオ120〟、60/60ワット・パワーアンプとの組合せは、価格を考えると最高品質といわれており、米国でも売行はキットを含めてプリ・メインのトップを行き、ものすごいようである。なおFMチューナーは管球式の従来のFMステレオ・マルチつきがコンビとされている。
 日本ではこのダイナコと前後してクワッド・ブランドで知られる英国アコースティカル社のTr化された新型アンプが入ってきた。
 QUAD33プリ、303パワーアンプの組合せである。クワッドは日本でハイファイ初期から特に高く評価されており、ファンも多く、人気も高い。このクワッドとダイナコのアンプが、日本マニアの間で当分の間人気争いの2大製品となろうことは明らかであり、またその内容、技術の対称的な点を含めて興味が深い。

QUAD33プリアンプ
 回路全体を簡略化、単純化するという点でダイナコと似た構成上の考え方を示しているが、ダイナコが球をほとんどそのままTrに置きかえた構成に対しクワッドはその2ブロックとボリュームとの段間に2つのエミッター・フォロワーのインピーダンス変換回路を挿入し、スイッチ配線に対してのリードのストレイ容量の影響および回路間のマッチングを考慮している、この点がダイナコと差があるだけである。トーン・コントロールが2段にわたるNF型である点、LCによるハイカット・フィルターがプリアンプ最終段にある点などダイナコとまったく同じであるのも興味深い。
 英国製共通のパワーアンプがハイゲインなため、プリアンプ出力は規格歪率にて0・5Vと低いが、この構成では1Vの出力においてもなんら差支えないであろう。
 ダイナコとの差は写真より判るように、その構造の違いだけといえそうだ。ダイナコのPU入力端子は3つあり、これは回路図よりみられるように入力端子において低レベル入力なみに落されてイコライザーに加えられるような方式をとっており、回路内でのスイッチを含め複雑化を防いでいるが、クワッドのプリアンプでは永年やってきたようなプラグイン・イコライザーの考え方をプリント基板の挿し変えという方式によっている。
 これは従来のようにいくつかのイコライザー・ユニットを用意するのでなく、あらかじめ0.5〜2mVまでの低出力、1.5〜6mVまでの高出力、セラミック用の各種のカートリッジのイコライザー、それに予備の端子を具えたプリント板の向きを換えて挿し変えて必要に応じた使い方をするわけである。
 テープ・アダプターの方はイコライザーに続くエミッター・フォロワーそのもので、プリント基板裏面にあるスクリューを切換えてテープ出力に応じたレベル・セットができる。このようなクリッピングを考慮した設計はTr化されたセットでは適切なものといえる。

ダイナコのPAT4
「偉大なものはすべて単純である」この言葉はフルトヴェングラーの芸術に対しての名言だが、ダイナコの回路図をみたとき、この言葉を想起した。実に単純きわまりない。片側の構成は4石、それも2段直結の2ブロックという、もっともシンプルな構成である。一般にハイファイ・アンプTr化の最大の問題点はトップの雑音発生である。S/N比を高く保つことがいかにむつかしいか、最高級を謳われるマランツ7TにおいてさえS/Nのバラツキが需要家最大の悩みのたねであった。
 ダイナコはこれを、構成を最少滅に喰いとめるという、もっとも当り前なオーソドックスな方式で解決したわけである。たくさんのツマミが好きで、マルチ・スピーカーが好きな変形マニアにはこのダイナコの良さは納得できないであろう。すべて製品は最終的に到達した性能、ハイファイでは、それに加えて出てきた音で判断すべきである。
 初めの2石直結ブロックはNF型のイコライザーを構成している。イコライザーはフォノ・テープヘッドおよび特別入力端子の3つが用意されている。直結アンプの前後に入力切換のスイッチがあり、その出力側にモニター・スイッチ、ヘッドフォン・ジャックによる入力端子、簡単なCR型のロー・フィルターが続く。
 そのあとにシーソー・スイッチ2個によるステレオ・モード切換があり、ボリューム・コントロール、バランス・コントロールと一連のリード配線を経て第2ブロックの2段直結回路に導かれる。
 この2つの直結構成の回路はほとんど同じもので電源B電圧の後段が高いため、動作点も後段が大入力用となっているわけだ。
 第2ブロックは、ダイナコ特許の2段構成NF型トーン・コントロールで、すでに管球式PAS3Xにおけるもの。もっと初期のモノ用プリPA1の回路と基本的に何ら変るところがない。BAX型と呼ばれるNF型のトーン・コントロール素子がエミッター・コレクター間の2段にわたって結ばれている。このため全体の中域のゲインは20dB以上あり、しかも従来起りがちの低域の上昇がなまることもなく、超低域上昇特性のよさは、まさにマランツなみを誇るものである。ダイナコ・プリアンプの優秀さの最大の支えとなっているのが、このダイナコ特許の2段NFトーン・コントロール回路であり、Tr化された今日でもこれは少しも変ることなく続いているのをみると、米国製品に珍らしい技術的なしぶとさを感じるのである。
 この2段出力段のあとにLCによるハイカット・フィルターが入り、出力端子へと導かれる。低出力インピーダンスのあとのハイカット・フィルターだけに素子のインピーダンスを下げなければならず、コア一に巻かれたインダクタンスを採用したのであろう。出力インピーダンスの十分低いトランジスター回路ではLは管球以上に利用されるわけだ。
 ダイナコPAT4の出力は2Vまで規格歪率でおさえられており、むろん電源負荷である点を考えると、規格出力が0.5Vのクワッド・プリアンプ〝33〟よりも独立使用の点で有利であり,またクワッドがヨーロッパ規格のコネクター式入力端子であるのに対し,ダイナコが米国のRCAピン・プラグ入力端子である点も、日本のオーディオ層にはなじみ深く、有利といえそうである。内部配線の米国らしいみてくれを考えない合理的なリードの引きまわし方は、一見弱々しくみえる内部構造とともに,神経のこまかいマニアには納得できないかも知れない。そういう点からはクワッドの測定器なみの組み立て配線の方がはるかに良心的で日本人的センスであるが、出てきた性能はほとんど同レベルと考えてよく、まさに合理主義的米国式か、ガッチリと伝統を守る英国式かという内部構造の点と約2万円近い価格差だけが選ぶ者にとっての導標だ。

オルトフォン SL15

岩崎千明

スイングジャーナル 3月号(1968年2月発行)
「新製品試聴記」より

 一昨年66年の暮から春先にかけて日本のオーディオ界は新型カートリッジが話題を呼んでいた。もっとも毎年、暮のHiFiセールのシーズンには必ずといってよいくらい国内カートリッジ・メーカーから新型で出るのだが、この66年の春には米国のシュア社からV15の新型であるタイプIIが出たし、その直前にはヨーロッパのカートリッジ・メーカーの雄、オルトフォン社で、5年ぶりに新型カートリッジを出したことが日本HiFi市場にも伝えられていたので、その着荷がファンに待望されていた。
 S15と呼ばれたその新型は、春になって発売されたシュアV15タイプIIや、すでに当時すごい評判を得ていたADCの高級品10Eとともに比較されたのは当然である。
 しかし、結果はあまりはかばかしいものではなかった。S15は一聴して分る高音域のピークが耳についた。シュア・タイプIIやADCのカートリッジが、最新型らしく超高域までフラットにのびており、ソフト・トーンにまとめられているのにくらべたしかに従来より、よく高音はのびているものの、S15の高音は作られた音を意識させてしまうものであった。しかし世界的なコイル型のカートリッジ、オルトフォンの新型ということで、当初はとびつくように買われたと伝えられている。
 だが、それを聞いて誰もが感じるであろう、高音のあばれは、間もなく米国市場においてもいわれる所となり、5月号のコンシューマー・レポート誌の2年ぶりのカートリッジ・テスト・レポートにおいてはっきりと指摘されてしまった。
 いわく「ヴァイオリンは金属的高音であり、これは6000サイクルから10000サイクルにかけてのピークが原因である!」
 かくて、米市場だけでなく、オルトフォンのS15は敗北を喫してしまったのである。
 米国を廻ってきたオーディオ・マニアがよくいう所だが、オートチェンジャーが広く普及している。米国でもやはり高級ファンはオルトフォンのMC型の愛用者が少なくない。そしてオルトフォンの販売を扱う米国エルパ社がシュア社に対する対抗意識はすさまじいほどであるという。
 果せるかな、このS15の惨敗の以来6か月で、オルトフォンは再び軽針圧カートリッジを発表した。これが今度のSL15である。S15の惨敗の後をうけて立ったSL15。今度こそはなんとしても、絶対に負けてはいられないのである。ムービング・コイル型の名誉と栄光を担ってデビューした新型なのである。
 SL15は、実はS15のみじめな後退にすぐ代って出たことが伝えられていたが、実際に製品が日本市場に着いたのは97年押しつまった頃であった。
 そして、この背水の陣のデビューは、多くのプロフェッショナルの方々に絶賛を浴びてまずは幸運なスターとを切ることができたのである。
「オルトフォンの迫力と輝きを失うことなく、広帯域化に成功した」「新しい時代のハイファイ・サウンドをオルトフォンらしい音の中に実現することに成功した」というこの多くの賛辞はすべて事実であり、しかもこのSL15の価格は、従来のオルトフォンSPUシリーズよりも、10〜20%低価格であることともに、売れ行きも急上昇しているという。
 オルトフォンのカートリッジの最大の難点と思われるのは、従来からいわれていることだが、製品にばらつきが多い点にあるようだ。
 音色の微細な点、最適針圧などだが、今度のSL15においてはこの唯一の難点すらも遂に乗り越えているのはさすがである。これは従来より量産体制が確立していることを物語ろう。そしてこの事実を、日本のカートリッジ・メーカーは果してどのように受け止めているだろうか。
 国内メーカーのMC型カートリッジとオルトフォンSL15との価格差は20%にも満たないほどだ。世界的なオルトフォンの実力ぶりを発揮しているこのSL15は日本の市場での成功がすでに約束されているといえるが、これに対する日本メーカーの出方が気になることである。

JBL Olympus S7R, S8R, Lancer 44, Lancer 77, Lancer 101, Trimline, SA600, SG520, SE400E, SE408SE, LE15A, LE14A. 375, 075, LE85, LE175, HL91, 537-509, 1217-1290, サンスイ SP-LE8T

JBLのスピーカーシステムOlympus S7R、S8R、Lancer 44、Lancer 77、Lancer 101、Trimline、プリメインアンプSA600、コントロールアンプSG520、パワーアンプSE400E、SE408SE、ウーファーLE15A、LE14A、トゥイーター075、ドライバー375、LE85、LE175、ホーンHL91、537-509、1217-1290、サンスイのスピーカーシステムSP-LE8Tの広告(輸入元:山水電気)
(スイングジャーナル 1968年1月号掲載)

JBL

シュアー V15 TypeII, M75E, M44-5

シュアーのカートリッジV15 TypeII、M75E、M44-5の広告(輸入元:バルコム)
(モダン・ジャズ読本 ’68 1967年10月増刊号掲載)

Shure

オルトフォン SL15, RS212, 2-15K

オルトフォンのカートリッジSL15、トーンアームRS212、昇圧トランス2-15Kの広告(輸入元:日本楽器)
(スイングジャーナル 1967年12月号掲載)

SL15

外国製の組合せ型

菅野沖彦

スイングジャーナル 12月号(1967年11月発行)
「SJオーディオ・コーナー 特集/ステレオ装置読本」より

外国製の組合せ型
 外国製品の組合せについて書く前に、現在、国産パーツの水準が世界的に第一級といえるものが多い中にあって、なおかつ輸入製品が存在することについてふれておかねばなるまい。いうまでもなく、オーディオ・パーツは科学の産物で、その多くは商品としての品質の均一性をもつべく管理のゆきとどいたメーカー製品である。したがって、製品の性能は理論と測定による物理特性によって設計、製造の一貫性が保れるべきだ。一口に技術水準といういい方をすれば日本と諸外国との間に差は認められない。ある分野では日本のほうが優れている面すらある。しかし、これは理論、設計面について特にいえることで、実際の製造面になると必ずしもそうはいかない。特に材質面と音に対する感性の二点においては最高級品を比較した場合、たしかに外国品には一日の長のある製品を散見する。そしてまた、外国の専門メーカーの歴史と伝統そして豊富なデーターの集積とは国内メーカーが一朝一夕には追いつけないものかもしれない。また、最も大きな相違点である音のちがい、これこそ血のちがいであり、土のちがいであり、環境のちがいであるといわざるを得ない。よくいわれることだが、物理特性のみをもってしては外国の一級品が必らずしも国産パーツを凌駕しない。しかし、結果として出てくる音には強い個性と充実した密度の高い音が存在し、ジャズや西洋音楽の特質と密着したアトモスフィアをもって圧倒的な説得力をもった製品が存在するのである。この差はよく紙一重といわれる。
 このように、国産製品の水準が高度化した現在、未だ輸入品の一部には立派に存在価値のある、なくてはならぬ逸品がある。それらは、もはや機器としての性能以上に音楽を創造する芸術作品といえるほどの風格すら備え、見る喜び、持つ誇りといった充実感が優れた再生音と共に強く感じられるのである。
 それでは、そうした外国製品のみによる組合せの実例をご紹介しよう
★組合せA
〈カートリッジ〉シュアー㈸V15II
〈トーン・アーム〉SME・3009
〈ターンテーブル〉トーレンス・TD124II
〈アンプ〉JBL・SG520E、SE401E
〈スピーカー〉JBL・075(高音)、375+537-500(中音)、LE15A(低音)、N500、N7000(ネットワーク)
合計 約120万円(含箱類)
 アメリカ製品を基調とした最高級組合せとなると価格も100万を越える。このクォリティは今のところ国産では絶対に得られないといってもいいだろう。ただし、この装置を生かすには部屋が小さくとも12畳相当、できれば30畳程度の広さが欲しい。このクラスになると、いかなるプログラム・ソース(音楽)にもペストリプロダクションを得られる。
★組合せB
〈カートリッジ〉オルトフォン・S L15+2-15K
〈トーン・アーム〉SME・3012
〈ターンテーブル〉ガラード・401
〈アンプ〉マッキントッシュ・C22、MC275
〈スピーカー〉タンノイ・GRF
合計 約112万円
 前者がアメリカ調とすれば、これはヨーロッパの香り豊かな重厚な装置である。音のキャラクターはかなりちがう。最高級品でも装置の音質が全く傾向のちがうものがでてくるといったことは外国製品のメーカーの主張が感じられ興味深い。本来、クォリティが上れば上るほど装置の個性はなくなるという考え方に対する一つの示唆といえるかもしれない。

アルテック Magnificent, Valencia, Verdi, フィッシャー XP6, XP15, XP33

アルテックのスピーカーシステムMagnificent、Valencia、Verdi、フィッシャーのスピーカーシステムXP6、XP15、XP33の広告(輸入元:秘本楽器)
(スイングジャーナル 1967年11月号掲載)

ALTEC

トーレンス TD150AB

トーレンスのアナログプレーヤーTD150ABの広告(輸入元:銀座さくら屋)
(モダン・ジャズ読本 ’68 1967年10月増刊号掲載)

TD150

オルトフォンSL15, RS212, 2-15K

オルトフォンのカートリッジSL15、トーンアームRS212、昇圧トランス2-15Kの広告(輸入元:日本楽器)
(スイングジャーナル 1967年10月号掲載)

ortofon

グッドマン Maxim-Ten

グッドマンのスピーカーシステムMaxim-Tenの広告(輸入元:シュリロ貿易)
(ステレオ 1967年9月号掲載)

Goodmans