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デンオン PMA-540

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 たいへん穏やかなバランス。それを支える力も十分にあり、大掴みにたいへん優れた音質といってよいと思う。以前のデンオンのプリメインと比べ、クラシック、ポップスを通じて十分納得のゆくバランスおよび音質に仕上げられ、いろいろなプログラムソースを通じて、かなり満足できる。一聴して目立つ解像力の良さ、鮮度の高さが表立っていないために、ちょっと聴くと平凡に感じられるほど、何気ない音を聴かせるようでありながら、時間をかけて聴くにつれ、このバランスがかなり慎重に練り上げられていることがわかる。長いこと、デンオンのアンプの弱点であったクラシックのオーケストラのかなりのハイパワーの再生でも、聴き疲れすることなく、全体のバランスおよび音像の再現もことさら音を前に押し出すのではなく、十分、奥行き感、ひろがりをもって聴かせる。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIの場合のバランスは際立って良好で、クラシックばかりでなく「サンチェスの子供たち」のパーカッションをかなりの音量で聴いても、パワー感や音の伸び、充実感は十分。またエムパイア4000DIIIのシェフィールド「ニュー・ベイビィ」の再生では、全体の力感がしっかりし、ローエンドの支えが十分で、パーカッションの強打でも、この価格帯としては、実体感がよく聴きとれた。エラック794Eのような傾向に対して、旧モデルPMA530は弱点を聴かせたが、本機ではそこがコントロールされ、レコードの歪は歪みとして出しながらも、基本的な音を美しく、アラを目立たせない方向で聴かせるために、録音の古いレコードも十分に楽しめるアンプになっている。
 MCポジションでの音質は、デンオンDL303に対しては言うまでもなく良く適合し、かなりのボリュウムレベルでもノイズは実用上あまり耳につかず、音のバランスも優れている。オルトフォンのような低出力低インピーダンスMCの場合には、このカートリッジのもっている特徴をいくぶん抑えこむ
印象で、外附のトランスを使った方がオルトフォンの特徴がはっきり出る。ただし、オルトフォンの持っている中~高域の張りが、外附のトランスの場合、ややキツくなる印象もあり、そこがこのアンプの潜在的な性格といえるかもしれない。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bのような気難しいスピーカーを、十分とはいえないまでも、楽しませて聴かせてくれることから、スピーカーの選り好みは比較的少ないタイプといえるだろう。
●ファンクションおよび操作性 ボリュウムを上げて多種のスイッチを操作しても、ラウドネススイッチを除き、クリックノイズはほとんど出ない。フォノ聴取時のチューナーから音洩れも全くない。
●総合的に 音質についてだけいうなら、この価格帯での注目製品。デザインに上品さがあれば、もっとよい印象を与えるのではないだろうか。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2+
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

トリオ KA-800

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 まずスピーカーコードを2本のまま(一般的な)接続では、これといった特徴のない、わりあい平凡な音がする。そこで4本の、トリオの名付けたシグマ接続にしてみる。と、一転して、目のさめるように鮮度が向上する。いわゆる解像力が良い、というのだろうか、とくにポップス系の録音の良いレコードをかけたときの、打音の衝撃的な切れこみ、パワー感の凄さにはびっくりさせられる。これで55Wとは、ちょっと信じがたいほどの音の伸び。少なくとも、ポップス系のレコードをショッキングに鳴らしたいという人には、大いに歓迎される音だろう。この価格でこんなに切れこみの良い音は、ちょと聴けない。しかし対象がクラシック、あるいは本質的に柔らかさやムードを要求する曲になると、この音に手離しでびっくりしているわけにはゆかなくなる。一見クリアーふうの音も、管弦楽などをやや大きめの音で楽しみたいと思うと、やや硬質で聴き疲れしやすく、また曲の進行によって音のバランスが変ってしまうような、どこかちぐはぐな要素を内包している。とくに古い録音の、少し傷んだレコードなど、傷みを拡大するような傾向があって好ましいとはいいにくい。
●カートリッジへの適応性 MM系に関しては、各種のカートリッジの持ち味をわりあい生かすような鳴り方をして、概して好ましいが、MCの場合には、MCポジションでのノイズがやや大きく、ことにハム性のノイズが混入して、ちょっと音量を上げようとすると、ピアニシモではノイズが邪魔をして、実用上問題がある。外附のトランスを使えば一応聴けるが、後述のFMの混入が困る。
●スピーカーへ適応性 以上の音質の印象はJBL4343Bによっているが、アルテック620Bカスタムのように、アンプへの注文のうるさいスピーカーの場合には、このアンプではやや役不足。言いかえれば、スピーカーを選り好みするタイプといえる。
●ファンクションおよび操作性 MM/MC切替ボタンは、ボリュウムを上げたまま押すと(なぜか左チャンネルのみ)かなり耳ざわりなノイズを出すのでこわい。また、MMポジションでは、MMカートリッジまたはMC+トランスで聴く際、FMチューナーが接続されていると、ボリュウムを上げた場合やや明瞭にFMが聴こえて具合がわるい。もうひとつ、このアンプは機構的にかなり弱く、平らな台の上でガタつくほど脚がチンバだし、ボンネットの上面を軽く叩くとギシギシときしむ。パネルのの右上をやや押し下げると、プリセットボタンのON-OFFが動作してしまうなど、組立上の不備が散見されたのは残念。ただし、別に店頭に出ている一般市販品を何台かチェックしてみたところ、この問題が出ない製品もあった。量産品では解決しているようだ。
●総合的に 機構上の多少の不備を別としても、かなり個性の強いアンプで、好き嫌いがはっきり別れるだろう。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:中
2. MCポジションでのノイズ:大(ハム混入)
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:ややあり
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:1-
9. ACプラグの極性による音の差:中

テクニクス SU-V7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 基本的にはSU-V6とたいへんよく似た面をもっている。価格の高くなった分だけ表示パワーも増しているせいか、シェフィールド「ニュー・ベイビィ」のようなかなりのパワーを要求するレコードでも、ボリュウムを相当なところまで上げてもよくもちこたえ、聴感上のパワーも相当にある。パワーを上げた場合でも、全帯域のバランスが妥当で、特に出しゃばったり耳ざわりになったりする音はなく、よくコントロールされ、あまり作為的な部分を感じさせない点、V6の良さと共通している。
●カートリッジへの適応性 MCポジションでの音質が、V6よりもいくぶん向上し、特にオルトフォンを使った場合、V6ではその特徴をやや抑えこむ傾向があったが、V7では音の伸びが改善されていることがわかる。しかし反面、低音の充実感が少し薄れたようだ。ノイズレベルはいっそう改善され、低出力低インピーダンスMCの場合でも、実用上のノイズがかなり低く、ボリュウムを大幅に上げないかぎり、十分使える。デンオンDL303では、V6に比べてその性格を十分に生かすとはいいにくく、相性が必ずしもよくないように思われた。たとえばDL303自体が持っている、高域が切れこみながらやや細くなりがちな性質が、いくぶん相乗効果的に作用する。曲によってはわずかとはいえキャンつく傾向があり、解像力が向上したともいえる反面、入力側で高域の強調された性質にいくぶん弱いのではないかと感じられた。オルトフォン、デンオンとも、外附のトランスを使うことによりバランスの改善される傾向があった。オルトフォンVMS30/IIのように全体によくコントロールされたカートリッジの場合が、最もこのアンプの特徴を生かす感があり、そのことはたとえば、エラック794Eのような、ハイ上りのカートリッジをやや嫌う傾向があることからも、このアンプの性格が説明できるように思う。特に、やや傷んだレコードをかけたとき、歪は歪みとしてはっきりとさらけ出す。ただし基本的な音はたいへん美しくコントロールされていて、アンプ自体の性質は非常に優れているということは聴きとれた。
●スピーカーへの適応性 アルテックのような気難しいスピーカーを、この価格帯の製品としてはよく鳴らすと思った。スピーカーの選り好みの少ないタイプだと思う。
●ファンクションおよび操作性 ファンクションはV6とほとんど同じだが、操作性に関してはいっそうキメ細かく改善され、特にV6のところで指摘したオペレーション切替え(ストレートDCとヴィアトーン)スイッチをゆっくり動かしても、シグナルの途切れるようなこともなく、ボリュウムをあげたままどのスイッチを動かしてもクリックノイズが出ることもない。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れも全くない。
●総合的に さすがにV6の後に発表されたアンプだけあって、V6の良さを受け継ぎながらいっそうキメ細かく改善され、最近のテクニクスが波にのっていることを感じさせる優れた新製品だと思う。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:小
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:中

テクニクス SU-V6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 今日の時点で改めて厳しいテストに参加させても、相変わらずこのアンプは一頭地を抜いた素晴らしい出来栄えだと思った。むろんそれはあくまでも、5万9800円という価格のワクの中での話にせよ、同クラスのアンプの中では、特に音の支えがしっかりして全体に充実感があり、音のバランスが妥当で特にうわついたり低域をひきずったりというところもなく、その意味ではむしろ、作為がなさすぎると思わせるほどだ。このアンプはテクニクスの製品としては珍しく、スイッチを入れシグナルを加えてから時間が経過するにしたがって、音質が滑らかにこなれてゆくタイプで、音がこなれてからはとても価格が想像できないほどクォリティの高い音を聴かせる。しいて気になる点を指摘すれば、基本的に持っている音の質感がややウェット、あるいはいくぶん暗く、全体に少し線の細い傾向を持っている点火。
●カートリッジへの適応性 オルトフォンVMS30/IIが特にこのアンプの良さを生かしたように思う。テストソースの中でも比較的難しいベートーヴェンの第九(ヨッフム)の第4楽章のテノールのソロからコーラスのフォルティシモに至る部分でも、音楽的に優れたバランスを聴かせ、十分納得のゆく音を楽しませてくれる。
 MCポジションの音質は良く練り上げられていて、SN比も良好。特にDL303の持っている繊細な切れこみのよさが十分に楽しめる。ただし、フォーレのヴァイオリン・ソナタではヴァイオリンの胴のふくらみがやや減った、いくぶん細い感じの音になり(むろんこれはDL303のキャラクターでもあるが)このレコードの微妙なニュアンスの再現に関しては、このアンプでさえも物足りない面もある。
 本機のMCポジションは、オルトフォンのような低出力低インピーダンスタイプではさすがにノイズがいくぶん耳ざわり。音質もオルトフォンの特徴をおさえこむ方向だ。エラック794Eで傷んだレコードをトレースした場合は、音の粗さは目立ちにくいものの、レコードの傷みや歪をさらけ出してしまうタイプなので、古い傷んだレコードでも楽しめるアンプとはいいにくい。
●スピーカーへの適応性 アルテック620Bのような気難しいスピーカーを、十分とはいえないまでも、価格を考えれば一応満足すべきレベルで鳴らす。その意味から、スピーカーの選り好みの比較的少ないアンプといえそうだ。
●ファンクションおよび操作性 ボリュウムを上げたままで各種のスイッチを動かしてもノイズはほとんど耳につかず、安心して操作でき、操作性もこなれている。MM/MC切替スイッチを操作してもノイズはなく、この点は立派。ただし、ストレートDCとヴィアトーンを切替えるレバースイッチをゆっくり動かすと音が途切れる。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れは全くなかった。
●総合的に この価格帯では抜群の出来栄えのアンプ。ただし、以前から何度も発言したことだが、このアンプのデザインはいただけない。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:2
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:小

ソニー TA-F55

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 このアンプは例外的にコンパクトで超薄型に作られているが、こうした見た目の印象から想像するのとは正反対の、たいそう迫力のある音がする。たとえばポップミュージックを多少パワーを上げぎみで聴くと、まるで音の塊がこちらに飛んでくるような感じといったらよいだろうか、同クラスのアンプと比べ、やや異色といってもよい音だ。たとえば、左右の両スピーカーの間に十分にひろがり奥行きをもって聴こえるべきレコードをかけた場合でも、このアンプは音を空間に散りばめるというよりは、むしろ中央に塗り固めるという表現を使いたくなる、やや独特な音で鳴る。再生音に迫力を求める向きには歓迎されるだろうが、本質的にレコードに刻まれているはずの、二つのスピーカーの外側、あるいは奥行き方向にひろがるべき音が、十分に再現されない。
●カートリッジへの適応性 基本的な音質がかなり個性的であるために、各種カートリッジを付替えた場合にこのアンプの個性で聴かせてしまうという性質がある。しかし、各カートリッジの差は正確に鳴らし分けている。中ではVMS30/IIの場合がいちばん妥当な組合せのようにも思われた。エラック794Eのように高域のしゃくれ上ったカートリッジの場合は、その性質を比較的さらけ出す傾向があり、特にレコードが傷んでいる場合は、歪もそのまま出してしまうタイプだ。
 MCポジションは3Ωと40Ωのインヒーダンス切替えがついていて、オルトフォンのような低出力低インピーダンスMCの場合でも、SN比はかなり優れている。むろん40Ωのポジションでは、デンオンに対するSN比は実用上十分。アンプが基本的に持っている性質同様の音質だが、外附のトランスまたはヘッドアンプを使えば、その性質が柔らげられる。
●スピーカーへの適応性 アンプが基本的に持っている性質が、高域を際立たせるということがないためか、アルテックのような気難しいスピーカーをつないだ場合でも、高域がやかましいということはない。しかしこのスピーカー自体の持っている、中高域が固まりがちな性格はいくぶん強調される。スピーカーを選り好みするタイプといえる。
●ファンクションおよび操作性 このアンプの最大の特徴は、二つ並んだプッシュボタンにより、ボリュウムの上下を間接的に操作することだ。ボリュウムの上下は、ボタンの左に並んだダイヤル上の窓の中のLEDで表示される。ボタンを軽く押すとゆっくり、強く押せば倍速でボリュウムが上下し、キメ細かい作り方といえる。上下動とも動作速度は全く同じだが、人間工学的には上昇側をゆっくり、下降側を速くした方がいっそう好ましい。ボリュウムを上げた状態でMM/MCを切替えると、かなり耳につくクリックノイズが出るが、この点は改めてほしい。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れはボリュウムを上げると、きわめて高い音域でかすかに(トゥイーターだけを鳴らしたような感じで)聴こえるが、実用上はほとんど問題ない。
●総合的に デザイン、構造、サイズ、音質ともきわめてユニークなアンプなので、この点で好き嫌いが分かれるだろう。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):1
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:かすかにあり
6. ヘッドフォン端子での音質:1-
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2-
9. ACプラグの極性による音の差:小

サンスイ AU-D7

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 明るく、軽快さ華やかさなどといった形容を思いつく音。最近の一連の国産メーカーの目差している、音の透明度や解像力あるいは鮮度の高さをストレートに表現した、反応の鋭敏さを感じさせる音だ。この明るい音は、一種瑞々しさを感じさせる反面、曲の種類によってはいくぶん華やぎすぎと思わせるところがないとはいえない。本来こうした音は中~低音域にかけて音を支えるだけの力があればより生きるのだろうが、本機には価格的にそうした要求は無理なのかもしれない。音のひと粒ひと粒が気持良く弾んで聴こえるところが特徴的でこれはポップミュージックで良く生かされる反面、クラシックを、中でも音の重厚感、渋さといった要素を要求する人にとっては、多少の違和感あるいは華やぎすぎという印象を与える。
●カートリッジへの適応性 このアンプの音をプラス方向に生かすためには、たとえばエムパイアのようなタイプの音カートリッジでポップミュージックにピントを合わせる聴き方をすれば、たいへん美しい音がする。またクラシックまでカバーしようという場合には、オルトフォンVMS30/IIのようなタイプを使えば、落着いた面も描き出せるだろう。エラック794Eで傷んだレコードをかけると、レコードの歪を目立たせるようなことはないにしても、楽しませる方向に生かすとはいいにくい。
 MCポジションは、オルトフォンのような低出力低インピーダンス型に対してもノイズは比較的よく抑えられているが、実用上十分なレベルまで音量を上げた場合にはいくぶん耳につく。デンオンDL303に対しては、ノイズも実用上不備のないまで抑えられ、悪心津もたいへん優れている。MCポジション自体の音質が、このアンプの基本的な音同様、明るくクリアーで華やいだ傾向があるため、外附のトランスを使うことで、この傾向を抑えることができる。
●スピーカーへの適応性 このアンプ自体の持っている性質からいって、中~高音域の強く出るタイプのスピーカーは組合せ上好ましくない。アルテックのような気難しいスピーカーには、少しおさえが利きにくい印象であった。
●ファンクションおよび操作性 ボリュウムを上げたまま、MMとMCの切替スイッチを操作すると、多少耳につくノイズが出る。その他のファンクションはよく整理され、ノイズも抑えられていた。このアンプのトーンコントロールは普通のバス、トレブルのツマミの他に、スーパーバスとプレゼンスというツマミがある。スーパーバスはきわめて低いところで利かせているらしく、低音のよく入ったレコードと低域特性の優れたスピーカーでないと、その効果はよくわからなかった。プレゼンスは音の近接感を調整するための中高域の強調ツマミで、これによって唱い手の声をかなり近接した感じにコントロールでき、使い方によっては面白い感じにコントロールできる。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れはほとんどなく良好。
●総合的に 音の明るさ華やかさにたいへん特徴があり、その点に好き嫌いがあるかと思う。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:2-
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:中

パイオニア A-570

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 全体の印象をひと言でいえば、ソフト&メロウ。パイオニアかがここ数年来つくり出すアンプは、新技術を導入しながらも、あえてその新技術を極端な形で音に表わさず、特別なオーディオマニアを対象にするよりも、一般の音楽を愛好する層に広く受け入れられるような、最大公約数的な音にまとめられている。またその音が絶妙なバランスポイントを掴んでいるという点に、ひとつの特徴を見い出すことができる。オーディオマニア好みの解像力やツブ立ち、音の鮮明度を求めるのは無理な反面、どようなプログラムソースをかけても、どのようなカートリッジ、スピーカーと組合わせても、一応のバランスで鳴るという点、いわゆる中庸をおさえた巧みな作り方といえる。細かいことを言えば、たとえばオルトフォンVMS30/IIのようなカートリッジと組合わせ、ポップミュージックを再生した場合に、聴き手を楽しませるバランスのよい音が、パーカッションでかなりの音量まで上げた時でも十分もちこたえるだけの良さを聴かせる。反面、MCカートリッジでかなり厳しい聴き方をした場合には、たとえばいくぶん音量を上げぎみにした時に、一聴した印象のソフト&メロウなサウンドの中にあんがい中高域が張り出す硬質な面が聴きとれて、必ずしソフトなばかりのアンプでないことがわかる。
●カートリッジへ適応性 MCカートリッジと組合わせて厳しい聴き方をするというタイプではないにしても、オルトフォンのような低出力低インピーダンス型のMCに対しては、実用上十分といえる程度にボリュウムを上げると(1時位置くらい)軽いハムの混入したやや耳につくタイプのノイズがわずかに聴きとれる。一方、デンオンDL303に対しては、実用的な音量でノイズが軽く耳につくものの、ほぼ満足できる音質が得られる。あかて外附のヘッドアンプやトランスを使うことなくMCカートリッジを使いたい場合には、デンオン系の出力の大きいタイプを組合わせるべきだ。エラック794Eで傷んだレコードを演奏しても、レコードの傷み歪はあまり耳ざわりにならず抑えられているので、古い傷んだレコードでも楽しめる。
●スピーカーへの適応性 いわゆるハイクォリティ指向のアンプではないので、厳しいことはいえないにしても、アルテック620Bカスタムのように気難しいスピーカーを十分に鳴らせるとはいかない。
●ファンクションおよび操作性 独特のプッシュボタンを生かしたデザインはたいへんユニークで、類型が全くなくまとまっている。ボリュウムをを上げたまま各スイッチをON-OFFした時のノイズも抑えられているが、フォノ聴取時にボリュウムが12時に近づくあたりから、チューナーからの音洩れが、かすかだがやや耳につく。何らかの対策が必要。
●総合的に 本質的にポップス指向の、オーディオマニアでないごく普通の愛好家のためにつくられたアンプという印象がはっきりしている。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:ややあり
6. ヘッドフォン端子での音質:2+
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2-
9. ACプラグの極性による音の差:小

オンキョー Integra A-815

瀬川冬樹

ステレオサウンド 57号(1980年12月発行)
特集・「いまいちばんいいアンプを選ぶ 最新34機種のプリメインアンプ・テスト」より

●総合的な音質 ここ数年来のオンキョーのアンプに共通の、独特の音の透明感を感じさせる、いくぶん女性的ななよやかな音。一時期の製品が中~高域の透明感を重視するあまり、低域の支えにいくぶんの物足りなさを感じさせたのに対して、本機の場合は十分とはいえないまでも、以前の製品よりもしっかりし、クラシックのオーケストラの低音弦などはむしろ、いくぶんふくらみを感じさせる程度に豊かさがある。低音をそれほど引締めていないタイプらしく、ポップスのバスドラムの強打音などでは、少し音を締めたいと感じさせる場合もある。総体に、以前の製品の弱点であった一聴したカン高さのようなものが感じられなくなり、音にいっそう磨きがかけられ透明感が増して、美しい音を聴かせるアンプといってよい。
●カートリッジへの適応性 たとえばオルトフォンのVMS30/IIのもっている性格が、このアンプの一面の弱点をうまく補うせいか、このカートリッジとの組合せがいちばんバランスの良い楽しめる音がしたと思う。エラック794Eのように高域のしゃくれ上ったカートリッジで傷んだレコードをトレースした場合にも、歪をあまり目立たせず高域のよくコントロールされた音を聴かせる点から類推すれば、古い録音、傷んだレコードをも美しく聴かせ楽しませてくれるタイプだと思う。
 MCポジションは、オルトフォンのような低出力低インピーダンス型では、いくぶんノイズが耳につく。ただしこのノイズは性質が良いために、ボリュウムを絞り加減で聴く限りはあまり耳ざわりではない。しかしトランスを使うと音質がいっそう充実し、ノイズもほとんど耳につかなくなるため、オルトフォンを使うためには外附のトランスが必要と思う。一方デンオンDL303の場合は、カートリッジ自体の持っている音質に、このアンプの音と一脈通じるところがあるためか、いっそうオンキョー的な音に仕上る。デンオン系に対しては外附のトランスにしてそれほどのメリットは感じられなかった。
●スピーカーへの適応性 アルテック系のスピーカーに対しては、クォリティが及ばずといった感じで、このアンプを生かすにはスピーカーを慎重に選ぶ必要があると思った。
●ファンクションおよび操作性 ボリュウムを上げたままで各種スイッチをON-OFFしても、耳ざわりなノイズは良く抑えられている。たいへん手なれた作り方。ローコストアンプでは珍しくモードセレクターが5ポジションあるはたいへん親切。トーンコントロールがオンキョーのプリメインに共通の独特なタイプで、ボリュウムの位置によって利き方が変わり、ボリュウムを中央よりも上げたところではほとんど利かなくなるので、やや注意が必要だ。フォノ聴取時のチューナーからの音洩れはほとんどない。
●総合的に オンキョー独特のサウンドにいくぶん好き嫌いが分かれると思うが、この価格帯のアンプとして、音質、構造、操作性ともよくこなれて、安心して使える。

チェックリスト
1. MMポジションでのノイズ:小
2. MCポジションでのノイズ:中
3. MCポジションでのノイズでの音質(DL-303の場合):2
4. MCポジションでのノイズでの音質(MC30の場合):1
5. TUNERの音洩れ:なし
6. ヘッドフォン端子での音質:1
7. スピーカーの特性を生かすか:1
8. ファンクションスイッチのフィーリング:2
9. ACプラグの極性による音の差:中

デンオン SC-5000

井上卓也

ステレオサウンド 56号(1980年9月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 デンオンのフロアー型システムは、古くはコロムビアブランドの時代から常にシリーズのなかに核時代を代表するモデルが存在していた。70年以降の最近の例でも、デンオンが輸入をしている米ボザーク社の大型システムの陰にかくれた印象があったが、41cm口径コラーゲンウーファーと中音及び高音にホーン型を採用したVSS8000、40cmコーン型ウーファーをベースに独特な音響レンズを持つホーン型の中音と高音を組み合わせたD9があった。
 今回のSC5000は、デジタル録音やダイレクトディスクに代表されるプログラムソース側の高性能化に対応すべく高能率、高耐入力、低歪率なスピーカーシステムを実現する目的で開発された新製品だ。その最大の特長は、High−M(高剛性)振動板を開発し採用した点にある。この新タイプ振動板は、低域用にはPタイプと呼ばれる、伝統的な紙の利点を最大限に活用し、特殊なリブ一体成型の特性ラミー繊維を木材パルプに配合し剛性を高めながらも軽量化が可能で、ピストン振動帯域を従来の約1・5倍の1kHzにまで高めたタイプを採用している。磁気回路は、直径220mmのフェライト磁石使用で低歪化がおこなわれ、直径100mmのボイスコイルの磁束密度は11、000ガウスを誇っている。
 15cm中域用と5cm高域用ユニットは、Tタイプと呼ばれる高弾性アラミド繊維織布を特殊樹脂で強化したコーン採用だ。磁気回路は中域用が直径140Mmフェライト磁石、高域用が直径120mmストロンチウムフェライト磁石採用で、それぞれ97dB、97・5dBとコーン型としては異例の高能率を発揮している。
 エンクロージュアは、側板が3種類の高密度パーチクル板をサンドイッチ構造とした35mm厚。他は25mm厚高密度パーチクルボード使用の185ℓのバスレフ型である。
 SC5000は、充分に余裕のある安定した低域をベースに比較的反応が速く、明るく軽快な音色の中域と高域がスムーズなレスポンスでつながるワイドレンジ型の音である。キャラクターが少ないため97dBという高能率ながら刺激的な感じがなく、ゆたりとエネルギー感のある音が聴かれる。アンプ、カートリッジに対する反応はかなり鋭敏で、固有のキャラクターの少ないタイプでないと本領が発揮されない。

ダイヤトーン DS-505

井上卓也

ステレオサウンド 56号(1980年9月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤトーンのスピーカーシステムは、長期間にわたる放送用モニタースピーカーを主とした業務用機器での技術開発と実績を背景として、これをコンシュマーユースの製品開発に活かすという、他のメーカーにはない特長がある。
 業務用機器では要求される物理的な特性をベースに、高信頼度、高安定度が必須の条件である。たとえば、ユニット構造ひとつを例にあげても、同社の製品はコーン型ユニットを主とし、これにドーム型ユニットを中域、高域に配する手法が基本的である。振動板材質でも長期にわたり安定した性能を備え、充分に使いこなした紙がメインであり、高分子化合物のフィルムや金属などの採用は、むしろ例外的な使用ということもできるほど同社の設計方針は堅実である。
 今回発表されたDS505は、ユニット構成、新種振動板材料の全面採用、新型ネットワークなど、いずれの点からみても従来の製品とは一線を画した80年代の新システムともいうべき意欲的な製品である。エンクロージュアは完全密閉型を採用した大型ブックシェルフ型であり、同社の製品のなかでの位置づけは、小型、高密度設計をテーマとした高性能ブックシェルフ型の3桁のモデルナンバーをもつ、最初期のDS301、これに続くD303という、それぞれの時代に存在したブックシェルフ型システムのトップモデルを受け継ぐ同社のプレスティッジモデルである。
 DS301、DS303、DS505はともに4ウェイ構成である点は共通であるが、それぞれの時代のプログラムソースであるディスクの基本性能、それを再生するスピーカーシステムに対する要求の相関性から、4ウェイ構成のクロスオーバー周波数の設定には非常に興味深い変化があることに気付く。
 DS301が低域と中域のクロスオーバー周波数を比較的高い1・5kHzとし、それ以上を3ウェイ構成とした、いわば2S305のトゥイーター帯域を3個のユニットに分担させた高域重視の設計であったのに対して、次のDS303は、低域と中域のクロスオーバー周波数が約1オクターブ下った600Hzとなり、標準的3ウェイ構成プラス・スーパートゥイーターという設計に発展している。今回のDS505は、さらにクロスオーバー周波数が低く、350Hzとなり中低域と中高域が1・5kHz、中高域と高域が5kHzというブックシェルフ型システムとしては異例の本格的な4ウェイ構成に発展している。
 また、中域以上の振動板材質でも、DS301が紙系を主としたドーム型と超高域にメタルコーン型を採用していたのに対して、DS303では中域がフェノール系ダイアフラムのドーム型、中高域がパルプ系のドーム、超高域が軟質アルミのドーム型という材料の分散使用に変る。D得する505は、定位機中低域が数年前にダイヤトーンで開発し、製品に一部採用されたハニカムコンストラクションコーンのスキン材を改良し、新しくスキン材に芳香族ボリアミド系樹脂であるアラミド繊維で強化された可撓性レビンを特殊配合し、内部損失をもたせた新ハニカムコンストラクションコーンを採用した32cmと16cm口径のコーン型を使用している。
 一方、中高域と高域には、従来のドーム型の構造を抜本的に発展させた、ボイスコイルボビン部分とドーム型ダイアフラムを深絞り一体構造とし、 
これにサスペンション用のダンパーを接合した直接駆動型ボロン化ダイアフラムを採用している。ボロン化は、チタン箔を深絞り加工した後に、高温ボロン化処理をしたサンドイッチ構造の従来の方法とは異なるタイプで、全て社内で製造されている。
 その他、低域、中低域ユニットボイスコイルボビンを従来のポリアミドフィルムの約3倍のヤング率をもち、耐熱性、耐寒性が優れたポリイミドフィルムの採用、磁気回路のストロンチウム磁石と独自のニッケル系磁性合金を使った低歪磁気回路などがユニットで注目すべきところだ。
 エンクロージュアは、モーダル解析をベースに、ヒアリングをも加えて検討された完全密閉型であり、丈夫の中低域ユニット部分は独立した大型のバックチャンバーを備え、高音ユニットは、このバックチャンバー部分に取り付ける構造を採用している。ネットワークは、12dB/Octタイプだが、コイル関係の硅素鋼板を特殊樹脂で熱圧着積層した新タイプの採用、二重防振構造のポリエステルフィルムコンデンサーなどの主な素子を分散配置し、配線剤の無酸素銅化をはじめ、素子や配線の圧着方式によるワイヤリングをベースに新しい構想に基づくネットワーク理論の導入により、従来とは一線を画した低歪ネットワークとし、各ユニットの基本性能を充分に発揮できるように検討されている。
 DS505は、ステレオサウンドのリファレンスシステムで駆動したときに、従来には聴かれなかった広い周波数レスポンスとナチュラルなエネルギーバランス、全域にわたる高い分解能を示し、ここには、慣例的に持っていた、いわゆるダイヤトーンサウンドを感じさせるイメージはほとんど存在しない。
 とくに、各種ディスクの録音状況、製盤プロセスの優劣に対する反応はシャープでありマルチトラック録音でトラックダウンをしたディスクでは、エンジニアのテクニックが目に見えるように聴き取れる。また、使用コンポーネントに対する反応もシャープでアンプやカートリッジの得失をクリアーに引き出す。
 したがって、使用方法、使用条件によって、結果としての音はかなり変化をし、短時間の試聴では新世代のリファレンスモニター的傾向は把握できるが、にわかには、これがDS505の音と判断することはできない。それほど、異次元のシステムであるわけだ。

ジュエルトーン JT-RIII

ジュエルトーンのカートリッジJT-RIIIの広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

JT-RIII

フィデリティ・リサーチ FR-2

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR2の広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

FR2

アキュフェーズ C-200X, P-300X

アキュフェーズのコントロールアンプC200X、パワーアンプP300Xの広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

C200X

オットー SX-P5

オットーのスピーカーシステムSX-P5の広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

SX-P5

デンオン SC-306, SC-307

デンオンのスピーカーシステムSC306、SC307の広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

SC307

ビクター SEA-70

ビクターのグラフィックイコライザーSEA70の広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

SEA70

パイオニア Exclusive Model 3401W

パイオニアのスピーカーシステムExclusive Model 3401Wの広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

3401W

デンオン DXM, DX1, DX3, DX5, DX7

デンオンのカセットテープDXM、DX1、DX3、DX5、DX7の広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

DENON

マイクロ BL-51, BL-71

マイクロのアナログプレーヤーBL51、BL71の広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

BL71

ソニー XL-30

ソニーのカートリッジXL30の広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

XL30

オーディオテクニカ AT120E/G, AT130E/G, AT140E/G, AT150E/G

オーディオテクニカのカートリッジAT120E/G、AT130E/G、AT140E/G、AT150E/Gの広告
(スイングジャーナル 1980年7月号掲載)

AT150

ヤマハ FX-3

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 ヤマハFX3はベストセラーのNS1000Mに準ずるユニット構成の3ウェイ。36cm口径とウーファーは大きくなっているが、スコーカー、トゥイーターは同口径のベリリウム振動板をもつ。しかし全く同一のものではないらしい。かなり迫力ある表現力の豊かなシステムで、フロアー型としてのゆとりを聴かせる。

パイオニア Exclusive P3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」より

●音質/今回とりあげた製品の中でも、非常に感心した。たとえばマイクロの糸ドライブのように調整の多少のコツを要する製品を最良のコンディションに整えたときの音、あるいは、EMT930を今回のように特殊な使い方をしたときの音、の二つの例外を除けば、完成品プレーヤーとして、これぐらい見事な音を聴かせた製品は唯一といってもほめすぎではない。第一に音が生きている。ひとつひとつの音にほどよい肉附きが感じられ、弾力的で、素晴らしく豊かな気分を与える。音が妙に骨ばったり、ことさら乾きすぎたりせず、中庸を保ちながら、しっとりと美しい響きが満喫できる。音の重心が低く、音楽を支える低音の土台がしっかりしている。おそらくそのためだろう、中〜高域でもきわどい音を全く聴かせないから、どんなにカッティングレベルの高い部分でも、聴き手をハラハラさせるような危ない音が出てこない。アメリカ製大型乗用車のあの、悠揚せまらざる乗心地のよさに似ている。音が生きているといったが、たとえば音の鮮度の高さとか、みずみずしさ、といった点では、ケンウッドL07Dに一歩譲るかもしれない。けれど、まるで装置全体が変わってしまったかのように、つい、いつまでも楽しんでしまいたい気分にさせる。決して安くはないが、音質、仕上げとも十分に使い手を満足させる。
 ステレオの音像もみごとで、中央が薄手になったりせず、奥行きと厚みを感じさせながら広がりも定位も十分。ひとことでいえば重厚な雰囲気を持った楽しい音、という印象。
●デザイン・操作性/ずいぶん大きく、重々しい雰囲気。だがこの大きさや構造ゆえに右の音質が得られたのだとしたら、文句はいえない。ターンテーブルのトルクは十分で、スタート・ストップの歯切れよく気持がいい。アームの調整も馴れれば容易。しいていえばアームリフターのレバーが奥にあるのは不満。

テクニクス SP-10MK2 + SH-10B3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」より

●音質/オリジナルのEPA100アームと、AC3000MCと、両方比較してみた。好みの問題かもしれないが、私には、AC3000MCとの組合せのときのほうが、音楽的な意味で優れていると思えた。まず音の全体的なバランスが、EPA100では中域の厚みを欠いて帯域の両端の輪郭で聴こえがちなのに対して、AC3000MCでは大掴みなバランスが整って欠点がなくなる。EPA100にはダンピングコントロールのツマミがついてるが、制動量を増すと音が沈みがちで、おとなしいがつまらない。ただ試みに出力コードをマイクロの二重構造銀線コードに変えてみたところ、中域の薄手のところがよく埋まってバランスがはるかに整ってきた。ステレオの音像も中央がよく埋まってくる。まだ楽しさには至らないにしても、テストの標準機として十分に信頼に値する音がする。同じコードでAC3000MCに替えてみると、ここに音の明るさと、充実感がいっそう増してくる。ピアノのタッチの手ごたえや音の品位の高さは、すれでもまだ満点とはいい難いが、十分に水準を越えた音質。ここにもうひと息、余韻の響きの繊細さ、響きの豊かさ、空間へのひろがり感、などが増してくれば相当なものなのだが、音がいくぶんスパッと切れすぎる点が私には不満として残る。AC3000MCならば、もっとナイーヴな雰囲気まで抽き出せるはずだという気持がどこかにあるせいだろうか。
●デザイン・操作性/専用のプレーヤーベースSH10B3との組合せはなかなかいい雰囲気を持っている。スタート・ストップの明快で歯切れよく信頼感のある点は、さすがにテクニクスの自慢するだけのことはあって見事のひと言に尽きる。ただ、ON/OFFのボタン(というよりもプレート)と、速度切替スイッチのボタンの位置や感触という点では、人間工学的にもう一歩研究の余地がありそう。

ソニー PS-X9

瀬川冬樹

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
「ハイクォリティ・プレーヤーシステムの実力診断」より

●音質/附属のカートリッジ(XL55Pro)は参考にとどめ、他機と同じくMC30、EMT、DL303を主に試聴した。こんにちのように高級プレーヤーの音質の解析が深くおこなわれる以前の製品としては、相当に水準の高い音を聴かせる。切れこみがよく、鮮度の高い印象の音がする。ただ、パーカッションが一発パッと入ると、音のスペクトラムが中〜高域寄りに散る感じがあって、大型機の割に低音の土台の支えが弱く、表面的な派手さで聴かせる傾向がわずかにあって、本当の充実感ではなく、どことなく空威張り的な音といえる。内蔵のヘッドアンプのほうに切換えてみると、MC30に対しては少々ゲイン不足で残留ノイズがいくぶん耳につく。附属カートリッジとの相性はさすがによく、ゲインは充分。音が一杯に出て、いかにも情報量が多い、という印象を与えるが、私の耳にはどうしても本当の充実感にきこえにくい。ずっと以前、本誌48号でのブラインドテストのときとは印象が違うのは、あのときのテスト機は、あとから本調子が出ていなかったことがわかったそうで、フローティングの有無によっても音が変わるそうだ。
●デザイン・操作性/スイッチ類の配置は仲々キメ細かく、感触も仕上りも上出来である点はさすが。ただし、プレーヤー右手前の部分は、アームの操作のために右手が頻繁に往復するので、速度切替スイッチのボタンの軽いタッチが仇となって、不用意に触れてしまうおそれがあり、人間工学的にはここが問題点となる。アームは素晴らしい精度で組立てられていて、ゼロバランスをとってみると、感度の良さでは今回のテスト機中一〜二を争う出来栄えであることがわかる。スタジオ機的雰囲気は、EMTがイメージとしてあるように思えるが、いかにもソニーらしい手馴れた創りと仕上げに、魅力を感じる愛好家も多いことだろう。