Category Archives: 国内ブランド - Page 18

アントレー EC-45

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 カートリッジ専門メーカーのアントレーからの新製品は、ユニ−クなコンセプトによる重針圧タイプの低インピーダンス型MC力−トリッジである。
 基本的構想は、軽針圧型独特の音場感情報の多いプレゼンスの良さと、重針圧型ならではの、彫りの深いリアルな音質とを両立させるために、まず、カンチレバー材料に一般的に使われる、軽量で剛性が高い特徴をもつ軽金属系のパイプを採用せず、ムクの軽金属棒とパイプを組み合わせて、これを3重構造としたカンチレバーを開発し、新しいサウンドの世界に挑戦しようというものである。
 具体的には、アルミパイプに、アルマイト処理をしたアルミのムク棒を入れ、基部をアルミパイプで補強したカンチレバーが、EC45の最大のポイントである。コイル部分は、0・04φ銅線を磁性体巻枠に巻いた低インピーダンス型で、サマリュウムコバルト磁石を採用した効率の高い磁気回路により、2・5Ωのインピーダンスで、0・25mV(1kHz・3・45cm/dyne・45度)の高出力を得ている。なお、針先は、バイタル型ソリッドダイヤ楕円針付。
 ボティ部分は、アルミダイキャスト製で、剛性が高く、軽量であり、表面はレザーペイント仕上げ、上部カバーは銀メッキが施してあるが、それぞれに適度な制動効果があり、材料独自の固有音を抑え、再生音のクォリティを確保している。
 マイクロSX8000IIシリーズのターンテーブルとSME3012R−PROの組合せで試聴する。定格針圧は、2・5g±0・6gのため、2・5gからスタートする。聴感上での帯域感は、両サイドを少し抑えた安定型で、低域は柔らかく豊か、中域はクッキリと音の芯がクリアーで、力感もあり、音像は輪郭がクッキリとしており、サラッとした淡白な表情が特徴だ。
 針圧の上限と下限での音をチェックし、インサイドフォースを検討した結果では、針圧、インサイド共に2・75gがベストサウンドだ。安定感があり、落着いた音の魅力が聴かれるが、低域の表現力の甘さと重針圧型ならではの、力強いリアルさが不足気味である。SME用のシールド線を、LC−OFC型から銅線に変え、昇圧をヘッドアンプから手もとにあったオルトフォンT2000にする。この変更で、音に厚みが加わり、緻密な印象も出てはくるが、再度、針圧やインサイドフォースを追込んでも、音場感的な情報量が不足気味だ。
 次に、水準器付のアントレーのヘッドシェルをテク二力のAT−LS13に変えてみる。標準的な、かなりオーソドックスな立派な音になった。やや、中域のキツさはあるが、針先のエージングが済めば、解決できそうな音である。昇圧トランスの置き場所を選び、トランスと置く台との間に敷く材料を選び、追込んでいくと、音質的にはかなりグレイドの高い、リアルなサウンドになり、重量級らしいリアリティの高い音と、適度に拡がる音場感と定位感がある安定したサウンドになった。
 かなり使いこなしは要求されるが、開発目標とした狙いは、音にも充分に現われ、アナログならではの魅力をもつ好製品だ。

パイオニア S-9500DV

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 パイオニアから新製品として登場したスピーカーシステムS9500DVは、そのモデルナンバーが示すように、従来のS9500をベースに大幅な改良が加えられ、内容を一新したシステムである。
 改良のポイントは、低域磁気回路の防磁化と、エンクロージュアでのラウンドバッフル採用と、形式がバスレフ型から密閉型に変更されたことがあげられる。
 磁気回路の防磁化は、単にTVなどへのフラックスによる色ずれを避ける目的に留まらず、エンクロージュア内部に位置するネットワーク用コイル、配線材料、アッテネーターなどへの磁束の影響がなくなり、歪が減少するメリットは非常に大きい。
 また、エンクロージュアのラウンドバッフル採用は、現在のスピーカーの大きな動向であり、情報量が非常に大きいCDの普及も、プレゼンスに優れたこのタイプに移行する背景となっていると思う。次に、エンクロージュア形式のバスレフ型から密閉型への変更は、現在のバスレフ型を中心としたパイオニアのスピーカーシステムとしては異例なことであるが、伝統的には、ブックシェルフ初期の完全密閉型として定評の高いCS10以後の密閉型システムの技術は現在でも保たれているはずである。
 ユニット構成の基本は前作を受け継いでおり、ウーファーは2重ボイスコイル採用のEBD型で、駆動力の直線性を向上するリニア・ドライブ・マグネティック・サーキットの新採用と、二重綾織りダンパー採用のダイナミック・レスポンス・サスペンション方式、フレームの強度向上などが特徴。スコーカーは、イコライザーの2重ダンプ処理、新開発ケミカルエッジ・ウーファーと共通の低抵抗リード線採用などが改良点だ。トゥイーターは、低磁気漏洩設計と防磁カバーの防振処理が特徴である。
 ネットワークは、中域と高域用で基板を廃した低損失化と高域でのバランス回路化が改良点であり、エンクロージュアは、黒檀調リアルウッド仕上げで、重量は4kg増しの37・5kgである。
 試聴は、同時発売のウッドブロックスピーカーペースCP200を使って始める。基本設置は、左右の幅は側板とブロック外側が合った位置、前後はブロックの中央とされているために、これを基準とする。聴感上の帯域バランスは、異例ともいえるほど伸びた、柔らかく豊かな低域をベースに、穏やかだが安度感もあり安定した中域と、いわゆる、リボン型的なキャラクターが感じられないスッキリとしたナチュラルな高域が、スムーズなワイドレンジ型のバランスを保っている。音色は、ほぼニュートラルで、聴感上のSN比は、前作より格段に向上しており、音場感的情報はタップリとあり、見通しがよく、ディフィニッションに優れ、定位は安定感がある。ウッドブロックの対向する面に反射防止のため、フェルトをあてると、中高域から高域の鮮明さが一段と向上し、高級機ならではの質的な高さが際立ってくる。使用上のポイントは、良く伸びた低域を活かすために、中高域から高域の鮮度感を高く維持する設置方法や使いこなしをし、広いスペースを確保する必要があるだろう。

コーラル DX-ELEVEN

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 コーラルのスピーカーシステムは、伝統あるユニット専業メーカーとしての独自の技術を活かしたユニットを基盤にシステムアップされている特徴があるが、今回、発売されたDX−ELEVENは、同社初の4ウェイ構成、完全密閉型ブックシェルフシステムである。
 ユニット構成は、低域が項角の異なった2枚のカーボングラファイトを重ねたモノコックコーンで、ネック部分に円型のクボミ型メカ二カルフィルター付で高域をカットする構造を採用し、ボイスコイルはOFCエッジワイズ巻き。磁気回路はバランス型で、直径160mmのマグネットと銅キャップによる低歪設計が特徴。中低域は口径10cmの超大口径ハードドーム型で、商品化されたユニットとしては、世界的に見ても最大口径であり、このシステムの注目すべき部分だ。振動板は新開発の特殊な軽合金といわれ、詳細は不明。磁気回路は、低域同様のバランス型で銅キャップ付。銅クラッドアルミ線エッジワイズ巻きボイスコイル使用で、97dBの高能率を誇る。中高域は、中低域と類似した構造と振動板採用の口径60mmハードドーム型高域は、同じく新開発振動板採用の口径22mmハードドーム型である。
 クロスオーバーは、280Hz、4kHz、8kHzと発表されており、中低域と中高域のクロスオーバーが、使用ユニットの口径から予想される数値より大幅に高い周波数4kHzであることが特筆に値する。
 エンクロージュアは、前後バッフルが15mm厚パーチクルボードの2枚貼合せ使用。側板、天板、底板は、25mm厚パーチクルボード採用で、前後ともラウンドバッフル構造の完全密閉型。ネットワークは、低域が独立した2分割型で、音帯域にマッチした素材を投入した高性能設計で、高域と中高域共用の連続可変型アッテネーター採用。
 木製のスタンド上に置き、システムのあらましを聴いてみる。タイトで、少し抑え気味の低域をベースに、穏やかで安定した中低域、輝かしく明るい中高域とシャープな高域が、やや高域に偏った帯域バランスを聴かせる。使いこなしの第一歩は床に近付けて低域の量感を豊かにすることだ。コーラルのBS8木製ブロックに似た高さ20cmほどの木型ブロックに置き直してみる。かなり、安定型になるが、基本的な傾向は変らない。そこで、10cm角ほどの木製キューブの3点支持を試してみる。バランス的にはナチュラルであるが、中高域ユニットのエージング不足のせいか、表情が硬く、アコースティックなジャズなどでは抜けが良く聴こえるが、クラシックの弦楽器では、線が硬く、しなやかさが少し不足気味である。そこで、かなり大きくトータルバランスが変化する高域と中高域連動のアッテネーターを絞ってみる。
 変化は、かなりクリティカルではあるが、最適位置での音は、引締まった低域をベースとした、明るく抜けの良さが特徴である。
 使用上のポイントは、壁やガラスなどの部屋の反射の影響を受けやすいタイプと思われるため、カーテンなどで響きを抑え気味にコントロールした部屋で使えば、4ウェイらしい音が楽しめるだろう。

パイオニア Exclusive C5

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 端正なバランスと、木目の細かい質感の美しい音のプリアンプだが、意外に神経質な線の細さもあって戸惑わされる。これは、このアンプの繊細で、解像力のよい高域のせいだと思われる。中高域が線が細く聴こえるのだが、案外、中低の厚味不足のせいかもしれない。音は締まりすぎるほど締まっていて、ぜい肉や曖昧さがない。組み合わせるスピーカーやプレーヤーとのバランスが微妙に利いてくるアンプだろう。今回は、JBLのほうがよかった。
[AD試聴]繊細さ、鋭敏な華麗さなどの面が強調され、ふくよかさや熱っぽさが物足りない音楽的雰囲気になった。マーラーの第6交響曲も、シュトラウスの「蝙蝠」も同じような点が不満として残った。したがって、マーラーでは濃艶さが、シュトラウスではしなやかさが不十分に感じられた。しかし、緻密なディテールの再現は素晴らしく、声の濃やかな音色の変化などの響き分けなどは第一級……というより特級といってよいアンプ。ジャズでもよくスイングする。
[CD試聴]ADの線の細さは、CDではそれほど感じられない。決して豊かな肥満した音ではないが、ふくらみやボディの実感がCDのほうがよりよいようだ。ショルティのワーグナーでは、細部のディテールは当然ながら、トゥッティのマスとしての力感もよく、力強い再生音だった。これでもう少し、音に脂がのって艶っぽさが出ると最高だと思った。概して日本製のアンプにはこの傾向があり、楽器も演奏もどこか共通したところがあるのが面白い。

アキュフェーズ C-280

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 きりっと締まったテンションのある音が魅力的である。特に、その高域の彫琢の深い陰影に富んだ再現力は特筆に値する。楽器の質感が肌で直接触れるようなリアリティのある音であり、かつ、独特の効果的な色合いをもっている。リニアリティ、ダイナミックレンジなどの物理的な要素によると思われる。音の面からは完璧に近いといってよいだろう。残るは、この特有の艶っぼさと、ややウェットな雰囲気がリスナーの嗜好に合うか合わないかであろう。
〔AD試聴]オーケストラの細部のディテールは鮮明に再現され、弾力性のある、テンションのかかった緊張したサウンドが魅力的だ。マーラーの第6交響曲の色彩感は完璧にまで描かれる。ステレオフォニツクなフェイズ差による空間の再現も確かで、ステージの実感が豊かな「蝙蝠」は効果的であった。JBLでは、やや冷たい音色感となり、暖かさと丸みのある質感が不足したが、B&Wでの再生音は不満がない。ジャズは両スピーカー共、音色感が最高。
[CD試聴]優れた特性が余裕のある再生音となっていて、全ての試聴CDに対して満足のいく対応を示してくれた。ADの場合にもいえることなのだが、あまりにも明解であるため、ややもすると音楽の細部に気をとられ過ぎる傾向のある音ともいえる。JBLで聴いたカウント・ベイシーなど、やや重心が高いバランスのように感じたが、総じて、もっと図太さとか、渾然とした響きの一体感などという点の魅力が希薄なのかもしれない。

サンスイ C-2301

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 サイテイションXIIとは対照的な音で、こちらは重厚で粘りのあるサウンドを特徴とする。どちらかといえばウェットなサウンドの傾向である。それだけに音楽が軽薄に響くことはないが、ともすると、やや濃厚になり過ぎ、さわやかさやデリカシーが十分生きない。しかし、このボディの厚いサウンドの魅力は大きく、血の通った人間表現としての演奏の説得力に通じるものがある。十分に腰の坐った安定したバランスと弾力性ある質感は魅力的。
[AD試聴]ロージーの年増の魅力が発揮され、艶麗な表現の魅力は大したものである。また、バリトン・バスのヴォーカルも生々しく、どうやら人の声には好結果が得られるアンプのようだ。空間感は豊かだし、音の立身体感やまるみのある実感も第一級。マーラーは相当濃厚な表現で、レーグナーの流れるような素直さが、この粘りのある音とは少々異質だ。また「蝙蝠」のワルツのヴァイオリンが洒落た軽妙さを過ぎて俗っぽくなるのも不思議であった。
[CD試聴]ジークフリートのマーチの厚く柔らかい管の響きは大変魅力的だし、弦の音も十分しなやか。ショルティの演奏に肉付きが加わって豊潤になるのが、効果的であった。CDの音をドライな響きにすることがなく、むしろ、このアンプ持前の熱っぽく弾力性のある音の質感で補う方向が好ましい。ベイシー・バンドの音は、B&Wでもまずまずの再現だったがJBLでは一段と冴えて、輝きのある音色を十分聴かせる。ベースの弾みもよかった。

アキュフェーズ C-200L

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 ワイドレンジでスケールが大きく、響きのたっぷりした音。肉付き豊かなグラマーな美人を見るようだ。それも、決して過度にはならない化粧をほどこした着飾った美人である。感覚的にはこんな感じだが、ひるがえって情緒的あるいはより官能的にいえば、暖かく弾力性に富む質感で、脂肪の適度に乗った濃厚さを感じる。細身の美人とさっばりしたお茶漬け好みの人には嫌われるかもしれないが、西欧音楽を鑑賞するにはこの質感は違和感がない。
[AD試聴]マーラーは大変豪華な響きで、B&Wが大きなスケールで鳴る。高弦が艶やかでいて、木管の清涼感もよく再現される。奥行きを含めたステレオ感が豊かで厚く、「蝙蝠」のステージの大きさがよく再現される。JBLでは、やや誇張のある鳴り方で、もう少し抑制が利いて自然な慎ましさが欲しい気もした。磨きのかかった輝かしい音色が、JBLだと、やや人工的に感じられなくもない。ロージーの声は艶っぽく濃厚な味わい。
[CD試聴]フォノの音とCDの音は共通していて、濃艶な表情がCDでも感じられる。明晰な分、CDにより好ましいアンプかもしれない。線の細くなるところがないために、CDの高域が神経質に聴こえることがない。ベイシーのCDで感じたのだが、ミュート・トランペットの音が輝きはあるが、一つ鋭さに欠ける……いいかえれば、高域にもう少し硬質な響きがあってもよいのかもしれない。また、CDの低音はフォノの時より、やや重苦しく弾みが悪かった。

マランツ Sc-11

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 明るく、めりはりの利いた快い音のプリアンプである。エネルギッシュで、熱っぼい響きだが、分解能がよいため、重苦しさや、押しつけがましさはなく、溌剌とした鳴り方だ。難をいえば、やや派手な傾向が強いが、荒々しくギラつくようなことがない。B&WでもJBLでも、よくスピーカーの特徴を生かしてくれたプリアンプであった。優れた物理特性に裏付けられた音でワイドレンジだが、そうした感じが表に出ない練られた音だと思う。
[AD試聴]マーラーの交響曲の色彩感を、細部まで行き届いた照明で明確に見るような鮮かな鳴り方である。打楽器の力感や、ブラスの輝きは得意とするところである。弦の質感も決してざらつかない。J・シュトラウスのワルツのリズムに乗ったしなやかな弦の歌も美しく響いた。ロージーの声も、中庸で、ハスキーな色っぽさがほどよいバランス。JBLだと彼女が10歳ほど若返った感じだが……。ベースは重厚で、しかもよく弾んでくれるのでスイングする。
[CD試聴]このアンプはADとCDの印象が違って聴こえた。ショルティのワーグナーでは、思ったより、ブラス音が明るくなく、少しもったりと響く。ジークフリート・マーチにはこのほうが適しているようにも思うのだが、他のアンプと違う鳴り方で戸惑った。B&Wの時にこの頃向が強く、JBLではこのアンプらしい透明な響きが聴けた。この辺がマッチングの微妙なところ。ベースを聴くと低域の締まりにもう一つ欲が出る。やや空虚な響きを感じるのだ。

ビクター P-L10

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプの音はコクがある。やや押しつけがましい感じがするほどである。繊細さや透明感といった面よりも、豊かさ、粘りのある質感といった印象の強い音である。だから、人によっては好みがはっきり分かれ、くどい印象として嫌われるかもしれない。開発時期が新しいものではないが、ウォームな質感は音楽の表現にとって、最新アンプにないよさもある。濃厚な質感で決して無機的な響きは出さないのだが、それだけに、やや重苦しい感触だ。
[AD試聴]それほどレンジの広さは感じないが、音がマッシヴなためオーケストラのスケールは大きく、迫力がある。これで、各音像にもう一つ輪郭の明確な彫琢のシャープさがあればよいのだが……。マーラーの再現には濃艶な味わいを聴かせる。「蝙蝠」のステージのライヴネスの透明感が不足するので、臨場感が不足する。余韻が抑えられる感じだ。ロージーの声は、いかにも年増の濃艶な色気たっぷり。ベースは重く豊かだが、弾みは悪くないのでスイングする。
[CD試聴]肉付きのたっぷりした、グラマラスな感じのする音はCDでも共通のオーケストラなどのマッシヴな厚味がよく出て、堂々と響くのはよいのだが、もう少し、透明感が欲しい。冴えとか、さわやかさといった情趣が苦手のようだ。反面、強い説得力がある音だ。B&Wより、JBLのほうが合うようで、量感のあるふくよかな音が、JBLのシャープなエッジと結びついて効果的だ。ジャズでは特にこの傾向が強くJBLは大変よく鳴った。

テクニクス SU-A4 MK2

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 淡白な味わいで、色に例えると、明るめのグレーといった感じの音である。温度でいうと20度Cぐらい。つまり、熱っぼい表現でもなければ、冷たいわけでもない。そして、音が軽目の印象でマッシヴな実体感は感じられない。高域に独特の木目の細かさがあって繊細感があるが、迫力は物足りない。絵に例えると水彩画の味わいで、決して油絵ではない。そんな印象の音である。特性のよさは感じられるのだがエネルギー感が不足しているのだろうか。
[AD試聴]ヴァイオリン群の高域に、独特のキャラククーがあって、ある種のリアリティを演出する効果があるが、少々線が細いようだ。音の出方が平板で、立体的な丸味が感じられない。空間のイメージは透明で、決してべたつかないのだが、音に実在感が不足する。いかにも日本的な、やや動物性蛋白質の不足した感じの音だ。だから、血がさわぐ情熱的な表現は苦手だが、趣味のよい端正さが特徴。ジャズよりもクラシックの静的な音楽に向く再生音である。
[CD試聴]CDらしいダイナミックレンジの広さと、がっしり安定した音の実在感が稀薄だが、反面、さわやかで押しつけがましくない音が楽しめる。物理的なダイナミックレンジは不足するわけではなく、音色から受ける印象である。ピアニッシモの透明な残響感などの再現は大変よく、SN比のよいCDの魅力を味わわせてくれる。B&WよりJBLのほうが、このアンプの特質を補って、より表現力の豊かな方にもっていってくれる。粗さのない滑らかな音だ。

エスプリ TA-E901

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 精密機械を感じさせるような緻密で、しっかりした音の造形は独特のものだ。決して冷徹な音ではないが、常に人工的な美しさの感覚がつきまとう。輝かしく磨き抜かれた貴金属をイメージアップするような音である。自然な質感とは違うが、これは、オーディオ的な美の世界として魅力的である。組み合わせるパワーアンプやスピーカーは選ばないほうで、このアンプなりの個性をしっかり発揮する。立派な作りと精緻な音をもった優秀なプリである。
[AD試聴]総合欄で書いたこのアンプの傾向は、レンジの広いオーケストラで圧倒的な威力を発揮する。ただし今回試聴したADには、ぴたっとくるものがなく、いずれもメカニカルな質感が気になった。ロンドン系の録音や電気楽器系の音楽によりマッチした音だろう。暖かく、まろやかな中低域が欲しいマーラーや、酒落た柔軟さで響いて欲しいシュトラウスなどが、少々肩肘張って固苦しい。ジャズはベースが力強く、しかも粘りもあるのでスイングする。
[CD試聴]ショルティのジークフリートのマーチは、録音の性格と演奏がよくマッチして直裁的で精緻なものだが、それがこのアンプでは圧倒的な再現が得られたクレッシェンドしてフォルティッシモに至るたくましさと激しさ、その中での音色の分解能は大したものだ。全体にいわゆるCDらしい音を聴かせるのが興味深くもあった。曖昧さを拒絶した透徹な音が、CDの特質と合っているのだろう。JBL4344とSA4によりよいマッチングである。

デンオン PRA-2000Z

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 全体にやや痩身な感じの音だが、それだけに、繊細で、さわやかな美しさがある。中低域に厚味が不足するような印象を受けるアンプ。それだけに、パワーアンプやスピーカーとのマッチングが決め手となるだろう。試聴したパワーアンプもSA4のほうがよく合う。スピーカーは、JBLがいい。曖昧さや、鈍さのないアンプだが、かといって、神経質すぎることもないし、高域のしなやかさも不満のないものだ。品位の高いプリアンプである。
[AD試聴]レーグナーのマーラーは大変美しい高域が生きて一段と洗練された演奏に聴こえる。B&Wだとやや神経質になる傾向だが、JBLでは小骨っぽさは残るものの、細かい分解能のため、オーケストラのテクスチュアーが鮮かに再現される。ローズマリー・クルーニーのハスキーさと艶っぽさがほどよくバランスした声が魅力的だし、ベースも、抑制されてボンボン野放図にならない、締まった質感の音だ。リラックスした雰囲気には欠けるが端正な音。
[CD試聴]分解能力の高い音はADへの対応と同じ性格であるが、このアンプの質感はCDでより生かされるようだ。ジークフリートのマーチにおける木管と金管の重奏部での音色の鳴らし分けは、クリアーな点、他の追従を許さない。ただ、中域の厚味が少々不足気味のためffへの盛り上りの迫力に物足りなさはある。アメリンクの声が大変明るく美しかったが、ややニュアンスが若過ぎる傾向だ。ジャズは、明解なタッチ、音色の妙の濃やかな再現だが、力が不足。

ヤマハ C-2x

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプは、情緒的な面よりも、まず、その物理特性の優れた、ワイドレンジと粒立ちのよさが印象的だ。したがって、全ての音楽的特徴に対して平均的に堅実な再生音を聴かせてくれるのがよい。しかし、裏返しに、深い思い入れや、個性の魅力といった面では物足りなさを感じるかもしれない。オーディオは物理特性の優秀さが最重点だとは解ってはいても、感性や情緒はそれだけでは満たされぬところが面白くも難しい。優等性的なアンプ。
[AD試聴]Fレンジも広く、スケールも大きいオーケストラの再生音は力感に溢れている。やや賑やかなのが高域の特徴。しかし、これは録音のせいかもしれない。東独のオーケストラにしては渋い味のある音が、派手になる傾向だ。「蝙蝠」のステージ感の拡がりや空間の豊かさにも優れた再生を聴かせるし、過不足のない音だが、もう一つ魅力に欠ける。ジャズもヴォーカルも、やや太目の印象で、力感はあるが、ベースの響きが少々重く、弾みに欠ける嫌いがある。
[CD試聴]CDの再生音はやはり全てのプログラムソースをストレートに聴かせる傾向である。CD臭さを強調するわけでもないし、かといって、丸めて無難に聴かせるわけでもない。どちらかというとJBLの方が合っていて、説得力のある再生音を楽しむことが出来る。B&Wでは、あまりに中庸的で魅力に欠けるようだ。が、B&W801Fからシンバルの硬質な響きをちゃんと聴かせた数少ないプリの一つ。ミュート・トランペットも鋭く、かつボディがある。

オンキョー Integra P-306RS

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプは、オンキョー独特のサウンドで好き嫌いがはっきり分れる音だ。つまり、プリアンプとしてはかなり個性的だが、この価格で、これだけ明確な個性の主張をもっているというのは、見方をかえれば立派だ。ベイシックな物理特性は水準以上のものだからである。立体感に富んだ音で、決してドライな響きにはならないし、粗っぼい質感も出さない。むしろ、ぽってりと太り気味の音である。それだけに暖かいし、ウェットである。
[CD試聴]CDに対してADと異なった対応が感じられる面は特になく、やはり弾力性のある太目の音だ。しかし、比較的CDが出しやすい機械的な冷たさは中和して聴かせる効果がある。ジークフリートの葬送行進曲の開始の雰囲気は壮重であり、音は分厚い。ただ、細かい弦のトレモロなどがやや不透明で、大把みな感じがする。ベイシー・バンドはピアノの冴えた輝きのある音色が丸くなり過ぎる傾向だし、ミュート・トランペットの音色の輝きもやや鈍いほう。
[AD試聴]マーラーのシンフォニーは粘りのある表現で低音の量感が豊かだし、高域のヴァイオリン群も、ギスギスしたり、ざらつくことがない。レーグナーの流麗な演奏とはやや異質だが、ユダヤ系のマーラーの音楽のもつ、一種の粘着性は効果的に表現される面があった。透明感とかデリカシーといった面には不満が残る。ロージーの声は年なみの円熟した色気があって、脂ののった濃艶な歌唱が魅力的で、こうした曲想に最適のアンプである。

ハイフォニック MC-A5B + HPA-6B

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ハイフォニツクのカートリッジは、最新の力−トリッジ技術を象徴する軽量振動系を採用した、軽針圧、広帯域、高SN比の設計が特徴であり、創業以来短期間ですでに高い評価を受けているが、今回、新製品として登場したモデルは、既発売のMC−A3、A5、A6、D10という一連の空芯高インピーダンスMC型をベースに、左右チャンネルのコイルの中点を引出して、通常のアンバランス4端子型から、業務用機器などで採用されているバランス型6端子構造を採用したMC−A3B、A5B、A6B、D10Bの4モデルで、型番末尾のBは当然のことながらバランス型の頭文字を表わしている。
 このカートリッジのバランス化に伴ない、昇圧トランスもバランス入力をもつ専用タイプが開発され、従来のRCAピンプラグ型に変わりDIN4ピン型の入力コネクターが採用されている。
 また、バランス型を採用すると最大のネックになるのはトーンアームである。この解決方法としては、デンマークのメルク研究所とハイフォニツクで共同開発したといわれる、低重心型の支点が高い位置にある一点支持オイルダンプ方式トーンアームHPA4を6端子型に改良したHPA6Bが用意されている。このアームは、一般のいわゆるオルトフォン型ヘッドシェル交換方式ではなく、回転軸受部近くにあるコネクターを含み、アームのパイプ部分を交換するタイプで、一点支持型で不可欠なラテラルバランスは、偏芯構造となっているバランスウエイトを回転させて行なうタイプである。
 今回試聴したモデルは、MC−A5Bで、原型は特集のカートリッジテストに取上げたMC−A5である。発電コイルの構造は、非磁性体の十字型コイル巷枠を使ったMC型で、センタータップは右チャンネル橙色、左チャンネル空色がピンにマーキングしてあるため、通常の左chが自/青、右chが赤/緑の端子のみを使えば、4端子型のMC−A5とほぼ同等に使えるわけだ。
 業務用機器関係でも一部では、信号系が一般オーディオ機器と同じくアンバランス化の傾向があるのに、何故オーディオ用のカートリッジのバランス化が必要なのであろうか。この疑問への簡単な解答は、バランス型の最大の特徴である『SN比が優れている』の一言につきるだろう。
 つまり、SN比が向上すれば、ローレベルでのノイズのマスキングが減少し、音に汚れが少なく、透明感、織細さが向上し、音場感的には、ノイズが少なくなっただけモヤが晴れたかのように、見通しのよいプレゼンスが得られる、ということになる。
 プレーヤーにトーレンスTD126を選び、HPA6BをセットしてMC−A5Bを聴いてみる。広帯域型の典型的なレスポンスをもつ、やや中域を抑えた爽やかな音と、ナチュラルだがコントラストが薄い傾向のMC−A5に比べて、本機は一段と表現がダイナミックになり、さして中域の薄さも感じられず、一段とナチュラルでリッチな音を聴かせる。試みに6端子中点を外しセミバランス型として比較をしたが、この差は誰にでも明瞭に判かる差だ。

マイクロ BL-99VFII

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 エアベアリング、バキュウム吸着方式のターンテーブルなどに代表されるユニークなベルトドライブプレーヤーでレコードファンの熱い支持を集めているマイクロのベーシックシステムがBL99Vであり、これに、それぞれトーンアームでは実績のある、FRとSAECのアームを組み合せたシステムが、BL99VFとBL99VWの2モデルだが、今回、このうちBL99VFに改良が加えられて、BL99VFIIに発展した。
 モデルナンバーからも推測できるように、改良のポイントはFR製のトーンアームにある。このトーンアームは、基本形は従来のFR64fxであるが、その仕上げと内部配線材、出力コードの線材を変更したタイプである。
 まず、大きく変わったのは仕上げで、従来のブラックからシルバー梨地仕上げとなり、内部の配線材は注目のLC−OFC使用になった。この点では、FRの新製品であるFR64fxProが各種の線材を試作検討した結果、LC−OFCではなく、線径を太くしたオーソドックスな軟銅線を採用した、と発表されているのと好対象で、マイクロでは独自の判断によってLC−OFC線材を選んだということになるわけだ。
 この線材の材料が、軟銅線、OFC線、LC−OFC線、それに構造面で異なるリッツ綾などの違いによって現われる、結果としての帯域バランス、音場感、スクラッチノイズの質と量の変化など、音質にかなりの影響があるだけに、この両者のアームを各種のカートリッジで比較試聴したら、さぞ面白いことであろう。
 なお、アームからの出力コードは、内部配線材と共通なLC−OFCのシールド線で、試聴用セットにはアーム部のコネクターがL型のタイプが附属していたが、正規の製品はストレートなタイプであるとのことである。
 試聴には、特集ページのカートリッジテストに使った、アキュフェーズC200LとP500のセパレート型アンプとJBL4344を組み合せ、試聴用力−トリッジはデンオンDL304、その他を使うことにした。
 試聴に先だって、BL99VFIIの4個所のインシュレーター高さ調整スクリューで水平度を調整する。最近では、この調整はあまり行なわれていないが、プレーヤーではこの調整がもっとも重要なポイントであり、ラテラルバランス、インサイドフォースキャンセラーに影響がある。
 続いて、アーム高さ調整、バランス調整を経て、針圧、インサイドフォースキャンセラー調整、これだけの調整が必要であるわけだ。次は、モーターと吸着用ポンプのACポラリティチェックだ。とくに、ポンプは無視しがちだが、これが、予想外に大きく音質に影響する。簡単にチェックポイントを述べれば、音場感がきれいに拡がり、とくに奥行きの見通しがよく、スッキリとした音を選ぶのがポイントだ。
 BL99VFIIは、ベルト駆動型独特なリッチな低域ベースの安定感のある音と抜けの良い高域がバランスした好製品である。

京セラ A-710

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 京セラのセパレート型アンプは、独自の振動解析に基づいた筐体構造を採用して登場した、オリジナリティ豊かな特徴があるが、今回発売されたA710は、プリメインアンプとして同社初の国内発売モデルである。ちなみに、一昨年度のオーディオフェアで発表されたプリメインアンプは、基本構造が共通のため見誤りやすいが、あのモデルはセパレート型アンプなどと同じ910のモデルナンバーを持つ本機の上級モデルA910であり、既に輸出モデルとして海外では発売されており、本機に続いて国内でも発売されるようだ。
 A710は、A910のジュニアタイプとして開発されたモデルで、外観上では、筐体両サイドがアルミパネルから木製に変わっているのが特徴である。基本的に共通の筐体を採用しているため、回路構成にも共通点が多いが、単なるジュニアモデル的な開発ではなく、シンプル・イズ・ベストのセオリーに基づいて、思い切りの良い簡略化が実行されている点に注目したい。
 それはこのクラスのプリメインアンプには機能面で必須の要素とされていた、バランスコントロールとモードセレクターを省略し、信号系路でのスイッチ、ボリュウムなどの接点数を少なくし、配線材の短略化などにより信号系の純度を保つ基本ポリシーに見受けられる。つまり、一般的な最近の機能であるラインストレートスイッチとかラインダイレクトスイッチと呼ばれるスイッチを動作させたときと、本機の標準信号経路が同じということだ。
 さらに同じ構想を一歩進めたダイレクトイン機能が備わる。この端子からの入力は、ボリュウム直前のスイッチに導かれており、0dBゲインのトーンアンプをバイパスさせれば、信号はダイレクトにパワーアンプに入る。簡単に考えれば、ボリュウム付のパワーアンプという非常に単純な使用方法が可能というわけだ。
 出力系も同じ思想で、パワーアンプは出力部に保護用、ミュート用のリレーがなく、回路で両方の機能を補っており、信号はリレー等の接点を通らずダイレクト出力端子に行き、その後にスピーカーAB切替をもつ設計だ。
 その他、MC型昇圧にはトランスを使用、左右対称レイアウトの採用、信号系配線にLC−OFCケーブル採用などが特徴。
 試聴アンプは、検査後のエージング不足のようで、通電直後はソフトフォーカスの音だったが、次第に目覚めるように音に生彩が加わり、比較的にキャラクターが少ない安定した正統派のサウンドになってくる。帯域は素直な伸びとバランスを保ち、低域の安定感も十分だろう。このあたりは独特の筐体構造の明らかなメリットだ。また、信号の色づけが少ないのは、簡潔な信号系の効果だ。華やかさはないが内容は濃い。

パイオニア PD-7010

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 CDプレーヤーとしては、パイオニアの第3世代に相当する一連のシリーズ製品のうち、まず、PD5010とPD7010が発売されたが、本誌が書店に並ぶころには、トップモデルのPD9010も発売されていることであろう。
 今回の新製品は、外形寸法的に、いわゆる標準コンポーネントサイズであり、上の2モデルはサイドに木製の側板が付属し、横幅は456mmとなっている。
 今回試聴したモデルは、中間機種のPD7010である。ベーシックモデルらしくディスプレイ関係や機能を簡潔にしたPD5010に比べ、本磯は非常に充実した機能が特徴だ。
 付属機能は、そのポイントが、カセットデッキでのコピーに重点が絞られている。付属のワイヤレスリモコンと本体のパネル面の両方にある10キーによる32曲プログラム機能、プログラム曲番が点灯するトラックディスプレイ、プログラム積算時間表示、プログラム曲をテープA面とB面に分けてコピーしたり、カラオケで歌う人が交替する間をとるときなどに役立つポーズ・プログラム機能をはじめ、全曲、プログラム、1曲のリピート機能、最初の数秒は5倍速以後は20倍速の2速正逆マニュアルサーチ、ディスクローディング後、約4秒、総曲数総演奏時間を表示、以後、演奏曲番、インデックス番号、演奏時間を表示し、タイムリメイン、トータルの時間表示切替可能な集中マルチディスプレイ、ヘッドフォン端子など、実に多彩な機能を備えている。
 技術面では、LDでの技衛を活かした独自のフォーカスパラドライブ機構、クロスパラレル支持方式などを導入した自社開発のピックアップ系、ディスクのキズや汚れによる音飛びを抑える3ビーム方式ならではのリニアサーボ方式と、万一のトラック飛びにも元のトラックに自動復帰するラストアドレスメモリーなどがあり、なかでも特徴的なものは、CDディスクの不要振動を抑えるために振動解析されたクランパーを積極的に利用したディスクスタビライザー採用があげられる。
 このスタビライザーにより、低域大振幅の不要振動が中域に移り、振幅も大幅に減少し、非常に効果的に働いているようだ。その他、サーボ系とオーディオ系別巻線の強力電源、アンプでの成果を活かしたシンプル&ストレート回路採用なども特徴だ。
 CD装着、演奏開始での音の立上がりは比較的穏やかなタイプで、自然な立上がりだ。帯域バランスは、柔らかな低域、豊かな中低域に特徴がある素直なタイプで、高域は派手さはなくナチュラルだ。音色は少し暖色系で表情も適度に活気があり、基本性能に裏付けされたクォリティと、楽しく音楽を聴かせる魅力が巧みに両立した成果は見事。CD嫌いには必聴の注目製品だ。

イケダ Ikeda 9

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、ナチュラルな帯域バランスと穏やかで安定した音を聴かせるが、一次試聴時のような安定感、重厚さが感じられない。垂直系でダイレクトにスタイラスがコイルを駆動する独自のメカニズムをもつだけに、リジッドな構造であう、かつ十分な質量があるターンテーブルとダイナミックバランス型のトーンアームがこの製品には必要であろう。フローティング構造と平均的な慣性モーメントをもつTD226とSM3012Rの組合せは、あまり好ましくない例であろう。
 針圧を増し、本来のダイレクトさを追いかけてみる。針圧2・8g、IFC2・8では、反応が鈍く、針圧2・75g、IFC2・5でかなり密度感が出てくる。針圧2・65g、IFC量2・3が、このプレーヤーでのベストサウンドだ。厚みある充実した低域をベースに、密度感のある中域、素直な高域が程よくバランスし、安定したリッチな音を聴かせる。反応は基本的に穏やかなタイプで、重量級MC型独特の彫りの探さと、このタイプ独自の音溝を忠実に拾う印象の音が個性的である。
 なお、垂直系振動子をもつカートリッジは、一般的なタイプに比べ、アームの水平度は正確に調整する必要がある点を注意したい。また、振動系がフリーな構造をもつために、ヘッドシェルの傾きにも敏感だ。
 簡単に誰でも使えるカートリッジではないが、針圧とIFC量を細かく組み合せて追込めば、これならではの音の魅力が判かるだろう。個性的な手造りの味だ。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
大村 いかにもダイレクトな感じの音ですね。強勒で、音が生き生きしている。小編成のものを非常にリアルに聴いてみたい気もしますが、ブラームスの第4番の三楽章の、魂の乱舞が、どれだけの表現の幅をもって鳴ってくれるかに興味が向いてしまった。ただし、ややミスマッチな感じで、重厚で、陰影の濃い音というより、きつい音です。もう少し穏やかになれば、ものすごくよくなる気もします。
井上 針圧とインサイドフォースはすでに、ベストのところに合わせてあるので、トランスの置きかたで調整します。トランスは置き台の影響と同じくらい、その向きで音が変わる。地磁気の影響のせいだと思いますが、ひどく音が濁ることもあるのです。トランスをいろいろ動かしいいポジションを見つけたところで、XF1の下に2枚折りした厚手のフェルトをひいてみました。
大村 フェルトも、1枚よりも2枚の方が穏やかで、非常に音が静かに聴こえます。
井上 このくらいのカートリッジになると、アームはダイナミックバランスを使いたいところです。3012Rならオイルダンプを併用してみるのもひとつの手です。全体に音が穏やかになり、針圧、インサイドフォースの調整も少しは楽になるでしょう。

デンオン DL-1000A

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 使用アームは、SME3009SIIIである。標準針圧では、素直な帯域バランスをもつ、柔らかく細やかで、滑らかな音だ。スクラッチノイズは安定しているが、表情が表面的に流れ、奥に拡がる音場感だ。
 0・9gで音に焦点が合ってくる。粒立ちが細やかで、軽く柔らかい低域と少しメタリックな中高域がバランスした、デジタル的なイメージをも持つ近代的な音だ。
 0・7gにする。スクラッチは少し浮くが、予想よりも爽やかで0・9gと対照的なバランスだ。フワッと奥に拡がる音場感は独特で面白いが、実用的ではない音。
 0・85gで、0・8gよりも僅かに穏やかで安定した一応のバランスが得られる。音場感も標準的で針圧はこれに決める。
 IFC量を変え1・0とすると、音が少し硬質となり、レコードらしい印象にはなるが、少し古い音に聴こえる。0・9に減らすと、穏やかさが加わり、好ましいが、IFCを調整する糸吊りの錘のフラツキが定位感、音場感に悪影響を与えることが確認できる。これは、いわゆるSME型で、軽針圧動作時に気になる点である。
 逆に、IFC量を0・7に下げる。スクラッチノイズの質、量ともにかなり優れた水準にあり、広帯域型で、やや中高域にメタリックさがある。軽量級ならではのクリアーさ、プレゼンスの良さが活かされた極めて水準の高い音である。
 このメタリックさは、トーンアーム側のヘッドシェル部、指かけ、パイプ材料とも関係があるが、現状ではこれがベスト。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ハイドン:六つの三重奏曲/クイケン]
大村 軽くて、細身で、すっきりと見通しのいい音ですが、この曲だと、ちょっと軽すぎるように思います。イタリアン・バロックといえるくらいに軽い。少しひなびた感じが欲しいです。
井上 スタビライザーを試してみたわけですが、その効果がPL7Lの場合と多少異なります。スタビライザーをのせることでフローティングベースの重量が変わるため、スタビライザーの材質の音の他にスタビライザーの重量が大きく効いてきます。
大村 いろいろと試した中では、いちばん重量のあるマイクロがよかった。安定感がぐっと増して、軽すぎるところが気にならなくなりました。ただ、マイクロのメタリックな音がやや気になりますけど……。
井上 メタリックな感じは、カートリッジとシェルの間にブチルゴムをひとかけらはさんでやれば、消えるでしょう。TD226で注意してほしいのは、フローティング型だからといっていいかげんな台に置かないでください。フローティングの効果はすべての周波数に対してあるわけではありませんから。今回は、試してみませんでしたが、ヤマハの台の上に3mm厚くらいのフェルトや5mm厚くらいのコルクを敷いてやれば、相当効果はあるはずです。

ハイフォニック MC-A5

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・2gから試聴を始める。音の粒子は細かく、スッキリと磨き込まれており、音の分解能も十分に高く、いかにも軽量振動系を採用したカートリッジらしいディフィニッションの優れた音である。聴感上での帯域バランスはほぼフラットな広帯域型で、マイクロのプレーヤーでの試聴時と比べ、クリアーな抜けの良さが目立ち、音が遠く、スピーカーの奥に引込んで聴かれたことや、表面的になりやすい表現とならないのは、カートリッジに相応しい軽量級アームとの組み合せのメリットであろう。
 針圧を1・1gに下げてみる。爽やかで伸びやかなプレゼンスは好ましいが、全体にオーケストラが軽量級となり、楽器の数が少なく、整理された音になる。そこで、逆に1・25gに針圧を上げてみる。標準針圧時に比べ、低域の厚みは加わるが、ホールの天井が低くなったような印象があり、少し重さが気になる。
 IFCを1・25から1・2程度に軽くしてみる。重い印象が薄らぎ、音も少しスッキリとする。そこで、置台上でプレーヤーを少し寄せ、反応の早さを求める。少し低域軟調傾向が残るが、これがベターだ。
 ヘッドアンプから昇圧トランスとする。音に安定度が加わり、密度感が一段と向上して質的に高い音に変わる。トランスのメリットを活かした音だ。再び、針圧とIFCを細かく振ってみると、変化は穏やかでスムーズであり、本来の軽さを活かした音場感型から、輪郭型まで、それぞれの音の変化は楽しい。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ロッシーニ:弦楽のためのソナタ集]
大村 これみよがしなところがない音で、好感のもてるカートリッジですが、ロッシーニを聴くとチェロとコントラバスの、特に低域での音の違いがもう少し鮮明に出てきてほしいように思います。
井上 そこで、ブリアンプ内蔵のヘッドアンプで聴いていたのを、専用トランスHP−T7で昇圧してみます。トランスはナロウレンジではありませんが、極端なまでには低域と高域が伸びてません。一種のバンドパスフィルター的な働きをするため、トランスを使うと中域が充実してきます。
大村 トランスにしますと、チェロ、コントラバスの、器の重量が感じられるようになり、落ちついて聴けるようになりましたが、ヘッドアンプの時に比べ、ちょっと音の見通しが悪くなったような気もします。
井上 昇圧手段をトランスに変えましたので、再度針圧とインサイドフォースを調整してみますと、針圧はそのままで、インサイドフォースを1・25にすると、音の拡がりが出て、見通しがよくなりました。
大村 この状態で、ロッシーニの音楽に不可欠なかろやかさと華やかさが、素直に出てきてくれます。もうすこし、重量感がほしい気もしますが、雰囲気的にまとまった印象で、これはこれでいいと思います。

オーディオテクニカ AT33ML

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・5gから、上限の1・8g下限の1・2gの範囲で、0・1gステップで丹念に追込んでみる。結果としては、安定感のある低域をベースに適度なクリアーさと、音場感のある音を求めれば、針圧1・8gがベストサウンドである。サラッとした、軽快さのある、反応の速い音と、キレイに拡がるプレゼンスや抜けの良さを求めれば、針圧1・3gが良いという、解答は2つに分かれた結果である。
 基本的に、試聴に使った2種類のプレーヤーと、同じSMEながら内容の違ったアームとのマッチングの問題があるのだろう。
 ここでは、プレーヤーの性質から、安定型よりも、音場感型を目指して、針圧1・3gを採りたい。このプレゼンスを活かしながら質感を向上させ、緻密さが出てくれば最高である。まず、プレーヤー置台上にジュウタンの残りを敷いてみるが、材質が悪くNGだ。では、ヘッドシェルまわりを調べよう。取付け、ネジをアルミ製から真チュウ製に変え、しっかりと絡めつけてみる。これで低域の質感が向上し、弦の浮きが収まる。次に置台上での移動で追込む。中央でもかなり鮮度感があり、柔らかさもある良い音だが、右側に寄せ、前から20mmあたりが反応も速く良い。ここで、再びIFCを僅かに減らし1・25とする。これで、音場感的な、左右の拡がり前後方向の奥行きも十分な良い雰囲気となるが、やや低域の質感が軟調となり、表現が甘くなるため、4344の後側のキューブを約20mm押込み低域を締めて完了とする。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ウィズ・ラブ/ローズマリー・クルーニー]
大村 しっとりした女性ヴォーカルですと、低域がやややわらかめで、穏やかな感じの、この音でもいいと思いますが、このレコードは4ビートのジャズですから、もっとスイングしてほしい。ローズマリー・クルーニーも年増の女性ですから、すこし音に鮮度感をもたせないと必要以上にダレるような気もします。
井上 今度もスタビライザーを試してみました。使用したのは、ソニーのときと同じ、オーディオクラフトのSD45、デンオンのDL1000Aに付属のもの、マイクロのST10の三つです。
大村 三つのスタビライザーの基本的な音の傾向は、先ほどと同じで、デンオン、オーディオクラフトはリズムがダレるところがあります。ST10はメタリックなところが、音の芯をくっきりさせる方向にうまく働き、ダイナミックなリズムの表現がすっきりと聴けるようになりました。そして、この状態で右奥に置いてみると、ほどほどの音の伸びが出てきて、ダイナミックな感じがさらに増したようです。やや4344をモニターライクに聴くには線が太いかもしれないけど、決してダレることのないこの音は、ローズマリー・クルーニーの年齢に相応しいかと思います。

ソニー XL-MC7

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・5g、インサイドフォースキャンセラー(IFC)1・5でスタートする。中途半端な表情があるため、1・6g(針圧のみ記した場合は、IFCも同量)に増すと、安定感は増すが、重く、反応が鈍くなるため、逆に針圧1・4gに下げる。反応に富み、プレゼンスの良さが目立つ音で、これはかなり良い音だ。
 試みに、針圧はこれに決め、IFCを変えてみる。IFC1・3に減らすと、音の輪郭がクッキリとしたアナログディスクらしい音になるが、音場感的には少し拡がり不足だ。そこで逆に、IFCを1・5にふやす。音場感的な拡がりはグンと拡がり、少しコントラストは薄くなるが、カートリッジのキャラクターから考えればこれがベターだと思う。
 では、音の輪郭をクッキリさせるためにスピーカーのセッティングで追込んでみよう。木製キューブを3個使った置き方が標準のため、まず、前の2個を45度方向内側に10mm入れてみる。穏やかさが出てくる。これは逆効果でダメだ。次に、後の1個を10mm内側に入れる。低域が引締まり、全体に音がクッキリして、これで決まりだ。
 アル・ジャロウを試す。まだ、反応が遅いため、スタビライザーを使うが、クラフトSD45は、柔らかく雰囲気型の響きとなり、マイクロST10は輪郭強調型で、クッキリとはするが、少しメタリックで結果はNG。次に、置台上でプレーヤーを移動してみる。右奥に置くと、反応が早く、適度に弾む楽しい音になる。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ハイ・クライム/アルジャロウ]
大村 切れ味のいい音ですが、線が細く、アル・ジャロウの声が子供っぼく聴こえる。もう少し力強さが欲しい気もします。
井上 そこでスタビライザーを試してみることにしましたが、スタビライザーを使うことは、レコードの音にスタビライザーの材質の音をつけ加えることですから、必ずしもプラスの方向に作用するとは限らない。
大村 三種のスタビライザーを聴いたわけですが、暖色系の音になり、湿っぽいものや、表情が抑えられた感じで、メリハリがきかなくなるもの、メリハリはありますが、音ののびやかさを抑えたりで、結局外した状態が、晴々としているようです。
井上 そこでプレーヤーを置く位置を変え音の傾向をコントロールしてみます。ラックのセンターにあったのを、一番強度のとれている右奥に置いてみると、全体にソリッドになって、音の反応が速くなり、ほぼ満足すべき音になりました。
大村 試しに左手前に置いてみると、柔らかくてソフトで、反応が遅くなり、アル・ジャロウの音楽にはマッチしないようです。右奥に置くことで、音の押し出しの強さといったものはないけども、反応の速さが出て、ソリッドで引き締まって、このカートリッジでの妥協線でしょう。

イケダ Ikeda 9

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、骨組みのシッカリとした安定で重厚さのある音だ。反応は穏やかで、拡がりはまあ標準的だろう。
 針圧上限は、安定ではあるが反応が鈍く、ダイレクトな魅力に欠ける音だ。針圧下限では、少し音が浮く印象があるが、軽い感じもあり、IFCを2・0とすると一応の水準となり、雰囲気もあり良い。標準針圧プラスでダイレクト型ならではの音を追う。針圧で低域をベースとした質感と反応の速さをさがし、IFCで音場感的プレゼンスを狙う。特殊なメカニズムをもつだけに、変化は激しいが、判定は容易である。針圧2・5g、IFC量2・25でまとまる。音溝を正確に拾う音で、音場感もあり、これは他では求められない種類の音。
 ファンタジアは、針圧2・65g、IFC量2・5がベスト。抜けが良く、爽やかでスケールも大きい。アル・ジャロウは、上記の値で、やや抑えた印象が音にあるが、力感もあり、一応の水準を保つ。

デンオン DL-1000A

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧ではスクラッチノイズの量が少なく、質的にも非常に高いのが特徴。広帯域型でナチュラルに伸びきった帯域感と歪み感のない音色、少し奥に距離感を伴って拡がる音場感など軽量級独自の音の世界だ。表情は抑制が利き、線を細く、キレイに聴かせるが、ダイナミックさと見通しの良さは、今一歩不足だ。
 針圧上限では、音の焦点が合い、安定さ、分解能が明らかに向上し、音場感もナチュラルで奥行きのタップリした点は特筆に催する。音色は軽く、反応も適度で、力不足もなく、オルトフォンSPU GOLD/GEの対比的な音だが、リアリティのみ不足気味であるのが残念だ。
 針圧下限では、軽やかなプレゼンスをもつ、独特の雰囲気のある音が魅力的だが、低域の質感が軟調となり、音源が遠く、見通しが悪いのは、組み合せたトーンアームの慣性モーメントが、このカートリッジの要求する針圧に対して過大なためだ。