Category Archives: 国内ブランド - Page 18

マイクロ BL-99VFII

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 エアベアリング、バキュウム吸着方式のターンテーブルなどに代表されるユニークなベルトドライブプレーヤーでレコードファンの熱い支持を集めているマイクロのベーシックシステムがBL99Vであり、これに、それぞれトーンアームでは実績のある、FRとSAECのアームを組み合せたシステムが、BL99VFとBL99VWの2モデルだが、今回、このうちBL99VFに改良が加えられて、BL99VFIIに発展した。
 モデルナンバーからも推測できるように、改良のポイントはFR製のトーンアームにある。このトーンアームは、基本形は従来のFR64fxであるが、その仕上げと内部配線材、出力コードの線材を変更したタイプである。
 まず、大きく変わったのは仕上げで、従来のブラックからシルバー梨地仕上げとなり、内部の配線材は注目のLC−OFC使用になった。この点では、FRの新製品であるFR64fxProが各種の線材を試作検討した結果、LC−OFCではなく、線径を太くしたオーソドックスな軟銅線を採用した、と発表されているのと好対象で、マイクロでは独自の判断によってLC−OFC線材を選んだということになるわけだ。
 この線材の材料が、軟銅線、OFC線、LC−OFC線、それに構造面で異なるリッツ綾などの違いによって現われる、結果としての帯域バランス、音場感、スクラッチノイズの質と量の変化など、音質にかなりの影響があるだけに、この両者のアームを各種のカートリッジで比較試聴したら、さぞ面白いことであろう。
 なお、アームからの出力コードは、内部配線材と共通なLC−OFCのシールド線で、試聴用セットにはアーム部のコネクターがL型のタイプが附属していたが、正規の製品はストレートなタイプであるとのことである。
 試聴には、特集ページのカートリッジテストに使った、アキュフェーズC200LとP500のセパレート型アンプとJBL4344を組み合せ、試聴用力−トリッジはデンオンDL304、その他を使うことにした。
 試聴に先だって、BL99VFIIの4個所のインシュレーター高さ調整スクリューで水平度を調整する。最近では、この調整はあまり行なわれていないが、プレーヤーではこの調整がもっとも重要なポイントであり、ラテラルバランス、インサイドフォースキャンセラーに影響がある。
 続いて、アーム高さ調整、バランス調整を経て、針圧、インサイドフォースキャンセラー調整、これだけの調整が必要であるわけだ。次は、モーターと吸着用ポンプのACポラリティチェックだ。とくに、ポンプは無視しがちだが、これが、予想外に大きく音質に影響する。簡単にチェックポイントを述べれば、音場感がきれいに拡がり、とくに奥行きの見通しがよく、スッキリとした音を選ぶのがポイントだ。
 BL99VFIIは、ベルト駆動型独特なリッチな低域ベースの安定感のある音と抜けの良い高域がバランスした好製品である。

京セラ A-710

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 京セラのセパレート型アンプは、独自の振動解析に基づいた筐体構造を採用して登場した、オリジナリティ豊かな特徴があるが、今回発売されたA710は、プリメインアンプとして同社初の国内発売モデルである。ちなみに、一昨年度のオーディオフェアで発表されたプリメインアンプは、基本構造が共通のため見誤りやすいが、あのモデルはセパレート型アンプなどと同じ910のモデルナンバーを持つ本機の上級モデルA910であり、既に輸出モデルとして海外では発売されており、本機に続いて国内でも発売されるようだ。
 A710は、A910のジュニアタイプとして開発されたモデルで、外観上では、筐体両サイドがアルミパネルから木製に変わっているのが特徴である。基本的に共通の筐体を採用しているため、回路構成にも共通点が多いが、単なるジュニアモデル的な開発ではなく、シンプル・イズ・ベストのセオリーに基づいて、思い切りの良い簡略化が実行されている点に注目したい。
 それはこのクラスのプリメインアンプには機能面で必須の要素とされていた、バランスコントロールとモードセレクターを省略し、信号系路でのスイッチ、ボリュウムなどの接点数を少なくし、配線材の短略化などにより信号系の純度を保つ基本ポリシーに見受けられる。つまり、一般的な最近の機能であるラインストレートスイッチとかラインダイレクトスイッチと呼ばれるスイッチを動作させたときと、本機の標準信号経路が同じということだ。
 さらに同じ構想を一歩進めたダイレクトイン機能が備わる。この端子からの入力は、ボリュウム直前のスイッチに導かれており、0dBゲインのトーンアンプをバイパスさせれば、信号はダイレクトにパワーアンプに入る。簡単に考えれば、ボリュウム付のパワーアンプという非常に単純な使用方法が可能というわけだ。
 出力系も同じ思想で、パワーアンプは出力部に保護用、ミュート用のリレーがなく、回路で両方の機能を補っており、信号はリレー等の接点を通らずダイレクト出力端子に行き、その後にスピーカーAB切替をもつ設計だ。
 その他、MC型昇圧にはトランスを使用、左右対称レイアウトの採用、信号系配線にLC−OFCケーブル採用などが特徴。
 試聴アンプは、検査後のエージング不足のようで、通電直後はソフトフォーカスの音だったが、次第に目覚めるように音に生彩が加わり、比較的にキャラクターが少ない安定した正統派のサウンドになってくる。帯域は素直な伸びとバランスを保ち、低域の安定感も十分だろう。このあたりは独特の筐体構造の明らかなメリットだ。また、信号の色づけが少ないのは、簡潔な信号系の効果だ。華やかさはないが内容は濃い。

パイオニア PD-7010

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 CDプレーヤーとしては、パイオニアの第3世代に相当する一連のシリーズ製品のうち、まず、PD5010とPD7010が発売されたが、本誌が書店に並ぶころには、トップモデルのPD9010も発売されていることであろう。
 今回の新製品は、外形寸法的に、いわゆる標準コンポーネントサイズであり、上の2モデルはサイドに木製の側板が付属し、横幅は456mmとなっている。
 今回試聴したモデルは、中間機種のPD7010である。ベーシックモデルらしくディスプレイ関係や機能を簡潔にしたPD5010に比べ、本磯は非常に充実した機能が特徴だ。
 付属機能は、そのポイントが、カセットデッキでのコピーに重点が絞られている。付属のワイヤレスリモコンと本体のパネル面の両方にある10キーによる32曲プログラム機能、プログラム曲番が点灯するトラックディスプレイ、プログラム積算時間表示、プログラム曲をテープA面とB面に分けてコピーしたり、カラオケで歌う人が交替する間をとるときなどに役立つポーズ・プログラム機能をはじめ、全曲、プログラム、1曲のリピート機能、最初の数秒は5倍速以後は20倍速の2速正逆マニュアルサーチ、ディスクローディング後、約4秒、総曲数総演奏時間を表示、以後、演奏曲番、インデックス番号、演奏時間を表示し、タイムリメイン、トータルの時間表示切替可能な集中マルチディスプレイ、ヘッドフォン端子など、実に多彩な機能を備えている。
 技術面では、LDでの技衛を活かした独自のフォーカスパラドライブ機構、クロスパラレル支持方式などを導入した自社開発のピックアップ系、ディスクのキズや汚れによる音飛びを抑える3ビーム方式ならではのリニアサーボ方式と、万一のトラック飛びにも元のトラックに自動復帰するラストアドレスメモリーなどがあり、なかでも特徴的なものは、CDディスクの不要振動を抑えるために振動解析されたクランパーを積極的に利用したディスクスタビライザー採用があげられる。
 このスタビライザーにより、低域大振幅の不要振動が中域に移り、振幅も大幅に減少し、非常に効果的に働いているようだ。その他、サーボ系とオーディオ系別巻線の強力電源、アンプでの成果を活かしたシンプル&ストレート回路採用なども特徴だ。
 CD装着、演奏開始での音の立上がりは比較的穏やかなタイプで、自然な立上がりだ。帯域バランスは、柔らかな低域、豊かな中低域に特徴がある素直なタイプで、高域は派手さはなくナチュラルだ。音色は少し暖色系で表情も適度に活気があり、基本性能に裏付けされたクォリティと、楽しく音楽を聴かせる魅力が巧みに両立した成果は見事。CD嫌いには必聴の注目製品だ。

イケダ Ikeda 9

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧では、ナチュラルな帯域バランスと穏やかで安定した音を聴かせるが、一次試聴時のような安定感、重厚さが感じられない。垂直系でダイレクトにスタイラスがコイルを駆動する独自のメカニズムをもつだけに、リジッドな構造であう、かつ十分な質量があるターンテーブルとダイナミックバランス型のトーンアームがこの製品には必要であろう。フローティング構造と平均的な慣性モーメントをもつTD226とSM3012Rの組合せは、あまり好ましくない例であろう。
 針圧を増し、本来のダイレクトさを追いかけてみる。針圧2・8g、IFC2・8では、反応が鈍く、針圧2・75g、IFC2・5でかなり密度感が出てくる。針圧2・65g、IFC量2・3が、このプレーヤーでのベストサウンドだ。厚みある充実した低域をベースに、密度感のある中域、素直な高域が程よくバランスし、安定したリッチな音を聴かせる。反応は基本的に穏やかなタイプで、重量級MC型独特の彫りの探さと、このタイプ独自の音溝を忠実に拾う印象の音が個性的である。
 なお、垂直系振動子をもつカートリッジは、一般的なタイプに比べ、アームの水平度は正確に調整する必要がある点を注意したい。また、振動系がフリーな構造をもつために、ヘッドシェルの傾きにも敏感だ。
 簡単に誰でも使えるカートリッジではないが、針圧とIFC量を細かく組み合せて追込めば、これならではの音の魅力が判かるだろう。個性的な手造りの味だ。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
大村 いかにもダイレクトな感じの音ですね。強勒で、音が生き生きしている。小編成のものを非常にリアルに聴いてみたい気もしますが、ブラームスの第4番の三楽章の、魂の乱舞が、どれだけの表現の幅をもって鳴ってくれるかに興味が向いてしまった。ただし、ややミスマッチな感じで、重厚で、陰影の濃い音というより、きつい音です。もう少し穏やかになれば、ものすごくよくなる気もします。
井上 針圧とインサイドフォースはすでに、ベストのところに合わせてあるので、トランスの置きかたで調整します。トランスは置き台の影響と同じくらい、その向きで音が変わる。地磁気の影響のせいだと思いますが、ひどく音が濁ることもあるのです。トランスをいろいろ動かしいいポジションを見つけたところで、XF1の下に2枚折りした厚手のフェルトをひいてみました。
大村 フェルトも、1枚よりも2枚の方が穏やかで、非常に音が静かに聴こえます。
井上 このくらいのカートリッジになると、アームはダイナミックバランスを使いたいところです。3012Rならオイルダンプを併用してみるのもひとつの手です。全体に音が穏やかになり、針圧、インサイドフォースの調整も少しは楽になるでしょう。

デンオン DL-1000A

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 使用アームは、SME3009SIIIである。標準針圧では、素直な帯域バランスをもつ、柔らかく細やかで、滑らかな音だ。スクラッチノイズは安定しているが、表情が表面的に流れ、奥に拡がる音場感だ。
 0・9gで音に焦点が合ってくる。粒立ちが細やかで、軽く柔らかい低域と少しメタリックな中高域がバランスした、デジタル的なイメージをも持つ近代的な音だ。
 0・7gにする。スクラッチは少し浮くが、予想よりも爽やかで0・9gと対照的なバランスだ。フワッと奥に拡がる音場感は独特で面白いが、実用的ではない音。
 0・85gで、0・8gよりも僅かに穏やかで安定した一応のバランスが得られる。音場感も標準的で針圧はこれに決める。
 IFC量を変え1・0とすると、音が少し硬質となり、レコードらしい印象にはなるが、少し古い音に聴こえる。0・9に減らすと、穏やかさが加わり、好ましいが、IFCを調整する糸吊りの錘のフラツキが定位感、音場感に悪影響を与えることが確認できる。これは、いわゆるSME型で、軽針圧動作時に気になる点である。
 逆に、IFC量を0・7に下げる。スクラッチノイズの質、量ともにかなり優れた水準にあり、広帯域型で、やや中高域にメタリックさがある。軽量級ならではのクリアーさ、プレゼンスの良さが活かされた極めて水準の高い音である。
 このメタリックさは、トーンアーム側のヘッドシェル部、指かけ、パイプ材料とも関係があるが、現状ではこれがベスト。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ハイドン:六つの三重奏曲/クイケン]
大村 軽くて、細身で、すっきりと見通しのいい音ですが、この曲だと、ちょっと軽すぎるように思います。イタリアン・バロックといえるくらいに軽い。少しひなびた感じが欲しいです。
井上 スタビライザーを試してみたわけですが、その効果がPL7Lの場合と多少異なります。スタビライザーをのせることでフローティングベースの重量が変わるため、スタビライザーの材質の音の他にスタビライザーの重量が大きく効いてきます。
大村 いろいろと試した中では、いちばん重量のあるマイクロがよかった。安定感がぐっと増して、軽すぎるところが気にならなくなりました。ただ、マイクロのメタリックな音がやや気になりますけど……。
井上 メタリックな感じは、カートリッジとシェルの間にブチルゴムをひとかけらはさんでやれば、消えるでしょう。TD226で注意してほしいのは、フローティング型だからといっていいかげんな台に置かないでください。フローティングの効果はすべての周波数に対してあるわけではありませんから。今回は、試してみませんでしたが、ヤマハの台の上に3mm厚くらいのフェルトや5mm厚くらいのコルクを敷いてやれば、相当効果はあるはずです。

ハイフォニック MC-A5

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・2gから試聴を始める。音の粒子は細かく、スッキリと磨き込まれており、音の分解能も十分に高く、いかにも軽量振動系を採用したカートリッジらしいディフィニッションの優れた音である。聴感上での帯域バランスはほぼフラットな広帯域型で、マイクロのプレーヤーでの試聴時と比べ、クリアーな抜けの良さが目立ち、音が遠く、スピーカーの奥に引込んで聴かれたことや、表面的になりやすい表現とならないのは、カートリッジに相応しい軽量級アームとの組み合せのメリットであろう。
 針圧を1・1gに下げてみる。爽やかで伸びやかなプレゼンスは好ましいが、全体にオーケストラが軽量級となり、楽器の数が少なく、整理された音になる。そこで、逆に1・25gに針圧を上げてみる。標準針圧時に比べ、低域の厚みは加わるが、ホールの天井が低くなったような印象があり、少し重さが気になる。
 IFCを1・25から1・2程度に軽くしてみる。重い印象が薄らぎ、音も少しスッキリとする。そこで、置台上でプレーヤーを少し寄せ、反応の早さを求める。少し低域軟調傾向が残るが、これがベターだ。
 ヘッドアンプから昇圧トランスとする。音に安定度が加わり、密度感が一段と向上して質的に高い音に変わる。トランスのメリットを活かした音だ。再び、針圧とIFCを細かく振ってみると、変化は穏やかでスムーズであり、本来の軽さを活かした音場感型から、輪郭型まで、それぞれの音の変化は楽しい。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ロッシーニ:弦楽のためのソナタ集]
大村 これみよがしなところがない音で、好感のもてるカートリッジですが、ロッシーニを聴くとチェロとコントラバスの、特に低域での音の違いがもう少し鮮明に出てきてほしいように思います。
井上 そこで、ブリアンプ内蔵のヘッドアンプで聴いていたのを、専用トランスHP−T7で昇圧してみます。トランスはナロウレンジではありませんが、極端なまでには低域と高域が伸びてません。一種のバンドパスフィルター的な働きをするため、トランスを使うと中域が充実してきます。
大村 トランスにしますと、チェロ、コントラバスの、器の重量が感じられるようになり、落ちついて聴けるようになりましたが、ヘッドアンプの時に比べ、ちょっと音の見通しが悪くなったような気もします。
井上 昇圧手段をトランスに変えましたので、再度針圧とインサイドフォースを調整してみますと、針圧はそのままで、インサイドフォースを1・25にすると、音の拡がりが出て、見通しがよくなりました。
大村 この状態で、ロッシーニの音楽に不可欠なかろやかさと華やかさが、素直に出てきてくれます。もうすこし、重量感がほしい気もしますが、雰囲気的にまとまった印象で、これはこれでいいと思います。

オーディオテクニカ AT33ML

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・5gから、上限の1・8g下限の1・2gの範囲で、0・1gステップで丹念に追込んでみる。結果としては、安定感のある低域をベースに適度なクリアーさと、音場感のある音を求めれば、針圧1・8gがベストサウンドである。サラッとした、軽快さのある、反応の速い音と、キレイに拡がるプレゼンスや抜けの良さを求めれば、針圧1・3gが良いという、解答は2つに分かれた結果である。
 基本的に、試聴に使った2種類のプレーヤーと、同じSMEながら内容の違ったアームとのマッチングの問題があるのだろう。
 ここでは、プレーヤーの性質から、安定型よりも、音場感型を目指して、針圧1・3gを採りたい。このプレゼンスを活かしながら質感を向上させ、緻密さが出てくれば最高である。まず、プレーヤー置台上にジュウタンの残りを敷いてみるが、材質が悪くNGだ。では、ヘッドシェルまわりを調べよう。取付け、ネジをアルミ製から真チュウ製に変え、しっかりと絡めつけてみる。これで低域の質感が向上し、弦の浮きが収まる。次に置台上での移動で追込む。中央でもかなり鮮度感があり、柔らかさもある良い音だが、右側に寄せ、前から20mmあたりが反応も速く良い。ここで、再びIFCを僅かに減らし1・25とする。これで、音場感的な、左右の拡がり前後方向の奥行きも十分な良い雰囲気となるが、やや低域の質感が軟調となり、表現が甘くなるため、4344の後側のキューブを約20mm押込み低域を締めて完了とする。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ウィズ・ラブ/ローズマリー・クルーニー]
大村 しっとりした女性ヴォーカルですと、低域がやややわらかめで、穏やかな感じの、この音でもいいと思いますが、このレコードは4ビートのジャズですから、もっとスイングしてほしい。ローズマリー・クルーニーも年増の女性ですから、すこし音に鮮度感をもたせないと必要以上にダレるような気もします。
井上 今度もスタビライザーを試してみました。使用したのは、ソニーのときと同じ、オーディオクラフトのSD45、デンオンのDL1000Aに付属のもの、マイクロのST10の三つです。
大村 三つのスタビライザーの基本的な音の傾向は、先ほどと同じで、デンオン、オーディオクラフトはリズムがダレるところがあります。ST10はメタリックなところが、音の芯をくっきりさせる方向にうまく働き、ダイナミックなリズムの表現がすっきりと聴けるようになりました。そして、この状態で右奥に置いてみると、ほどほどの音の伸びが出てきて、ダイナミックな感じがさらに増したようです。やや4344をモニターライクに聴くには線が太いかもしれないけど、決してダレることのないこの音は、ローズマリー・クルーニーの年齢に相応しいかと思います。

ソニー XL-MC7

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・5g、インサイドフォースキャンセラー(IFC)1・5でスタートする。中途半端な表情があるため、1・6g(針圧のみ記した場合は、IFCも同量)に増すと、安定感は増すが、重く、反応が鈍くなるため、逆に針圧1・4gに下げる。反応に富み、プレゼンスの良さが目立つ音で、これはかなり良い音だ。
 試みに、針圧はこれに決め、IFCを変えてみる。IFC1・3に減らすと、音の輪郭がクッキリとしたアナログディスクらしい音になるが、音場感的には少し拡がり不足だ。そこで逆に、IFCを1・5にふやす。音場感的な拡がりはグンと拡がり、少しコントラストは薄くなるが、カートリッジのキャラクターから考えればこれがベターだと思う。
 では、音の輪郭をクッキリさせるためにスピーカーのセッティングで追込んでみよう。木製キューブを3個使った置き方が標準のため、まず、前の2個を45度方向内側に10mm入れてみる。穏やかさが出てくる。これは逆効果でダメだ。次に、後の1個を10mm内側に入れる。低域が引締まり、全体に音がクッキリして、これで決まりだ。
 アル・ジャロウを試す。まだ、反応が遅いため、スタビライザーを使うが、クラフトSD45は、柔らかく雰囲気型の響きとなり、マイクロST10は輪郭強調型で、クッキリとはするが、少しメタリックで結果はNG。次に、置台上でプレーヤーを移動してみる。右奥に置くと、反応が早く、適度に弾む楽しい音になる。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ハイ・クライム/アルジャロウ]
大村 切れ味のいい音ですが、線が細く、アル・ジャロウの声が子供っぼく聴こえる。もう少し力強さが欲しい気もします。
井上 そこでスタビライザーを試してみることにしましたが、スタビライザーを使うことは、レコードの音にスタビライザーの材質の音をつけ加えることですから、必ずしもプラスの方向に作用するとは限らない。
大村 三種のスタビライザーを聴いたわけですが、暖色系の音になり、湿っぽいものや、表情が抑えられた感じで、メリハリがきかなくなるもの、メリハリはありますが、音ののびやかさを抑えたりで、結局外した状態が、晴々としているようです。
井上 そこでプレーヤーを置く位置を変え音の傾向をコントロールしてみます。ラックのセンターにあったのを、一番強度のとれている右奥に置いてみると、全体にソリッドになって、音の反応が速くなり、ほぼ満足すべき音になりました。
大村 試しに左手前に置いてみると、柔らかくてソフトで、反応が遅くなり、アル・ジャロウの音楽にはマッチしないようです。右奥に置くことで、音の押し出しの強さといったものはないけども、反応の速さが出て、ソリッドで引き締まって、このカートリッジでの妥協線でしょう。

イケダ Ikeda 9

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、骨組みのシッカリとした安定で重厚さのある音だ。反応は穏やかで、拡がりはまあ標準的だろう。
 針圧上限は、安定ではあるが反応が鈍く、ダイレクトな魅力に欠ける音だ。針圧下限では、少し音が浮く印象があるが、軽い感じもあり、IFCを2・0とすると一応の水準となり、雰囲気もあり良い。標準針圧プラスでダイレクト型ならではの音を追う。針圧で低域をベースとした質感と反応の速さをさがし、IFCで音場感的プレゼンスを狙う。特殊なメカニズムをもつだけに、変化は激しいが、判定は容易である。針圧2・5g、IFC量2・25でまとまる。音溝を正確に拾う音で、音場感もあり、これは他では求められない種類の音。
 ファンタジアは、針圧2・65g、IFC量2・5がベスト。抜けが良く、爽やかでスケールも大きい。アル・ジャロウは、上記の値で、やや抑えた印象が音にあるが、力感もあり、一応の水準を保つ。

デンオン DL-1000A

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧ではスクラッチノイズの量が少なく、質的にも非常に高いのが特徴。広帯域型でナチュラルに伸びきった帯域感と歪み感のない音色、少し奥に距離感を伴って拡がる音場感など軽量級独自の音の世界だ。表情は抑制が利き、線を細く、キレイに聴かせるが、ダイナミックさと見通しの良さは、今一歩不足だ。
 針圧上限では、音の焦点が合い、安定さ、分解能が明らかに向上し、音場感もナチュラルで奥行きのタップリした点は特筆に催する。音色は軽く、反応も適度で、力不足もなく、オルトフォンSPU GOLD/GEの対比的な音だが、リアリティのみ不足気味であるのが残念だ。
 針圧下限では、軽やかなプレゼンスをもつ、独特の雰囲気のある音が魅力的だが、低域の質感が軟調となり、音源が遠く、見通しが悪いのは、組み合せたトーンアームの慣性モーメントが、このカートリッジの要求する針圧に対して過大なためだ。

ビクター MC-L1000

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、素直な帯域バランスと明快でスケール感豊かな音が魅力的。中域はスカッと抜け、低域の質感も優れ、ダイレクトで、躍動感が楽しい。中域の厚みは今一歩。
 針圧上限とする。音溝の底を正確にトレースする音だ。音場はナチュラル、見通しが良い。安定感は十分にあり、表情はナチュラル、ノイズは安定し、奥行きも十分だ。
 針圧下限では、軽快さが出るが、全体に表面的な音となり、針先とコイルがダイレクトにカップルした特徴が減る。
 針圧は、1・3gを試みる。ほぼ標準針圧に近いが、中域の厚みが加わるのが判かる。針圧を上限とし、IFC量を1・3に下げる。音場感的な見通しがよくなり、晴々とした雰囲気の良さが出てくる。
 ファンタジアは、ピアノの質感、スケール感、タッチなどに実感があり、左手がボケないのは特筆ものだ。響きは多いが、これは見事な音だ。アル・ジャロウも、これまでのベスト。ダイレクトさ抜群。

オーディオクラフト AC-01

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、低インピーダンス型独自の、厚みがあり、彫りの深さがイメージされる音で、帯域バランスはナチュラル。中域の厚みと見通しの良さは今一歩だが、雰囲気は楽しめる音だ。
 針圧上限はスクラッチノイズが安定し、重厚な印象となり、輪郭がクッキリと、明快な音だが、反応が今一歩穏やかで、音場感もやや平坦。針圧下限では、スクラッチノイズが浮き気味となり、音の安定感が欠けるが、しばらく針先をエージングすれば、使えそうな印象のある音だ。
 針圧を約1・9gとする。低域の芯がゴリっとする点は好ましいが、オーケストラの弦セクションのトゥッティが浮き気味で、人工的なキャラクターが感じられる音だ。このあたりは、組み合せる昇圧トランスでコントロールすれば、解決は容易だろう。
 ファンタジアは、中高域の輝くキャラクターが働き、少し制動を加えたい音だ。アル・ジャロウは軟調でNG。

テクニクス EPC-100C MK4

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、柔らかい低域ベースの細やかで滑らかな音。音場は奥に拡がるが、見通しは良く、楽器の質感も素直に引出し、サラッとした雰囲気は軽量振動系ならではの音。
 針圧上限は、キャラクターが少なく、穏やかな音だが、品位が高く、音場感も豊かで表情もあり、安定度は抜群。帯域感は、この上限でも十分に広帯域型で、基本性能の高さが、素直に音に出た印象。
 針圧下限では、全体に軽いタッチの音になり、雰囲気よく拡がった音は独特の味だ。線は細く、滑らかであり、反応は適度で、ナチュラルの表現が相応しい素直さが特徴。
 針圧対音の変化量は、連続的であり、大きくキャラクターが変わらないのがこの製品の特徴。針圧は、ここでは1・25gプラス0・125gとする。安定感とフレッシュさがミックスした、ほぼ標準と上限の中間の音だ。ファンタジアは情報量の豊かさがあり素直な音、アル・ジャロウは、少し小型になる。

スペックス SDX-3000

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)

特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、全体に線は少し太くなるが低域は豊か、中域以上はやや硬質で、独特の前に音を出すキャラクターがあり、音場感は水準的だが、ユニークで面白い音だ。
 針圧上限は、低域のすわりが安定し、柔らかさしなやかさのある低域ベースの安定した音に変わる。高域は少し抑え気味で、落着いて聴けるレコードらしい味のある音だ。この製品は、針圧表示が、標準と上限のみのため針圧下限のかわりに、中間値の2・625gを試みる。穏やかで安定感はあるが、反応が遅く、中途半端な音となり、針圧は上限をベストとしたい。上限時の音場感は、MC型としては平均的であり、前後方向切パースペクティブは少ない。
 ファンタジアを聴く。豊かに響きが適わり、ライブ的なプレゼンスだが、スケール感タップリのピアノ、ベースがかなり安定して聴ける。音色は、暖色系で、まとまりは可。アル・ジャロウは、ボーカルが少し大柄だが、楽しめる音。

京セラ A-710

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 京セラのセパレート型アンプは、独自の振動解析に基づいた筐体構造を採用して登場した、オリジナリティ豊かな特徴があるが、今回発売されたA710は、プリメインアンプとして同社初の国内発売モデルである。ちなみに、一昨年度のオーディオフェアで発表されたプリメインアンプは、基本構造が共通のため見誤りやすいが、あのモデルはセパレート型アンプなどと同じ910のモデルナンバーを持つ本機の上級モデルA910であり、既に輸出モデルとして海外では発売されており、本機に続いて国内でも発売されるようだ。
 A710は、A910のジュニアタイプとして開発されたモデルで、外観上では、筐体両サイドがアルミパネルから木製に変わっているのが特徴である。基本的に共通の筐体を採用しているため、回路構成にも共通点が多いが、単なるジュニアモデル的な開発ではなく、シンプル・イズ・ベストのセオリーに基づいて、思い切りの良い簡略化が実行されている点に注目したい。
 それはこのクラスのプリメインアンプには機能面で必須の要素とされていた、バランスコントロールとモードセレクターを省略し、信号系絡でのスイッチ、ボリュウムなどの接点数を少なくし、配線材の短略化などにより信号系の純度を保つ基本ポリシーに見受けられる。つまり、一般的な最近の機能であるラインストレートスイッチとかラインダイレクトスイッチと呼ばれるスイッチを動作させたときと、本機の標準信号経路が同じということだ。
 さらに同じ構想を一歩進めたダイレクトイン機能が備わる。この端子からの入力は、ボリュウム直前のスイッチに導かれており、0dBゲインのトーンアンプをバイパスさせれば、信号はダイレクトにパワーアンプに入る。簡単に考えれば、ボリュウム付のパワーアンプという非常に単純な使用方法が可能というわけだ。
 出力系も同じ思想で、パワーアンプは出力部に保護用、ミュート用のリレーがなく、回路で両方の機能を補っており、信号はリレー等の接点を通らずダイレクト出力端子に行き、その後にスピーカーAB切替をもつ設計だ。
 その他、MC型昇圧にはトランスを使用、右左対称レイアウトの採用、信号系配線にLC−OFCケーブル採用などが特徴。
 試聴アンプは、検査後のエージング不足のようで、通電直後はソフトフォーカスの音だったが、次第に目覚めるように音に生彩が加わり、比較的にキャラクターが少ない安定した正統派のサウンドになってくる。帯域は素直な伸びとバランスを保ち、低域の安定感も十分だろう。このあたりは独特の筐体構造の明らかなメリットだ。また、信号の色づけが少ないのは、簡潔な信号系の効果だ。華やかさはないが内容は濃い。

アキュフェーズ AC-3

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、適度な帯域バランスを持つ、キメ細やかさ志向の穏やかな音だ。低域は線が太く、硬めで、中域は抑え気味、高域も素直だ。情報量は水準で、歪感の少なさ、汚れた音を出さぬ特徴がある。針圧上限は、低域に丸みが加わり、全体に安定感があり、少し重く、伸びのなさがあるが、まとまりは良い。針圧下限は独特の軽いプレゼンスが特徴だが、表面的だ。
 針圧1・75gとする。良い意味での、鉄芯入りMC型とヘッドアンプの組合せが活きた音で、帯域もナチュラル。中高域の輝かしさが効果的なバランスである。針圧を1・8gとする。安定だが、音を少し抑え気味で、もとに戻す。試みにC200Lのヘッドアンプとする。軽快でクリアー、反応のシャープさもあり、これは、良い音である。
 ファンタジアは、低域は軟調で甘いが響きが良く、表情は抑えるが、一応、楽しめる。アル・ジャロウは、硬質さが活きた、抑制の効いた音だ。

ハイフォニック MC-A5

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧1・2gでは細やかで、粒子がキレイに磨かれた、広帯域型のしっとりとした音だ。低域は柔らかく、やや軟調気味で、中域の張出しも不足気味だ。キレイさは見事だが、リアリティが今ひとつほしい。上限1・3g、音の芯がクッキリとし、披けの良さが出てくる。音場感は奥に距離をおいて拡がり、楽器も小さくまとまる。表情はややムード的で、オーケストラにはまだ力不足の音。
 下限の1・1gでは、伸びやかさが特徴となり、フワッと拡がったプレゼンスは、それなりに気持ちよく聴ける。しかし、安定感はさしてなく、追込むなら、上限と標準の間と思うが、このあたりの針圧となると、使用アームのイナーシャの大きさがかなり問題である。音の決まりに欠ける印象が強い。
 ファンタジアは、キレイに響く軽快なサウンドで、あまり力強くはないが面白い音。
 アル・ジャロウは、軽くなりすぎて、ボーカルは力不足。

デンオン DL-304

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では中域が少し引込み、高域が少し上昇した広帯域型らしいバランスだ。柔らかい雰囲気が好ましく、低域は軟調気味だが、分解能は水準以上だ。針圧上限ではシャープで抜けが長く、最新のMC型らしい、CDに対比できるシャープさ、SN比を持つ音で、音場感、定位も長い。
 針圧下限では音場感型に変わり、爽やかで拡がる音だが、Dレンジは狭く、聴きやすいが少し不満が残る。
 針圧を上限近くで探してみる。1・3gにすると、安定感があり、ややソフトフォーカス気味だが一応のまとまりを示す。上限に上げると急激に焦点が合った印象で、現代MC型カートリッジのスタンダードといえる音になり、この針圧変化は、かなり大だ。
 ファンタジアを聴く。ピアノのスケール感が感じられ、アタックは少し甘いが、プレゼンスに優れる。低域はややソフトだが、十分楽しめる。
 アル・ジャロウは暖色系にまとまり、力不足の音だ。

フィデリティ・リサーチ MCX-5

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、曖色糸の平均的なまとまりだ。低域はダンプ気味で、中高域に少しメタリックさがあるが、バランス的には良い。表情はナチュラル、もう少し分解能が必要。
 針圧上限では中高域のキャラクターが少なくなり、安定感が加わり、表情も良い意味で穏やかで好ましい。音場は、奥に拡がり、雰囲気は適度だろう。針圧下限は、華やかさがあり、抜けの良さそうな雰囲気が好ましい。ただ、オーケストラのトゥッティでやや汚れ、濁りがある。
 針圧標準付近で追込む。僅かに軽く、1・5gとする。標準との差はかなり大きく、帯域も程よく拡がり、中高域のキャラクターも、個性として活かされ、アナログディスクらしさのあるサウンドだ。
 ファンタジアは、響きがタップリとあり、天井の低いライブハウス的な独特の音になる。ブックシェルフ型向きのサウンドバランスだ。アル・ジャロウは、ボーカルの力感不足で表情が甘く、不適当だ。

SAEC C-1

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、穏やか型のバランスだが、中域から中高域に独特の個性的な硬質さがあり、低軟高硬型の典型的なタイプだ。音場は予想よりも奥に引込み拡がり、音場感的にはかなり個性型の拡がり、定位感である。
 針圧上限では、低域は穏やかになり、高域にも丸みが出て、安定感が向上する。反応は穏やかで、音色は少し重い。針圧下限では、爽やかで抜けがよく、雰囲気が良くキレイな音に変わる。彫りは浅いが、楽しめそうな音だ。
 針圧は軽い方を狙い、1・25gプラス半目盛、約1・4g弱とする。下限に比べ少し、安定感が加わり、質感も向上する。個性派のMC型で、針圧による変化はユニークだ。
 ファンタジアは全体に少し表情を抑えた表現となり、オーバーダンプ気味の音といった印象。スクラッチノイズは少し浮き気味である。
 アル・ジャロウは、響きが多いボーカルで、力感不足気味、リズムが重く、不適だ。

ゴールドバグ ClementII

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、おとなしく滑らかで、歪感が少なく、キレイにまとめた音だ。音場は奥に引込み拡がるタイプで、雰囲気が良く、少し小さくまとまるようだ。
 針圧上限では、音の芯が、やや明瞭になり、安定感が向上する。スクラッチノイズは少し硬質で、中高域は僅かに硬質さが特徴となる。音の表情は標準的で、シャープさも十分だ。スケール感は小さいが、やさしさが特徴の音。
 針圧下限はソフトフォーカスな音だが、気軽に楽しめる音で、標準針圧の両側で異なった雰囲気が楽しめそうだ。
 ハイインピーダンス型だけに、軽快さクリアーさを狙い、針圧を1・2gとし、IFC量を変える。最初に軽くするが情報量が減りNG。続いて増加に変え、1・4でベストサウンドとなる。音場感的に見通しが良く、CDのイメージを持つ質的に高い音。
 ファンタジアは、見通しが良く響きが美しく、アル・ジャロウも最小限で聴ける範囲。

オーディオテクニカ AT33ML

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧1・5gでは、暖色系の豊かな低域と程よくエッジが効いた中域から中高域がバランスした安定感のある音だが、やや、音場感は狭い。上限の1・6gでは、彫りが深く、芯が安定した音となり、表情も豊かで帯域バランスも伸びやかだ。ただ、中高域の少し輝かしさが顔を出すが、これを除けばグッドサウンドだ。下限1・2gでは、変化量は少ないタイプだが、表面的な音となり、スクラッチノイズが気になり、中高域もメタリックで少し浮いた印象となる。
 標準針圧以上に狙いを定め、細かく、1・625g、1・75g(針圧目盛での値)と追込むと、針圧1・75g、IFC1・6あたりで程よくスッキリとした安定感のある音とプレゼンスが得られる。
 ファンタジアはライブハウス的な響きが豊かで低域も柔らかく、一応の水準の音だ。
 アル・ジャロウは、重く力強い低域は粘りがあり好ましいが、昇圧手段を選びたい音。

SAEC XC-10

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧では、暖色系の安定度重視型のまとまり。fレンジは少し狭いタイプだが、穏やかで聴きやすく、雰囲気のあるレコードらしい音だ。
 針圧上限では、音の芯がクッキリとつき、適度に活気がある思い切りの良い音に変わる。音に焦点がピタッと合ったような変わり方だ。中高域は、硬質さの一歩手前の範囲。
 針圧下限では、スクラッチノイズが浮き気味で濁った音となり、全体にソフトフォーカスで表面的な軽薄な音だ。標準針圧との格差大で要注意。
 試みに針圧を上限からSMEの半目盛0・125g上げてみる。急激に穏やかで暗い音になり、上限がベストだ。併用した昇圧トランスU・BROS5/TYPELとの相性に優れ、鮮度感も適度で、帯域バランスも良い。
 ファンタジアは暖色系の安定したまとまり。表情は抑え気味だが、楽しい音だ。
 アル・ジャロウは、帯域バランスが良いメリットで、予想以上にまとまり、安心する。

ソニー XL-MC7

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 音の粒子が細かく、適度な広帯域型のバランスでスッキリと線を細く、クリアーに聴かせる。標準の針圧1・5g、IFC1・5では、平均的なまとまりで、描写の線は少し太く、音は少し奥まって聴こえる。音色は暖色系で、低域は軟調、高域は少し硬質で、中高域に輝かしさが感じられる音だ。上限の1・8gでは安定感は増すが、鮮度感が減り、ディフィニッションも不足する。下限の1・2gではやや、音が浮き気味となるも、音色の軽く、フワッとした雰囲気と爽やかさは、ムード的だが、十分に楽しめる。結果は、1・35g、IFCも同量で、軽快さもあり、鮮度感のあるフレッシュな音となる。MCらしい良い音だ。
 ファンタジアでは、ベースは、軽量級だが、ピアノは程よくキラめき、抜けのよい、響きの豊かさが楽しめる。
 アル・ジャロウは、音色が暖色系に偏り、音場的な見通しに欠けるが、ライブハウス的プレゼンスは楽しめる。

ヤマハ MC-505

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 標準針圧は、中低域ベースの穏やかな音。低域は軟調で、奥に音が引込み、ホール後席の音の印象で、鮮度不足だ。針圧上限で安定感が向上し、明快でプレゼンスが出てくる。針圧下限は、軽いが、浮いた印象で、表面的な華やかさだ。雰囲気は独特なものがあり、フワッと拡がる音場は面白い。標準から上限がポイントで、1・75gにする。安定感のあるクリアーな音で、少し線は太いがプレゼンスもあり、ベストに近い音だ。SMEの針圧目盛で標準と1・75gの中間にする。音に伸びやかさが加わり、エッジも適度に張った線のシャープな音だ。IFCを1・5にもどす。音場感が爽やかに拡がり、これがベスト。
 ファンタジアは、響きが豊かで、ライブ的な印象となる。ベースは柔らかく少しふくらみ軟調だが、ブックシェルフ型には好適なバランスだ。
 アル・ジャロウはやや大柄なイメージのボーカルで、力強さが今一歩、必要だろう。