菅野沖彦
ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より
ケンソニック社は決して歴史の長い会社とはいえないが、しかし、そのバックグラウンドを知る人にとっては、その歴史は古くトリオ、春日無線にまでさかのぼることになる。こうした歴史の重みに支えられてケンソニック社が誕生したわけだが、この会社は創業以来、あるレベル以上の高級品しかつくらないという体質に徹しているところに、一つの明確なポリシーが伺える。そして、やたらに新製品は発表せず、むしろ基本モデルの改良という形で、一つの製品を煮詰めていこうという姿勢で貫かれているのである。その姿勢が最も顕著に現れている例は、先頃発表されたC200S、P300Sのセパレートアンプである。このセパレートアンプシリーズは、同社の第一号機C200、P300のマイナーチェンジモデルだが、その第一号製品を買った人にも、サーキットボードを交換することによって この最新製品とほとんど同じ性能にまでしてあげるというサービスも怠らなかったのである。これはメーカーにとって大変な企業努力だと思うのだが、やはり製品のロングライフを旗頭にしている会社の体質を如実に示している例だろう。マスプロ、マスセールということは考えず、自分たちのできる量の中で追求し、それを理解していただけるお客様だけに買ってもらおうという、「質」を重視したオーディオメーカーなのである。
そのケンソニック社がつくり上げた最新のコントロールアンプがC240で、従来の製品に見られない、いくつかの新しさが盛り込まれた意欲的な製品である。たとえば、操作スイッチ類を、ボリュウム、バランス、カートリッジの高域特性コントロール以外はすべてプッシュボタンスイッチにしたことである。決して小規模とはいえないメーカーが、ここまで徹底的にプッシュボタンスイッチ化に踏みきった英断をまず買いたいと思う。そして内部を見ても、最新のディバイスと最新のテクノロジーが駆使されているわけだが、同社の初期からのポリシーである全段パラプッシュプルという方式はここでも踏襲されているのである。つまり、同社で自信のあるエレクトロニクス回路技術を豹変させることなく、常に基本的なものは踏襲しながらリファインさせているところに、信頼性のもてる一因があると思う。個人的なことをいえば、プッシュボタンにもう少し質感のいい、色のいいものを使ってくれれば、このユニークなパネルレイアウトがもっと生きてきたのではないかと思う部分もあるのだが、しかし、現在手の届く範囲でメーカーが最もハイエストなパフォーマンスを追求した製品として、十分納得できるものをもっていることは確かである。
ところで、このC240の音質についてだが、一言でいえば同社の従来のコントロールアンプの音に、最新製品にふさわしい洗練度を加えた音ということができる。従来の同社のアンプはたくましい音で、透明という表現よりも、むしろ輝かしい、磨きぬかれたスムーズさをもっていたのであるが、このアンプにもそれは一貫して感じられる。非常にたくましい音であり、磨きぬかれていて力もある豊かな響きの中に、都会的な洗練された音が加わったという感じなのである。おそらくこのアンプの音は、現在のコンポーネントの中でも最高の音質に属するのではないかと思う。プラスアルファをもつこのクラスの海外製品はたくさんあり、確かにそれらは一種独特の雰囲気がある、説得力のある音色を感じさせるが、このC240はそういう領域に達しているように思えるのである。ただ単にドライに無機的にフィデリティを追求していくということだけではなく、あらゆるソースに対して音楽的なエフェクトを聴かせてくれる。
ただ、もっと繊細で、もっと乾いた音が好きだという人ももちろんいるかもしれないと思う。このC240は決して乾いた音ではなく、グラマラスであり、脂の乗った音だからだ。しかし私は、やはり音楽は生命感が躍動しているような、グラマラスで、豊かで、薄っぺらでない底光りのする輝きをもっていてほしい。その意味で、このC240は音質のよさからいっでも、現在のコントロールアンプの中で〝ステート・オブ・ジ・アート〟に選ばれるに値する製品だと思う。
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