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フィリップス LHH500

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 柔らかく角のとれた、しなやかで雰囲気のよい音を持つモデルである。プログラムソースとの対応の幅は広く、あまりハイファイ調とせず聴きやすいが、音楽的に内容のある音をもつ点は、大変に好ましい。ロッシーニは、ほどよくプレゼンスのあるナチュラルな音だ。ほどよく明るい音色と、中域から中高域にかけての素直な音は魅力的でさえある。低域の質感が甘い面もあるが、まとまりの良さはフィリップスらしい特徴である。Pトリオは、サロン風なまとまりとなり、予想よりも音の厚み、音場感情報が不足気味で、中高域に強調感があり、息つぎの音の自然さがなく、気になる。ブルックナーは、全体にコントラスト不足で音が遠いが、平衡出力にすると、音場感はたっぷりとあり、音の芯も明快で一段と高級機の音になる。Dレンジ的伸びと鮮度感が不足気味で、fレンジは少し狭くなり、中域の量感がむしろ減る傾向となる。ジャズは実体感がいま一歩で分離もいま一歩。

ゴールドムンド Mimesis 3

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 いかにも緻密精緻な音の質感がスイス製であることと、このアンプのコンパクトなサイズに似つかわしく好ましい。品のよい音だ。「ドゥムキー」の弦、特にヴァイオリンは輝かしく、かつ艶っぽい。ピアノもよく締まった粒の立つ音で、生き生きとして立上りも鋭い。ベートーヴェンの「エロイカ」における柔軟性のあるしなやかなウィーン・フィルらしいヴァイオリンの音色の艶には感心させられたし、潤沢な木管の響きも美しかった。各楽器の音色の鳴らし分けも敏感な方である。ただ、トゥッティでややにぎやかな音になるのが惜しい。どっしりとした重厚な安定感が失われるのである。同じパワーのアンプでも、このあたりに違いが生じるのは、電源を中心とした全体の物量の差といえそうだ。サン=サーンスの「オラトリオ」における、各独唱者の声の色合いや質感の微妙な味わいの再現では最も優れたアンプの一つといえる。ヘレン・メリルは暖かく、ベースは少々力不足だ。

クレル MD-1 + SBP-64X

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 アンプメーカーとしてその名を馳せた米国クレル社から、デジタル機器専門メーカーとして独立して創立されたクレル・デジタル社より、既発表のCDターンテーブル/クレル・デジタルMD1と、シグナルプロセッサー/SBP64Xがついに正式発売となった。
 昨今アメリカ国内では、ハイエンドメーカーのデジタル機器への参入が活発化しているが、これは、先に発表されて話題を独占している感のあるワディアに続く存在として期待されていた。
 ワディアが単体のD/Aコンバーターのみであったのに対して、こちらはシステムとして完成した、いわゆるセパレート型CDプレーヤーシステムの形態をとっている点にマニアの関心が集中しているのだろう。
 元来、アナログディスクの信者として自他ともに認めるクレルの創始者、ダニエル・ダゴスティーノ氏の作品であるだけに、まずCDターンテーブル/MD1は、ディスク再生時に、アナログ再生に等しい儀式を要求する。
 分厚いアクリル製ダストカバーをゆっくりと持ち上げ、おもむろにCDをセットしたあと、クランパーの代りともなるディスクスタビライザーを乗せる。
 ダストカバーを閉める時、途中で手を離しても、重いカバーはゆっくりと自動的に下降するようになっており、一切のショックはない。
 ディスクトランスポート部はフィリップスのCDM3を使用しており、これをスチューダーのA730と同じものだが、その固定方法などを含め、きわめて対照的なアプローチがみられ、ここではアナログプレイヤー的剛性を追求しているようである。
 本体四隅の丸いカバーはサスペンションタワーと呼ばれ、中には多重構造のインシュレーターが隠されている。
 内部の詳細は明らかにされていないが、周辺機器に対する高周波ラジエーションの問題なども充分考慮されているとのことだ。
 一方SBP64X/ソフトウェアベース・デジタルプロセッサーは、デジタルフィルターに56ビットアキュムレーターを備えるモトローラ製DSP56001をチャンネルあたり2個の計4個使用しており、これまでにない演算精度を獲得しているという。
 SBP64Xではワディア/2000同様、DSPを用い毎秒6000万回余りの速さで独自のソフトウェアアルゴリズムを実行するのに必要な演算を行う。DSP56001の24ビット幅データパスと56ビットアキュムレーターが、デジタルデータの入力に厳密な18ビット64倍オーバーサンプリングで信号を補完し、バーブラウン製PCM64、18ビットD/AコンバーターでD/A変換を行う。さらに、完全ディスクリート構成の電流・電圧変換器からデグリッチ回路を経て、ディスクリートバランス型出力段に至る構成である。
 DSPにより、一般のデジタルフィルターとして用いられるFIR(Finite Impulse Response=有限インパルス応答)フィルターでは克服できなかった過渡特性的な欠点をクリアしている。
 電源部は3個のトロイダルトランスを独立させ、デジタル回路、DAC回路、アナログ回路に独立して電源供給を行なう。
 電源部から本体へのパワーケーブルも2本あり、1本がアナログ部とDAC部へ、もう1本がデジタル回路へと分かれており、デジタルノイズの混入を防いでいる。
 聴き慣れたディスクを国産最新のセパレートCDプレーヤーと比較しつつ聴いた。その上で、これは物凄い情報処理能力をもった画期的な製品であることが、じわりと実感できる。音の密度、音場の空間再現性において、まるで同じソースを聴いていると思えないほどの圧倒的なクォリティ差を一聴して感じさせ、まさによく出来たアナログディスクを極上の状態で聴くに近似した心地良さを提供してくれるものだった。
 複雑にからみあう楽音を精緻に分解して聴かせながら、響きの有機的なつながりが緻密で、弦楽器群のオーバートーンの重なりやローレベルでの透明感、情報量がすばらしく、余韻の消え方は圧巻だった。
 パルシヴなソースでも、叩きつけるようなエネルギー感がありながら、響きに高い品位が維持されるあたり、ただものではないという印象を強くした。

カーヴァー Silver Seven-t

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 繊細さや瑞々しさは十分とはいえないが、ごく標準的なレベルのグレードの再生音だ。中域がしっかりした密度感をもっているから、音楽のバランスはよく保たれる。「ドゥムキー」のヴァイオリンの音色は少々太く生ぬるいけれど、神経質になったり、粗くなったりしないのがよい。ピアノも、透明な輝きが不十分だが、厚みのある音である。
 ベートーヴェンの「エロイカ」では、細かい音やニュアンスの再現は不足するが、全体としては力もあり、トゥッティでの濁りや不安定さも感じられない。もちろん、ウィーン・フィルらしい魅力の再現というレベルには至らないが……。サン=サーンスの「オラトリオ」では、音が軽々とした雰囲気に変るのが不思議であった。ソースによってずいぶん変化するものだ。透明度もよく再現し、のびのびとしたソノリティを聴かせる。ヘレン・メリルの声の色艶はよく、ベースはやや軽い音である。

チェロ ENCORE POWER AMPLIFIER

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 チャンネルあたり60Wのパワーとは思えない力とソリッドネスを聴かせるアンプ。しかし、それは決して熱っぽくはなく、常に冷静である。冷徹と呼んだほうがよいかもしれない。このアンプの粒立ちの見事さ。繊細精緻な音の微粒子感の見事は、特質に値するものである。他に類例がない音といってもよいアイデンティティをもっている。チェロのアンプの特質なのである。まるで、すべてのプログラムソースのベールを一枚はいでしまうような透明さを聴かせるのが凄い。濁り、汚れ、曖昧さなどの一切を排し拒絶した透徹さをもっているし、この微粒子感の感触は、一種の快感を感じさせもする。つまり、決して冷たい無機質な音とは違うのだ。何を聴いても、ただその美しさに聴きほれて、絶句するありさま。しかし、どうしてもなじめない音なのだ、この音は僕にとって! これだからオーディオは面白い。端正明晰な麗人の肌の冷たい湿度に心凍てつくような妖しき誘惑である。

ソニー TA-F555ESG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ダイヤトーン DS-77Zとの相性
音の輪郭がクッキリと付き寒色系の押し出しの良いダイレクトな音である。音場感は比較的間接音が少なく、音が前に出るタイプであり、総合バランスはオーディオ的にわかりやすくまとまりはよい。大編成の曲では、予想よりもfffで濁りがちで安定度が崩れるが、小編成は使いこなせば本格派の音が楽しめそうだ。

ダイヤトーン DS-77Z

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

口径30cmを超すウーファーベースの伝統的3ウェイブックシェルフ型の典型的存在であり、現在生き残っている数少ない機種だ。3ウェイらしく、中域のエネルギーが充分にあり、情報量が多いために使いこなしを誤れば圧迫感のあるアグレッシヴな音になりやすく、このあたりを使いこなせないようではオーディオは語れない。

ティアック P-500 + D-500

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 全体にプログラムソースの音を軽く、柔らかい傾向の音として聴かせる、いわば個性の強い製品ではあるが、音色が暗くならず、表情に鈍さがないことが好ましい。ロッシーニは、かなり広帯域型のfレンジと、軽く滑らかな雰囲気のよい音だが、少し実体感が欲しいまとまりだ。Pトリオは、楽器の低音成分が多く、やや中域を抑えたバランスの、線が細く柔らかな音だ。音場は引っ込み奥に拡がり、響きはきれいだが音源は遠く、細部は不明の音。ブルックナーは、音源は遠いが、空間を描く音場感のプレゼンスはナチュラルでフワッとした雰囲気があり、これでよい。トゥッティでは、予想外に中高域に輝く個性があり硬質な面が顔を出すが、それなりのバランスで聴かせるあたりは、ターンテーブル方式の利点であるのかもしれない。ジャズは、低域はブーミーでエネルギー感が抑え気味となり、いまひとつ弾んだリズム感が不足気味で、見通しもやや不足気味だ。

アヴァロン Ascent MKII

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 米国、カリフォルニア州ボゥルダーに本拠を置くアバロン社製スピーカーシステム/アセントMKIIが輸入されることになった。
 写真のように、やや個性的ともいえるプロポーションを持つが、この形こそコンピューターシミュレーションと聴感から追い込んで作られた必然の形態だったという。
 バッフル面からの一次反射と、回折によるユニット周辺の残留音響エネルギーが付帯音として作用し、システムトータルとしての響きの透明度を濁す原因ともなるトランジェント低下をきたすことに留意して、トランジェントの向上という点に偏執狂的なこだわりをもってアプローチした、という印象が強い。
 ユニットは、22cm口径のウーファーをベースに、5cm口径のチタンドームスコーカーと2・5cm口径の同じくチタンドームトゥイーターという3ウェイ構成をとっている。いずれも、ドイツ製のユニットということだ。バッフル面は、なんと板厚15cmという恐ろしくぶ厚いもので、基本的にエンクロージュアの共振によるエネルギーロスを最少に止めるという、ハードな作りがなされている。
 そのエンクロージュアの作りは、熟練した職人芸を要求されるような高度で複雑な携帯をとり、実際、細部の作りは見事な仕上りを見せる。
 エンクロージュア本体の後ろに設置される。サブエンクロージュアともいえそうな黒いボックス(片チャンネルにつき一本)はネットワークを収める専用の独立した箱で、下部に取りつけられたネットワークはエポキシ系樹脂で封印固定されている。これは、ユニットから浴びることになる磁気的悪影響や振動、温圧による揺さぶりからネットワーク素子を守るためだ。
 一方、使用素子は厳密に選別され、1%以内という誤差許容度を確保しているという。またネットワーク本体に、プリント基板を使用していないとのことだ。
 パワーアンプとの接続はバイワイヤリング接続のみならず、トライワイヤリング接続も可能で、バイアンプ駆動にも対応している。
 先端指向のアプローチがなされた結果は、音そのものに見事に反映しており、トランジェント特性の良さゆえの、本物の柔らかさがあり、透明で濁りのない響きは、特にアコースティックな楽器の持つ響きのリアルさや、澄み切った再現性において第一級の冴えをみせる。
 ギターを弾く音、管楽器のエネルギー、怒涛のような音の盛り上がり、そういったものが、見た目の瀟洒な作りからは想像できないレベルで再現された。これは家庭用の羊の顔をかぶったモンスターといえそうだ。

スレッショルド SA/3.9e

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 A級60W/8Ω/chのステレオアンプだが、繊細で明晰な音は美しい。しかし若干、音は軽めの雰囲気で、響きの深みや厚み、音の重厚な質感といった面に不満もある。スピーカーの能率が高ければ60Wのパワーは音量としては十分なはずだが、音の密度感や充実感にやや物足りなさが残るようだ。どちらかというと、重々しい響きを不得意とするアンプという印象。その分、明晰透徹で、緻密繊細な音色の鳴らし分けは魅力的である。肩の力が入りすぎない表情で音楽が美しく軽快に流れるのである。室内楽にはこのようなアンプの特質が生きて好ましかった。ベートーヴェンの「エロイカ」になると、明るく軽快できれいだし、ウィーン・フィルの特徴のある面はよく生かされるのだが、マッシヴなトゥッティの厚みと力に一つ押しと迫力が欠けるのだ。歌手の声の鳴らし分けはひじょうに鋭敏なレスポンスで多彩なのが印象的。どちらかというと小味なアンプだ。

オンキョー Integra A-701XG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ダイヤトーン DS-77Zとの相性
ほどよく角のとれた表情の豊かな音と、演奏会場の環境条件を音場感情報として聴かせるだけの能力を備えた音である。音色は独特の粘りっ気のある柔らかさがあり、中域から高域に硬質さが残ってはいるが、バランスを崩すものではない。正統派の音ではないが、一種独特のこれならではの魅力を持つ音の表現力は大変に興味深い。

マイクロメガ CDf1 Premium

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 フランス・マイクロメガ社製CDプレーヤー/CDF1プレミアムが本邦でも発売されることになった。
 同社はヨーロッパ圏で唯一のCDプレーヤー専業メーカーであり、CDF1プレミアムはその代表的な位置を占める製品である。
 写真からもわかるようにトップローディングタイプであるため、分厚く丁寧な作りのアクリル製ダストカバー(という表現がしたくなるような)をまず開けるところから〝儀式〟は始まる。
 ディスクを乗せ、さらに専用スタビライザーを装着し、ゆっくりとカバーを閉めるという一連の動作が必要なのだ。
 コンパクトですっきりとしたデザインから、軽くて可愛らしい音を想像していたのだが、実際に音が鳴り始めるや、そうしたあらぬ先入観は直ちに吹き飛んだ。
 さすがフランス製というだけあって、響きには、絵画的な色彩感や艶がのり、つぼを押えた音の隈取りの明快さにまず驚かされた。弾力のある暖かい響きには、味わいの豊かな個性的な面もあり、聴きごたえ十分だ。さらに適度な重量感もあり、ほどよく広がる音場にはどこか大人っぽい雰囲気があった。
 決して個性だけで聴かせる製品ではなく、現代的な情報処理能力も十分にもっていて、すっきりしたデザインに精度感が音の面からも感じることができた。したがって、現代的な録音の透明感や繊細感も十分に表現可能だ。
 注目のドライブメカは、すでに高い信頼性を獲得しているフィリップス製アルミダイキャストベースのCDM1IIにCDM4ピックアップを搭載している。
 フローティングには、同社のオリジナル機構が採用され、徹底した防振対策がとられているという。
 ディスクスタビライザーは、内部損失の大きいケブラー繊維とカーボンファイバー、そして直径がおよそ30mm、重さ約120gの真鍮製ウェイトから構成されている。
 D/Aコンバーターには、フィリップス製クラウンマーク付ヴァージョンS1仕様を採用し、アナログ回路はディスクリート構成クラスAオペレーションアンプとし、左右独立の大型トロイダルトランスを定電圧回路に採用している。
 またアナログアンプ部は、電源プラグをコンセントに差し込むと常に通電され、フロントパネルの電源スイッチのオン/オフによらず、ヒートアップが準備された状態で聴くことができるようになっており、短時間のウォームアップで所期の性能が得られるよさばかりでなく、動作の安定性も高めているという。

オンキョー Integra A-701XG

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

ビクター SX-700との相性
SX700のSP端子は全域用にケーブルを接続する。柔らかく少し粘った印象のある低域と滑らかで線が細く、しなやかな独特の高域がバランスした、コントラストと色彩感を抑え気味とした個性の強い音だ。T&Pはライヴハウス的なプレゼンで充分に楽しめるが、クラシック系は少し軟調なまとまりで突っ込み不足だ。

クレル KMA160

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 クレルは最近製品の種類が多いためか、一時(特に創業時から数年)のように、クレルのアンプの音という明確なイメージが感じられなくなった。つまり、いろいろな音がするようになった。全くアイデンティティがないとはいわないが、このアンプの音などは初期のクレルの音とは大きく異なり、かなり力強く華麗である。鋭いアタックが鮮やかで、ピアノの音が硬質になるし、中域にやや独特の響きがのって、効果的な場合と逆効果の場合とがある。繊細緻密で、べたつかず、端正で深々とした音が味わえた昔日のクレルはどこへ行ったのだろうか? ベートーヴェンの「エロイカ」のトゥッティも十分透明とはいえない。しかし、有機的で力のある充実した音で、強い表現力を聴かせる。サン=サーンスの「オラトリオ」では、歌手の発音の小音が強調され気味であり、声の出方に圧迫感がある。もっと軽く出てほしいところ。ヘレン・メリルは力強く濃厚でベースも明解。

ゴールドムンド Mimesis 9

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

「ドゥムキー」のヴァイオリンもチェロも引き締まった音で毅然とした端正な演奏に聴こえる。ピアノも自然で、どちらかというと控えめな鳴り方。緻密な分解能をもち、きちんとした音像の再現だが、決して物理的な裸の音ではなく、美しさを感じさせるアンプだ。「エロイカ」も、オーケストラの複雑な音色の綾を明解に、そしてよくまとまったバランスで聴かせる。よく調和して響くがウェットに濁ったりはしない。あくまで明晰な解像力を失わない。音質はやや硬質だし、線画調の細かさのある音だが、決して冷たくはない。緻密な音、精緻な音といった魅力が特徴で、ウィーン・フィルのしなやかな甘美さにはもうひとつ柔軟性が足りないようだ。ジャズには品位の高い音で、シンバルのこまやかな音色の変化をよく再現するし、ベースも締まっていて明るい。馬力のある音ではないが、決して弱々しい感じはなく、ジャズの強烈な直接音も極端な低能率SPでなければ大丈夫。

パナソニック SU-MA10

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント プリメインアンプ×スピーカーの相性テスト」より

セレッション SL6Siとの相性
適度に滑らかさのある線の細い音を聴かせるアンプだ。帯域バランスはナチュラルで、一種の鮮明さが聴かれるが、中域のエネルギー感が不足気味で、コントラストが薄くなり、聴きやすいが音の表情が硬くなる。音場感はスピーカーの奥に広がり、音像は小さいがやや引っ込み気味である。全体にもう少し力強さがほしい音だ。

パイオニア PD-5000

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 響きの豊かさがあり、基本的なクォリティが高く、各プログラムソースの特徴を引き出しながら、安定感のある立派な音が聴ける製品だ。ロッシーニでは、自然な拡がりのあるホールトーンと安定した音を聴かせ、音像の立ち方もやや立体的なイメージがある。中域の一部には少し硬質な面があり、楽器の分離がよくリアリティのある音で描く効果があり、柔らかく質感のよい低域と巧みなバランスを保つ。Pトリオは響きが豊かで、ディティールをサラッと聴かせる素直な再現能力と実体感のある音像定位が好ましいが、再生システムのキャラクターか、やや硬調な描写となりやすく、アタック音が少しなまり気味だ。ブルックナーも共通で金管が硬く聴かれ、トゥッティの分離がいま一歩であるが、安定した質感のよい音と自然なプレゼンスは相当によい。低域の伸び、ゆとりに少し不満が残るが、価格からは無理な注文だろう。ジャズは、低域腰高で軟調傾向だが、よくまとまる。

チェロ Amati MKII

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 マーク・レヴィンソン氏の主宰する米国チェロ社より、スピーカーシステム/アマティが改良され、タイプIIとなり再登場した。
 写真のごとく、スピーカー本体は、かつてのAR社LSTをベースにしているとはいえ、ユニットや内部配線、ネットワークにはまったく独自の設計が施され、また、エンクロージュア自体の材質も異なるようだ。
 氏はホーンタイプスピーカーが必然的にもつホーンの固有音をナーヴァスまでに嫌ってる様子で、あくまでも柔らかく、かつしなやかな響きを追求しているようだ。それが、このアマティIIからも実によくうかがえる。
 30cmのウーファーをベースに、ソフトドーム型スコーカー4個、特殊なペーパーを成形した2cmという比較的小口径のドーム型トゥイーター4個を搭載している。
 このシステムは専用スタンドの使用で片チャンネルあたり2本のスピーカーをスタックして使用することがオリジナルだが、ユーザの希望により片チャンネル1本ずつの使用も可能だということである。
 メーカー純正の黒ミカゲ石をベースにした超重量級のスタンドは、標準的なリスニングルームではやや背が高く、また強固な床を要求するため、輸入元では、特注の木製スタンドを使用状況に合せ供給する用意があるとのことだ。
 なお、試聴はオリジナルの状態のみで行っている。
 アマティIIはオーソドックスな構成をとり、伝統的なスピーカー造りのセオリーを踏襲してゆったりとした落ち着いた響きを基調にしている。
 ダイナミックな音楽にも想像以上に追従する現代的な側面も備えているが、やはり最先端指向の製品の持つ情報処理能力、克明なディテールの再現性という点では一歩を譲るようだ。というより、初めから狙っている線が明らかに違うものだということが、先端指向のスピーカーとの比較でより明らかになる。
 おおらかで、刺激的な音が出にくく、弦楽器のトロッとした自然なホールトーンは、長時間音楽を穏やかな気持ちで聴く気分にさせてくれる。ゆったりとしたソファーに身を沈め、グラス片手に音楽に接する、そんな聴き方がよりふさわしい製品という印象である。
 ジャズ系のソースでも、サックスの咆哮や打楽器のパルシヴな音の立上りはマイルドで、全体的な響きの溶け合う雰囲気的な表現が主体になろう。ただ、オーディオパレットの併用では、かなりダイレクトでスッキリした表現に追い込むことも可能であった。
 条件が許されるなら、オールチェロシステムのメインスピーカーとして楽しむべき製品といえよう。

メリオワ ControlCenter, Poweramp.

早瀬文雄

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 カナダのモントリオールに本拠をかまえるミュージアテックス・オーディオ社より、〝マイトナー〟シリーズの姉妹機に相当する〝メリオア〟シリーズが登場した。
 コンパクトで美しい仕上げのウッドケースに納められ、シンプルなブラックフェイスのデザイン、その垢抜けして飄々としたところが好みの分かれるところでもあったマイトナーだが、部屋の空気に自然に溶け込む存在感の軽妙さは、またカナダ版クォードともいえそうな雰囲気があった。
 今回発表されたメリオワ/コントロールセンターは、リモートコントロールユニットですべての機能が操作でき、しかも8系統ある入力をユーザのニーズに応じてメモリー可能な機能を有している点が目新しい。しかも、各入力端子ごとに、ボリュウム、バランスのレベルを個別に設定しメモリーできるという画期的なものだ。
 フォノイコライザーはなく、アナログディスクの再生にさいしては、なんらかのイコライザーアンプが必要であるが、近日中には同シリーズのフォノアンプが発売される模様だ。
 全体の仕上げはマイトナー・シリーズに一歩譲るとはいえ、このシンプルなデザインの良さには変りはない。
 試聴は、同時発売のパワーアンプとの組合せで行なったが、一聴して、相当にすっきりとした響きであり、生真面目さを感じさせるやや寒色的な響きで、音楽に真面目に向かい合うといった気分にさせてくれる響きだ。
 こうしたコンセプトの製品にはリラックスした、テンションのやや緩めの響きが多い中にあって、スケールこそやや小ぶりだがこれは辛口で本格派の音といえる。
 そういった点でも、これはかなりクォードを意識した作りではないかという気がしてくる。
 小編成の室内楽曲などでそのよさが発揮され、指揮者の意図や緑音の意図などをぼかさないのである。たとえば、新しい解釈による最近の古楽器オーケストラがもつ響きの端整さや潔癖さ、清潔感といったものに、しっかりとした音の骨格やオーケストラの構成要素をはっきりと描き出すのだ。プリアンプ、パワーアンプとも回路の詳細は不明だが、オーソドックスに真面目に作られた機械という印象が強い。
 ただ、おしむらくは、リモコンユニットのデザインと作りだ。システム全体の作りにそぐわない玩具っぽさがあって残念だ。
 リモコンで操作することが前提である以上、クォードやB&Oのように、その機能、あるいは手に持った時の質感、重さ、操作性に、えもいわれぬ馴染みのよさをもっている製品が既にあり、ぜひともみならってもらいたいものだと感じた。

FMアコースティックス FM610

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 美しい音だし明るい音だが、それが単純な味わいではないところにこのアンプ独特の特徴があると思う。魅力的な雰囲気なのだ。このアンプを聴くと、アンプの音への美意識が、こちらの心に目覚めてくるような……何かをもっている「ドゥムキー」の演奏が他のアンプでは味わえない表情を聴かせるのである。艶っぽい弦、ピアノの音の弾力性のある独特の質感、音楽の流れや歌い方が実に滑らかで、やさしさを感じさせる。ベートーヴェンの「エロイカ」でもウィーン・フィルらしい、しなやかな艶っぽい弦楽器群の音色の魅力が、かなり本物と同質の色合いや質感で再生される。まろやかで瑞々しい木管、まばゆいばかりに輝かしく、かつ柔軟繊細な美しさを感じさせる金管の響きなど、多彩な音色の変化も敏感に鳴らし分ける能力を持つ。「オラトリオ」の歌手のなんと自然でリアルな声であることか……。暖かい肉声感がよく出るのだ。ヘレン・メリルはしっとりと美化。

スレッショルド SA/4e

菅野沖彦

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「いまこれだけは聴きたい ’90エキサイティングコンポーネント 最新パワーアンプ18機種の徹底試聴」より

 透明でキメの細かいサウンドは、いかにもスレッショルドのアンプらしいが、これには暖かさも加わっている。音の質感が大変魅力で、妙な表現で恐縮だが、コリコリとした独特とした歯ざわり、肌ざわりのようなものが感じられる音だ。「ドゥムキー」のピアノは快感のあるタッチで、美しく、本来優れた美音の持ち主であるピアニスト、メナヘム・プレスラーの特質がよく生かされる。ヴァイオリンの音も艶っぽくはないが、芯のしっかりした輝かしい美音だし、チェロも豊潤。ベートーヴェンの「エロイカ」ではヴァイオリン群のffにやや鋭い響きがのるが、度を超してはいない。ウィーン・フィルの艶のある音色は、やや硬質な輝きとして再生される傾向だ。しかし明るく鮮度の高い音は安定していて、トゥッティにも明晰な透明感を失わない。サン=サーンス「オラトリオ」も極上とまではいわないが、第一級のアンプであることが確認できる鳴りっぷり。ヘレン・メリルもよかった。

ソニー CDP-R1a + DAS-R1a

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 温和で、しなやかな充分に磨き込まれた音を持った、雰囲気のよい音を聴かせるプレーヤーである。
 ロッシーニは、しなやかではあるが、スッキリとした音を指向した音を聴かせる。各楽器はひととおり分離するが、各パートの声は少し伸び切らない印象となる。音場感情報量、柔らかく定位する小さな音像など、平均を超すレベルだ。ピアノトリオは、ホールの響きをたっぷりと聴かせるサロン風なまとまりである。中高域には硬質な面があり、音の輪郭を聴かせる効果はあるが、ヴァイオリン、チェロの高域成分は少し硬い。ブルックナーは、一応のレベルの音だが全体にちぐはぐな面があり、再生系との相性の悪さが出た音だ。平衡出力では、コントラストが下がり、フレキシビリティは出るが、三万二してまとまらない。ジャズは集中力が不足し、力がいま一歩の印象でまとまらない。もう少し低域のリズム感が支えれば、一応の水準になる印象が強い。

マイクロ CD-M2DC + DC-M2

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 穏やかで、一種独特の重さ、暗さがある渋い音を持つ個性的な音である。CDとしては再生する情報量は多く、演奏会場の空気の動きや椅子などのキシミ、楽器のノイズなどを聴かせる。試聴位置は中央の標準位置。ロッシーニは、基本的にはウォームトーン系のまとまりだが、角がとれたクッキリとした音はアナログディスク的なイメージがある。各パートの声は少し伸びが抑えられ、音像はフワッと大きく定位する。ピアノトリオは、低域が重く粘りがあり反応は遅いが、中低域以上はほどよく立上りの良い素直な音であるため、低域のコントロールをすれば個性的な良い音になるだろう。ブルックナーは、音楽的な意味でのブルックナーらしさがあるが、オーディオ的には見通しが悪く、晴々としない音である。平衡接続ではプレゼンスは良くなるが、ダイナミックレンジは抑えられ、表情も鈍くなる。ジャズは、狭帯域型バランスと閉鎖空間的プレゼンスが特徴だが、安定度、力感が欲しい。

ソニー CDP-R3

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 音の粒子が細かく、滑らかに磨き込まれた低域から中域と、聴感上で高域がゆるやかに下降したかのように聴きとれる、柔らかく穏やかな帯域バランスをもつが、基本クォリティが高く、際立ちはしないが、聴き込むとナチュラルに切れ込む音の分離は相当なものだ。ロッシーニは、中高域に輝きのある硬質さが時折顔を出すが、空間の拡がり感もあり、やはり価格に見合うだけのクォリティの高さが感じられる。ピアノトリオは、全体に低軟・高硬の2ウェイスピーカー的なまとまりとなり、一種のアンバランスの魅力があるまとまりといえるだろう。ブルックナーは、演奏会場の暗騒音もよく聴きとれ、一応の水準を保つ音だ。平衡出力は、全体域にゆとりがあり、しなやかさが加わって弦楽器系の硬質な音が解消され、見かけ上でのダイナミックレンジも大きく聴かれるが、高域は抑え気味。ジャズは、ライヴハウス的イメージの音で、音源が少し遠くなるが、適度なノリで、かなり楽しめる。

メリディアン 206

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 全体に各種プログラムソースを、ややクラシカルな個性的な自分の音として消化して聴かせる独特のキャラクターに注目したい製品。ロッシーニは、全体にナローレンジで硬質な音にまとまり、情報量は少ないが、古いアナログディスク的な一面のある音とでも表現したい印象がある。ピアノトリオは、206の硬質な個性がよく出た明快なピアノとチェロがオーディオ的にわかりやすいコントラストを聴かせる。音場感は少し狭いタイプだ。ブルックナーは、音の輪郭をクッキリと聴かせる、かなり個性的なまとまりとなるが、一種の思い切りの良さが感じられるポイントを押えた音楽の聴かせ方は、再生音楽としてオーディオ的にこれならではの魅力を感じる向きもありそうだ。ジャズは、明快なクッキリとした音を描くまとまりである。聴き込めばブラスは薄く、ベースが小さく硬調となるが、余分な音を整理し、分離よく聴かせどころを巧みに残したような独特の個性は興味深い。