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テクニクス SU-V6, ST-S5

井上卓也

ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のアンプのジャンルでは、パワーアンプのB級動作の問題点であるスイッチング歪を軽減する目的で、B級動作のメリットである効率の高さをもちながら、本質的にスイッチング歪を発生しないA級動作と同等の低歪とする各種の新回路が開発され各社からその製品化がおこなわれていることが特に目立つ傾向である。
 テクニクスでは、さきにA+級と名付けられた新回路を採用した高級セパレート型アンプ、テクニクスA2を発売し、これにつづいてニュークラスAという、異なった発想による新回路を採用したプリメインアンプSU−V10を開発したが、今回は、最も需要層の多い価格帯に、このニュークラスA回路を採用したSU−V6を登場させ、低スイッチング歪を軽減しようとするテーマは、早くもプリメインアンプの分野にまで及び、今後とも各社から、それぞれの構想による低スイッチング歪軽減対策を施した回路を採用したプリメインアンプが、低価格帯と高価格帯に重点を置いて発売されることが予測できる。なお、ST−S5はSU−V6とペアとなる薄型にデザインされたクォーツシンセサイザーFMステレオチューナーだ。
 SU−V6は、B級動作の高い効率とA級動作に匹敵する低歪という、量と質を両立させたニュークラスA動作のパワーアンプを採用している点が特長である。ここでは、B級動作のスイッチング歪の原因となる出力トランジスターのON・OFF現象をシンクロバイアス回路で防止する方法を採用している。この回路は、パワートランジスターの入力にダイオードを使い、ダイオードの半導体としての特性を利用して信号をカットオフし、別のダイオードからバイアスを与えてパワートランジスターのカットオフを防止するタイプで、一種のダイオードスイッチング方式と考えられる。
 イコライザー段は、初段に超低雑音デュアルFETを差動増幅に使うICL構成で、アンプ動作モードスイッチをストレートDCに切替えるとフォノ入力からスピーカー端子までカップリングコンデンサーのないDCアンプとして使用可能であり、イコライザーのゲインを切替えてダイレクトにMC型カートリッジが使える設計である。
 電源回路は、電磁誘導歪みを防止するテクニクス独自の電源部とパワーアンプの出力段を一体化したコンセントレーテッドパワーブロックで左右チャンネル独立型2電源方式である。
 ST−S5は4連バリコン相当のバリキャップ使用フロントエンドをもち、6局までのプリセットが可能。RF系までを含めたDC増幅、DC・MPX回路などが特長。
 SU−V6は、やや音色は暗いが重量感のある低域とクッキリとシャープに粒立ちコントラスト十分な中高域がバランスした従来のテクニクストーンとは一線を画した新サウンドに特長がある。こだわらずストレートに音を出すのは新しい魅力。