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ビクター P-L10

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプの音はコクがある。やや押しつけがましい感じがするほどである。繊細さや透明感といった面よりも、豊かさ、粘りのある質感といった印象の強い音である。だから、人によっては好みがはっきり分かれ、くどい印象として嫌われるかもしれない。開発時期が新しいものではないが、ウォームな質感は音楽の表現にとって、最新アンプにないよさもある。濃厚な質感で決して無機的な響きは出さないのだが、それだけに、やや重苦しい感触だ。
[AD試聴]それほどレンジの広さは感じないが、音がマッシヴなためオーケストラのスケールは大きく、迫力がある。これで、各音像にもう一つ輪郭の明確な彫琢のシャープさがあればよいのだが……。マーラーの再現には濃艶な味わいを聴かせる。「蝙蝠」のステージのライヴネスの透明感が不足するので、臨場感が不足する。余韻が抑えられる感じだ。ロージーの声は、いかにも年増の濃艶な色気たっぷり。ベースは重く豊かだが、弾みは悪くないのでスイングする。
[CD試聴]肉付きのたっぷりした、グラマラスな感じのする音はCDでも共通のオーケストラなどのマッシヴな厚味がよく出て、堂々と響くのはよいのだが、もう少し、透明感が欲しい。冴えとか、さわやかさといった情趣が苦手のようだ。反面、強い説得力がある音だ。B&Wより、JBLのほうが合うようで、量感のあるふくよかな音が、JBLのシャープなエッジと結びついて効果的だ。ジャズでは特にこの傾向が強くJBLは大変よく鳴った。

ビクター P-L10, M-L10

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 ビクターのラボラトリーシリーズのコントロールアンプP−L10とパワーアンプM−L10は、いま、聴いておきたい音、というよりは、いま、安心して聴ける音、といった性格のセパレート型アンプである。
 従来からもビクターには、オーディオフェアなどで見受けられた一品生産的な特殊なモデルを開発する特徴があったが、その技術をベースに、薄型コントロールアンプの動向に合せた7070系のコントロールアンプと、いわゆるパルス電源を初めて採用したモノ構成の7070パワーアンプをトップランクの製品として持ってはいたが、ビクターのセパレート型アンプとして最初に注目を集め、多くのユーザーの熱い期待を受けたモデルは、パワーアンプのM7050であろう。
 これらの従来から築きあげた基盤の上に、アンプの基本思想として、忠実伝送と実使用状態における理想動作を二大テーマとして、ラボラトリーシリーズのセパレート型アンプとして1981年秋に開発されたモデルが、P−L10とM−L10である。
 コントロールアンプP−L10は、かつてのソリッドステート初期に、グラフィックイコライザー(SEA)を搭載した超高級コントロールアンプとして注目を集めたPST1000以来、久しぶりに本格派のコントロールアンプとして総力を結集して開発された意欲的なモデルである。
 最新の技術的産物としてのアンプではなく、音楽性追求のための技術という考え方を基本にして開発されただけに、例えば、音量を調節するボリュウムコントロールには、一般的に抵抗減衰型のタイプが使われるが、これでは可変抵抗器が信号ラインに入り接点をもつために、位置による音質のちがいが生じやすい点が問題にされ、アンプの利得を可変にすることにより音量を変える新開発Gmプロセッサー応用のボリュウムコントロールが採用されている。
 このタイプは、ボリュウムを絞っていけば、比例してノイズも減少するため、実用状態でのSN比が大幅に改善され、結果として、音場感情報が豊かになり、クリアーな音像定位や見通しのよい広い音場感が従来型に比較して得られる利点がある。このバリエーションとして、昨年来のプリメインアンプA−X900やA−X1000にスイッチ切替型として採用されているが、この切替えによるSNの向上が、いかに大きく音場感再生と直接関係しているかは、誰にでも一聴して判かる明瞭な差である。
 また、フォノイコライザーでのGmプロセッサーの応用にも注目したい。入力電圧を電流に変換増幅後、その電流をRIAA素子に流す単純なイコライザー方式は、CR型の伝送・動特性とNF型の高域ダイナミックレンジを併せ持つ特徴があり、電圧を電流に変換する変換率を変えればトータル利得を変化できるため、MMとMCポジションで性能、音質が変わらず、トータルな周波数特性はRIAA素子のみで決定されるため、RIAA偏差は自動的に100kHzまでフラットになることになる。
 フォノ3系は低出力MC用ハイゲインイコライザーで、入力感度は70μVと低いが、SN比は非常に優れているのが特徴である。外装は、ビクター独自のお家芸ともいえる高度な木工技術を活かした、21工程に及ぶ鏡面平滑塗装仕上げ、これは見事だ。
 ステレオパワーアンプM−L10は、ビクター独自のスイッチング歪をゼロとした高効率A級動作方式〝スーパーA〟の技術をベースに、スピーカー実装時のアンプの理想動作を追求した結果、全段カスコード・スーパーA回路を新採用している。この回路も、実際の試聴により、スピーカー実装時のアンプ特性劣化や、音楽再生時のTIM歪や発熱による素子のパラメーターの変化に注目した結果、優れた回路方式として採用されている点に注目したい。
 この方式は、パワー段までカスコード・ブートストラップ回路を開発し、採用しているため、出力段のパワートランジスターは数ボルトの低電圧で動作し、電流のみ変化する特徴があり、電圧と電流の位相がズレるスピーカー実装負荷でも、ダミー抵抗負荷と同じ動作、性能が確保され、アンプは負荷の影響を受けない利点がある。また、低電圧動作のパワー段は、発熱量が低く、従来型に比較してスピーカー実装時の瞬間発熱量は1/10以下となり、サーマルディストーションの改善とアイドリング電流の安定化にもメリットがある。
 構成部品は、エッチングなしのプレーン箔電解コンデンサー、高速ダイオード、高安定金属皮膜抵抗、低雑音ツェナーダイオードなど定石的な手法が各所に認められる。
 外装は、平均的に16工程程度とされるピアノ塗装を上廻る21工程の鏡面仕上げローズ調リアルウッドのキャビネット採用。
 定格出力時、160W+160W(20Hz〜20kHz・8Ωで、THD0・002%)周波数特性DC〜300kHz−3dBの仕様は、セパレート型アンプとしてトップランクの特性である。
 P−L10とM−L10のペアは、充分に磨き込まれた、安定感のある、タップリとしたナチュラルな音が特徴である。各種のキャラクターが異なるスピーカーシステムに対しても、ナチュラルな対応性を示し、それぞれの特徴を活かすセッティングも、個性を抑えたセッティングも、かなりの自由度をもってコントロールできるようだ。
 好ましいアンプというものは、個性的なキャラクターの強い音をもつものではなく、結果として、電気信号を音響エネルギーとして変換するスピーカーシステムに対して、充分なフレキシビリティをもって対応可能なことと、聴感上でのSN比が優れ、音場感的情報量をタップリと再生できるものであるように思う。
 この意味では、このセパレート型アンプのペアは、発売以来3年を迎える円熟期に入ったモデルであるが、各種のスピーカーシステムに対する適応性の幅広さと、ビクターの伝統ともいうべき、音場空間の拡大ともいうべき、音場感情報の豊かな特徴により、現時点でも、安心して聴ける音をもつ、セパレートアンプとして信頼の置ける存在である。

ビクター P-L10 + M-L10

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新セパレートアンプ44機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★
 暖色系の音である。ごりおしにならない積極性がこのましい。そのために①のレコードでは大編成のオーケストラならではの迫力があきらかになる。ただ、総じて音像がふくらみぎみで、④のレコードでは子音の提示が弱くなっていた。ひびきにぎすぎすしたところがないのはこのましい。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★★
 アンプの性格がスピーカーのもちあじをおさえこんでいるというべきか。たっぷりしたひびきが特徴的である。①のレコードでのオーケストラの音がまるでフィラデルフィア管弦楽団のように感じられる。③のレコードでは腰の低い音がきわだち、独自のなまなましさを示した。
JBL・4343Bへの対応度:★★★
 ひびきをおしだす積極性はかなりのものである。①、②、③のレコードでは力強い音をこのましく示したが、④のレコードではNS1000Mの場合同様に子音が弱く、⑤のレコードではひびきのしなやかさに充分に対応しきれていたとはいいがたかった。音場的なひろがりでももう一歩と思わせた。

試聴レコード
①「マーラー/交響曲第6番」
レーグナー/ベルリン放送管弦楽団[ドイツ・シャルプラッテンET4017-18]
第1楽章を使用
②「ザ・ダイアローグ」
猪俣猛 (ds)、荒川康男(b)[オーディオラボALJ3359]
「ザ・ダイアローグ・ウィズ・ベース」を使用
③ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
④「キングズ・シンガーズ/フレンチ・コレクション」
キングズ・シンガーズ[ビクターVIC2164]
A面2曲目使用
⑤「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

ビクター P-L10, M-L10

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ビクター独自のスーパーAクラス増幅とピュアNFB方式を採用したプリメインアンプは、同社が従来より提唱する音場感再生で優れた再生能力を示し既に定評が高いが、今回、7070シリーズ以来久し振りに、ビクターアンプのトップランクの位置を占めるセパレート型アンプとして、コントロールアンプP−L10とパワーアンプM−L10のペアが発売された。
 P−L10は、外観上はプリメインアンプに採用しているシーリングポケットによるパネルフェイスのシンプル化を受け継いだデザインで、フラットで整理されたパネルと、独自の伝統を有する木工技術の成果を活かした人工ローズ材の鏡面平滑塗装21工程の入念な仕上げによるウッドキャビネットが標準装備である。
 回路設計上の特長は、RIAAイコライザ一回路に人力電圧を電流に変換増幅し、この電流をRIAA素子に流してオームの法則により単純にイコライズする方式を新採用している。この方式の特長は、電流によるイコライゼーションのため、CR型の動特性、伝送特性と、高域ダイナミックレンジの大きいNF型の利点を併せもち、電圧・電流変換率を変えるのみでトータルゲインがコントロールでき、MM型と高インピーダンスMC型間での性能、音質が変わらないことである。
 ボリュウムコントロール回路は、音量の大小により音質が変化することが多い可変抵抗器型が一般的だが、ここでは実用レベルでのSN比が大きくとれ、信号回路に可変抵抗が入らぬ可変利得アンプによるボリュウムコントロールの採用が目立つ点だ。また、イコライザー・ボリュウムアンプ回路には回路の高速応答性を高め、歪、Dレンジを改善するフィードスルー回路がある。
 フォノ2は、低インピーダンスMC型専用入力で、信号は負荷抵抗切替付ヘッドアンプを経由してイコライザーに導かれる。
 トーン回路はボリュウムアンプの後段に置かれ、ダイレクト使用時にはモード、サブソニック回路ともども切離され、ボリュウムアンプ出力がプリアウトに出る。
 使用部品は、音質重視設計で、窒素封入リレー、金属皮膜抵抗、銀箔クラッドスイッチ接点、プレーン箔電解コンデンサー、低雑音ツェナーダイオードなどが採用され、プリントパターンも音質重視レイアウトだ。その他、標示ランプ系は、ノイズ発生が多く音質劣化の原因となりやすいLEDを全廃し、白熱ランプの定電流点灯をしているのも本機の注目すべきポイントである。
 M−L10は、スーパーA採用のパワーアンプ7050の成果をベースに発展したタイプだ。出力段トランジスターが一定電圧で動作し、電流のみ変化させ、スピーカー実装時と抵抗負荷時と同じ性能を得る目的でパワー段までカスコード回路を採用した全段カスコード回路採用が特長である。このタイプは出力段トランジスターが数ボルトの低電圧で動作をするため発熱量が少なく、スピーカー実装時の瞬間発熱量は従来方式の1/10以下となり、サーマルディストーションの改善とアイドリング電流が安定し、裸特性が向上するとのことだが、アンプトータルとしての発熱量は、電源側トランジスターが発熱をするため変わりはない。
 その他の特長には、P−L10と同じく新開発人工ローズ材の鏡面平滑仕上げウッドキャビネットの採用、便用部品面でのプレーン箔電解コンデンサー、低雑音ツェナーダイオード、高速型ダイオード、トロイダル型電源トランスと、電源ON時のインラッシュ防止回路の対電源電圧安定性の改善などの高信頼性、音質重視の設計のほかスーパーA方式の採用があげられる。
 P−L10とM−L10の組合せは、落着いた色調の艶やかなウッドキャビネット、フラットなパネルフェイスを採用しているために、オーディオアンプにありがちなメカニカルな印象が少なく、家具などのマッチングにも違和感が少ないタイプだ。
 この種のセパレート型アンプは、パワーアンプの電源をコントロールアンプのスイッチドACアウトレットでコントロールするのが一般的な使用法であるが、音質を重視する場合には、個別に壁のACコンセントから給電するか、止むをえない場合でも電源容量が充分あるACタップから単独に給電したい。コントロールアンプは電源ON時に暖かみのある色調の白熱ランプによる表示灯が点灯するが、パワーアンプは電源ON時には大型の2個のパワーメータースケールが赤に表示され、しはらくしてアンプが定常状態になるとスケール照明が白に変わる、ちょっと楽しいセレモニーが盛り込まれている。
 一般的なハイインピーダンスMM型カートリッジ使用では、ナチュラルに伸びた帯域バランスと音の粒子が細かく、滑らかに磨き込まれた艶やかな音。本格派の分解能が優れたアンプのもつ、わざとらしくない反応の良さが従来の同社製アンプとは異なった次元の製品であることを物語る。いつもは鋭角的な4343Bがスムーズでフレキシブルに鳴る。ナチュラルな音場感の拡がり、音像定位のクリアーさは立派で、情報量が充分に多い。低インピーダンスMC型使用では、SN比が非常に優れ、ノイズの質が非常に高いのが特長である。総合的な完成度が充分に高く、大人の風格が備わった見事な製品である。