Tag Archives: MC7300

JBL S5500(組合せ)

井上卓也

ステレオサウンド別冊「JBLのすべて」(1993年3月発行)
「Project K2 S5500 ベストアンプセレクション」より

 旧来のJBLを象徴する製品が43、44のモニターシリーズならば、現代の同社を象徴するのは、コンシューマーモデルであるプロジェクトK2シリーズだ。S5500は、このプロジェクトK2シリーズの最新作で、4ピース構造の上級機S9500の設計思想を受け継ぎワンピース構造とした製品である。この結果、セッティングやハンドリングがよりしやすくなったのは当然だが、使用機器の特徴をあかちさまに出すという点では、本機も決して扱いやすい製品ではない。エンクロージュアや使用ユニットこそ小型化されたものの、S9500の魅力を継承しながらも、より音楽に寄り添った、音楽を楽しむ方向で開発された本機の魅力は大きい。
     *
 JBLが’92年の末に発表したプロジェクトK2シリーズの最新作が、S5500である。プロジェクトK2とは、’89年にセンセーショナルなデビューを飾ったS9500 (7500)に始まる同社のコンシューマー向けの最高峰シリーズで、本機は、上級機S9500の設計思想を受け継いだワンピース構造のシステムである。S9500が35cmウーファーと4インチダイアフラム・ドライバーを搭載していたのに対し、本機は30cmウーファーと1・75インチドライバーを搭載しているのが特徴である。また、S9500で同一だったウーファーボックスの内容積が、本機では、下部のそれの内容積がやや大きい。ここに、IETと呼ばれる新方式を採用することで、反応の速い位相特性の優れた低域再生を実現している。また、チャージドカップルド・リニア・デフィニションと呼ばれる新開発のネットワークの採用にも注目したい。ネットワークのコンデンサーには、9Vバッテリーでバイアス電圧を与え、過渡特性の改善を図っている。
 本機は、S9500譲りの姿形はしているものの、実際に聴かせる音の傾向はかなり異なり、アンプによって送りこまれたエネルギーをすべて音に変換するのではなく、どちらかというと気持ち良く鳴らすという方向のスピーカーである。
 こうした音質傾向を踏まえたうえで、ここでは、ホーン型スピーカーならではのダイナミックな表現と仮想同軸型ならではの解像度の高い音場再現をスポイルせずに最大限引き出すためのアンプを3ペア選択した。

マッキントッシュ C40+MC7300
 まず最初に聴いたのは、マッキントッシュのC40+MC7300の組合せである。C40は、C34Vの後継機として発売されたマッキントッシュの最新プリアンプで、C34VのAV対応機能を廃したピュアオーディオ機である。サイズもフルサイズとなり、同社のプリアンプとしては初のバランス端子を装備している。これとMC7300といういわばスタンダードな組合せで、S5500のキャラクターを探りながら、可能性を見出すのが狙いだ。
 可能性を見出すというのは、C40に付属する5バンド・イコライザーやラウドネス、エキスパンダー、コンプレッサー機能などを使用して、スピーカーのパワーハンドリングの力量を知ることである(現在、マッキントッシュのプリアンプほどコントロール機能を装備したモデルはきわめて少ない)。また、マッキントッシュの音は、いわゆるハイファイサウンドとは異なる次元で、音楽を楽しく聴かせようという傾向があるが、この傾向はS5500と共通のものに感じられたためこのアンプを選択した。
 S5500+マッキントッシュの音は、安定感のある、非常に明るく伸びやかなものである。古い録音はあまり古く感じさせず、最新録音に多い無機的な響きをそれなりに再現するのは、マッキントッシュならではの魅力だ。これは、ピュアオーディオ路線からは若干ずれるが、多彩なコントロール機能を自分なりに使いこなせば、その世界はさらに広がる。
 その意味で、このアンプが聴かせてくれた音は、ユーザーがいかようにもコントロール可能な中庸を得たものである。ウォームアップには比較的左右されずに、いつでも安心して音楽が楽しめ、オーディオをオーディオ・オーディオしないで楽しませてくれる点では、私自身も非常に好きなアンプである。

カウンターポイント SA5000+SA220
 S5500のみならずJBLのスピーカーが本来目指しているのは、重厚な音ではなく一種のさわやかな響きと軽くて反応の速い音だと思う。この線をS5500から引き出すのが、このカウンターポイントSA5000+SA220である。
 結果は、音楽に対して非常にフレキシビリティのある、小気味よい再生音だった。カウンターポイントの良さは、それらの良さをあからさまに出さずに、品良く聴かせてくれることで、音場感的には、先のマッキントッシュに比べて、やや引きを伴った佇まいである。美化された音楽でありながら、機敏さもあり、非常に魅力的である。たとえるなら、マッキントッシュの濃厚な響きは、秋向きで、このカウンターポイントのさわやかな響きは、春から夏にかけて付き合いたい。

ゴールドムンド ミメイシス2a+ミメイシス8・2
 次は、S5500をオーディオ的に突きつめて、そのポテンシャルを最大限引き出すためには、このあたりのアンプが最低限必要であるという考えの基に選択したのが、ゴールドムンドのミメイシス2a+ミメイシス8・2である。
 結果は、ゴールドムンドならではの品位の高い響きのなかで、ある種の硬質な音の魅力を聴かせる見事なものであった。
 モノーラルアンプならではの拡がりあるプレゼンス感も、圧倒的である。オーディオ的快感の味わえるきわめて心地の良い音ではあるが、反面、アンプなどのセッティングで、音は千変万化するため使いこなしの高度なテクニックを要するであろう。ここをつめていく過程は、まさにオーディオの醍醐味だろう。

 S5500がバッシヴで穏やかな性格をもった、音楽を気持ちよく鳴らそうという方向の製品であることは、前記した通りである。しかし、これは、本機が決して〝取り組みがい〟のない製品であることを示すものではない。一言〝取り組みがい〟といってもランクがあり、手に負えないほどのものと、比較的扱いやすい程度のものと2タイプあるのだ。本機は、後者のタイプで、そのポテンシャルをどう引き出すかは、使い手の腕次第であることを意味している

マッキントッシュ MC7300

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 アンプリファイアー篇」より

 マッキントッシュ社のアンプの特質については、そのフラグシップモデルMC2600の項で述べた通りであり、総合的に同社のアンプは世界一の優れた製品だと思う。最近ますますこの信念を確認させてくれるのであるが、それは同社が一貫して伝統的な主張を曲げずに新しいテクノロジーでリファインしたニューモデルを出してくるからだと思う。新製品のための新製品を矢つぎ早に出したり、ただ昔のものを作り続ける姿勢ではなく、必然性をもった新製品を出すからである。この製品はMC7270という従来の代表モデルの後継機として6年ぶりに発売されるもので、すでに発売されたMC2600とMC7150の中間に位置する製品だ。これでパワーアンプの新シリーズ3機種がそろったわけで、次は多分プリアンプの新シリーズが出てくるだろう。フルグラスパネルとなったMC7300は、外見上はパネル面がさらにマッキントッシュ・イメージを強く表現しているが、本体はカバーで被われたためトランスやコンデンサーが直接目に触れなくなった。この点、やや平凡な箱型アンプ化した感じでもあるが、中味は従来よりさらに充実し、ソリッド化している。新設計の出力トランスは大型化したため、今までのものとは逆向きにシャーシ底部にギリギリ下げて搭載され、トランス上にドライバー基板がおかれるという変更を受けている。全体のサイズを拡大しないで300W強/チャンネルに実力アップし、歪みを一桁以上低減した結果だ。カバーをとるとぎっしりつまった内容に驚かされる。無駄な空間は皆無。まるでソリッドな鉄の塊のようで、外から見た印象で持ち上げようとしても上がらないほど重い。しかし、その音はふっくらと豊かで、透明で、漂うような空間感を聴かせる。従来の同社のアンプの重厚さは実音のマスに十分現われているが、この明るく楽しい軽やかな空間感は新鮮だ。 価格は他の他の輸入品と比べるとこの倍でも十分通用する。

マッキントッシュ MC7300

菅野沖彦

ステレオサウンド 100号(1991年9月発行)
「注目の新製品を聴く」より

 関西方面の言菓に「まったり」というのがある。本誌の編集発行人である原田勲氏から説明を聞くと「まったり」というのはマッキントッシュのアンプの音のようなことを表現する言葉だという。「まったり」という言葉の音調からすると、この言葉を使わない我々関東の人間は、もったり、ねっとり、べったりといった形容詞を連想するが違うようだ。言葉というものは、その意味から発展して、語韻が独自の機能をもつ場合も多いが、どうやらこの「まったり」という語は、「全り」からきたものらしい。言語学者に確かめたわけではないので、素人の推測に過ぎないが、原田氏によると、完全無欠とか、過不足ないといった意味のニュアンスを含むらしいことから、私は勝手にこう考えた。全しという言葉を私は時々使う。たいてい今の若い編集者に『?』をつけられるので、この頃はやめてしまったが、「まったし」とよむこの語は、辞書にちゃんとのっている。手許にある岩波国語辞典には「完全だ」が第一にのっている。第二には「安全だ」。「−・きを得る」と書いてある。しかし「まったり」のほうはのっていない。「まったり」は多分、これを形容詞化した語ではないかと思うのだが……識者のご意見をお聞かせ願えれば幸いである。
 原田勲氏のいう「まったり」なマッキントッシュの音は、古い製品についてのものであったけれど、この最新モデルMC7300パワーアンプの音は、より「まったり」で、「まったし」なのである。300W+300Wのこのパワーアンプは、旧MC7270の後継機として開発されたもので、すでに先行発売されたMC2600とMC7150の中間に位置する同社の中堅機種、いいかえれば代表的な標準モデルといってよいものであろう。MC2205、MC2255、MC7270という系譜の最新モデルであって、6年振りのモデルチェンジということになる。
 新しい改良点は、MC2500〜MC2600への改良点と共通しているもので、主なポイントは、パワーの10%アップ、オートフォーマーの歪のさらなる低減、プリドライヴ回路以降にバランス型のシンメトリック・サーキットの採用、これにともなって、入力にはアンバランスとバランスの2系統が設置され、インプットでインピーダンス変換が行なわれる回路になった。また電源もリファインされ、より低インピーダンス化の徹底と、フラックス対策が施されている。こうした新しいリファインメントによってトータル歪は一桁は確実に低減されている。パワーガードサーキット、カレントリミッターサーキットは従来通りで、いかなる状態においても耳障りなクリッピング歪はスピーカーから聴くことができない。また、いかなる使い方をしても、モトローラ社製TO−3パッケージのCANタイプのトランジスターを±それぞれ5個使用した出力回路はオートフォーマーのガードで安全だし、スピーカーを破損することもない。抜群の信頼性は、まったく従来のマッキントッシュパワーアンプ伝来の特徴といえるであろう。
 MC2500からMC2600への発展で、音質が明るく透明感を増し、従来私の感覚に若干不満を感じさせていた暗さと重さがなくなったことは本誌98号の特集記事中(240頁)で述べたが、このMC7300も、MC7270との変化は傾向として同じだといえるが、その差はより大きい。その音質については冒頭に述べたように「まったり」をさらに高次元で達成したものであるのだが、とにかく不満なところがないというのが正直なところである。実に清々しく、透明で、力強く、濃密なのだ!!
 この大きな矛盾は、常に多くのアンプに存在するものである。つまり、清々しいけれど力感に乏しい……か、透明だが濃密さが物足りない……というアンプが普通である。アンプやスピーカーが、何らかの個体個性をもつ限り、次元のちがいや、程度の差はあっても、こうした傾向はつきものである。それが、このMC7300は、一聴した時には、その通念を超えた印象を与えるアンプなのだ。もちろんオーディオの無限の可能性は、将来さらなる境地の開拓を体験させてくれるであろうが、今、このアンプの音を聴いて表現するとなると「まったし」という言葉を使わずにはいられない。
 外観的にはフルグラスパネルになって、よりマッキントッシュのアイデンティティが強調されたが、反面、カバーで覆われ単調になった全体のイメージが寂しいところもある。しかし、このサイズの中にびっしりつめられた各ブロックのデンシティーは恐るべき高密度で、もはやトランスもコンデンサーも外からは見ることができない。この組み込みで、この透明な音が得られているのが不思議なほどだ。