菅野沖彦
ステレオサウンド 52号(1979年9月発行)
特集・「いま話題のアンプから何を選ぶか 最新セパレートアンプ32機種のテストリポート」より
製品としての完成度の高さの点で、現在、マッキントッシュのアンプの右に出るものはないといってよかろう。デザインのオリジナリティと、そのクォリティ、コンストラクションなどの総合的なバランスのよさは、まさに、専門メーカーとしてのキャリアと風格を証明し、アマチュアに毛の生えたような製品の多い昨今、ますます、その存在が輝きを放っている。仕上げの高さ、創りのよさといった見地からみると、アンプに関して、いまや国産の高級機を凌ぐ外国製品の数は、それほど多くはない。前述した、アマチュアに毛の生えた程度の作りの粗さや未熟さは、メーカー製にはあってはならないものだろう。真に価値のあるものは、中味にふさわしい外観、外観にふさわしい中味の各々相まって然るべきである。音さえよければそれでいいという考え方は未熟である。それも、買い手がいうのならまだしも、作り手や、売り手が口にすべきことではない。ましてや、作りの粗さや雑なところが、いかにも専門メーカーの小量生産品らしくてよいなどというのは、詭弁以外のなにものでもない。外観の風格は、中味の充実からくるものであるし、その品位と重みといった雰囲気は一朝一夕に出来上がるものであるはずがない。マッキントッシュの製品は、こういう観点から見た時、真の一流品、高級品といえる数少ない現役製品のひとつだ。
このC29、MC2205という製品は、現在のマッキントッシュのラインアップのなかでは最も新しい設計による矢野で、一貫したマッキントッシュの風格は、その外観にも音にも堅固に生き続けている。
C29の特徴と音質
C29コントロールアンプは、価格的にみればC32の下のクラスということになるが、必ずしもC32の普及モデルというのではなく、むしろ、C28の新型が、このC29で、C32は新しいコンセプションによるニューモデルと考えるのが妥当であろう。それは、コントロールアンプとしての機能や、音の上からも肯定できるところであって、C32の豊潤な艶は、従来のマッキントッシュのサウンドとはやや異質だし、コントロールアンプとしてはコンセプトの異なるものだ。また、多分割のバンド型トーンコントロール機能も、マッキントッシュ伝統のものとはいえない。その点、このC29はオーソドックスで、シンプルなコントロールアンプで、必要なファンクションは完備したマッキントッシュ伝統のコンセプトを反映しているものである。グラスパネルのイルミネーションは、いまさらいうまでもなく、ユニークで美しく、機械の精度の高さをよく表現し、かつ、マッキントッシュのガウ社長のいう「エモーショナルレスポンス・フォー・ミュージック」を感じる心に豊かに呼応するフィーリングである。従来の同社のコントロールアンプは、いわゆるS(スイッチ)付ボリュウムを使っていたが、新シリーズから、パワースイッチとボリュウムは分けられ、プッシュ式の角型スイッチで電源のオン・オフをおこなうようになったのは好ましい。S付ボリュウムというのは、たしかに普及品のイメージに連なることは否定できない。パワースイッチにふれたついでだが、このプッシュボタンの色は、あまり好ましいとはいえない。新シリーズの出始めの頃は、他の一群のプッシュボタンと同じ、黒であったが(私が現用しているC32はそれだ)、見分けにくいということで、現在の色にしたらしい。しかし、この赤茶のような透明感のない色の質感は、マッキントッシュにしては、少々不満なクォリティであると思う。
そして、音は、充実した質感……いかにも中味がつまっているといったソリッドネス……力と重みのある堅固な造形感をもった音像再現の見事さといった、マッキントッシュ・サウンドに、明るい陽光が射し込んだような、透明さが一段と冴え渡るようになったフレッシュなものなのである。
MC2205の特徴と音質
新しいマッキントッシュのアンプに共通していえることだが、コンストラクションの確かさは、その精選されたパーツとのコンビネーションで最新のエレクトロニクステクノロジーをオーディオ的に洗練し、見事な再生音楽のリクリエイトに成功している。その伝統ゆえに、古い世代のアンプという偏見をもつ人がいるが、愚かな認識である。確かに、マッキントッシュは、実験的な突飛なパーツや回路は採用しないが、これは、同社が、製品の信頼性と、音楽の豊かな情緒的再現を重視しているからである。ポルシェが、市販車にターボチャージャーを装備したのは、大変な実験とレース実績の積み重ねをしてからであった。BMWが、それより先にターボチャージャーを装備した車を売り出し、そのレスポンスのタイムラグや故障のために生産を中止した事実とは対照的である。マッキントッシュのプロダクションの考え方には、これと一脈通じるものがある。やれDCアンプだ、サーボアンプだと大さわぎをしてはいるが、はたして音はどうなのだ? はたしてオーディオにとって本当に有効な技術進歩かどうか? そんなことは半年やそこいらで結論が出るものではないだろう。往年のマランツやマッキントッシュほどのものになると、10年前の製品でも、オーディオ機器として最新の製品と堂々と比肩する性能をもつものである。人によっては、昔のもののほうを高く評価するという事実もある。
MC2205は、こうした音とテクノロジーの関連を、マッキントッシュらしい慎重さと、豊かな想像力で検討し、有能なエンジニア達が、古くからの体験に基づき、よいものを大切に、新しいテクノロジーの中から厳重に選択したポイントを盛り込んで作り上げられただけあって、外観も、お供、まさに威風堂々の充実感を覚える力作である。これらのすべてが、今回のテストで改めて如実に確認できた。
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