井上卓也
ステレオサウンド別冊「世界のオーディオブランド172」(1996年11月発行)より
IRS−EPSILONは、かつてのGAMMAに位置づけられるモデルだが、低域ユニットが2個から1個になった。その低域は、IMGコーンの30cmユニットで、磁気回路が強化されて駆動力を増し、さらに独自のサーボ制御を採用している。中低域は平面振動板の精度を上げ、磁気回路を見直した新L−EMIM型、中域も同様に高能率化したHE−EMIM、高域はHE−EMITで、全ユニットはGAMMA当時とは異なり、一段と高精度・高能率化された新タイプに変っている。
付属のサーボコントロールユニットは、調整が簡単で使いやすくなったが、GAMMAのように微妙な調整ができないことに少々の不満は残るようだ。
IRSシリーズは、基本的にダイポール型放射をするが、本機になって背面の音圧をコントロールし、正面の特性を向上させようというコントロールド・ダイポール・スピーカーという考え方が新しく導入された。つまり、ユニット背面に音響ロードをかけてコントロールする技術が応用され、スピーカーシステムと対峙して聴取する位置でのフィデリティが改善されている。
しかし、逆に考えれば、本来ダイポール特性をもつユニットの背面の放射をコントロールするということは、ホーン型やコーン型などの前面にのみ音を放射するユニットに近似させることとなり、これが、振動板前後の空気の圧力が同じ条件になることがベストな、平面振動板のメリットを損なうことになりはしないかという疑問が生じる由縁でもある。背面放射を制御する考え方は大変に合理的とは思われるが、短絡的に考えれば、ダイポール型のEMIユニット本来の魅力が、この手法により薄らいだ印象があることはいなめない。
IRS−EPSILONは、平均的に使いやすくなったことは見事なリファインであるが、これならではの魅力も、その分だけスポイルされた点をどう考えるかが問題だろう。
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