井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
西独クリアーオーディオ社のMC型カートリッジは、かねてから米国のハイエンドユーザーと呼ばれる一部のファンの間で、音場感再生に優れた製品として評価が高い、とのことである。今回3モデルのMC型カートリッジが輸入された。
MC型としての発電方式は、すでに特許を獲得した新タイプとのことであるが、現時点では、米国で発表された資料と思われるものを日本語に直訳したものしかなく、実際のところ、試聴時にはスペックも不明だった。負荷インピーダンスも、ローインピーダンス設計とのことであったが、試聴後に届いた資料によれば、50Ωにインピーダンスを設定し、50Ωのケーブルを使用すれば、ケーブルの反射が解消できる、と記されていることから、50Ωのハイインピーダンス型であることが判った次第だ。
専用シェルに取りつけてあるスタンダードモデルと思われるガンマを、標準的な針圧とされる2・2gで聴く。全体に、やや線は太いが、安定度を重視した穏やかな音が特徴で、音場感の拡がりは、まず標準的な範囲だ。針圧を2・5gに増す。針圧変化と音の変化はシャープに反応を示し、明解さのあるエッジの張った音に変わる。
特徴的な点は、スクラッチノイズの質が一般的なタイプとは異なり、乾いたイメージの、やや個性型である。針先のエージングにより、本来の音を聴かせるタイプのカートリッジであるのかもしれない。
セラミックと名付けられた、中間的な位置づけにあるモデルは、ガンマと比較して、全体にやや表現を抑える傾向はあるが、音の芯がしっかりとしている点では、明らかに上級モデルらしいところだ。バランス的には、中域のレスポンスが上昇するという意味ではないが、中域に密度感が集中する傾向があり、ヴォーカルなどでは明快で、音像定位がシャープなことが特徴である。ダイナミックレンジの広さも、ガンマよりは明らかに一段上手である。
注目のポイントである音場感は、フワッと柔らかい雰囲気が拡がるプレゼンスが感じられ、かなり個性的なイメージがある。
アキュレートは、超高価格なスペシャリティモデルである。
音の粒子は細かく滑らかに磨かれ、上級機らしいダイナミックレンジの広さに裏付けられて、独特のトロッとした滑らかさがある、大人っぽい熟成度の高さが聴きどころだろう。
音場感は、奥深く後ろに拡がり、音像はフワッと浮き立つ個性型のまとまりであるのが特徴的。
構造上の特徴から、出力の引き出し線の処理が直接音質と関係するため、共振を避けて取りつける必要がある。スクラッチノイズは、質と量は異なるが、3機種とも共通性があり、興味深い。
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