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フィデリティ・リサーチ FR-7fz

井上卓也

ステレオサウンド 70号(1984年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 エフ・アールを代表する独創的な発電メカニズムをもつMC型カートリッジ、FR7は、七八年の発売以来、八〇年のFR7f、八一年の受註生産のスぺシャルモデルFR7fcとモディファイがおこなわれ、すでにシリーズ製品としては、長期間にわたるロングセラ㈵を続けている。
 今回、このFR7fに改良が加えられ、モデルナンバー末尾に、このタイプの発電方式による究極のモデルを意味するZの文字が付けられてFR7fzに発展し発売された。
 力−トリッジ、とりわけMC型では、その発電メカニズムそのものが結果としての音質を決定するキーポイントであるが、FR7系の発電方式は、3Ωという低インピーダンス型ながらも、コイル巻枠に鉄芯などの磁性材料を使わずに、空芯の純粋MC型として、驚異的な0・2mVの出力電圧を獲得している点に最大の特徴がある。
 では、どうして低インピーダンス型にこだわるのか。カートリッジを電圧×電流つまり電力で考える発電機として考えてみれば、出力電圧は、同じ0・2mVとしても、インピーダンスが、3Ωと30Ωでは、負荷に流せる電流の値は、簡単に考えて約10対1の差があると思ってよい。つまり、発電できる電力としては低インピーダンス型に圧倒的な優位性があるわけで、この発電効率の高さが、例えば高能率型スピーカー独特の余裕のある力強さや、豊かさに似た、音質上の魅力のもとと考えてよく、低インピーダンス型MCを絶対的に支持するファンは、この特徴に熱烈な愛着を持っているにほかならない。
 FR7fzの特徴は、コイルの線材に特殊製法の純銅線を採用し、コイル部分の再設計をおこない、負荷インピーダンスを3Ωから5Ωに変え、出力電圧を0・2mVから0・24mVと高めたことにある。
 試聴には、トーレンスのリファレンスとSME3012Rゴールドを使用した。ただ、シェル一体型で自重30gのFR7fzでは、この場合バランスはとれるが、最適アームであるかについては不満が残る条件である。なお、昇圧トランスは、XF1タイプLおよび他のものも用意した。
 FR7fが、押し出の効いた豊かな音をもってはいるが、やや、最新録音のディスクで不満を残した音の分解能やスピード感などが、新型になって、大幅に改善されるとともに、新しい魅力として、伸びやかで活き活きとした表現力の豊かさが加わった印象である。昇圧トランスを使わず、MCダイレクト入力でも使ってみたが、やはり真の発電効率の高さは、トランスで活かされることは、その音からも明瞭である。
 製品としての完成度は、非常に高いが、アナログ究極のMC型力−トリッジとしては、現在開発中と伝えられる、カンチレバーレスのダイレクトMC型に期待が持たれる思いである。

フィデリティ・リサーチ FR-7, FR-7f, XF-1

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR7、FR7f、昇圧トランスXF1の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

XF1

フィデリティ・リサーチ FR-7f

菅野沖彦

ステレオサウンド 58号(1981年3月発行)
特集・「第3回《THE STATE OF THE ART 至上のコンポーネント》賞選定」より

 FR7fというカートリッジは、いうまでもなく、前作FR7の姉妹機で、いわばそのMKIIではないからこそ、fという別名を与えたというだろうが……FR7でもそうだったのだが、このカートリッジは、現在のカートリッジのコンセプトへの真向からの挑戦ととれるもので、構造的にも音的にも実にユニークなオリジナリティとフィロソフィの明確な作品であって、「そういってはなんだが、どんぐりの背比べよろしく、ムービング・マスや自重の軽量化や、軽針圧の限界競争などにうつつをぬかしている、そこらへんのありふれたカートリッジとはわけが違うぞ!!」とでもいいたげな内容と外観をもっている。たしかに、このカートリッジは、並のカートリッジとは一味も二味もちがった、コニサー好みの魅力的なものなのだ。推測だが、このカートリッジは、とても商品として量産のきくものとは思えず、一つ一つが丹念につくられた精密機器だけがもつ風格をもっている。血の通った名器と四分にふさわしい。7fの基本構造は、前作7と同じで、2マグネット4極構成の磁気回路によるプッシュプル発言方式。可動コイルは、カンチレバーに直接取り付けられ、鉄芯はもちろん、巻枠さえ持たない完全空芯タイプというユニークなものである。インピーダンスは2Ωという低いもので、出力電圧は0・15mV〜0・2mVである。その他数え上げれば、数々の特長を上げることができるが、いたずらに新素材を使ったり、スペックをよくすることを目的としたテクノロジーのスタンドプレイは、ここには見当らない。カートリッジとレコードを愛し、見つめ、いじり、考えに考えた一人の人間の眼と耳が、練達の技を通して具現化した執念の作品がこれなのだ。これほど主張の強いオーディオ製品はそうざらにはあるまい。特に、昨今のデータ競争によって平均化され、無個性化される傾向の強い環境の中では、一際目立った個性的な存在なのである。音を聴けばこのことがさらに、さらによく理解できるであろう。こんな音が? と驚くほど、かつて聴き得なかった音までを、レコード溝の奥深くから、さらって聴かせるといった雰囲気で、出てくる音の輪郭の明確さ、音像の実在感の確かさ、曖昧さのない張りのある質感は、少々圧迫感があり過ぎるほど、あくまで力強く、濃厚である。血の通った音という表現は私好みだが、まさにこのカートリッジにこそ、この表現はふさわしい。それも熱い血潮だ。かつてオルトフォンのSPU全盛の時代にあって、今はなくなった音を、レコード・オーディオ通の諸兄ならご記憶であろう。そう、同好の士なら解っていただけるであろう、あのレコード独特の聴き応えのたしかな音の質感である。あれが、このところスピーカーから聴こえてこなくなって久しいとは思われないだろうか? その代りに、繊細、透明、軟らかく、軽やかな、さわやかな音は豊富に聴けるようになったと思う。艶も輝きも聴こえないといったらうそになる。
 しかし、あの弾力性のある真の艶と輝きの実感、厚い音の温度は、今聴くことは難しい。それがあるのだ。それを聴かせてくれるのが、このカートリッジなのだ。前作7が出た時、私は、この音を聴き得て飛び上ったが、惜しむらくは、トレース能力に難があったことも確かである。7fはこれが向上し、たいていのレコードはOKとなった。自重30gの重量級カートリッジだからこそ、2〜3gの針圧だからこそといった音がする。これは、今の軽量級支持者がもっともっと考えるべき問題提起なのである。いいことばかりではない。こうした構造をとれば、よくもあしくも特長が現われ、それが個性となる。要は、この個性を好むか否かであろう。角度を変えて欠点をほじり出せばきりがない。勇気のある製品なのだ。だからこそ、ステート・オブ・ジ・アートに選ばれるにふさわしい。

フィデリティ・リサーチ FR-7

井上卓也

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 プッシュプル発電方式を採用し、低インピーダンスで純粋MC型の電力発電効率を高めた設計が凄い。音は、まさしくMC型の味だ。

フィデリティ・リサーチ FR-7

菅野沖彦

最新ステレオ・プラン ’78(スイングジャーナル増刊・1978年7月発行)
「タイプ別本誌特選スピーカー42機種紹介・MMカートリッジ特選3機種4万8千円以上」より

 フィデリティ・リサーチが、MCカートリッジを作ってデビューしたメーカーであることを知らない人はいない。FR1という製品がそれで、その当時、これを聴いた時の感動をいまだに思い出す。その繊細緻密な高音の再生能力と、ふくよかに息づくような豊潤な中低域に、聴き馴れたレコードが一際生彩を加え、愛聴盤のほとんどを聴きなおしたほどだった。その後、このFR1は、幾度かのリファインを重ねて、現在まで、ほぼ10年に近い年月を同社の代表製品として支えてきた。併売されていたMM型には、もう一つ説得力に欠け、作る側自身の情熱の欠如を感じとったのは私だけではあるまい。FRは、やはりMCカートリッジに、ディスク変換器としての理想を求める技術集団だったのではあるまいか……。この事は、今度発売された、このFR7を見て、聴いて、よりー層はっきりした形で、同社の、こうした体質への推理を認識させられたように感じられる。おそらく、このFR7は、FR1の開発とリファインのプロセスの中で育て上げられたMCカートリッジに関するテクノロジーとノウハウの蓄積を成果として現われたもので、その意味では、きわめて長い開発期間を経て来たものであろう。
 FR社の特質は、メカニズムやマシンに対するマニアックな感覚がいつも、その製品に息づいているが、いわゆる通好みの材質感や加工精度のもたらす美が生きている。最近の製品ては、トーンアームのFR64Sがそうで、ステンレス加工の、このアームの魅力は、FRならではのものだ。こうした、機械系の信頼性と、多分、業界随一の長く豊かなカートリッジ作りの経験をもつ同社の社長の情熱が結びついて出来てくる製品には、当然、並のものとは一味も二味も異る風格が滲み出る。
 ところで、このFR7は、昔、FR1を聴いた時のような、ショックを再び味わうことになったもので、その鋭く深い彫像の確かさは、まさにベールをはいだという表現がぴったりのクリアーな再生音である。レコードに刻み込まれた音は、いかなる微細なものも、ことごとく拾い上げる。濁りがなく、僅かな位相差も忠実に再現してくれるので、録音時のマイクの置き方が明確に判別出来るのには驚ろいた。定位のよさと、空間感(フェイズの忠実な変換能力による)の再現は全く素晴しいの一語に尽きる。また、全体に、音の基本的な質感が、きわめてエネルギッシュでたくましい。底力のある低音の迫力は、多くのカートリッジと歴然とした違いを感じるのである。
 それだけにレコードのムードを生かしてくれるという性格を期待するわけにはいかない。録音再生全体のプロセスの相関関係に頼ってムードをかもし出してきたレコード音楽の長年の歴史は、この辺でピリオドを打たれてしまうのであろうか……。見るからに充実感に溢れたこのFR7を前に圧倒されながら、昔によき時代を感じる郷愁の念も否定できずにいるこの頃である。

フィデリティ・リサーチ FR-7

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

MC型独特の繊細さに力強さを加えたFR最高の見事な製品。

フィデリティ・リサーチ FR-7

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

MC型の特徴を十分発揮した緻密でエネルギッシュな再生音をもつ。