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ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 日本のスピーカーには、日立、東芝、三菱といった、いわゆる家電メーカーがトップランクの独自の技術を活かして高級スピーカーの分野で素晴らしいモデルを市場に送り出していた時代があった。このことは、現在の若いオーディオファイルにとっては、予想外の出来事であるであろう。
 しかし若い人でも、第2次大戦後に、NHKの放送局モニタースピーカーの開発を行ない誕生した三菱電機のダイヤトーンブランドのことは、おそらく、知っている人のほうが多いであろう。
 マランツ用OEMスピーカーとして開発したモデルのバリエーションタイプが同社民生用システムのスタートであったが、’70年に発売されたDS251は、驚異的なベストセラーモデルとして評価され、愛用されて民生用の地盤固めに成功する。
 同時に、かつてのNHKモニターとして全国的に採用された2S305系の2ウェイ方式・バスレフ型エンクロージュアから、次第にDS251やDS301系のマルチウェイ方式と完全密閉型エンクロージュア採用が同社製品で主流を占めるようになる。そして’80、振動板材料にハニカムコアとケブラースキン材を組み合わせたアラミド・ハニカム振動板(低・中低域用)や新素材ボロン化チタンをドーム型ユニットに採用し、振動板とボイスコイルボビンを一体化したDUD構造の開発(中域・高域用)など、いわば新世代のダイヤトーン・スピーカーとして誕生したのが、4ウェイ構成ブックシェルフ型DS505である。
 この新世代シリーズの頂点として開発されたモデルが、4ウェイシステムのDS5000で、中低域再生能力を高めるために大変に個性的な設計方針でつくられたモデルであった。それというのも、それまでの4ウェイシステムは、3ウェイ方式の中低域を補うために専用ユニットを組み合わせた開発だったのにたいし、本機では、中低域ユニットと中高域ユニットで2ウェイ構成の狭帯域バランスをつくり、これをベースに、いわばサブウーファーとスーパートゥイーターを加えたようなシステムアップしていたからである。ここがDS5000の最大の特徴であり、ミッドバスの充実したエネルギーバランスは、従来にない、大きな魅力であった。しかも、設計思想が最優先され、変換器としては高性能であろうが振動板材料の音が際立ったDS−V9000などの後継作と比較して、余裕タップリに大人の風格で音楽が楽しめる点では、同社の最高作品といえよう。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 早くから、デジタルプログラムソース時代を先取りしたデジタル・リファレンス・スピーカーシステムをテーマにして取組んできたダイヤトーンのトップモデルであり、フロアー型システムとしては、同社でも、コンシュマーユース唯一のモデルだ。
 基本構成は、独自のアラミドハニカムコンストラクションコーンと、ダイヤフラムとボイスコイルが一体型のDUD構造採用のドーム型ユニットを組み合わせ、ミッドバス構成4ウェイ・ブックシェルフ型としての第1弾製品DS505を大型化し、エンクロージュア形式をバスレフ型にして完成したフロアー型システムである。このバスレフ型採用は、同社の高級シリーズでは唯一の存在で、本機の大きな特徴だ。
 各構成ユニットは、DS1000以降のユニット構造を発展させたタイプとは異なるが、中域と高域ユニットの2段積み重ね型マグネットに代表される物量投入型の設計は、明らかにブックシェルフ型とは一線を画した、フロアー型ならではの魅力がある。
 基本特性は十分に押えられ、製品としては、発売以来すでに熟成期間もタップリと経過をしているため、信頼性は非常に高い。フロアー型ならではの、ゆったりとしたスケールの大きさと、反応の速いレスポンスが特徴だが、セッティングに代表される使いこなしで、結果としての音は大幅に変化をし、モニター的にも、音場感型にも使用可能だ。

ダイヤトーン DS-5000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
基本をしっかりおさえた音のきこえ方とでもいうべきか。硬に対しても軟に対しても、過不足なく、バランスよく対応しているのはさすがである。❶での総奏の、力を感じさせながら、同時にひびきのひろがりもしっかり示す。❸ないしは❺でのコントラバスは、ひびきの円やかさを保ちつつ、くっきりと輪郭を示し、しかもぼてつかない。ひびきの力を示しながら重くならないところがこれのいいところである。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノを、くつきり示す。しかし音像的にはいくぶん大きめである。❷での声も積極的に前にはりだす。しかしこれもまた音像的にはいくぶん大きめである。❸でのギターの音は、太く、輪郭をしっかり示しながら、提示される。決して雰囲気的にならないところがこのスピーカーのいいところである。❺でははった声の力を示しながら、それでもきつくならないところがいい。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
ひびきの力の提示、あるいはひびきの力の変化を、いささかもあいまいになることなく示す。❷でのティンパニの音などは迫力充分である。音場感的な面での前後のひろがりも充分ではあるが、しかしだからといってスペースサウンド的な性格をきわだたせるかというと、そうともいいがたい。❶でのピコピコとか❺でのポコポコは音像的に多少大きいが、充分な効果をあげているということはいえる。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音には独自の実在感がある。ベースの音にも似たようなことがいえる。❷でのバランスとまとまりはとびぬけてすぐれている。❸と❹でのシンバル等の打楽器のひびきの特徴も十全に示す。❺での木管楽器の一種独特の軽さと乾きの感じられるひびきにもこのましく対応して、それ以前の部分との対比にも問題ない。基本的なところをしっかりおさえているよさがこのましく発揮されている。

ダイヤトーン DS-5000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 決して皮肉な意味でいうのではないが、優等生的なスピーカーというべきであろう。きわだった、いわゆる個性的な魅力ということではいいにくい、しかし肝腎なところをしっかりおさえたスピーカーならではの、ここでの音だと思う。
 提示すべきものをしっかり提示しながら、しかし冷たくつきはなした感じにならないところがいい。①のようなタイプのレコードに対しても、そして③のようなタイプのレコードに対してもひとしく反応しうるというのは、なかなか容易なことではない。それをなしえているところにこのスピーカーの並々ならぬ実力のほどを感じることができる。まさに文字通りの実力派のスピーカーというべきであろう。
 安心して、神経をつかわずにつかえるということは、それだけつかいやすいということである。その点で傑出したスピーカーだと思う。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「THE BIG SOUND」より

 ダイヤトーンスピーカーシステムの源泉は、放送業務用のモニターシステムとして開発された2S305にある。口径5cmと30cmのコーン型ユニットを2ウェイ構成とし、それも、クロスオーバー周波数を1・5kHzと低くとり、ウーファー側は、いわゆるLC型ネットワークを介さずに、コーンのメカニカルフィルターのみでクロスオーバーし、レベルバランスは、トゥイーターの出力音圧レベルそのものをコントロールしておこない、直列抵抗やアッテネーターは使用しないという設計は、まさに芸術品とも呼べる精緻な見事さを備えている。
 新型ユニットとして急激に台頭したソフトドーム型ユニットが登場以後、スピーカーの分野では、軽合金系のアルミ合金、チタン、ベリリュウムなど、振動板材料を従来の紙以外に求める傾向が強くなっても、ダイヤトーンでは、コンシュマー製品を開発するスタート時点にこれほどのシステムが存在していただけに、伝統的な紙をダイアフラムに採用する手法がメインであった。例外的には、ドーム型スコーカーでのフェノール系ダイアフラムや、スーパートゥイーターでのアルミ系合金の採用があるが、これを除けば、ペーパーコーンがその主流であり、このあたりはいかにも2S305での成果をいかし、紙のもつ能力を限界まで使いきろうとする開発方針は見逃すことのできない設計者魂だ。
 このダイヤトーンが突然のように新振動板材料を登場させたのが、宇宙技術の成果をいかしたハニカムコンストラクションコーンである。しかも、一般的な中域以上のユニットではなく、ウーファーユニットから新材料を導入した点が、他社にない大きな特徴である。スピーカーシステムは、良いユニットと良いエンクロージュアを組み合わせて初めて完成する。当然の話であるが、ダイヤトーンの最初の製品が発表された当時、よく設計者から聞いた言葉である。
 これからも、ベーシックトーンを受持つウーファーに新振動板を導入し、単に材料の置換法ではなく、新しい振動板にふさわしいエンクロージュア設計を確立するのを第一歩とする方針は、きわめてオーソドックスな手法である。
 その第一弾がハニカムコンストラクションコーンで、1977年秋の業務用モニター4S4002Pでは中域、低域ユニットにCFRPをスキン材として採用し、DS90Cの低域ユニットではガラス繊維系のスキン材を使っていた。その後一年を経て、DS401とDS70Cの低域用にDS90Cと同様な構成の振動板が使われている。これ以後、1970年代が、この新型振動板を発展させ、使いこなすための基礎となった期間であろう。
 80年代に入ると、その成果は急激に実り、スキン材に、防弾チョッキにも使える強度と適度な内部損失をもつアラミド系繊維が導入され、ハニカムコンストラクションコーンは完成の域に達する。低域ユニットが紙の振動板では得られぬ高速応答性を得ると、次は中域以上の振動板材料の開発である。その回答として、ダイアフラムとボイスコイル巻枠部分を一体成型する加工法と、材料にチタンをベースとし、その表面をボロン化する独自の製法が開発される。
 この結果としての製品が、80年9月のDS505であり、クロスオーバーを350Hzにとったミッドバス構成4ウェイと、システムの高速応答性を意味するデジタル対応システムという表現が新しく提唱されたのである。続いて翌年の大口径DUDドーム型中域ユニット開発に基づくDS503の開発。別系統のトライである80cm、160cm口径の超弩級ウーファーの完成の過程を通り、集大成された結果が今回の4ウェイ・フロアー型という構想のDS5000であり、CD実用化の時期に標的を絞ったデジタルリファレンスに相応しい自信作である。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 ダイヤトーンのスピーカーシステムは、低域振動板材料として軽金属ハニカムコアにスキン材を使うハニカム構造の採用から、新しい世代への展開が開始された。つまり、低域の改善からスタートした点が特徴である。DS401、90C、70Cなどが最初に新ウーファーを採用した製品であり、スキン材をカーボン繊維系に発展させたタイプが、大型4ウェイ・フロアー型のモニター1である。
 これらのプロセスを経て、全面的に使用ユニットが見直され、一段と飛躍を示した製品が、伝統的なDS301、303に続く高密度設計の完全密閉型システムDS505である。低域用スキン材に芳香族ポリアミド系のアラミド繊維を導入、軽量で、防弾チョッキにも使われる強度と適度な内部損失を活かし、ハニカムコーンの完成度を高めた。同時に、ボイスコイル部分と振動板を一体構造とした、DUDと呼ばれるボロン振動板採用のハードドーム型ユニットも新登場している。
 引き続き、昨年は大口径ボロンドーム型スコーカーとバスレフ型エンクロージュア採用のDS503が開発された。一方では、80cm、160cm口径の超大型ウーファーでのトライなどを経て、現時点のスピーカーシステムでのひとつの回答が、4ウェイ構成フロアー型という形態をもつ新製品DS5000であると思う。
 一般的には、DS505のフロアー型への発展とか、DS503の4ウェイ・フロアー型化というイメージで見られるだろうが、内容的にはDS505以来の2年間の成果が充分に投入された完全な新製品だ。
 基本的構成は、業務用としてスタートした40cm口径の伝統的な低域ユニットに、初めてアラミド繊維スキン材を導入してベースとしている。直径200mmのフェライト磁石採用で、ボイスコイル直径75mmは、4ウェイ構成専用ウーファーとしての設計。
 中低域用25cmユニットは、アラミド・ハニカム構造とダイヤトーン初のカーブドコーン採用が注目点で、システム中で最もシビアな要求が課されるミッドバス帯域での高域再生限界を高める効果を狙っている。このあたりは、ミッドバス構成4ウェイ・ブックシェルフ型の名称で登場したDS505の設計思想を踏襲したものだ。
 中高域用6・5cm口径ボロンドーム型ユニットは、DS503系がベースである。しかしユニットとしての内容は、ほとんど関連性がない新設計によるものだ。まず、振動板はチタンベースのボロン採用は同じだが、ボイスコイルを巻いている部分までボロン化が進められ、ボイスコイルの振動が、よりダイレクトにドーム振動板に導かれるようになった。磁気回路も強化された部分で、直径156mmのフェライト磁石は二段積重ね使用、磁気回路の厚みが増しているだけに、ポール部分の形状、バックキャビティなどは変更されている。また外観上では表面のダイキャストフレームに真ちゅう製金メッキ仕上げの特殊リングが組み込まれ、主としてフレーム共振のコントロールに使われていることも目新しい。
 高域用2・3cm口径ボロンドーム型ユニットも中高域同様にDS503系だが、2段積重ね型磁気回路による強化で、磁気飽和領域での低歪化の手法は中高域と同様な設計である。また、4ウェイ化に伴い、最低域のレスポンスの向上に見合った最高域レスポンスの改善のため、振動板関係でのリファインがおこなわれたユニットだ。
 なお、磁気回路の低歪化は、低域、中低域ともに、ダイヤトーン独自の磁気ギャップ周辺に特殊磁性合金を組み込む方法が採用されている。
 ネットワーク関係は、DS505で新採用された圧着鉄芯を使う独自の技術開発に基づく低歪みコアと無酸素銅を使うコイルと、適材適所に測定と試聴の結果で選択されたコンデンサーを従来のハンダ付けを廃した圧着接続で使うのはDS505以来の手法だが、圧着用スリーブに金メッキ処理を施したのは、今回が初めてのことだ。なお、ネットワークは、マルチアンプ駆動用に低域と中低域以上が分割使用できる4端子構造が採用されているが、端子、ショートバーともども金メッキ処理になっている。
 エンクロージュアは、針葉樹系合板を直交して貼り合せた2プライ構造のバッフルが板厚30mm、側板と裏板などは、同じく針葉樹系チップボードの2プライ構造で板厚24mmの材料を使う。内部補強棧関係も、減衰特性のきれいなシベリア産紅松単材を採用、表面はウォールナットのオイルステン調仕上げである。エンクロージュア型式は大口径のアルミパイプを使ったバスレフ型で、重量は約90kgとヘビー級である。
 試聴は、約10cmほどの硬質な木材のブロック4個で床から浮かしたセッティングから始める。プレーヤーは試聴室リファレンスのエクスクルーシブP3、カートリッジはデンオンDL305にFR Xf1の組合せ。アンプはスレショルドFET TWOプリアンプとS/500パワーアンプのペアだ。
 大口径ウーファー採用のフロアー型らしく、量感タップリでやや柔らかい低域をベースに、軽い質感で反応の速い中低域、シャープで解像力が高く、スピード感のある中高域が、鮮映なコントラストをつけて飛び出してくる。この音は非常にソリッドに引き締まり、情報量が極めて多い。プログラムソースの音を洗いざらい引き出して聴かせたDS505的なキャラクターを数段階スケールアップし、聴感上でのSN比を一段と向上したタイプにたとえられる。
 置台の材料を硬質な約10cm角、長さ50cmほどの角材に変えたり、位置的に、極端にいえば1cmきざみに変更し追込むと、DS5000は極めてシャープに反応を示す。トータルバランスを大きく変えることなく、ある程度の範囲で、柔らかいウォームトーン型バランスからシャープなモニターサウンド的イメージまでの幅でコントロールすることができる。
 表現を変えれば、置き方、スピーカーコードの選択、さらにスピーカー端子での接続を低域側と中低域以上の端子に変えることでの音質的変化を含み、結果は使いこなしと併用装置で大幅に変る。即断を許さないのがこのシステムの特徴である。
 ちなみに、アンプ系をより広帯域型に変え、適度なクォリティをもつCDプレーヤーと組み合わせて、CDの音をチェックしてみた。いわゆるCDらしい音は皆無であり、CDのもつDレンジが格段に優れ、SN比が良い特徴が音楽の鮮度感やヴィヴィッドさとして活かされる。音場は自然に拡がり、定位はシャープで、楽器の編成まで見えるように聴きとれる。これは、アナログには求められない世界だ。デジタルのメリットは、相応しい性能をもつスピーカーでないと得られないというのが実感。