菅野沖彦
ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より
同軸型のPA用2ウェイ・ユニットを使ったシステム。充実感のある音は決してハイファイとはいえないが説得力のある音楽を聴かせてしまう。面白いシステムだ。
菅野沖彦
ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より
同軸型のPA用2ウェイ・ユニットを使ったシステム。充実感のある音は決してハイファイとはいえないが説得力のある音楽を聴かせてしまう。面白いシステムだ。
岩崎千明
スイングジャーナル 3月号(1975年2月発行)
「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ・システム紹介」より
アルテックのシステムは、本来、シアター・サウンドとしての名声があまりに大きいため、その家庭用システムの多数の傑作も名品も、どうも業務用にくらべると影がうすい。それは決してキャリアとしても他社に僅かたりともひけをとるどころではないのに。つまり、それだけ業務用音響システムのメーカーとしての「アルテック」の名が偉大なせいだろう。
だから、アルテックの名を知り、その製品に対して憧れを持つマニアの多くは、アルテックの大型システムを揃えることをもって、アルテック・ファンになることが多い。そうなればなるほど、ますますアルテックは若いファンにとって、雲の上の存在とならざるを得なかった。
「ディグ」の日本市場でのデビューと、その価値は、実はこの点にある。
「ディグ」のデビューによって、初めて日本のアルテック・ファンは、すくなくとも若い層は、自分の手近にアルテックを意識できるようになったといってもいい過ぎでない。
「ディグは」小さいにもかかわらず、安いのにかかわらず、まぎれもなく、アルテックの真髄を、そのままもっとも純粋な形で秘めている。アルテックの良さを凝縮した形で実現化したといった方が、よりはっきりする。
「アルテックの良さ」というのは、一体何なのであろうか。アルテックにあって、他にないもの、それは何か。
アルテックは、良いにつけ、悪いにつけ、シアター・サウンドのアルテックといわれる。シアター・サウンドというのは何か。映画産業に密着した米国ハイファイ再生のあり方は、どこに特点があるのだろうか。
もっとも端的にいえば、映画の主体は「会話」なのだ。映画にとって、音楽は欠くことができないし、実況音も、リアル感が大切だ。しかし、より以上に重要なのは、人の声をいかに生々しく、すべての聴衆に伝えるか、という点にかかっている、といえるのではなかろうか。
だから、アルテックのシステムは、すべて人の声、つまり中声域が他のあらゆるシステムよりも重要視され、大切にされる。それらは絶対的な要求なのだ。だからこそアルテックのシステムが、音楽において、中音域、メロディーライン、ソロ、つまりあらゆる音楽のジャンルにおいて、共通的にもっとも大切な中心的主成分の再生にこの上なく、威力を発揮するのだ。
音楽を作るのも、聴くのも、また人間であるから……。
「ディグ」の良さは、アルテックの真価を、この価格の中に収めた、という点にある。きわめて高能率なのは、アルテックのすべての劇場内システムと何等変らないし、そのサウンドの暖か味ある素直さ、しかも、ここぞというときの力強さ、迫力はこのクラスのスピーカー・システム中、随一といっても良かろう。
その上、システムとしての「ディグ」は、マークIIになってますます豪華さと貫禄とを大きくプラスした。
「ディグ」の使いやすさの大きな支えは、高能率にある。平均的ブックシェルフが谷くらべて3dB以上は楽に高い高能率特性は、逆にいえば、アンプの出力は半分でも、同じ迫力を得られることになる。システム全体として考えれば、総価格で50%も低くても、同じサウンドを得られるという点で、良さは2乗的に効いてくる。
つまり割安な上、質的な良さも要求したい、この頃の若い欲張りファンにとって、「ディグ」こそ、まさしくうってつけのシステムなのだ。
アンプのグレード・アップを考えるファンにとっても、「ディグ」はスピーカーにもう一度、視線をうながすことを教えてくれよう。パワーをより大きくすることよりも、システムをもうひとそろえ加えて、2重に楽しみながら、世界の一流ブランド「アルテック・オーナー」への望みもかなえてくれる夢。これは「ディグ」だけの魅力だ。
内容外観ともにガッツあるシステム
キミのシステムに偉大な道を拓く点、グレード・アップにおける「ディグ」の価値は大きいが、ここでは「ディグ」を中心とした組合せを考えてみよう。
アンプはコスト・パーフォーマンスの点で、今や、ナンバー・ワンといわれるパイオニアの新型SA8800だ。ハイ・パワーとはいわないが、まず家庭用としてこれ以上の必要のないパワーの威力、それをスッキリと素直なサウンドにまとめた傑作が8800だ。
パネルの豪華さという点でも、8800は文句ない。やや大型の、いや味なく、品の良ささえただようフロント・ルック。ズッシリと重量感あるたたずまい。
「ディグ」とも一脈相通ずる良さがSA8800に感じられるのは誰しも同じではなかろうか。
チューナーには、これもハイ・コスト・パーフォーマンスのかたまりのようなTX8800。
もし、キミにゆとりがあればSA8800の代りにひとランク上の、最新型8900もいい。チューナーは同クラスのTX8900でも、8800でも外観は大差ない。
プレイヤーとしては、同じパイオニアからおなじみ、PL1200もあることだが、今回はビクターの新型JL−B31を使ってみよう。ハウリングに強いのもいい。
カートリッジもこのプレイヤーにはひとまず優良品と
いえるものがついている。
デザイン的にも、また使用感も一段と向上したアームは、仲々の出来だ。このアームをより生かすカートリッジとして、スタントンを加えるのも楽しさをぐんと拡大してくれる。600EEあたりは価格・品質は抜群だ。
出ッとしてマニアライクなオープン・リールの新型、ソニーTC4660を推めようか。
岩崎千明
スイングジャーナル 5月号(1972年4月発行)
「SJ選定 best buy stereo」より
アルテックというと、一般にどうも業務用音響機器の専門メーカーのイメージが強い。Altec は Alt tecnic つまり「大音量の技術」というところからきたのだし、ウェスターン・ブランドのトーキー用システムを始めプロ用システムを専門に作ってきたキャリアが長いだけに当然といえよう。
映画産業のもっとも隆盛を誇ってきた米国内において、トーキー以来ずっと映画関係と、電波を媒介とする放送が始まればそれに伴ない、さらにレコードとも密着して、ずっと発展し続けたのだから、まさに業務用音響メーカーとしての地位を確保し続けたのは間違いない事実である。
しかし、アルテックがハイファイ初期から、家庭用音響機器をずっと手がけて、50年代から早くも市販商品を世に送ってきたことは、このプロフェショナル・メーカーとしての存在があまりにも偉大でありすぎたために十分知られていない。
これはひとえには1947年、アルテックから独立したJ・B・ランシングが、アルテックの製品と酷似した家庭用高級音響製品の数々を、高級音楽ファンやマニア向けに専門的に発売し出したことも、アルテックの家庭用音響幾器の普及にブレーキをかけたといえよう。もっとも、このJBLの各製品の設計者であるJ・B・ランシングが、この頃のアルテックの多くの主要製品の設計に参画していたのだから酷似するのはあたりまえともいえよう。
アルテックの家庭用機器が大きく飛躍したのは、オーディオ界がステレオに突入したころからであるが、その後は毎年飛躍的に向上して、少なくとも今日米国においては、アルテックはJBLと並び、ARやKLHなどの一クラス上のマニアに広く愛用されるポピュラーなメーカーであるといえよう。
いや、ポピュラーな層に大いに売り込もうと前向きの姿勢で努力している「もっとも犠牲的なメーカー」であるといいたいのだ。
ブックシェルフ型スピーカー「ディグ」がその端的な現れである。アルテックでも、「ディグ」以前にもこの種のシステムは数多く現れては、消えた。消えたのはおそらく、その製品が十分に商品としての価値を具えていなかったからに他ならない。商品としてもっとも大切な価格の点でプロフェッショナル・システムになれてきたアルテックが、市販商品としての企画に弱かったのだといえるのではないだろうか。
つまり、音響機器においての「価格」はサウンドに対するペイであり、アルテックにすれば商品として以上に内容に金をかけすぎてきたのであろう。
もうひとつの理由は、ARに代表されるスピーカー・システムのワイド・レンジ化が、アルテックの標模するサウンド・ポリシーに反するものであったことも見落せない。
アルテックの音楽再生の大きな特長というか姿勢は、レンジの拡張よりも中声部の充実を中心として、音声帯域内でのウェル・バランスに対して特に意を払っていることだ。
「ディグ」の中味は、20センチの2ウェイ・スピーカー1本である。それもフェライト・マグネットを使っているためユニットは外観的に他社製品のようなスゴ味を感じさせるものではない。
つまり、中味を知ると、多少オーディオに強いファンなら[ナァンダ」と気を落してしまいそうなメカニズムを土台としているシステムなのだ。
しかし、この点こそがアルテックならではの技術なのである。
音量のレベルが小さい所から大音量に到るまで、バランスを崩さずに中声部を充実させるため、この永年使いなれたユニットをもっとも効果的に鳴らしている。それが「ディグ」なのである。
「ディグ」というジャズ・ファンにおなじみなことばを製品につけたのは、広いファンを狙った製品だからなのだが、単に若いファンだけを対象にしたのではないのは、その温かみあるサウンドににじみ出る音楽性からも了解できよう。むろん、若いジャズ・ファンが納得する迫力に溢れた瑰麗なサウンドは、「ディグ」の最大の特長でもある。ブックシェルフとしてはやや大きめの箱は、この409Bユニットによる最大効果の低音を得るべく決められた寸法であり、ありきたりのブックシェルフとはかなり違った意味から設定されている。小さいながらもこのブックシェルフ・タイプのサウンドは、アルテックのオリジナル・システムA7と同質のものなのである。
菅野沖彦
スイングジャーナル 12月号(1971年11月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
アルテック・ランシングはアメリカ、カリフォルニア州のサンタアナに本社のある世界的なオーディオ・メーカーである。サンタアナは有名なディズニーランドに隣接していてアルテックを訪れる人は、必らずディズニーランドへ行く。そして、そこで聴える音のよさに関心を持つ。実際、この種の遊園地で鳴っている音というのは、まず、歪だらけの騒音であるのが普通。特別なハイ・ファイ・サウンドではなくても、ごくノーマルなサウンドが流れていることだけでも、われわれには驚きだ。それも、不思議なことに、いつ行っても良い音で鳴っている。つまり、よほど耐久力があるのか、保守がよいのかのどちらかだ。この音響システムは近隣のよしみでもあるまいがアルテックである。そう、アルテックはそもそも、こうした苛酷な使用に耐えるプロ機器専門のメーカーであって、劇場、教会、学校、スタジアムなどの大きな建物で使う大パワーのエクイプメントでは右に出るものがないといってもよかろう。しかも、その特長は単なる拡声装置としてではなく、よい音で音楽を再生し得るシステムだ。つまり駅のアナウンスなどに使われる手合いではない。ウェスターン・エレクトリックの流れをくみ、JBLの創設者であるスピーカー造りの天才、JBランシングが技師長を務めたアルテックの社歴からもわかるように、同社の製品のオリジナリティーに溢れた優秀性、高い信頼性は多くの同種メーカーの範となっているし、音に関心の高いファンの間で大きな人気と支持を得ているものである。製品のバリエーションはきわめて広く、現在では一般家庭用向きの(アメリカでは、これをハイ・ファイ・エクイプメントと呼ぶ。そして、われわれがいうプロ機をコマーシャル・プロダクツという)製品にも力を入れているが、A7−8〝ヴォイス・オブ・ザ・シアター〟システムに代表される明るく豊かな、透明な音の魅力が、全ての製品に共通して感じられる。アルテック・サウンドとして、われわれがもっている音のイメージは、実に屈託のない明るさ、デンシティーの高いち密なクォリティーだ。そしてちょっと聴くと無機的に感じられるほど精度、確度の高い音像再現なのだが、使い込んでいくと豊かで、デリカシーのあるニュアンスを感じるようになり、他のスピーカーでは得られない魅力のとりこになる。もちろん、メーカーはそんなことは考えていない。あくまで技術的な立場に立って理論にかなった設計、豊富な素材の投入によって、より理想的な変換器としてのユニットを開発、それを限られた形でシステムとしてまとめる時に、ソフト・ウェアー性の強い音響箱に収めるが、その際にもオーソドックスな理論を大きく曲げない範囲での妥協点を求めるという精神だ。しかし、この妥協点の求め方、ここにボイントがあるようた思える。ギリギリの所までは純粋に技術的見地から追い込み、実験的な立場から甲乙を決定する。あるいは、この結果をノウハウとして製造に生かすところにアルテックの長い経験と社の体質が息づく。
ここにご紹介する〝ディグ〟は、同社の普及型、同軸2ウェイ・システム〝409B〟ユニットを使ったもので、もともと、現在はアルテックに完全吸収されたユニバーシティーにオーダーして作らせていたアイテムである。20cmウーハーの高域はメカニカルに減衰させコンデンサーで低域をカットしたコーン・ツィーターがシンプルなデュフィーザーと組み合わされ、フレームにカプルされている。これを、かなり大きな容積をもった位相反転箱に収めたシステムだが、実にユニークな製品としての魅力をもっている。
音は生き生きした感触が魅力だが、〝ディグ〟というネイミングにふさわしいこくのある音質をもっている。適度なパワーを入れて、部屋によっては若干低音をブースト気味にして使うとよい。現在の広帯域ハイファイ・スピーカーの持つそらぞらしさに時として白けた気持になることがあるが、これは、そうした物理特性だけを追ったものとは対象的な存在で、心暖まる音を聴かせてくれる。よく整理され、ほどよく強調された美しい再生音、つまリレコード音楽の魅力を存分に味えるという、いわば大人っぼいスピーカー・システムといっておこう。26、800円という価格も気張らなくてよい。これを鋭くやかましく鳴らすようでは再生技術が不十分。
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