早瀬文雄
ステレオサウンド 97号(1990年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より
アポジーは、スピーカーシステムの低域から高域まで、アルミリボンという一つの素材を用いることによっていわゆるフルレンジリボンという言葉を定着させた。
もちろん、これはたとえばコーン型ユニットでいうところのフルレンジ(一個のユニットで全帯域を受けもち、ネットワーク素子を必要としないもの)とは異なる。僕自身も使用しているカリパーシグネチュアーもフルレンジリボン型だけれど、2ウェイ構成であり、ネットワークをもっている。
つまり、アポジーのいうフルレンジというのは、低域にもリボンを使ってるという、その画期的な事実を強調するための、いわば意味の異なるフルレンジなのだ。しかも、その低域は箱型のエンクロージュアをもたないため、設計が悪いと出がちな『箱』独特のクセから解放されたよさが聴ける。そういう事実があったからこそ、新しい時代のスピーカーと言われることになったと僕は思う。
たとえば、リボンによるラインソース(細長い音源)は、高域の繊細感と浸透力を両立させて、平面振動板による低域はふわりとひろがる奥行き感を巧みに演出していた。おそらく、こういう絶妙なバランスは、他ではめったに聴くことができないアポジー独自の個性だと言いきることもできるはずだ。
そのアポジーから、なんとコンベンショナルの箱型のエンクロージュアと、ダイナミック型ユニット組み合わせたハイブリッドシステム、ケンタゥルスが登場したのだ。僕は度肝を抜かれた。本当に、そう言ってもけして大袈裟じゃないほどびっくりしたのだ。
ここではアポジー・ステージ1で採用された約60cmの長さを持つリボン型ユニットに、ポリプロピレンのダイアフラムを持つ20cmウーファーが組み合わされている。アポジーは、どちらかといえば静的な描写によるコントラストを基調とした端正な表現を得意とするスピーカーであり、低域にコーン型特有の表現法を取り込んだ場合のバランスの崩れに対する懸念がまっ先にたったのが正直なところ。
しかし、一聴すると使いこなしが難しそうだという第一印象をいだくものの、一般家庭での平均的な音圧レベルでは、とてもバランスがいいと感じる。さりげなくピンポイントで定位する音像や、音程の変化で楽器の位置や大きさが変化しない良さはなかなかのものだ。
ハイブリッド化の恩恵で、インピーダンスは4Ω、したがってプリメインアンプでもドライブ可能だ。すっきりとしたデザインに合わせて、たとえばオーラデザインのVA40あたりで鮮度の高い、繊細に澄んだ響きを楽しんでみるのもいいだろう。ただし、ボリュウムを上げ過ぎると、バッフル/エンクロージュアの音が出始めるので要注意だ。
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