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EMT 981

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 CDプレーヤー/D/Aコンバーター篇」より

 EMTはアナログのプレーヤーで馴染みの深いドイツのプロ機器メーカーである。もともとその社名〝エレクトロニック・メジャーメント・テクノロジー〟の頭文字EMTをとったところからして測定器メーカーとしてスタートしたらしい。アナログプレーヤーの927、930はクォリティにうるさい日本では一般用として多くが使われているが、元来はスタジオ用で放送機器として開発されたものである。また、録音スタジオで使われるエコーマシーンも有名で鉄板エコーの代表であった。このEMTを買収したのが、ビデオプロジェクターで有名なべルギーのバーコ社で、現在は社名も商標もB.A.RCO−EMTとなっている。このEMTがCDプレーヤーとして発表した2世代目の製品が981であるが、第1世代の980は少量生産で終ったらしい。
 981はプロポーションこそラックマウント式のインテグラルプレーヤーで平凡なものだが、その音質には素晴らしい陰影感と立体感があって、外観以上の魅力をもっている。高域はしなやかで滑らかだが明確なエッジと造形の確かなディテールが聴け、豊かで引き締った中〜低域とのバランスが整っていて安定感が美しい。プロ機というとどこかそっ気ないドライな印象を持たれるかもしれないが、この音はどうしてどうして、むしろ再生系のニュアンスを活かす正確さというべき端正さをもっていて魅力的である。内容としては、スチューダーのA730と同等と見てよいと思うが、アナログ出力はバランスだけである。デジタル出力、クロックシンクロ入力、ワードクロック出力などを備え、機能もヴァリアブルスピードコントロールやモニターSP、頭出しの正確なフレーム検索機能などはプロ機器として当然完備している。トレイ式のメカニズムはフィリップスのCDM1MKIIを使っているし、4fS16ビットD/Aコンバーターもフィリップスのシルバークラウンを搭載している。

EMT 981

井上卓也

ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
特集・「最新CDプレーヤー14機種の徹底試聴」より

 整然とした硬質な音を、適度な力感を持って聴かせる個性型のプレーヤーだ。ロッシーニでは、弦、木管などのハーモニクスが個性的な輝きを持ち、コリッとした硬めのテノールは本機の特徴を物語る。音場感は特に広くはなく、ある限定された空間にピシッと拡がり、輪郭がクッキリとした音像定位はクリアーで見事である。ピアノトリオは間接音成分が抑えられ、スタジオ録音的まとまりとなるが、硬質で実体感のある音は楽器が身近に見える一種の生々しさがあり楽しい。ブルックナーは、トゥッティで少しメタリックな強調感があるが、音源が予想より遠くスケール不足の音だ。No.26Lの不平衡入力から平衡入力に替えると、音場感、各パートの楽器の音がかなり自然になり、このクラス水準の音になるが、編成の大きなオーケストラのエネルギー感は不足気味だ。それにしても、ブルックナーが見通しよく整然と聴こえたら、それが優れたオーディオ機器なのだろうか。