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ダイヤトーン 2S-305

菅野沖彦

音[オーディオ]の世紀(ステレオサウンド別冊・2000年秋発行)
「心に残るオーディオコンポーネント」より

 ダイヤトーン2S305は日本のスピーカーの歴史のなかでの傑作である。これほど、あらゆる点で日本的な美徳を備えたスピーカーシステムはないだろう。
 まず、桜のツキ板張りによるエンクロージュアのラウンドバッフルが見せる、その容姿である。グレイのサランネットと調和したサラッとした? 淡泊な印象。ちょっと見のつまらなさは、飽きの来ない日本的感性以外のなにものでもあるまい。これが作られたのは1950年代だから、こういう日本調が生まれたのかもしれない。いまなら、もっと欧米の影響を受けたものになったであろう。そして、その最大の日本的特色と言えば、なんと言っても音である。
「日本には2S305という素晴らしい製品がある。あんなに綺麗な音のスピーカーを聴いたことはない!」これは’70年代に、デヴィッド・ベイカーというアメリカ人の録音制作家が僕に語った言葉である。そして、そのとき、僕が思い出したのは、夭逝した不世出の名ピアニスト、ジュリアス・カッチェンが、以前、同じような言葉で日本製のピアノについて語ったことである。僕が彼の録音のために用意したスタインウェイDとヤマハの初期のCFを聴き比べた彼は、CFを「こんなに綺麗な音色のピアノは初めてだ!」と言ったのである。
 エキゾティシズムが美の要素足り得るかどうかは美学的には議論のあるところであろうが、僕が大変興味を持っているテーマである。彼らにとって、日本的な音はエキゾティックな魅力を強く感じさせるものではないだろうか? 逆にわれわれは欧米のサウンドには、彼ら以上に強い魅力を感じるのではないだろうか? 自国の文化には、ある意味で透明だからである。日本人の場合、欧米系の文化には基本的に劣等感が染み込んでいることに悲劇があって、オーディオや西洋音楽の美的評価には注意を要すると思っている。
 2S305はダイヤトーン・スピーカーで有名だった三菱電機が、NHKと共同で開発したスタジオモニタースピーカーである。放送用のモニターが主たる設計目標であったが、当時の日本ではNHKの「お墨付き」という技術的権威に裏付けされたエリート・システムであり、いまでは想像できないほどの君臨振りで、録音スタジオなどでも広く使われ、信頼度の高いものであった。当然、これにたいする反発も強く、一部には無味乾燥の音だとか、こんな音でモニタしているから日本の録音は駄目なんだ!などと非難する過激な人達はいたが、これらの意見はオーディオマニアに多かったように思う。バスレフ型エンクロージュアに、30cmのパルプコーンウーファーと、5cmの同じくパルプコーントゥイーターをハイパス・コンデンサー1個でつないだ2ウェイは、当時としては画期的で本格的なシステム設計であった。満開の桜を見るように、端正で、淡泊でいて豪華な響きの音は「はんなり」とでも形容したい上品な佇まいのバランスと音色であって、決して無味乾燥な音などではなかったと僕は思う。そしてなによりも、僕にとって長年にわたる録音制作の仕事に欠かせないモニターとしてなじんでいたものだから、忘れられない懐かしさなのである。

ダイヤトーン 2S-305

菅野沖彦

ステレオサウンド 55号(1980年6月発行)
特集・「’80ベストバイコンポ209選」より

 ダイヤトーン2S305は、おそらく現役国産システム中、最も長い歴史をもち、国産スピーカーの数少ない名器として君臨しているものだ。30cmウーファーと5cmコーン・トゥイーターの2ウェイという、いまやごく平凡なユニット構成ながら、スタジオモニターらしい妥当なバランスをもつ。

ダイヤトーン 2S-305(組合せ)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第20項・ダイヤトーン2S305 栄光の超ロングセラー」より

 アルテックの604シリーズ(17項UREI参照)というスピーカーが、アメリカを代表するかつてのモニタースピーカーだったとすれば、日本で、NHKをはじめ各放送局や録音スタジオ等、プロフェッショナルの現場で、いまでも主力のモニターとして活躍しているのが、三菱電機・ダイヤトーン2S305だ。このスピーカーの古いことといったら、何と昭和三十一年に最初の形が作られて以来、ほとんどそのまま、こんにちまでの約二十年以上、第一線で働きつづけているという、日本はおろか世界で珍しい超ロングセラーの長寿命スピーカーなのだ。ただし、放送規格(BTS)での型番はBTS・R305。またNHK収めの型番をAS3001という。数年前からNHKでは、改良型のAS3002のほうに切替えられているが、一般用としての2S305は最初の形のまま、しかも相変らず需要に応えて作り続けられている。モデルチェンジの激しい日本のオーディオ界で、これは全く驚異的なできごとだ。
 2S305は、スタジオでのモニター仕様のため、原則として、数十センチの高さの頑丈なスタンドに載せるのが最適特性を得る方法だと指定されている。が、個人の家で、床に直接置いて良い音を聴いている例も知っている。部屋の特性に応じて、原則や定石にこだわらずに、大胆に置き方を変えて試聴してきめるのが最適だ。そしてもちろんこの方法は、ダイヤトーンに限らずあらゆるスピーカーに試みるべきだ。スピーカーの置き方ばかりは、実際その部屋に収めて聴いてみるなり測定してみるなりしないうちは、全く何ともいえない。原則と正反対の置き方をしたほうが音が良いということは、スピーカーに関するかぎり稀ではない。
          ※
 ところで2S305は、さすがに開発年代の古い製品であるだけに、こんにちの耳で聴くと、高域の伸びは必ずしも十分とはいえないし、中音域に、たとえばピアノの打鍵音など、ことさらにコンコンという感じの強調される印象もあって、最近のモニタースピーカーのような、鮮鋭かつ繊細、そしてダイナミックな音は期待しにくい。けれど、総合的なまとまりのよさ、そして、音のスケール感、いろいろの点で、その後のダイヤトーンのスピーカーの中に、部分的にはこれを凌駕しても総合的なまとまりや魅力という点で、2S305を明らかに超えた製品が、私には拾い出しにくい。いまだに2S305というのは、そういう意味もある。
 スピーカーとはおもしろいもので、基本があまり変化していないものだから、古いと思っていたスピーカーでも、新しいアンプや新しいレコードで鳴らしてみると、意外に新しい音が出てびっくりすることもある。そういう見地から組合せを考えてみると、できるかぎり新しいパーツ類、しかも、かなりグレイドの高いパーツでまとめるのが、結局最良のように思う。またこれはマニア向けのヒントだが、ここにパイオニアのリポンやテクニクスのリーフのような、スーパートゥイーターを加えると、2S305は、またかなりフレッシュな音を聴かせる。

スピーカーシステム:ダイヤトーン 2S-305 ¥250,000×2
プリメインアンプ:マランツ Pm-8 ¥250,000
チューナー:マランツ St-8 ¥135,000
プレーヤーシステム:ダイヤトーン DP-EC1MKII ¥128.000
カートリッジ:デンオン DL-103D ¥35,000
計¥1,048,000

ダイヤトーン 2S-305

菅野沖彦

ステレオサウンド 49号(1978年12月発行)
「第1回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント49機種紹介」より

 2S305は昭和33年に完成されたスピーカーシステムで、実に20年の歴史をもっている。これほど長期間にわたって存続しえたということは、やはりそれなりに大きな力を備えていたということで、その輝かしい経歴だけでも〝ステート・オブ・ジ・アート〟の名にふさわしい製品だと思う。
 しかも、この2S305は、最も日本を代表する一つの個性をもっているのである。私の友人であるアメリカ人は、2S305を評して、アメリカにない音、決して欧米のスピーカーの代用品ではない音で素晴らしいスピーカーだという。私自身もそう思う。確かにキメの細かい、いかにも日本人が真剣に追求して完成させた音をもつスピーカーである。
 ご承知のように、この2S305は放送用のモニタースピーカーとして開発された、シンプルな構成による2ウェイシステムである。30cmウーファーと5cmコーン型トゥイーターというユニット構成で、クロスオーバー周波数は11、500Hzにとられ、音質を害する要素をできるだけ省略する意味で最もシンプルなクロスオーバーネットワークで構成されているのである。つまり、ウーファーとトゥイーターの能率は、ユニット開発時点で合わせてあり、しかもウーファーにはメカニカルフィルターが内蔵されている形で高域が自然減哀し、トゥイーター側はコンデンサーにより−6dB/octで低域を切っているだけなのである。このように単純明快な構成が採用された理由は、あくまでも放送用モニターとしての位相ズレがないこと、音像定位が明瞭であること、そして低歪率化 フラットレスポンス化など、厳しい条件を満たさなければならなかったからである。
 エンクロージュアは、約170ℓの内容積をもつバスレフ型で、音の回折現象による周波数特性上のピーク・ディップを極力少なくする意味で、エンクロージュア前面の両サイドに丸味がつけられている。表面は濃茶のカバ仕上げとなっており、大変に美しく、特に両サイドのRの部分は、完全に手づくりによって仕上げられるという、まさに日本を代表する質の高い堂々たるスピーカーシステムとなっている。
 この2S305も、開発当初から比べて徐々に改良が加えられ、現在のプログラムソースに適合できるスピーカーシステムになってきている。しかし、音質の傾向が全く異なった方向にそれたわけではなく、あくまでも初期の製品からもっていた明快なバランスのよい音という伝統を受け継ぎながら、より緻密さと洗練された味わいが加わったのである。以前のスピーカーがもっていた高域の鋭さが抑えられ、よりスムーズな滑らかな音になり、低域もより豊かさを増してきたように感じられるのだ。
 三菱電機は、総合電機メーカーでありながら、かなり以前からスピーカー部門において常に一貫した情熱を持ち続けてきている、数少ないメーカーである。P610という6インチ半のモニタースピーカーの傑作、2S305のあとで開発された、やはり放送用のモニターの小型版2S208、そして数多くのコンシュマー用スピーカーシステム、最近発表された4S4002P、AS3002P、2S2503Pなど一連のプロフェッショナルシリーズなど、数えきれないほど多くのスピーカーシステムを世に送り出してきたわけであるが、そのダイヤトーンの長い歴史の中で、トップモデルとして最も安定した評価を得たのは、やはりこの2S305だろう。ダイヤトーン自身もそれを理解しているのか、先ほども述べたように、この2S305を大事にいつくしみながら主張を曲げずに洗練しつづけてきたことが、これだけ長い間存在しつづけてこられた理由ともなっており、また信頼性をかち得た理由でもある。おそらく、このスピーカーを座右に置いて自分の好みとして使わない人でも、この2S305が〝ステート・オブ・ジ・アート〟として日本のスピーカーの代表として選ばれたことに異論をはさめないのではないだろうか。そうした一つの存在の力というものを万人が納得せざるを得ないような形でもっていることが、まさに〝ステート・オブ・ジ・アート〟にふさわしい製品ということなのである。

ダイヤトーン 2S-305

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

高い技術と伝統に磨き抜かれたオリジナリティの溢れた製品。

ダイヤトーン 2S-305

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

放送モニターシステムとして作られた安定度と信頼性の高さは別格。

ダイヤトーン 2S-305

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 一年に一度は、郡山の三菱電機の研究所で新製品を試聴させてもらうが、比較のために鳴らす2S305が、いつでも、どんな新製品よりも申し訳ないが良く聴こえて、そのたびに305の優秀であることを再認識させられる。個人的な好みでいえば、一般市販はしていないがこれの改良型であるNHK現用のAS3002モニターの音の方がもっと上だと思うが、市販品としては2S305しか入手できない。

ダイヤトーン 2S-305

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 ダイヤトーンの代表的スピーカーシステムであり、日本のスピーカーの代表的な傑作といってもよい製品である。モニタースピーカーとして開発され、国内のスタジオで今でも多くが活躍している。305Dというウォルナットフィニッシュのものもあるが、こちらのほうは3万5千円安い。エンクロージュアのフィニッシュの違いだから好みで選べばよい。2ウェイのウェルバランスドなサウンドは、きわめて品がいい。

ダイヤトーン 2S-305

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 世界のスピーカーがすべて「ローディストーション、ワイドレンジ、フラットレスポンス」を目指す今日、その先見の銘をもっていたのがダイヤトーンの305だ、といったら誰かになじられようか。事実、三菱がハイファイ・スピーカーに志向し始めたとき、その目標としたのが前提の3項目であるし、それはなんと今から20年も前のことだった。
 その最初の成果が30センチの2ウェイ305であり、続く2弾が16センチのP610であり、どちらも20年以上の超ロングセラーの製品なのだ。305は最初、良質なる音響再生に目をつけたNHKによってモニター用として使用され始め、今日にいたるも、その主要モニターとして活躍し続けている。30センチの大型ウーファーに5センチの高音ユニットを、1500Hzのクロスオーバーで使うこの2ウェイ構成は、なんとごく最近の英国KEF製のBBCモニターにおいてトゥイーターユニットが2つだが、まったく同じ組合わせの形をしている。これは果たして偶然なのであろうか。KEFのモニターが、よく聴いてみればダイヤトーン22S305と酷似しているのは当然すぎるほど当然だ。三菱305の場合、日本のマニアからみれば国産品という点において、いわゆる舶来品との違いが商品としての魅力の点で「差」となってしまうのが落し穴なのだ。
 だから、もう一度見直して、いや聴き直してみたい。それがこの2S305だ。いくつかの驚くべき技術が305には秘められているが、そのひとつはウーファーのボイスコイルだ。そのマグネットは巨大で、ヨークの厚さに対してボイスコイルが短かい、いわゆるロングボイスコイルの逆の、ショートボイスコイル方式だ。これはダイヤトーンのウーファー以外には、JBLの旧タイプのウーファーだけの技術である。国産品の中にJBLの技術にひけをとらないといい得るのは、なんとこの305だけなのである。JBLなみに手元におきたいモニターシステムというのは、その理由だ。

ダイヤトーン 2S-305

菅野沖彦

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 歴史的な日本のモニターシステム。良くも悪しくも日本的な優等生だ。低音の厚みと豊かさ、弾力性に筆者としては不満があるが、さわやかなタッチの美音だと思う。