マークレビンソン LNP-2L

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 1973年に、レヴィンソンが、テープに録音するためのミニ・ミクシングコンソールのような目的で作ったのがLNP−2で、その後何回も小改良が加えられて、こんにちに至っている。別にML−6ALやML−7Lのような、機能を最小限に抑えて極限まで性能を追求した製品もあるが、大幅なゲイン切換やトーンコントロールその他、レコード観賞に必要な機能を備えたコントロールアンプとして、今日これ以上の音を聴かせる製品は他にない。

JBL D44000 Paragon

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 ステレオレコードの市販された1958年以来だから、もう23年も前の製品で、たいていなら多少古めかしくなるはずだが、パラゴンに限っては、外観も音も、決して古くない。さすがはJBLの力作で、少しオーディオ道楽した人が、一度は我家に入れてみたいと考える。目の前に置いて眺めているだけで、惚れ惚れと、しかも豊かな気分になれるという、そのことだけでも素晴らしい。まして、鳴らし込んだ音の良さ、欲しいなあ。

パートリッジ TH7834

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 この製品もTH7559同様に、キットとトランス単体が用意されている。本機は入力対出力の位相は同相で、一般の製品と等しい。
 MC20IIでは豊かで柔らかく、力強さのある低音をベースに、適度にコントラストをつける中高域がバランスをとった押し出しのよい華麗な音を聴かせる。ロッシーニ、ドボルザークを容易にこなし、カシオペアの強力なパンチも見事だ。これならSPUを使ってみたいところである。
 DL305では全体に線が太くなり、MC20IIとの本来のキャラクターの差が縮むようだが、音としては全体に力強くなったDL305、といった印象で、低域ベースで少し高域を抑えた安定感のある堂々としたタイプだ。
 TSD15では、ややオーバーゲインで使い難い。

オーディオニックス ADN-III

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 左右独立電源採用の利得切替なしのヘッドアンプで、入力と出力の位相が逆になる反転アンプである。
 聴感上のf特はワイドレンジ型で、音の粒子は細かく、適度にしなやかな反応と特定のキャラクターが少なく、基本的クォリティは相当に高い。
 MC20IIは水準以上のクォリティの高い音になるが、低域が少し軟調で甘くなり、中高域に少しキャラクターが聴きとれる。音像は少し引込み気味で、音場がスピーカーの奥に広がるタイプ。
 DL305は、帯域感は広いが高域の分離が今一歩不足気味で、これは中高域の硬質なキャラクターによるマスキングのせいであろう。全般的にみれば、MC20IIよりも音にフレキシビリティがあり、音を整理してキチンと聴かせるタイプだ。

パートリッジ TH7559

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 英国パートリッジ社のトランスを使った製品で、別に配線材で有名なベルデン社のコード付オールキット、および単体トランスも用意されている。
 このTH7559は,一次側入力に対して二次側出力が位相反転する、反転トランスであるのが特徴。
 聴感上の帯域バランスはナチュラルに伸びたタイプで、音の芯がクッキリと再現される少し硬質なリアリティのある音が目立つ点だ。MC20II、DL305ともに低域が安定し、ソリッドに引締まり、音に躍動感がある。この音は大変気持よく、ダイレクトディスクの峰純子のリアリティは試聴製品中でベスト3に入る見事さだ。
 TSD15はスケールは大きいが音の輪郭が甘く、少しソフトに過ぎる。これは位相関係が原因であろう。

JBL 4343B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 発売後五年あまりを経過し、途中でBタイプ(フェライト磁石)に変更のあったりしたものの、こんにち世界じゅうで聴かれるあらゆる種類の音楽を、音色、音楽的バランス、音量の大小の幅、など含めてただ一本で(完璧ということはありえないながら)再生できるスピーカーは、決して多くはない。すでに#4345が発表されてはいるが、4343のキャビネットの大きさやプロポーションのよさ、あ、改めて認識させられる。

オーディオインターフェイス CST-80E40

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 40Ω程度の高インピーダンスMC用トランスで、二次側の負荷条件は47kΩ/50pFが標準である。
E03と比較して、滑らかでキメ細かい音とナチュラルに伸びたスムーズなf特がこのE40の特徴である。プレゼンスを感じさせる中低域の残響成分を充分に聴かせるのが、このブランド共通の特徴だろう。
 DL305では、各プログラムソースを平均的にこなすが、音を美しくキレイに聴かせる特徴はE03と同じで、TSD15は全体に音が鋭角的で力強い特徴を少し抑えた誇張感の少ない音になる。試みにMC20IIを使ってみるとf特バランスが大変に優れたクッキリとコントラストのついた適度にシャープで安定した音で、これがベストだ。

オーディオインターフェイス CST-80E03

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 米国オーディオインターフェイス社の3Ωの低インピーダンスMC用昇圧トランスである。したがって、MC20IIとFR7fを使ったが、結果としては少しFR7fのほうがトータルバランスの優れた音であった。
 このトランスは、ゆったりとした余裕の低域から中低域をベースとした暖色系の豊かで滑らかな音が特徴である。音の表情は穏やかなタイプであるため、ロッシーニやドボルザークのようなプログラムソースをゆったり楽しむのに好適なタイプである。
 このトランスの豊かな中低域の残響成分はコンサートホールのプレゼンスを美しく再現し、音像は少し距離をおいてナチュラルに拡がる。しかし、カシオペアのようなプログラムソースは不得手なタイプである。

オーディオデバイス HA-1000

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「MCカートリッジ用トランス、ヘッドアンプ総テスト(上)」より

 MC型の出力電流100%利用する特殊回路設計のヘッドアンプである。
 利得切替はなくMC20IIとDL305を使ったが、低インピーダンスでは表情を抑えた緻密な音であるのに比べ、高インピーダンスでは明るく伸びやかで活気のある音と2通りに変化する。
 ロッシーニは、音場感が拡がり明るい華やかさでDL305が楽しく、MC20IIは精密で小さくまとまった格調の高さがあり対照的だ。
 このアンプの特長を聴かせるのはMC20IIの峰純子で、音色は暗いがソリッドさがあり、引締ったSPUといった音である。反応はさして速くはないが、適度にダンプされた印象はまさしくトランス的で、メモにもトランス的アンプとある。基本的なクォリティは高く個性的なアンプだ。

EMT XSD15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 EMTのカートリッジTSDシリーズは、ほんらい、同社のプレーヤーデッキに組合わされるいわばプレーヤーシステムの系の中のパーツであり、単売のカートリッジだと考えないほうがいいが、それでもTSDの魅力の半面なりを味わいたいという向きのために、オルトフォン/SME型のコネクターに代えたXSDが用意されている。この音の魅力を生かすには、アームやプレーヤーシステムの選び方が相当に制限される。

デンオン DL-303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 永く続いた103シリーズのあと、最近のカートリッジ設計の主流ともいえるローマス化をはかって企画されたのが303のシリーズで、現在、301、303、305の三機種が揃っているが、DL−301はヤング層の好みをことさら意識しすぎ、DL−305は303の繊細さに何とか力を加えようと力みすぎ、みたいに(私には)思えて、ことさらの音作り意識の加わっていないDL−303が、やはり最良の出来栄えだと思う。国産MCのベストに推す。

デンオン DL-103

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 おそらくオルトフォンのSPUに次いで寿命の長いカートリッジだろうか。永いあいだ1万6千円、その後1万9千円に改訂されたものの、FM放送用として入念に設計され、長期間作り続けられた安定性と信頼性は、その後数多く出現したいわゆる1万9千円MCカートリッジの攻勢を寄せつけない。最新型と比較すれば、音がやや太く重いが、MCとしては出力が大きく扱いやすく、良いアームと組合せれば、この音は立派にひとつの個性だ。

トーレンス TD126MKIIIBC

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 スイス・トーレンス社のターンテーブルは、TD125以来、150、160などすべて、亜鉛ダイキャストの重いターンテーブルをベルトドライブで廻すという方式で一貫している。同社ではS/N比の向上の点でのメリットを強調しているが、DDを聴き馴れた耳でTD126の音を聴くと、同じレコードが、あれ? なんでこんなに音が良いのだろう! と驚かされる。音の良さの理由は私には正確には判らないが、ともかくこれが事実なのだ。

アキュフェーズ T-104

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 ほんらいは、コントロールアンプC−240、パワーアンプP−400とマッチド・ペアでデザインされた製品。三台をタテに積んでもよいが、横一列に並べたときの美しさは独特だ。だがそういう生い立ちを別としても、アナログ感覚を残したディジタル・メモリー・チューニング、リモートコントロール精度の高いメーター類などは信頼性が高い。そしてそのことよりもなおいっそう、最近の同社の製品に共通の美しい滑らかな音質が魅力だ。

マイケルソン&オースチン TVA-1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 トランジスターの素子も回路技術も格段に向上して、素晴らしい音質のアンプが作られるようになったこんにち、効率の悪い、発熱の大きい、ときとして動作不安定になりやすい管球アンプをあえて採るというからには、音質の面で、こんにちのトランジスターアンプに望めない+アルファを持っていること、が条件になる。TVA−1の音はどちらかといえば女性的で、艶やかさ、色っぽさを特長とする。ふくよかでたっぷりして、ほどよく脂の乗った音。

アキュフェーズ P-300X

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 この社の第一世代の製品ともいえるC−200、P−300、そして小改良型のC−200S、P−300Sのシリーズに関しては、音質の点でいまひとつ賛成できかねたが、C−240、P−400に代表される第二世代以後の製品は、明らかに何かがふっ切れて、このメーカーならではの細心に磨き上げた美しい滑らかな音質がひとつの個性となってきた。P−300Xは、そこにほんの僅か力感が増して、C−200Xと組合わせた音の魅力はなかなかのものだ。

アキュフェーズ E-303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 プリメインタイプの最高機をねらって、著名ブランドがそれぞれに全力投球している中にあって、発売後すでに3年近くを経過しながら、E303の魅力は少しも衰えていない。特別のメカマニアではなく、音楽を鑑賞する立場から必要な出力や機能を過不足なく備えていて、どの機能も誠実に動作する。ことにクラシックの愛好家なら、その音の磨き上げた美しさ、質の高さ、十分の満足をおぼえるだろう。操作の感触も第一級である。

テクニクス SU-V6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 電子回路の部品や技術が日進月歩して、ローコストで音の良いアンプが容易に作られる時代になったものの、極限までコストダウンして、しかも性能をどこまで落とさずに作れるか、というテーマに関しては、やはり「挑戦する」という言葉を使いたくなるような難しさがある。SU−V6はそれに成功した近来稀な製品。鳴らし出してから本調子が出るまでにやや時間のかかるのが僅かの難点。そして、外観の野暮なこと。だがそれを補って余りある内容の良さ。

ロジャース PM510

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 LS3/5Aは英国BBC現用の最も小さいモニタースピーカーだが、同じシリーズで最も大きいのがLS5/8。これにはバイアンプドライブのパワーアンプシステム(QUAD製)が附属しているが、それを、普通のLCネットワークに代えて、扱いやすくしたのがPM510。クラシック全般、中でも弦合奏やオペラ等の音や声の音色や音場の自然さ、美しさ、という点で、いまのところ頂点のひとつにあるスピーカーと言ってよい。

ロジャース LS3/5A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 周知のように英国BBCの開発になるミニモニターだが、同局の認可をとってロジャースとオーディオマスターの2社から、製品が市販されている。大きさからいって、スケール雄大といった音はとても望めない反面、精巧な縮尺模型を眺める驚きに似た緻密な音場再現と、繊細な弦の響きなど、他に類のない魅力だろう。KEF303を、安心して家事のまかせられる堅実女房とすれば、こちらは少し神経質だが魅力的な恋人、か。

JBL 4301B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 #4350、#4345、#4343等を頂点とするJBLスタジオモニターシリーズの末弟。KEF303同様に20cmウーファーとコーン型トゥイーターの2ウェイ。だが音質は対照的で、ジャズ、フュージョン、ロック等の叩き込んでくるパーカッションの迫力は、小型とはいえやはりJBL。明るい軽快なカリフォルニア・サウンド。ちょっと小粋で魅力的なスピーカーだ。

KEF Model 303

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 20cmウーファーとドーム型トゥイーターの2ウェイ。キャビネットはプラスチック成型を主体とし、外装はストレッチクロスでぐるりと囲んで、徹底的にコストダウンした作り方。レベルコントロールもついていない。が、その分だけ音質はさすが、で、バランスよく、大入力にも耐え、どちらかといえば地味な音色だが音楽を選ばず楽しませる。最近の製品はストレッチクロスの色が6色用意され、好みによって選べる。

アキュフェーズ M-100

瀬川冬樹

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 500W? へえ、ほんとに出るのかな。500W出した音って、どんな凄い音がするのかな……と、まず思うだろう。
 いかにもその期待に正確にそして誠実に答えるかのように、M100には、8Ω負荷の際のピーク出力を数字で表示するディジタル・パワーディスプレイがついている。そして、鳴らしはじめのあいだは、つい、耳よりも目がそちらの方に気をとられてしまう。刻々と移り変わる数字に目をうばわれていると、ふと、音を全然聴いていないことに気づいて愕然とさせられる。
 そして、おそらく誰もが、このアンプの音質を虚心に聴き分けることのできるようになるためには、パワーディスプレイの存在の珍しさが、意識の中から消え去ってからでなくてはダメだと思う。それくらい、このディスプレイは楽しい。
 出力のディスプレイは、次の4レンジに読みとりを切り換えられる。
  0・001W〜0・999W
  0・001W〜9・99W
  0・1W〜99・9W
  1W〜999W
 ごく絞った音量で鳴らしているときは、0・001Wのレンジで十分だ。過程で、静かに音楽鑑賞をするときの出力は、ちょっと拍子抜けするほど小さいことが読みとれる。0・001W近辺でけっこう大きな音が鳴らせることがわかる。
 しかし、たとえばコンボ・ジャズの録音の良いレコードを、あたかも目の前で演奏しているかのような実感で味わおうとすると、出力は、途端に、10W、50W、100W……と大きく動きはじめる。あ、と思った瞬間に、インジケーターの数字は200を軽く越えて、350、400、450……と指示する。500Wという数字から恐るべき音量を期待していると、軽く裏切られる。それは当然なのだ。私たちはつい最近まで、200Wから400Wのアンプを日頃常用したりテストしたりしてきて、実演に近い音量に上げたときには、200Wの出力がすでにものたりないことを体験している。500Wといったって、それは、200Wにくらべて3dB強、最大音量に余裕が出来ただけの話、なのだから。そういいう意味では、こんにち、すでに500Wどころか、1kWでも2kWでも、もし安定度と音質の良さの保証がありさえすれば、いますぐにでも欲しいのだ。
 単にハイパワーというだけなら、すでに実験機、試作機を含めて、私たちは体験しているし、PA用のアンプでは、音質は少々犠牲にしてでも、トータル数kWないし数十kWという出力はいまや日常の話になっている。けれど、過程で音楽をふつうに鑑賞するときの平均音量は、むしろ1W以下、ピアニシモでも0・001Wよりもさらに下、などというのがふつうだ。そういう極小出力で、十分に質の高い、滑らかな歪の少い、透明度の高く魅力的な音質を確保しながら、一方でどこまで高出力を出せるかというのが、これからの本当のハイパワーアンプのあり方だ。アキュフェイズM100は、そ命題に本気で応えた、本当の音楽鑑賞用のハイパワーアンプだといえる。
 そのことは、次のような比較ではっきり聴きとれる。
 比較の対象として、同じアキュフェイズのステレオ・パワーアンプの最高級機P400(200W+200W)を、もう一方に、M100より一歩先んじて発表されたマッキントッシュの同じく500Wアンプ(ただしこちらはステレオ構成)MC2500をそれぞれ用意した。プリアンプは、アキュフェイズのC240、マッキントッシュC29、それにマーク・レヴィンソンML7。これらを交互に組み代えて、音を比較する。
 まずアキュフェイズどうし。プリはC240に固定して、P400とM100(×2)の比較──。
 M100のディスプレイで、ピーク出力で50ないし80W、つまりP400の最大出力を十分に下廻る余裕のあるところで音量をほぼ同大にして比較してみるが、たとえば交響曲のトゥッティや、ピアノ独奏の最強音のところで、M100の悠然とどこまでもよく伸びる音を一旦耳にしてしまうと、P400の音が、どことなくピークで飽和しているような、音の伸びがどこかで停まってしまうあるいは抑えられてしまうかのような、印象として聴きとれる。そしてピアノの打鍵音の実体感が、M100の方が優れている。引締って、くっきりと形造られ、しかも硬質でなく十分弾力的だ。
 次にもう少し小さなパワー、M100のディスプレイがピークでも5〜6Wまでしか示さないような、ごく日常的な音量で比較してみる。それでも、M100の質の高さはすぐに聴き分けられる。音に何となくゆとりがある。私自身でも何度か例えとしてあげた話のくりかえしになるが、大型乗用車をぐっと絞って走らせたような力の余裕、底力、を感じさせる。
 ただ、P400にも良いところはある。弦のこまやかな合奏などのところで、いっそう繊細だ。それはM100よりもう少し女性的な表現といえないこともない。悪くいえば線が細いといえるのかもしれないが、裏がえしてみればいっそうナイーヴな表現をするともいえる。
 このまま(つまりプリアンプがC240のまま)、パワーアンプだけ、マッキントッシュMC2500にしてみる。音の性格が、アキュフェイズとはまるで反対だから、組合せとしてはベストとはいえないが、一応、同条件でのパワーアンプどうしの比較にはなる。
 たとえばピアノ・ソロ。M100よりも彫りが深く、一音一音のタッチがくっきりと際立つ。そして強打音での伸びがM100よりも力強い。ピアニストの指の力が増したような、ことにP400と比較すると、女性ピアニストと男性ピアニスト、ぐらいの差がつく。差のあることはわかるが、必ずしもどちらが良いかは速断できない。MC2500のほうが、少し元気すぎるともいえなくないが、しかしP400は逆に控えめすぎるともいえる。となると、M100がちょうどよいのか──。これはどうも、C240との相性の問題もありそうで、ピアノ独奏に関しては、案外、C200XとM100あたりの組合せがよいのかもしれないと思った。残念ながらC200Xを用意していなかったので、確認はできなかった。
 ところでMC2500だが、ピアノではともかく、交響曲では首をかしげた。使ったレコードは、アムステルダム・コンセルトヘボウだったが、それが、アメリカ系のたとえばシカゴ交響楽団とまではいいすぎかもしれないにしても、ちょっと、ヨーロッパの音にしては抑制と渋味が不足している、あるいは、明るすぎる音に仕上って聴こえる。
 このあと、プリアンプをレヴィンソンML7に変えて同じく3台のパワーアンプの比較をした。プリアンプの変ったことによって、組み合わせた結果の音の味わいは変ったが、パワーアンプ相互の音のニュアンスの差は、前記の印象と大筋において違わなかった。
 プリアンプをマッキントッシュC29に変えての試聴では、MC2500の音がぐんとピントが合って、音の色調が当然とはいえ、よく揃い、マッキントッシュの新しい世代のサウンドに、ちょっと感心させられた。反面、アキュフェイズのパワーアンプに対しては、マッキントッシュの華麗、アキュフェイズのナイーヴ、互いの個性が殺し合って、これは明らかにミスマッチだった。
 さきほどのピークパワー・ディスプレイの数字は、ホールドタイムが0・5秒、3秒、30分に切り換えられる。そしてホールドしているあいだにも、より大きなピークが入ってくれば、即座に応答して表示する。0・5秒では刻々と変化する出力上下の幅がいかに大きいかを直感的に読みとれる。3秒になると、もう少しゆっくりと、考えるヒマを与えてくれる。30分のホールドは、レコード片面を通して、最も大きな出力を表示してくれる。この機能はすばらしく便利で、前述のように、つい音を聴くことを忘れさせるほど、最初のうちは見とれてしまう。
 いったい、どこまでの出力が出せるものかと、ハイパワー限界のテストをしてみた。こういうテストは、もしもクラシックで、ピーク500Wを出そうとしたら、ふつうの部屋ではとても耐えられない音量になってしまう。むしろ、最近の録音の良いジャズやフュージョンの、むしろマイナー・レーベル(たとえばオーディオ・ラボやシェフィールドなど)のほうが、一瞬のピーク出力が制限されずにそのままカッティングされている。いいかえれば、音量感の上ではむしろ意外なところで、出力の表示は数百Wを軽くオーバーシュートして、びっくりさせられる。
 ともかく、今回の本誌試聴室の場合では、640Wまでを記録した。これ以上の音量は、私にはちょっと耐えられないが、アンプのほうは、もう少し余裕がありそうに思えた。500Wの出力は、十二分に保証されていると判断できた。
 しかし、M100の本領は、むしろ、そういういパワーを楽々と出せる力を保持しながら、日常的な、たとえば1W以下というような小出力のところで、十分に質の高い音質を供給するという面にあるのではないかと思われる。
 そのことは、試聴を一旦終えたあとからむしろ気づかされた。
 というのは、かなり時間をかけてテストしたにもかかわらず、C240+M100(×2)の音は、聴き手を疲れさせるどころか、久々に聴いた質の高い、滑らかな美しい音に、どこか軽い酔い心地に似た快ささえ感じさせるものだから、テストを終えてもすぐにスイッチを切る気持になれずに、そのまま、音量を落として、いろいろなレコードを、ポカンと楽しんでいた。
 その頃になると、もう、パワーディスプレイの存在もほとんど気にならなくなっている。500Wに挑戦する気も、もうなくなっている。ただ、自分の気にいった音量で、レコードを楽しむ気分になっている。
 そうしてみて気がついたことは、このアンプが、0・001Wの最小レンジでもときどきローレベルの表示がスケールアウトするほどの小さな出力で聴き続けてなお、数ある内外のパワーアンプの中でも、十分に印象に残るだけの上質な美しい魅力ある音質を持っている、ということだった。夜更けてどことなくひっそりした気配の漂いはじめた試聴室の中で、M100は実にひっそりと美しい音を聴かせた。まるで、さっきの640Wのあの音の伸びがウソだったように。しかも、この試聴室は都心にあって、実際にはビルの外の自動車の騒音が、かすかに部屋に聴こえてくるような環境であるにもかかわらず、あの夜の音が、妙にひっそりとした印象で耳の底で鳴っている。
 モノーラル構成2台で100万円、というのは、決してささやかとはいえない。2台の重量の合計が83kg。そのことよりも、10W近辺まで純A級で動作するという回路構成から、消費電力は無信号時でも250W(2台だから500W!)と、無視できない価である。ピーク出力時では、仮に一瞬であっても、8Ω負荷500W出力で840W(×2)を消費するから、それ相当の覚悟をしないと、なかなか自分のラインにはとりこみにくい。しかし、冷却ファンなしでも、発熱は想像よりずっと少ない。ファンを追加もできる構造だが、家庭用としては不必要ということだし、ファンなしで済むということは、無用の機械雑音に悩まされずに済むということで、神経質な愛好家にも歓迎されることだろう。

ペアで60万円〜120万円未満の価格帯の特徴(スピーカーシステム)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 国産・外国製共に、名実共に高級スピーカーシステムといえるものが、この価格ゾーンになるだろう。プロのスタジオ用モデルは別として、コンシュマー用は全部といってよいほど据置型のフロアーシステムであり、かなりの大型機が多い。半数ぐらいは、プロ用モニターシステムである。それも、外国製品が圧倒的に多い。60万円クラスで述べた趣味性はさらに高まり、このクラスとなると、ものは、その性能の可能性を誇り、使う人の才能、技術、経験を要求しはじめる。ユーザーの資格が問われるといってもよいであろう。ただお金があるから買うといったことがあってはいけない。ましてや、昨日今日オーディオに興味をもって、いきなり、このクラスのものを買い込むことは慎むべきだ。決してよい結果は得られないであろう。然るべきコンサルタントがいれば話は別であるが……。だからこそ、ステイタスにすりかえられることにもなるのであろう。

ペアで30万円〜60万円未満の価格帯の特徴(スピーカーシステム)

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 この価格帯を展望した時の目立った傾向としては、外国製品の存在である。そして、フロアー型が多くなり、38cm口径級の大口径ウーファーをベースにしたマルチウェイが目立ってくる。マニア向けとしては決して高級クラスとはいえないが、ここまでくると、もう音楽は生活の伴奏ではなくなり、糧となる。大きさもかなりのものになってくるし、人は、正面からスピーカーと対峙する構えが必要だろう。特に国産品では最高級品の領域であるから、こうした性格が強い。外国製の場合は、どうしても割高となっているから別の捉え方が必要だろう。つまり、現地価格からして、このクラスが本格派への入門といったところである。かなりの個性派が多く、かなりの趣味性を満足させる似たる製品がずらりと並んでいる。人の感性や情緒の対象として、あるいは音楽表現の味わい、楽器の音色の色彩感や美しさに照らし合わせて云々するに足るものが増えてくるゾーンといえるだろう。