井上卓也
ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より
本誌43号の特集テーマは、現在、国内に輸入されており、入手可能な海外製品と発売されている国内製品の数多くのオーディオコンポーネントのなかから、ベスト・バイに値するコンポーネントを選出することである。
何をもって、ベスト・バイとするかについてはその言葉の解釈と、どこに基準を置くかにより大幅に変化し、単にスーパーマーケット的なお買得製品から、特別な人のみが使いうる高価格な世界の一流品までを含みうると思う。
今回は、選出にあたり、ある程度の枠を設定して、本誌41号でおこなわれたコンポーネントの一流品と対比させることにした。その、もっとも大きなポイントは、業務用途に開発された製品は、特別を除いて対象としないことにしたことだ。これらの製品は、第一に、使用目的がコンシュマー用ではなく、そのもつ、性能、機能、価格など、いずれの面からみても、一般のオーディオファンが、容易に使いこなせるものではなく、また、入手可能とは考えられないからである。第二に、業務用として、優れた性能、機能をもつとしても、コンシュマー用としては、必ずしもそのすべてが好ましいとはかぎらないこともある。例えば、定評あるアルテックA7−500スピーカーシステムにしても、業務用に仕上げた色調やデザインは、どこのリスニングルームにでも置けるものではない。また、同じく、JBLのプロフェッショナル・モニターシステムである4350にしても、誰にでも、まず使いこなしが大変であるし、家庭内のリスニングルームで再生をする音量程度では、らしく鳴るはずがない。ハイパワーアンプとの組み合わせで、それもバイアンプ方式のマルチアンプシステムを使って、少なくとも小ホール程度の広い部屋で、充分な音量を出して、はじめて本来の鳴りかたをすることになる。このような使用法では、他には得られない性能をもっているために、製品としては当然ベスト・バイとなろうが、少なくとも一般のオーディオファンとは、関係がないカテゴリーでのベスト・バイである。
また、高価格になりやすい一流品は、価格的な制約を除けばそれぞれに大変な魅力をもっているとはいえ、誰にとっても、ベスト・バイたりえないことは当然である。ここではコンポーネントのジャンル別に、価格的なボーダーラインを設定して、一流品とベスト・バイを区分することにしている。
スピーカーシステムは、このところ国内製品の内容の充実ぶりが目立つジャンルである。例えば二〜三年以前であったら、10万円未満の価格帯で海外製品に優れたシステムが多くあったが、海外メーカーで自社開発のユニットをつくるメーカーが減少し、最近では個性的な製品が少なくなっている。10万円以上、15万円未満の価格帯が、現在ではベスト・バイ製品の上限に位置すると思う。昨年末以来、このランクに国内製品のフロアー型システムが各社から発売され、ユニット構成にも、従来には見られなかった個性があり新しい価格帯を形成している。現在では、7〜8万円以上ではフロアー型システムが主流を占めつつあるが、逆に比較的に小型で充分な低音が得られるブックシェルフ型システムのメリットが見直されてよいと思う。一方、5万円未満の価格帯では、最近注目されている超小型システムを含み、比較的小口径ウーファーを使った小型なシステムに、内容が濃い製品が多くなってきた。
プリメインアンプは、従来からも、おおよそ15万円あたりが価格の上限であったが、これは基本的に現在でも変化はない。最近の製品の傾向からみれば、10万円未満の価格帯では、モデルチェンジがかなり激しく、それに伴なって質的な向上が著るしく、ややファッション的な印象が強くなっている。これにくらべると10万円以上の価格帯は、プリメインアンプの特別クラスで、最新の技術を背景に開発された新製品から、伝統的ともいえる長いキャりアをもつ製品までが共存し、かなり趣味性を活かして選びだすことができる。
セパレート型アンプは、いわばアンプの無差別級的存在であり、性能、機能、価格などで幅広いバリエーションがある。ここでは、プリメインアンプを形態的にセパレート化したと思われるものは除くとしても、開発のポイントがセパレート型アンブ本来の質、量、二面のバランスに置かれたものは、とかく高価格となりやすく、一面的に質か、または量にウェイトを置いた製品は、比較的に入手しやすい価格にある。ここでは、ある程度、価格的な枠を拡げて選んでいるが、基本はやはり質優先型である。パワーアンプは、スピーカーシステムと対比すると、出力が多すぎるように思われるかもしれないが、最近のようにダイナミックレンジが広いディスクが登場してくると、平均的音量で再生していても、瞬間的なピークの再生の可否が大きく音質に影響を与えることもあり選んでいる。
FMチューナーは、プリメインアンプと組み合わせる機種については、あえてペアチューナー以外を使用する必要がないほど、相互のバランスが現在では保たれている。ペアチューナーの性能が高くなっているのも理由であるが、現実のFM放送の質を考えれば、高級チューナーの使用は、効果的とは思われない、つまりプリメインアンプを選べば、自動的にFMチューナーは決まることになる。ここではセパレート型アンプに対応する製品を、最近のFMチューナーの傾向をも含んで選出することにした。
プレーヤーシステムは、現在のコンポーネントのなかで、場合によればもっとも大きく音を変えるジャンルである。基本的には、システムを構成するトーンアーム、フォノモーター、プレーヤーべースなどが優れていれば、よいシステムになるが、例え個々の構成部品が抜群でなくても、システムプランでまとめられた製品は、好結果が得られるあたりが、システムならではのポイントである。実際に試聴をした結果から、各価格帯で、いわゆる音の良いプレーヤーを選出してある。また、価格的に少しハンディキャップはあるがオートプレーヤーにもマニュアルプレーヤー同等に良い製品がある点に注目したい。
フォノモーター、トーンアームの単体発売品は、需要としては、さして多くないはずだが、選んだ製品の大半は、優れたプレーヤーシステムの構成部品であり、残りはそれぞれ単体として定評がある製品である。
カートリッジは、主として現在の一般的なトーンアームと組み合わせた場合を考えて選んだ。最近の高性能化した製品は、特定のトーンアームとの組み合わせで本来の性能を発揮する傾向が強く、ユニバーサル型アームの形態をとってはいるが、むしろ専用アームとペアのピックアップアーム化している。これらは今回は除外した。
テープデッキは、カセットデッキでは、システムに組込み固定するコンポーネント型は、現実にエルカセットが登場してくると10万円が上限である。しかし、ポータブルの小型機は、コンパクトであるだけに10万円以上でも概当することになる。オープンリールデッキは、30万円程度が上限であり、この価格帯では19cm・4トラック機に総合的に優れた製品が多い。ポータブル機は、機種が少なく、実質的な価格内ではベスト・バイというより、それしかないのが残念である。
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