井上卓也
ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より
一流品という表現は、各分野で幅広く使用され、高級品の表現とも混用されているため、改まって一流品とは、と考えてみると、何が一流品かの判断は大変に難しいものがある。
ちなみに一流の意味を手許にある岩波版『国語事典』で調べてみると、その意味は㈰その世界で第一等の地位を占めているもの、㈪技芸などでの一つの流派、㈫独特の流儀、とあり、高級とは、等級や程度の高いこと、とある。意味上での幅は、高級にくらべ、一流のほうが広く、簡単に考えればその世界で第一等の地位を占めているもの、とする㈰の意味だけと考えやすいが、オーディオ製品に限らず、趣味、趣好の世界では、㈰に劣らず、㈪または㈫のもつ意味も、かなり重要なポイントであろう。
オーディオ製品に焦点を絞って世界の一流品を考えてみれば、世界的に、各地で開発され商品化された製品が、いちはやく輸入され、場合によっては日本市場のほうが優先することもあるほど活況を示しており、ほぼ完全に、世界中のオーディオ製品が、現実に手にとって見ることができ、その音を聴ける現状では、アンプ、スピーカーシステム、テープデッキといった各ジャンル別での世界的な製品の動向が、何を一流品とするかにあたっては、最大のポイントとなり、各ジャンル別に一流品と判断する、いわば0dBのラインが異なってくるはずである。
一流品の条件として、一般的な、デザイン、仕上げ、精度、性能、機能、などのベーシックなポイント以上に、まず各ジャンル別に、海外製品、国内製品の概略の動向や実情をチェックする必要があると思う。
まず、入力系、つまりプログラムソースを受持つテープデッキ、チューナー、それにプレーヤーシステムから、それぞれのジャンルでの特長を考えたい。
テープデッキでは、現在カセット、オープンリール、それに新登場のエルカセットの3種に限定してよく、カートリッジテープについては、もはやオーディオから除外してよいだろう。
フィリップスで開発されたカセットテープは、予想以上にソフト、ハードの両面から急速に発展し、取扱いの容易なメリットは、多くのユーザーの支持を受け、現存のテープブームの基盤となるほどの位置を占め、末端では、オーディオ製品というよりは、むしろ、日用品化しているといってよい。海外製品と国内製品の力量の比較は、性能・機能面で圧倒的に、国内製品が強く、デザイン面で強い海外製品も、ことこのジャンルでは機種が少なく、性能面でも劣り、とても互格の競争力はない。また、ソフト側のテープでも、海外製品は、高性能化の立遅れがあり、市場は国内製品の独占状況にある。
国内製品は、各メーカーともに高い水準にあるが、高価格、高性能なカセットデッキでは、オリジナリティの高いナカミチの製品が群を抜いた存在であり、海外でも非常に高い評価を得ている。やや特殊な、というよりはカセット本来のコンパクトで機動性があるポータブルタイプの製品では、西独ウーヘルの超小型機がユニークな存在で目立っている。
エルカセットは、国内で開発された新しいタイプで、世界的な支持を受けるか否かは、今後にかかっており、世界の一流品となると時期尚早の感が深いタイプである。独得のオートマチック動作が可能で、テープトランスポート系の優位さをもつ面では、従来のテープとは、やや異なった方向の新しいプログラムソースとしての発展を期待したい。
オープンリールテープは、4トラックタイプと2トラックタイプにわかれるが、2トラックタイプが、高級テープファンに愛用され、4トラックタイプは、やや低調というほかはない。しかし、このタイプが、本来のメリットを失った結果ではなく、カセットの需要増大による、需要の減少と、それを原因とする新製品開発が少なくなったことの相乗効果によるもので、魅力のある製品が出現すればオーディオのプログラムソースとしては、カセットとは比較にならぬ大きなメリットがあるタイプである。
2トラックタイプは、38cmスピードが主流を占めるが、19cm速度が、ランニングコストを含めて、もう少し注目されてよいだろう。ローコスト機は、カセット高級機と同等の価格であり、両者の性能だけを比較すると、かなりの矛盾が感じられる。また、海外製品と国内製品を比較すればコンシュマーユースに限れば、海外製品は、カセットほどではないが製品数は少ない。しかし、外形寸法が小さく重量が軽い特長をもつモデルが多く、アクティブに音源を求めて移動する録音本来の目的に使う場合に大変な利点がある。とくにマルチ電源を使うポータブルタイプでは業務用のモデルを含めて国内製品に求められない機種に、いかにも一流品らしいものがある。国内製品は、大型重量級のいわゆる豪華型が高級モデルに多く、移動には自動車が必要というものばかりであり、そのなかにあって、ソニーのポータブル機は、やや重量はあるが、性能は同じタイプの海外製高級機に匹敵する、唯一の存在である。
チューナー関係では、限られた超高級モデルを除いて、国内製品が、総合的に高い位置にある。趣味的にみれば、高価格な製品のなかに質、実ともに一流品ににふさわしいモデルが点在しており、かなり趣味性をいかして一流品が選べる分野である。
プレーヤーシステムでは、システムとしてはまったく性能面で海外製品の出る幕はなくなってしまった。最近の高価格なシステムに採用されている水晶制御のDD型は、音の安定度がさらに一段と向上し、この面では大変に素晴らしい。しかし、デザイン面とオート化の点では、今後に期待すべきものが残る。
カートリッジ関係では、MC型は国内製品、MM型やMI型などのハイインピーダンス型は、海外製品というのが概略の印象であるが、最近、MM型を中心とした国内製品の性能が急速に上昇して、こと物理特性では海外製品に差をつけている。今後いかに、音楽を聴くためのカートリッジとして完成度を高めるかに少しの問題があるようだ。MC型は、海外製品はオルトフォン、EMTの2社のみであり、製品の多い点では国内製品が圧倒的であり、また、発電方式のメカニズムのオリジナリティでも各社それぞれに優れたものがある。ちなみに国内製品のMC型は、世界的に定評が高く、コンシュマー用をはじめ、試聴用としても数多く使用されている。全般的にカートリッジは、小型、軽量で輸入経費が少なく、海外製品が価格的にも、国内製品と対等に競争できる、やや特殊なジャンルで、性能もさることながら音の姿、かたち、表現力が一流品としては望まれる点である。
アンプ関係は、プリメインアンプが主流の座を占め、国内製品は、その製品数も非常に多く、モデルチェンジが大変に激しく、その内容も確実に向上している。しかし、パワーアップ化の傾向が著しいジャンルだけに、外形寸法的な制約があって、必然的にパワーには限界を生じるはずである。最近の傾向としてセパレート型アンプの価格が下降し、プリメインアンプの高級機とオーバーラップした価格帯にあるため、一流品の選択は難しく、デザインを含めて質、量ともに、セパレート型アンプに匹敵するものが要求される。海外製品は、例外的な存在だけで平均レベルは、国内製品が圧倒的である。
総合アンプ、つまりレシーバーでは、コンポーネントシステムとは方向が異なった印象の製品が多く、数量的にも国内市場での需要は少なく、やや特殊な例を除いて一流品らしき製品がないのは大変に残念なことである。高度な内容をもつプリメインアンプとチューナーを一体化した、一流品らしいレシーバーの出現を期待したい。
セパレート型アンプは、海外製品、国内製品ともに活況を呈している。本来は制約がない無差別級のアンプであるだけに、現在のモデルは、多様化し、一律に考えることは不可能である。オリジナリティが高い製品から選択すれば、大半は世界の一流品に応わしいモデルともいえよう。
スピーカー関係は、高価格な製品では圧倒的に海外製品が強く、そのすべてが文字どおりの世界の一流品であり、一流品でなければ存在しえないことになる。国内製品は、このところ急速に内容が充実しはじめ、価格帯によっては、一流品らしさのあるモデルが出はじめている。使いこなしを要求されるジャンルであり、そのモデルがいかに多くの可能性を持っているかがオリジナリティを含めて一流品に必要な最大条件である。
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