菅野沖彦
スイングジャーナル 8月号(1971年7月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より
音響メーカーにとってスピーカーが、そのメーカーの音への感性を示すものとして大きな意味をもつ製品であることは常に述べている通りである。それは、アンプのように電気理論ですっきりと解決できる(ともいえないが……)ファクターの大きなものとちがって、変換器というものは、独自の音質形成の要素を多く含んでいることによる。特にスピーカーの場合はその動作自体が決して満足のいくものではないし、エンクロージュアを含めたアクースティックなファクターは複雑をきわめ、結局のところ、製作者の音に対する感覚や嗜好が入り込まざるを得ないというのが現実であるから、スピーカーこそ、そのメーカーの音のポリシーを代表するものといわれても仕方がない。優れたスピーカー・システムというのは優れた測定データを示すけれど、優れた測定データを示すからといって、即、優れたスピーカー・システムとは限らないといえるのが現実なのである。一般的に、スピーカーの特性として示されるいくつかのデータ、つまり周波数特性、指向特性、インピーダンス特性、高調波歪特性などからはかなりの程度その全体の性能を推察することが可能だが、それらが、音の全てを象徴するとはとてもいえないのである。
さて、トリオがKLシリ−ズで発売したスピーカー・システムは、それまでのトリオのスピーカーにおける低迷を一掃するもので、その積極性をもった表現力の大きな音が既に好感をもって迎えられたことは御承知の通りである。ややもすれば、その派手さ、華麗さのために内的、静的な味わいをもつ音楽の再現を好む人々には敬遠される嫌いもあったと思われるが、KL5060に代表されるそれらのシステムのもつ大らかな、力強い音は、音楽の表現力をよく伝えてくれたといってよい。KL5060は、KL5060Aとしてトゥイーターに変更をうけて発売されたが、今度のKL7050はまったく新しいユニットとエンクロージュアによる完全な新製品であって、従来の表現力の大きさに加えて、さらに充実した密度の高い質的な高さを兼備するにいたったシステムである。
構成は、30cmウーファー、116cmスコーカー、セクトラル・ホーンつきトゥイーターという3ウェイで、クロス・オーバー周波数は低中音間が600Hz、中高音間が6kHzそれぞれ12db/octのネットワークをもつ。ウーファーは、きわめてヤング率の高そうな剛性の大きなコーンがロールエッジでフリー・サスペンスされ強力な磁気回路によって駆動される。大きなバック・キャビティーをもったスコーカーは、システムの音質の中核を受けもつといってよい質の高いもので、かなり広帯域特性をもつもののように思われる。セクトラル・ホーンをもつトゥイーターは従来のシステムには使われなかった新しいもので、このシステムの高域の質の高さに大きく役立つものだ。よくしまったトランジェントのよい高音は冴えて清澄である。バーチカル・スライディングの中、高音独立型のアッテネーターは流行といえばそれまでだが、ヴィジュアルで一目で増減の判断が出来るし、バッフル・フェイスのデザイン的効果も上っている。よく仕上げられたバスレフ・ポートは制動を加えられ密閉型のよさを兼ねたもので、しまった低音が、チューンされた低域特性ののびと、ともに豊かでスケールの大きな音質を可能にしている 前傾グリルは品位の高い美しいもので、このシステムにふさわしくすっきりした印象を与える。デンシティーの高い材質で作られたエンクロージュアは音質の面でもフィニュシュの面でも好ましく高級感をもったものだ。入力端子はトリオらしく、2、3チャンネルのマルチ・アンプ・システム用のダイレクト端子も備えている。明るく締った音質は、大変気持ちのよい切れ込みのよさと、質の高さをもち、特にSJ読者の聴かれるジャズの鋭いパルスへのレスポンスは抜群だしデリカシーやソフィストケイトされたプログラムソースにも美しい再生音を聴かせてくれる。数多くのスピーカー・システムの中でも特筆に価いするものといいたい。国産のブックシェルフ型としては価格的にも高級品だが、それにふさわしいトリオの力作であった。
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