アルテック X7 Belair

菅野沖彦

スイングジャーナル 7月号(1975年6月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 アルテックのスピーカーは常に強い魅力を聴く人に感じさせる。その音は決して優等生的な欠点のないものとはいえない。むしろ、立場を変えれば欠点だらけといってもよいものが多い。例えば、あの有名な〝ボイス・オブ・シアター〟A7システムがそうだ。ご承知のようにA7は大きな劇場用のシステムであって、アルテックはその持てる技術と歴史のほとんどをこの系統のシステムに注入してきた。つまり大ホールにおけるハイ・エフィシェンシーなエネルギーの伝送を、いかに人の感覚に快よい、音楽的効果と結びつけるかという方向である。そのために強力なコンプレッション・ドライバーと有効なホーン、それに見合ったウーハーの2ウェイを主軸とし、少々の低域特性の不満や、高域の減衰(10kHz以上の高域は大きなホーンでは余程のエネルギーでない限り空間で減衰するし、10kHz以上のエネルギーを放射すると往々にして歪の放射につながり、種々様々なプログラム・ソースを再生しなければならない劇場用としては、アラが目立つチャンスのほうが大きい)を承知の上で、主要なファクターに的をしぼるという達観を数10年前から持っていた。しかし、これが、モノのわかる人には家庭用としても音楽の有効成分の伝達──つまり、余計をものを切りすてて重要な音楽的情報を伝えるという大人の感覚に連り、A7を家庭用としても持ち込むという傾向を生み出したといえる。もちろん、プログラム・ソースの質的向上に伴って、A7シリーズのドライバーも高域低域のレンジ拡大がおこなわれ、現在の8シリーズの最新型ドライバー・ユニットはかなりレンジが拡がったが、2ウェイというシステムのままのレンジ拡大という基本思想は変っていない。ところで、そうしたアルテックも最近の家庭用ハイ・ファイ・システムの需要の大きさを無視しているわけにはいかなくなった。特に宿敵JBLが、この分野における活発な成果を上げ、それをプロ用にも生かしてくるようになっては、本家としてだまっていられなくなったのも無理からぬ話である。最近のアルテックはそうした、いわゆるハイ・ファイの分野にも意欲を持ち始め、2ウェイはもちろん、3ウェイのブックシェルフ・システムの開発にも積極的になってきたのである。近々、アナハイムから発売されるであろう一連のブックシェルフ・システムがそれだが、この〝ベルエア〟システムは、その動きを敏感に把えてエレクトリが完成した家庭用ハイ・ファイ・システムである。機会があってアルテック本社で一連の新製品と本機の比較試聴を行なったが、決してそれらにひけをとらないまとまりをもったシステムであった。使用ユニットはアルテックの新しい製品で、ウーハーが30cmの411−8A、トゥイーターが427−8A、それをN1501−8Aネットワークで1・5kHzでクロスさせた2ウェイ・システムだ。エンクロージャーは、ダンプド・バスレフである。エレクトリは既にベスト・セラー〝デイグ〟を世に送り出しているがその経験を生かしてつくられたこの〝ベルエア〟はアルテックのサウンドの魅力をよく生かし、しかも全体のバランスを周到に練った成果が聞かれるのである。明るく屈託のない音。がっしりとした音像再現による明解なディフィニジョンはまさにアルテック・サウンドそのものである。印刷の世界でよく使われる言葉に発色という言葉があるが、アルテックのスピーカーは、それになぞらえれば〝発音〟の鮮やかなサウンドであって、全ての音が大らかに発音されるのである。この〝ベルエア〟は価格的にも7万円台ということだが、ユニットやネットワークの本格派として、これは安い。先に書Vいたようにスピーカーは土台、目的をしぼってまとめられなければならないという現実の制約があるものだが、このシステムの目的はハイ・ファイ用としてレンジを拡大しながらも、決してひ弱繊細で神経質な音になることを避け、たくましくジャズを鳴らしてくれるところにあるとみる。それだけに、たしかな響き、心のひだのすみずみを微妙なニュアンスでデリケートに鳴らしてくれるというシステムではない。同価格クラスの他製品と比較して立派に存在価値を主張できるシステムというのがこの製品を試聴して持った印象であった。

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