オンキョー Integra 712

岩崎千明

スイングジャーナル 3月号(1970年2月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 コンピューター万能の時代である。コンピューターをアンプの設計に活用した、という時代の先端をそのまま商品とした強力なアンプがオンキョーから発売された。
 ハイ・ファイ業界の眼れる獅子といわれた関西の大型専門メーカー大阪音響は、すでにマルチ・チャンネル・アンプ・ステレオ・シリーズで一躍業界でフット・ライトを浴びる存在となって一年。お手のもののハイ・ファイ用スピーカーを基盤に着々とステレオ専門メーカーの地盤を確固たるものにしつつある。コンポーネント・ステレオが流行のこのところ、すでに発表以来高性能をかわれているスピーカー・システムE83AやF500のスピーカー陣にいよいよアンプが加わることとなったのである。
 結論から申し上げると、このアンプ群、いかにも百獣の王にふさわしい大型メーカーの作り上げたアンプである。
初めてのアンプ製品ながら、じっくり時間をかけて、ベテラン技術スタッフがガッチリと取組んで完成したにふさわしい、手ごたえのある本格的高性能を秘している。ただ欲をいえば、もう少し商品としての魅力がほしい。しかし、やはり専門メーカーらしくオーソドックスなデザインになっている。同じ関西の非常に手堅いアンプメーカーL社の商品に対する考え方と同じものをデザインに感じさせる。
 ハイ・ファイ専門メーカーとかステレオ専門メーカーといえるメーカーは決して多くはない。オンキョーはそういう数少ないメーカーであり、業界で屈指の規模の大型メーカーである。
 カラー・テレビまで自社の技術で作り出し得る高度の電子回路技術力は、アンプ・メーカーではチューナーで名の通っているT社がわずかにこのオンキョーと匹適する程度であろう。
 テレビに対するパルス回路的考え方が、アンプの低域特性に応用されて、コンピューターの出動にまで発展したものであろう。アンプの低域時定数の理想的な決定に複雑で面倒な計算に計算機を応用したという。そして、もうひとつの理想的な回路として、このところにわかに注目されてきている出力コンデンサーレス、OTL回路を含む全段直結アンプ方式を、すでに検討を終り、オンキョー・アンプの最高級機種としてインテグラ701を同時に発しているのである。ただ701は全段直結とハイ・パワーのためにかなりの高価な値段で一般の若いマニアには手がとどきかねると申しておこう。
 インテグラ701を最高ランクとして712、713、714を除いてまったく同じといってよいパネル・デザインである。
 最近のアンプの各社の製品を見ると、マルチ・アンプ方式に対する配慮がにじみでているが、オンキョーの場合も同時に発表されたディバイダー・アンプとパワー・アンプを組合せてマルチ・アンプシステム化ができる。しかし、このマルチ・アンプ・システムは非常にレベルの高い音楽ファン層を意識していることがわかる。きわめて周到に設計されており値段も安いものではない。これでもうかがわれるようにオンキョーのアンプはかなり高級マニアを狙ったものだ。いまは、珍しいものではない周波数切換付きトーンコントロールも、親切な配慮であるし、よけいなアクセサリー回路も欲ばっていない。つまり非常にありきたり、オーソドックスな設計基本方針にもとづいて製品化されたものであることがわかる。
 特徴のないデザインもそれの現われであろう。ただこのあたりまえな衣の内側は非常に充実しており、それは712において13kgという超重量にも見られる。おそちく、胴大な電源回路が同クラス製品中ずば抜けた迫力をもたらしているのであろう。
 初級者にはきわだった魅力を聴しにくい製品ではあるが、あなたがレベルの高い音楽マニアならインテグラ・シリーズの良さを使っているうちに、本当に認めるであろう。
 このアンプを実際に鳴らしたとき、この価格が妥当なものであるごとがすでに判ったことは確かである。この重低音の力強さと分厚い響、中音域のぬけのよさ、そして高音ののびはさすが大型メーカーの手がけた製品にふさわしい一流製品である。

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