瀬川冬樹
ステレオサウンド 29号(1973年12月発行)
特集・「最新ブックシェルフスピーカーのすべて(下)」より
ややソフトフォーカス気味ながらたいそうバランスの良い、暖かく快い音を聴かせるスピーカーで、さすがに永いことモデルチェンジをしない製品の安定した良さがわかる。男声の音域あたりの音の充実感が音楽をしっかり支える土台となって、坐りの良いウォームな音質が独特だ。KLHといえばARの流れを汲み、ここからさらに新しいアドヴェントを生んだいわゆるボストンの御三家だが、ARの新しいモデルやアドヴェントが本質的には乾いた傾向の、音の響きや余韻をむしろ拒否した鳴り方をするのに対して、KLHはヨーロッパのスピーカーほどではないにしても適度にウエットなほの暗い鳴り方をしてそこのところが私にはなかなか魅力的だ。この上のモデル5がさらに色濃くそういう長所を持っているが、ボストンのシンフォニー・ホールでポップスの音が鳴り出したとたんに、あ、これはまさしくKLHの音だ、と私は感じた。高域のレインジが広いという音ではないから、イギリス系のあの繊細に切れこみ漂うプレゼンスや艶は出ないが、いわば艶消しの美しさ。聴き疲れしない穏やかさと、それでいてハイパワーにぐんぐんと延びるダイナミックさが快い。
周波数レンジ:☆☆☆☆
質感:☆☆☆
ダイナミックレンジ:☆☆☆☆
解像力:☆☆☆
余韻:☆☆☆
プレゼンス:☆☆☆
魅力:☆☆☆☆
総合評価:☆☆☆★
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