岩崎千明
スイングジャーナル 3月号(1971年2月発行)
「SJ推選ベスト・バイ・ステレオ」より
HS1400Wをベストバイとしてここで述べる前に私は少々触れたいことがある。少なくともベスト・バイというなら多くのファンが良いということを認めて来た実績がなければならないからだ。
冒頭からなぜこのようなことに触れたのか、ベスト・バイという言葉と日立のスピーカーを考えると、あまりにも強烈な印象でHS500が浮び上がってくるからであろう。これは当然のことだと思われる。日立のスピーカーを語る時には、このHS500の存在を忘れるわけにはいかないからである。
HS500の音は、初めて接した2年半前の暑い夏の昼さがりの蝉の声と共にはっきりと思い出す。AR3と並んだ箱からAR3よりも、もっとすなおな、品位の高い低温がずっしりと深く息づくように出たとき、国産スピーカーということを忘れ、スタート台に立ったばかりの、日立という音響メーカーの底力をまざまざと見せつけられた思いであった。
このスピーカー・システムは、たった20cmのウーファーが低音を受け持っているが、それはギャザード・エッジという世界初めての新しい技術と途方もないくらい大きなマグネットからなり立っている点で特筆でき、今日でも、その正攻法的なスピーカー設計意図は製品の高品質とともに高く評価できる。
日立のハイファイに対する姿勢であるローディー、つまり低歪率再生と掲げられた文句はこの時に確立し、その圧倒的な低音の質の良さはこのHS500で確立したといってよい。
その日立が、今度は高能率の重低音再生に向ったのがHS1400Wである。このHS1400Wはハイファイ界の永久の夢でもある重低音再生という点に技術が新しい方向を創造し、道を切り拓かれたといえる。それはまさに技術であり、独創的に溢れた企画商品だ。
非常に簡単な計算をしよう。
40Hzの低音を、1000Hzと同じエネルギーだけ取り出すためには、振動が25分の1ならスピーカー・コーン紙の振動振幅は25倍必要となる。1000Hzで1mm動くとすれば10Hzでは2・5cmも可動振幅範囲を要求される。むろ、こんなに動くスピーカーはない。だから低い音ほど出し難い。
この出し難いエネルギーを取り出すにはどうすべきか、という点を、今までの音響システムから一切はなれた点からスタートして、HS1400Wは生れ出たのであった。この低音メカニズムを一言でいえば重低音共鳴箱である。
共鳴箱である以上、どんなパルスが入っても共鳴箱は共鳴しやすい。また共鳴が始まると、共鳴して止まるまでがおそい。その点が、ハイファイ再生という立場からは根本的にずれている、ということを指摘することは難しくない。
だが実際に重低音を出す楽器は、やはり低音共鳴体に伴っているものだ。ベース、ドラムにしてもそうだし、オルガンやティンパニーならなおさらである。そこで共鳴箱を再生用として使うことはなんら差し支えないということもいい得るのである。
非常にユニークな共鳴箱型スピーカー・システムは、そのプロフィールも今でになく新鮮だ。そして何よりも嬉しいのは、たった3~4万のスピーカー・システムでありながら、20万、30万のスピーカーシステムに少しもひけをとらならい重低音を楽々と再生する点だ。
ユニークな独創的システムにふさわしいユニークなデザインをあしらうことにより、ユニークなオーディオ・ファンのリスニング・ルームにおけるユニークな存在となるだろう。
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