菅野沖彦
ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
特集・「プリメインアンプは何を選ぶか最新35機種の総テスト」より
このアンプの音質の印象を書くのは難しい。どこといって悪いところがないと同時に、常に欲求不満を覚えるなにかがある。というより、なにかがなくて不満なのかもしれない。美しい音だし、解像力や立上りにも不満はない。つまり、試聴の際にはとっかかりとするファクターは全部合格してしまうのに、どうしてもどこかで音楽からはぐれてしまう冷たさ、質感の違和感がつきまとうのである。強いて私流に表現すると、音にエロティシズムがない。音に把まえどころのない、生命感の不足、とでもいおうか。高音域の細身の肉薄のキャラクターは弦楽器で明瞭に現われる。淡彩という感じが、CA1000以来ずっと続いていたが、たしかにMKIIIになって、弱々しいところはなくなった。しかし、音の平板な弾みのないところが、もう一つ物足りない。それ以外は客観的にいってアンプとして完璧に近い。機能、SN比、A級動作とMCヘッドアンプ、万事水準を越える性能だ。
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