トリオ KT-9700

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 外観からは、あまり特長めいたものを感じさせないモデルだが、内容では新しいFMチューナーの技術をフルに盛り込んだFMのトリオらしい快心作である。
 フロントエンドは、RF増幅にリニアリティが優れたDD−MOS型FET、バランスドタイプのミキサーには、2乗特性が優れたDD−MOS型FETを使用し、バリコンはエアーギャップが広い局部発振器内蔵型8連を採用し、アンテナ入力回路がシングル、段間がトリプル、トリプルチューニングとしている。なお、局部発振はバッファーアンプ付である。
 IF段は、帯域3段切替で、ワイドでは6ポールLC集中型フィルター、ノーマルでは、12ポールLC集中型、さらにナローでは、4素子3段のセラミックフィルターを使い、ワイドとノーマルにはバッファーアンプが入る。また、IF段は、10・7MHzの第1IFと水晶発振器による1・93MHzの第2IFをもつダブルコンバート方式で、これは中間周波数の約10倍の周波数特性が要求されるパルスカウント方式の検波段で、パルス変換を容易にすると同時に、相対周波数偏位をあげて検波効率を高め、SN比を上げる目的があるためである。
 パルスカウント方式の検波段は、直線検波が可能なため歪みが少なく、調整箇所がないため、安定度が高い特長がある。直線性の優れている利点は、多少の同調ズレがあっても歪率が悪化せず、シンセサイザーやAFCで周波数をロックする必要がない。
 MPX部は、トリオ独自のDSDC方式で、ビートを抑えるPLLループ応答切替、ノルトン変換した7素子ローパスフィルターを使うキャリアリークフィルターがある。オーディオアンプは、差動直結オペレーショナルアンプで、300%の過変調時でも歪の劣化は少ない。
 機能面では、80dBまでの信号強度が読める直線目盛のシグナルメーター、38kHz検出型マルチパスメーター、デビエーションメーター、2段切替のミューティングレベル、2系統のアンテナを切替使用できるアンテナ切替スイッチなどがある。
 本機は、現時点の高級チューナーとして頂点に位置する音質と性能をもっている。とくに音質は、オーソドックスなもので、最近聴いたチューナーのなかでは抜群である。選局のフィーリングは優れているが、繊細な同調ツマミの動きにダイアル指針が敏感に反応しない点が大変に残念である。

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