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FMステレオチューナーのベストバイを選ぶにあたって

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 FMチューナーは、アンプの付属品というのが一般のファンの考え方のようだが、実はアンプよりも高価になってしまうほどにその内部は非オーディオ的な電子回路に対して金はかかるし、要求すればきりのないほど高級化ができるのもチューナーの電子回路で、その一つの例が二千五百ドルの米国製品だ。つまりこうした贅を尽くさぬまでもアンプの付属品という二義的な考え方でチューナーを捉えるべきではない。しかしオーディオアクセサリーとしてのプラスα的な価値より、まだまだ歪みやオーディオ特性を改善すべき面が注意されるべきだ。

JBL 2440

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 375相当プロ仕様が2440。かつてはコンシュマー用との間に高域の鮮かさとより高エネルギーとで差があったが、今やコンシュマー用も向上し、プロ用との差はすくない。

JBL 2410

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 175相当のプロ仕様ユニットが2410だ。コンシュマー用との違いはユニットの外観が僅か違うだけで内容的にはやや高域が鮮明であるが、大差ないといってよい。

JBL LE85

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 175の強力磁気回路型だが、この凝縮された高音のサウンドエレメントのパワフルぶりを知ると、ジャズファンならLE85を買わざるを得なくなるだろう魅力は充分。

JBL 375

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 現存するあらゆる家庭ハイファイ用ユニット中の最強力型。強力このうえないマグネット回路と4インチ軽ボイスコイルのもたらす立上りのエネルギーは音のマシンガンだ。

JBL 2420

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 175の強力磁気回路型LE85と相当のプロ用ユニット。ひきしまった高音の響き、立上りの鮮かさは175の比ではない。JBLのプロ仕様高音ユニット中のベスト。

JBL LE175

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 175は、JBLのユニット中のぞくことができない優秀品。JBLで2ウェイを自作しようとする場合の最大の好伴侶となり、ビギナーのあらゆる期待に応えてくれる。

アルテック 291-16A

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 JBLの375に相当するアルテック製品。JBLよりややソフトな立上りと豊かな響きが最大の違いで、これもそれをはっきりと感じさせる。JBLよりも安いのも魅力だろう。

フィリップス AD5060/Sq

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 米国の新しいシステムにしばしば選ばれることの多くなったのも、この古くからあるユニットの真価が広く認められてきたせいか。充実した質感と品のよさを併せもつ。

パイオニア PM-12F

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 これをフルレンジとしてまず使い、次なるステップでウーファーを追加し、最後に高音用を加えて3ウェイトして完成、という道を拓いてくれるのが何よりも大きな魅力だ。

KEF B110

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 KEFのすぐれたサウンドの中心を支えるのが、この一見なんでもないコーン型スコーカーだ。エネルギー的パワーさえ求めなければ、この素直で品のよいサウンドは魅力の塊。

JBL 130A

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 D130をベースにした低音用。中低域の充実している点で抜群であり、さらに冴え切ってひきしまった迫力も、という点からいっても例がないほどだ。ただし箱を選ぶこと。

アルテック 416-8A

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 豊麗なサウンドがたとえようもなく魅力で、こうしたプロ志向の大型ウーファーには珍しく、音楽を聴かせる代表的製品だ。組み合わせるべき中高音ユニットは幅広く選べよう。

JBL LE10A

岩崎千明

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 ウーファーとして箱が大きく物をいい、その点25cmの大きさは誰にとっても手頃だ。超低f0なのでブックシェルフ型でよいので、扱いやすく、珍しい本格派のウーファー。

アルテック DIG MKII

岩崎千明

スイングジャーナル 3月号(1975年2月発行)
「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ・システム紹介」より

 アルテックのシステムは、本来、シアター・サウンドとしての名声があまりに大きいため、その家庭用システムの多数の傑作も名品も、どうも業務用にくらべると影がうすい。それは決してキャリアとしても他社に僅かたりともひけをとるどころではないのに。つまり、それだけ業務用音響システムのメーカーとしての「アルテック」の名が偉大なせいだろう。
 だから、アルテックの名を知り、その製品に対して憧れを持つマニアの多くは、アルテックの大型システムを揃えることをもって、アルテック・ファンになることが多い。そうなればなるほど、ますますアルテックは若いファンにとって、雲の上の存在とならざるを得なかった。
「ディグ」の日本市場でのデビューと、その価値は、実はこの点にある。
「ディグ」のデビューによって、初めて日本のアルテック・ファンは、すくなくとも若い層は、自分の手近にアルテックを意識できるようになったといってもいい過ぎでない。
「ディグは」小さいにもかかわらず、安いのにかかわらず、まぎれもなく、アルテックの真髄を、そのままもっとも純粋な形で秘めている。アルテックの良さを凝縮した形で実現化したといった方が、よりはっきりする。
「アルテックの良さ」というのは、一体何なのであろうか。アルテックにあって、他にないもの、それは何か。
 アルテックは、良いにつけ、悪いにつけ、シアター・サウンドのアルテックといわれる。シアター・サウンドというのは何か。映画産業に密着した米国ハイファイ再生のあり方は、どこに特点があるのだろうか。
 もっとも端的にいえば、映画の主体は「会話」なのだ。映画にとって、音楽は欠くことができないし、実況音も、リアル感が大切だ。しかし、より以上に重要なのは、人の声をいかに生々しく、すべての聴衆に伝えるか、という点にかかっている、といえるのではなかろうか。
 だから、アルテックのシステムは、すべて人の声、つまり中声域が他のあらゆるシステムよりも重要視され、大切にされる。それらは絶対的な要求なのだ。だからこそアルテックのシステムが、音楽において、中音域、メロディーライン、ソロ、つまりあらゆる音楽のジャンルにおいて、共通的にもっとも大切な中心的主成分の再生にこの上なく、威力を発揮するのだ。
 音楽を作るのも、聴くのも、また人間であるから……。
「ディグ」の良さは、アルテックの真価を、この価格の中に収めた、という点にある。きわめて高能率なのは、アルテックのすべての劇場内システムと何等変らないし、そのサウンドの暖か味ある素直さ、しかも、ここぞというときの力強さ、迫力はこのクラスのスピーカー・システム中、随一といっても良かろう。
 その上、システムとしての「ディグ」は、マークIIになってますます豪華さと貫禄とを大きくプラスした。
「ディグ」の使いやすさの大きな支えは、高能率にある。平均的ブックシェルフが谷くらべて3dB以上は楽に高い高能率特性は、逆にいえば、アンプの出力は半分でも、同じ迫力を得られることになる。システム全体として考えれば、総価格で50%も低くても、同じサウンドを得られるという点で、良さは2乗的に効いてくる。
 つまり割安な上、質的な良さも要求したい、この頃の若い欲張りファンにとって、「ディグ」こそ、まさしくうってつけのシステムなのだ。
 アンプのグレード・アップを考えるファンにとっても、「ディグ」はスピーカーにもう一度、視線をうながすことを教えてくれよう。パワーをより大きくすることよりも、システムをもうひとそろえ加えて、2重に楽しみながら、世界の一流ブランド「アルテック・オーナー」への望みもかなえてくれる夢。これは「ディグ」だけの魅力だ。

内容外観ともにガッツあるシステム
 キミのシステムに偉大な道を拓く点、グレード・アップにおける「ディグ」の価値は大きいが、ここでは「ディグ」を中心とした組合せを考えてみよう。
 アンプはコスト・パーフォーマンスの点で、今や、ナンバー・ワンといわれるパイオニアの新型SA8800だ。ハイ・パワーとはいわないが、まず家庭用としてこれ以上の必要のないパワーの威力、それをスッキリと素直なサウンドにまとめた傑作が8800だ。
 パネルの豪華さという点でも、8800は文句ない。やや大型の、いや味なく、品の良ささえただようフロント・ルック。ズッシリと重量感あるたたずまい。
「ディグ」とも一脈相通ずる良さがSA8800に感じられるのは誰しも同じではなかろうか。
 チューナーには、これもハイ・コスト・パーフォーマンスのかたまりのようなTX8800。
 もし、キミにゆとりがあればSA8800の代りにひとランク上の、最新型8900もいい。チューナーは同クラスのTX8900でも、8800でも外観は大差ない。
 プレイヤーとしては、同じパイオニアからおなじみ、PL1200もあることだが、今回はビクターの新型JL−B31を使ってみよう。ハウリングに強いのもいい。
 カートリッジもこのプレイヤーにはひとまず優良品と
いえるものがついている。
 デザイン的にも、また使用感も一段と向上したアームは、仲々の出来だ。このアームをより生かすカートリッジとして、スタントンを加えるのも楽しさをぐんと拡大してくれる。600EEあたりは価格・品質は抜群だ。
 出ッとしてマニアライクなオープン・リールの新型、ソニーTC4660を推めようか。

JBL LE175DLH

岩崎千明

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’75」(1974年冬発行)
「オーディオ製品紹介 1975」より

 JBLのオリジナル、もっとも初期からシステムとして構成されたその名も001。2ウェイの高音用として指定されたのが175DLH。ウーファーは130A、4cm径の金属ダイアフラムのユニットと約20cmのホーンはその前面に設けられたパンチングメタルを5枚、すき間をあけて重ねて作られた音響拡散器とによって、開口部における音響反射がおさえられるとともに90度の広角に高音エネルギーを拡散して、家庭用としてこの上なく理想的な高音輻射を実現している。パンチングメタルの間につめられたフェルト状吸音材によりJBLの他の高音用よりやや繊細なサウンドでこれが好みを左右する。

JBL 075

岩崎千明

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’75」(1974年冬発行)
「オーディオ製品紹介 1975」より

 JBLの初期から高名とどろくホーン型高音用が075。リングラジェーターと称しホーンのスロートでごく狭くした上でドーナツ状にして拡散を図ったが、設計の意図と違ってリング状のホーンの開口は、全体として約10cmのホーン開口と同じことになってしまって、せっかく鮮鋭な高エネルギーながら拡散特性はあまり良いとはいえず、高音用としての大きな利点を損なったともいえる。しかし73年になって、プロ用にこの075の拡散特性を大改良した角型開口の2405が発売され、さらにコンシューマー用としても、まったく同じ構造の077なる名器の075改良型がでることになるJBLブランドにふさわしい製品だ。

アルテック 604E

岩崎千明

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’75」(1974年冬発行)
「オーディオ製品紹介 1975」より

 アルテックのスピーカーを代表するモニター用15インチ(38cm)2ウェイ型。当時アルテックにいたミスターJ・B・ランシングが1946年に発売したホーン型高音用を大型ウーファーと同軸上に組み合わせた2ウェイ・スピーカーを、具体化して製品としたのがアルテックの600シリーズで、601の12インチ型と603簡易型及び604の15インチがある。38cmウーファーは強力型515と同じ。そのウーファーを貫通して高音用ユニットのマグネットを貫通して高音用ホーンが設けられており、外観から想像できぬほどのホーン有効長を得た本格的な2ウェイ。力に満ちた迫力と、比類ないステレオ定位、音像の確かさは秀逸。

アルテック 605B

岩崎千明

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’75」(1974年冬発行)
「オーディオ製品紹介 1975」より

 業務用としてスタジオでの監視用モニターにもっとも広く活躍する604Eを基とし、家庭用ハイファイ用にリファインされたのが605B。ウーファーが604Eの515同等に対し416A同等となっている展が最大の相違点で外観上は604Eのやや高域に偏し引締った音に対し、格段に優れてフラットな特性と聴きやすいサウンドを得ており、類まれな高品質の2ウェイとなった。製品としては604と同時期から存在するが604のかげに日本ではその良さを充分に認識されることがなかったのは痛恨事であったが、最近「クレッセンド」が認められつつある。

JBL D130

岩崎千明

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’75」(1974年冬発行)
「オーディオ製品紹介 1975」より

 JBLスピーカーの優秀性を端的に代表するユニットが38cmフルレンジD130。比類ない高エネルギーと能率の高さが、今日ではおろそかにされがちな音響変換器の本来持たねばならぬ素質の良さを、強烈な形で使う者に知らせてくれる。8000Hz上の高域はかなり低減するが帯域内でのバランスの良さ、特に200ないし80Hzのいわゆる中音域の充実感はこれを知ると手放せなくなろう。このユニットが日本のファンに好評な理由は、まずフルレンジとして高音をやや強めた状態で愛用され、あとから高音用ユニットを追加することにより、JBLオリジナルに近い2ウェイ・システムに高められるという利点にある。

アルテック 419-8B

岩崎千明

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’75」(1974年冬発行)
「オーディオ製品紹介 1975」より

 JBLの大型フルレンジの38cmがD130なら、アルテックの38cmは420A、30cmが419得非である。JBLのシングルコーンに対してアルテックは2つのコーンをつないだ形の変形ダブルコーンで、倍フレックスと呼ばれる。バイBiは2つの意味。センターのアルミドームが高域ラジエーターとして有効なのはJBLと似ている。再生音域が充分広いとはいえぬがややソフトな耳当りの良い朗々たるサウンド。はっきりして定位の優れたステレオ感。いかなる用い方にも応じ得る素質のよさに裏付けされたハイファイ全般への広範な酔うとに広く推められるべき極上のコストパフォーマンスの優秀ユニットだ。

ダイヤトーン DS-28B

岩崎千明

スイングジャーナル 12月号(1974年11月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 この秋の新製品の中でも文句なしの出来と認められているのが、このダイヤトーンの新型システムDS28Bだ。
 ダイヤトーンは、言うまでもなく、初心者にとっては名作といわれる16センチ・フルレンジ型ユニットP610のブランドとして良く知られ、オーディオ・ファンとしてそろそろ判ってくると、これまた日本の名作スピーカーDS251という名のブックシェルフ・スピーカーのブランド名として忘れられない名前となっており、さらにマニア度が昂じてくると、今度はNHKで活躍し本格派にとって目標とされるモニター・スピーカー2S305のメーカー名として脳に叩き込まれる。
 つまり、オーディオ・ファンのあらゆる層に対して、ほんの、しかもオーディオという事象が日本で始まった時から、僅かでも絶えることなく、偉大なるウェイトと輝きをもってファンの上に聳え続けてきた。こうした事実は、三菱電機郡山音響部というより、ダイヤトーン・スピーカーの実力の高さを示す以外なにものでもないのだが、メーカーにとってはかえって不幸となるべき要素も胎んでいるのである。3つのピークが永い年月を乗り越えてきたので、あまりにも大きく裾が広く、まさに壮大というほどの輝やかしいものだから、その他の峰はすべて霞んで、いかに光ろうと、目立つことがないからだ。
 かつてDS301という画期的な名作ブックシェルフがあった。決して影の薄い商品ではないし、現在でも、そのマイナー・チェンジ版がDS303として確固たる座にあり、海外誌でしばしばこのうえなく誉め讃えられてきた。にもかかわらず、DS301やDS303は果してDS251ほどの人気を持っているかというと、答えるまでもなく、P610と、251と、305の輝きの下で霞んでしまっているとしか形容できないのである。まだある。DS36Bというフロア型ともいえそうな大型ブックシェルフ・スピーカー・システムが、一部のファンの間で熱愛されているが、これまたDS251の前には商品としてすっかり薄れてしまう。つまり余りに3つの印象は大きく強烈なのである。そうした内側の問題ともいえそうな3つのピークは今秋遂に打破られた。そう言っても言い過ぎではなかろう。それは時間が証明するだろう。
 かくて、DS251以来の、それ以上の出来をささやかれ、認められつつあるこのDS28Bは、今後のダイヤトーンの最も主力たるスピーカー・システムとなるであろうことは、まず間違いない。というのは、今やコンポーネントの一環としての、市販スピーカーは、ひとつの価格水準として、ほぼ4万前後がオーディオ・ファンの最も多くから認められる最大公約数といえるからである。もっとも、そうした最近の状況をよくわきまえた上で企画されたのがDS28Bであり、その成功を獲得するための、あらゆる条件を究めつくした結果と言うこともできる。
 28Bは一見したところ、従来のダイヤトーン・スピーカーとはまったく異って、現代的なセンスに溢れる。まるで海外製品のようだ。更に前面グリルをはずしても、それが言える。
 あるいは全世界の製品中、最も秀れた外観的デザインと云われる米国JBLのブックシェルフと間違えるほどに、フィーリングが相似であるのは今までの三菱というメーか−を知るものにとり、その製品の武骨な外観を見てきたものにとって意外なほどだ。その次に音に触れると、それは感嘆に変わるだろう。なんと鮮明な、なんと壮麗で豪華なサウンドであろう。そこにはブックシェルフ型というイメージはまったくない。もっと10倍も大きなシステムからのみ得られる、深々とした重低域の迫力と、歪を極端に抑えた静けきと、生命力の躍動する生き生きとした力とが、まったく見事に融合して湛えられているのを知るのである。音のバランスは確かにDS251と相通ずるものがあるが、その帯域の広さと音のゆとりとの点で一桁も二桁も高い水準にあり、DS251たりといえども28Bとは比べむべくもないほどだ。音像の確かさと広いステレオ感などとやかく言うこともあるまい。必ずや28Bは251を軽く凌ぐ人気と実績をものにするだろうから。

オンキョー E-212A

岩崎千明

スイングジャーナル 11月号(1974年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

「オンキョーの新製品」といわれるまでは、それを知らないものはてっきり米国製新型システムかと思い込むだろう。また、このオンキョーのE212Aを見知っているのがJBL・L16に接すればオンキョー製と間違えるに違いない。それほどまでよく似た外観だが、どちらが先か、 といわれると指折り数えて月日を改めたくなるほどに同時期の新製品なのだから、お互いに真似たわけではないだろうし、おそらく偶然の一致なのだろう。
 しかし、オンキョーE212Aは、戦後いち早くスタートした同社のスピーカー専門メーカーとしての永いキャリアにおいて、おそらく始めて海外製品を意識して企画され、作られたスピーカー・システムなのではなかろうか。
 この数年、日本のオーデイオ市場における海外製スピーカーの人気はすっかり普及化し定着した。その背景からヒット商品のデビューのあり方も国産品なみで、爆発的な人気と売り上げは、国内のメーカーのライバルとして対象にならないわけがないだろうから、オンキョーのこうした意図は当然かも知れぬ。
 しかし似ているのはサウンドと外観だけであって、決して内容や機構ではない。日本製品の一般的あり方を考えると、これは讃えられるべきといえる。ヒット商品が出れば、あらゆる点においてそれに追随する、という製品が多いのだから。
 E212Aのフロント・グリルの内側には2本の16センチ・コーン型ユニットと1本の逆ドーム型トゥイーターとが収められ、一見、ヨーロッパ製ブックシェルフによくみられる並列に接がれた2ウーファーを思わせるが、実は単純な並列駆動ではなくて、一本は高音ユニットとクロスオーバーさせて、中音以下を受け持ち、もう1本だけが低音域のみに対して動作するという、つまり、エネルギーの不足になりやすい低域においてのみ、2ウーファーとして動作し、中域では2本ではなく1本のみが動作するように配慮されている。これは2つの振動板から放射される音響エネルギーが、完全なるピストン・モーションの範囲にあれば理論的にもスッキリとした音響エネルギーとして受けとれるが、その振動板が分割振動をし始める周波数以上においては、2つの振動板による相互の影響が幅射エネルギーとしての音源のあり方を決して純粋な形にしておくわけがない。初歩的ファンが、単純に受け入れてしまう多数の小型スピーカーを無定見に並べて、並列接続して分割振動の範囲までも動作させるシステムが持つ位相歪に起因する音他の定位のぼける欠点を、このシステムは知っており、2つのユニットに対してすら留意している、ということになるわけだ。
 こうした今までのシステムでは見逃されがちの、弱点に対して細心の注意を注いだ結果が、2つのユニットを用いながら、そのクロスオーバーを変えてトゥイーターに近いひとつは中音域から低域まで、もうひとつの下のユニットは、低音用としているわけで、いうなれば3ユニットの3ウェイ的な変り型2ウェイ、というややこしい動作をしているわけだ。しかもこうした大口径ウーファーによらぬ2ウーファーの大きな特長でもある重苦しさの少しもない軽やかで、迫力ある低音は失われることがないのは無論だ。
 実は、このE212Aの発売直後に、すでに好評を得ていて、オンキョーのブックシェルフ中の傑作といわれているE313Aと並べて試聴する機会があった。E313Aの重量感もありながら、さわやかさを失なうことのない中音から低域にかけての迫力に対して、E212Aはなんと少しもひけをとらなかったのには驚きを感じたのである。価格において50%安く、大きさにしてふたまわりは小さいといえるこのE212Aが、ふかぶかとした低音をスッキリと出してくれた。
 むろん、16センチの中音は、低音でゆすられるのではないかという心配をよそに、力強く、シャープな立上りと明快なサウンド・クォリティーで、いつもオンキョーのシステムに対して感じられる品の良さの伴った充実ぶりで、心おきなく楽しめるし、音域ののびもまた十分。つまり内外含めてライバル多きこのクラスの中にあって実感度の高いシステムと断言できよう。

アドヴェント ADVENT2

岩崎千明

スイングジャーナル 10月号(1974年9月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 白い小さな現代的な姿のシステムが、広いけれど数多いパーツがその空間の多くを占めるSJ試聴室の正面にちょこんと据えられると、ひどくスッキリと目立つ。ただ、左右に2本置かれているだけでたいへんしゃれたたたずまいである。
 白いシステムの、後側に嫌み上げられたたくさんのシステムが、やたらに大きく感じられ、ぶっきらぼうなくらいに実用むきだしの体裁にみえる。
 アドヴェントIIの四隅をほんの少々丸みを持たせた小さな箱がこの上なくまっ白であるのは、それが塗装ではなくプラスチックのためだ。プラスチックの箱というと、これはまたただプラスチックというだけで価値も見映えもおそまつな感じを受けてしまいがちなものだが、このアドヴェントIIにおいては、プラスチックといわなければそう気がつかないほどに品のある仕上げだ。まっ白なので、塗装でないとすれば素材の色だろうし、その素材としては常識的に塩化ビニール・プラスチックにきまっているのに、そう見えないのは、その表面がきめ細かい艶消し仕上げだからだ。もっともそれだけではなく、板との2重張りの箱は工作上も現代工芸的イメージだ。さらにそれを決定的にするのは、この小さな箱に収められた20cmウーファーとドーム型の2ウェイ・システムのサウンドであろう。
 とてもこの大きさが信じられない程の太くゆったりした低音の響き、それとバランスよく釣合って鮮かに輝くような高音のタッチだ。
 この快く豊かなエネルギーが、聴き手をつつむとき、それは姿態通りの現代的なセンスに満ちたシステム。単にスマートなデザインというのではなく、しゃれた雰囲気がぴったりの小型システムなのだ。
 この一見、いかにも現代ヨーロッパ調のイキなシステムは、かくのごとく、サウンドの上でも、西独製の新進ブランドのスピーカー・システムを思わせるにもかかわらず、なんと米国製のスピーカーなのである。
 アドヴェントは、すでにこの4年間米国の新しいブックシェルフ・システムの名として、コンシュマー・レポート誌において絶賛され、BestBuy(最高のお買い物)に選ばれて以来先輩格のARやKLHに並ぶロング・ベストセラーを続けているシステムだ。このアドヴェントはARやKLH同様、米国スピーカーの中にあって、生粋のイースト・コースト派で、いわゆる品がよくて万人向けの優等生的サウンドのシステムだが、その中でもアドヴェントは高音に鮮かさを加えている点と、価格的にもっとも安い点で、いかにも現代的だ。
 アドヴェントには「レギュラー・アドヴェント」と「スモーラー・アドヴェント」のただ2機種のみしかなかったが、この新しいシステムが「アドヴェントII(ジュニア)」として登場してからはまだ間もない。つまり、アドヴェント・システム中の新顔なのだ。
 この数少ない製品から「品種をやたら増やすことのないメーカーの姿勢」が感じられるが、アドヴェントIIは、それなりの理由があって加えられた新製品だ。
 それなりの理由とはなにか。それをこの現代的デザインの白く小さな姿が物語り、コンチネンタル・サウンドを思わすこの響きがそれを示そう。
 アドヴェントIIは、明らかに従来のアドヴェントの、今までの米国製スピーカーから突き抜けた企画で創られた「新しいシステム」なのである。
 このシステムが、西独でもなければ、英国でもないし、北欧でもなくアメリカから生れた、という点に、大きな意義があるというのである。
 アドヴェントはすでに、米国市場において大成功を収めているが、アドヴェントIIのデビューによって、アドヴェントの新たなるファンが大いに増えることは間違いなかろう。アドヴェントが狙うファンは、ヨーロッパ製システムを予定していた、センスフルな若者なのだから。それはちょうど、クルマでいえば、ワーゲンを買おうとしていた若者ともいえるし、ありきたりのアメリカの良識にあき足らない感覚を満たすに違いない。そして、日本市場でもまったく同じ意味でアドヴェントIIは、大いにファンを獲得するに違いない。アメリカと違うのは、このアドヴェントIIによって日本市場で初めてアドヴェントが本格的に腰を据えるだろうという点である。

エレクトロボイス SP8

岩崎千明

ステレオサウンド 32号(1974年9月発行)
「AUDIO MY HANIECRAFT C・Wホーンシステムの制作と試聴記(下)」より

 エレクトロボイスのユニットの中でも、もっとも小さな8インチ口径のフルレンジユニットで、価格もJBL♯2110とほぼ匹敵する。
 同社の数あるユニットの中でも、非常に使い易いということ、いわゆるエネルギー感の強い、音量の充実感がある、という良さが感じられる。このユニットの場合、いわゆるモノーラル時代の基準にしては非常にレンジの広いものだったのだが、今日それを聴いてみると、ハイエンドにおいてそれほどレンジが広いというわけではない。ただハイエンドにおける僅かな強調だと知らされるのだが、それによって非常にバランスが良い印象だ。
 もともとこのユニットは、バスレフ型などのエンクロージュアを使うべきだろうが、現在のブックシェルフシステムと較べると、それはバスレフ型にしろ密閉型にしろかなり大型であるはずである。このユニットのもうひとつの特徴は、エッジにあり、今日におけるフォームラバーを用いたフリーエッジとも違うし、コルゲーション・エッジのひとつだが、それにしてはf0がかなり低くなるべき構造を持っている。それが、このバックロードホーンにより、的確なロードがかかってコーン自体バタつきという心配がなくなったことがあげられる。低音を上げてみても、コーンの動きをみると無理な振動をしていない。つまり、SP8Bの良さは、音量を上げても充分に確認でき得たそうしたことからも高域から低域までレンジも広く、バランスの良さも充分だ。あるいはJBL♯2115よりもかえってSP8美非の方が潤いのある音という感じを受け、一般の音楽ファンにはより多くの良さを認めるのではないだろうか。2115のような、フラットレスポンスというのではなくて、音楽的バランスという点では大変嬉しい。加えてエネルギー感が強く、ユニットの出し得る低音をホーンロードによってさらに強調している。特にJBL♯2110のようにやや中低域に豊かさがあるというわけでなく、しかも2110と同じような、高い音量を期待できる。つまり広い部屋でガンガン鳴らすことができ、その状態でもバランスが非常に良く、低音の力強さとアタックの見事さが得られる。これは、やはりユニット自体の基本条件、たとえば、マグネット中心の駆動系と振動系の関連性、コルゲーション・エッジによって得られたバランスの良い帯域、それぞれがバックロードホーンによって効果を高めているといえよう。
 実は、このSP8B自体の良さをバックロードホーンによって僕自身も大いに見直した訳で、このユニットはこんなに良かったかなと改めて知ったのだった。このユニットの場合、クラシック、特にオーケストラものを聴いても豊かさもあり、しかも音の分解能も適当にあり、バロックを聴けばその繊細感もでる。中音のあざやかさもうるおいもたっぷり感じられる。ロックを聴けば、フェンダーベースの持つ力に満ちた低音の響きなども充分出してくれる。つまり万能な、誰にでも奨められるユニットだ。ただここに得られた音をさらに良くしようということは難しい。というのは、このシステムはSP8Bによって完成されてしまったといえ、トゥイーターを加えたからさらに良くなることはまず考えない方がよい。