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オンキョー Grand Scepter GS-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 GS1はオールホーン型という現在では珍しいスピーカーシステムである。ホーンのよさを再認識させられるもので、従来のホーンのもつ欠点を独自な方法で解析し、それに対処した世界でもユニークなシステムである。ホーン内部での反射が音色をつくり、音質を害するということと、全帯域にわたる音の伝達時間の均一化という考え方を一致させ、素直な音色、正しい音色を主眼に開発されただけあって、きわめてスムースで自然な音が得られている。ホーンドライバーの利点であるトランジェントの良さや、小振幅による歪の少なさなどとも相俟って、このスピーカーの音の品位は高く評価できるものだ。ただ惜しむらくは低能率であること。そこで、最低200W以上のパワーのアンプでないと、このシステムの能力をフルに発揮させることは不可能と思い、現代最高のパワーハンドリングと音質もつマッキントッシュMC2500、オンキョー自身がこのスピーカーを想定して開発したM510、テストで個性的で優れたアンプと評価したアキュフェーズP500を組み合わせてみた。さらに、このスピーカーの質的なよさを対応して、あえてパワー不足は覚悟の上で、きわめて音質の優れたふたつのアンプ、それも管球式のウエスギUTY5とマイケルリン&オースチンTVA1を選んでみたわけである。スピーカーによりアンプは変わる。アンプによりスピーカーは変わる。その最小限度の試みである。

マッキントッシュ MC2500

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 能率の低いGS1を鳴らしきる最高のアンプはこれだ。ヴァイオリンの質感もしなやかで申し分なし。ピアノも輝かしくボディもふっくらしてタッチが生きる。弦楽合奏も、刺激的な音は一切無縁でリアリティのあるものだった。オーケストラのトゥッティはまったく堂々たるもので、いかなるクレッシェンドにも安心してついていける。ブラスの輝きと強さはこのアンプならではの感じが強い。メル・トーメのヴォーカルは暖かく、うるおいがあって最高。

オンキョー Grand Integra M-510

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 GS1を鳴らすために開発されたといってよいM510パワーアンプだけあって、大変よいマッチングだ。しかし、このアンプをJBL4344で聴いた時のファットな感じは、ここでも感じられる。オンキョーの好きな音なのだろう。また、弦、木管の鳴らし分け、フルート、オーボエの音色の識別などがややあまい。高域の弦の質感がややざらついた感触であるが、それだけにタッチは鮮やか。明るく艶麗な響きはP500に一脈通じるものだが、一味違う。

マイケルソン&オースチン TVA-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 GS1はやはりアンプの違いをよく出すスピーカーだ。このアンプのもつ脂ののった、こくのある音にスピーカーが豹変する。やや粗さも出るが、この熱気のある音は、特にクレーメル、アルゲリッチのベートーヴェンの、レコードとしては稀に聴ける精気の一貫した流れをもつ演奏に同質の生命力を表現した。メル・トーメの歌が実にバタ臭く、味が一段と濃厚になる。大オーケストラはさすがに、やや濁りのあるトゥッティだった。もう倍のパワーが必要だ。

ウエスギ UTY-5

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 低能率スピーカーにはパワー不足を覚悟しながら、あえて組み合わせてみた。大音量は無理だが、実用的に十分だ。UTY5を4台使えば問題は解決するし、価格的にもスピーカーとバランスする。この、しなやかでさわやかな弦の音はなんとも美しく、木管と弦の音の響きの対照がリアルで素晴らしい。アルゲリッチのピアノが一つ激しさと脂っこさが不足するが、きわめて透徹だ。GS1の質の高さを浮き彫りにするには最適のアンプといえるだろう。

アキュフェーズ P-500

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(オンキョー GS-1での試聴)
 クレーメルのヴァイオリンが滑らかすぎるくらい滑らかで、彼の音としては甘美にすぎると思われるが、独特の魅力ではある。弦合奏も少々ねばりと艶が誇張されるが、これまた色っぽく魅力である。もう一つ各楽器の質感を明確に鳴らし分けてくれたらと惜しまれる。オーケストラも、もう少し鋭い粒立ちがあったほうがリアリティが出ると思われる。このアンプで鳴らすGS1の音は、他のアンプでは味わえない艶麗なもので好みが分かれるだろうが得難い美音。

マッキントッシュ XRT18

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 XRT18というスピーカーはマッキントッシュ独自のユニークな開発思想と技術をふんだんに盛り込んだステレオフォニック・ペアー・システムであって、その外観上からも理解されるように、他に類例を見ない特徴をもったシ
ステムである。前作XRT20のジュニアモデルとして登場したが、トゥイーターアレイの個々のユニットにまで時間調整が及んだ点など、XRT20を上廻る綿密なコントロールが見られるものだ。真の立体音場を家庭で再現するためのシステムとして、これ以上のものはない。綿密な時間特性の調整の結果、その再生音場の立体感は録音時の位相差をほぼ1100%再現することによ
り、きわめてリアルで豊かなものだ。また時間特性は正確な音色再現にとって決定的要素となるもので、このスピーカーの音の自然さは注目に値する。この他、多くの点で独特な設計思想を反映したシステムであるし、私自身、XRT20を常用していることからして、それと同質のXRT18でアンプの差がどう出るものかという興味で5台の性格の異なるアンプを選択した。つまり、ここではJBLの4344での結果とどう違ってくるかがひとつの目的であり、さらに、このXRT18がアンプによってどう変化して、どんな音が得られるかという興味につながっているのである。いいアンプはスピーカーが変わってもいいと再認識したと同時に、XRT18によって格段とよさを認識したものもある。

カウンターポイント SA-4

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 一度鳴らしてみたかった組合せである。当たった。実に魅力的なコンビネーションである。クレーメルのヴァイオリンはやや美化され過ぎるが、輝きと粘りのある質感で、ボーイングの力感が感じられるようにリアルであった。ピアノの音色の透明感と冴えは見事なものだ。弦合奏のなんとも魅力的な動きの実感と音色の美しさ。ふっくらとした弦の弓の弾力性が感じられるかの如きであった。アンプがスピーカーによって魅力を引き出された感じであった。

クレル KSA-100MKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 MKIIになって一味、あの魅力は失ったとはいえ、クレルのアンプというのはマッキントッシュの対極にあって高い次元の音をもっていると思うので組み合わせてみた。これは意外にJBL4344を鳴らしたときよりも生き生きとしてくる。XRT18のグラマラスな肉体を引き締めて、しかも、スピーカーのきめの細かくしなやかな高域にマッチして思わぬ美音にうっとりさせられた。このスピーカーのほうがアンプを高く評価することになるだろう。

マッキントッシュ MC7270

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 この優れたステレオフォニックスビーカーシステムにとってベストマッチのアンプであることが確認できた。ただ、JBL4344をあれほど魅力的に鳴らしたアンプだが、ここではXRT18の陰に廻って、そこから自然な音をさり気なく鳴らす縁の下の力持ちといった感じになる。しかし他のアンプで一通り鳴らした音を思い起こすと、やはりこの音がもっとも自然で素直で、かつ魅力的だ。音場の見透しといい、各楽音の質感といい、最高のレベルである。

パイオニア Exclusive M5

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 瑞々しいヴァイオリン。毅然として精神性の高いクレーメルのヴァイオリンが生きる。緻密で細やかな音はXRT18の甘口を辛口の方向へ持っていくが、決して細身にしたり神経質に過ぎることはない。ただ、漂うような空間感や、脂ののった濃艶な魅力は希薄になる。メル・トーメは現代的な感覚が生きて実にさわやかで軽やかになる。頭で考えるほどの違和感はなく、難をいえばスピーカーのパワーハンドリングに対してアンプのパワーがやや不足すること。

オンキョー Grand Integra M-510

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(マッキントッシュ XRT18での試聴)
 この組合せはやや期待はずれに終わった。クレーメルの音が太くなり過ぎるし、艶や甘美な情緒が理を過ぎる。それでいて高域にやや粗さも出るようだ。弦楽合奏では、ざらつきとさえ感じるような、このスピーカーでは考えられない質感が出てくるのには驚かされた。擦弦のタッチが強調されるようである。また、大編成オーケストラのppも十分さわやかとはいえないし、fでの金管がひとつ輝きに不足する。このアンプは明らかにJBL4344のほうが活きる。

タンノイ GRF Memory

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 タンノイの上級システムはすべて、同社伝統のデュアルコンセントリックユニットを使用している。つまり、同軸型の2ウェイという構造のスピーカーの採用である。このGRFメモリーも38cm口径のユニットを内蔵したシステムで、代表的モデルといってよいだろう。この同軸型ユニットは、マルチウェイ、マルチユニットとは異なる放射特性をもち、タンノイの固有のサウンドを含めて、独自性をもった存在といえるものであろう。したがって、これを各種のアンプと組み合わせた場合、そのマッチングに違いが生まれることは当然であろうし、また同時に、すべてのタイプのスピーカーに対して優れた対応を示すアンプの存在の確認をする意味も大きいと考えられる。過去、本誌において、私はこのGRFメモリーというシステムについて多くのアンプを組み合わせる実験をおこなってきているので、その経験から、このスピーカーともっとも合いそうなアンプと、合いそうに思えない、あるいは、未知のものとの組合せという考えから5台のアンプを選んだ。ウェスギUTY5、マッキントッシュMC7270、QUAD510は前者にもとずくものであり、クレルKSA50MKII、ジャディスJA80は後者に属するアンプである。もちろん、選んだアンプは、あるレベル以上のものであり、中にはJBL4344で意外に成果の上がらなかったものの敗者復活の意味もあることは、他のスピーカーとの組合せと同じだ。

ジャディス JA80

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(タンノイ GRF Memoryでの試聴)
 暖かくしかも透明で、繊細さも十分、柔軟な響きがタンノイから聴かれた。これは、4344で聴くより、はるかに素晴らしいと感じられるアンプになる。JBLではやや刺激的でざらついた感じが出た高域が、タンノイでは目立ってこない。むしろ適度に擦弦のリアリティを聴かせながら、弦の基音を弾力的なふくよかさをもたせて鳴らすよさが印象的だ。オーケストラのスケールも大きく、金管の鋭い輝きも力がある。艶のあるヴォーカルも暖かく自然である。

マッキントッシュ MC7270

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(タンノイ GRF Memoryでの試聴)
 私の感覚では、もっともタンノイらしい音が、この組合せによって出たと思う。骨格とボディのバランスが中庸で、豊潤さが加わる。UTY5ほどしなやかではなく、510ほど骨格が目立たない鳴り方だ。クレーメルのヴァイオリンが力強く熱っぽい。アルグリッチのピアノが少し丸みが勝ち過ぎるようだが、大きな違和感ではない。弦合奏は優美しなやかな鳴り方より格調の高い毅然とした表情で、これがタンノイらしさだと思われる。スケールの大きな音。

クレル KSA-50MKII

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(タンノイ GRF Memoryでの試聴)
 タンノイの音とは思えない柔らかく、やさしい鳴り方で、これはこれでけっして悪い音ではない。しかし、大方のタンノイ・ファンの期待する音ではないだろうし、またクレルのアンプの特徴が十分活かされたともいえないようだ。つまり、両者のケミカライズは意外な発見には連なるものの、その成果は評価が難しい。しかしKSA50MKIIが、タンノイからかくも優美で女性的な美しさを引き出すことに強く印象づけられた。興味深いアンプである。

ウエスギ UTY-5

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(タンノイ GRF Memoryでの試聴)
 造形確固としたタンノイを柔軟性を加味して、よくこなれた曲線的鳴らし方をしたい場合に最適のものという感じであった。このスピーカーの可能性を幅広く導き出してくれるアンプで、クレーメルのヴァイオリンが適度にしなやかに、繊細さも聴かせてくれた。モーツァルトのコンツェルタンテの弦合奏も十分しなやかで木管の優美透明な響きは絶品だ。まるで何年ものエージングが進んだような鳴り方になる。アンプの淡白さはスピーカーに補われる。

QUAD 510

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(タンノイ GRF Memoryでの試聴)
 タンノイの骨格のしっかりした硬目な音を活かす組合せになったと思う。このスピーカーシステムを柔らかいムードで鳴らすことは非常に難しく、むしろ危険を犯しても小骨っぼさを含めて硬質の気品ある音を狙うほうが成功率が高い。このアンプでの音は明らかにその方向で、クレーメルのヴァイオリンがもっともクレーメルらしく鳴った一例だ。繊細、柔軟ではないが圧倒的な造形感である。ややコンサーバティヴな教養主義的な鳴り方は立派なものだ。

ダイヤトーン DS-10000

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 国産のスピーカーの中で、オンキョーのGS1とまったく異なるコンセプトと構造をもち、第一級のレベルに到達したと思われるダイヤトーンのDS10000である。ドーム型のダイレクトラジェーターによるマルチウェイシス
テムをブックシェルフ型としてまとめたものである。私の評価するこのシステムの音は、いかにも日本のスピーカーらしい淡彩で、きわめて緻密でデリケートな細部の表現が特徴である。一糸乱れぬ演奏といわれるが、このシステムにはそういう整然としたイメージがあり、強烈な説得力をもつ海外スピーカーとは違った控え目な美徳をもっているところが、世界のスピーカー群の中でユニークだ。スピーカーのように、どんなに努力しても、技術的に攻め切ることが難しいものについての製作者の感性の反映は、意識下のところにあるものこそ重要であり恐ろしいものなのだ。DS10000には西欧を意識した姑息さがない。これはGS1にもいえることだ。本物なのである。こういうスピーカーなので組み合わせる5台のアンプもすべて国産製品を選んでみた。ブックシェルフとしては高価なスピーカーシステムだが、その性格と極度にずれる価格のものは現実性の点でも選びたくなかったことにもよる。200万以上のクレルやマーク・レヴィンソンでは、鳴らしてみたくても非現実的であろう。各アンプの音は当然JBLでの試聴とはニュアンスの違ったものもあって興味深い。

アキュフェーズ P-500

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ダイヤトーン DS10000での試聴)
 かなり美化されたクレーメルのヴァイオリンである。本来はもう少し粗さと厳しさのある険しい音であるべきだと思う。大変美しい色彩感が感じられる。しかし、粘ったり、ファットになったりしないので決して嫌味にはならない。モーツァルトのアンサンブルはふっくらとした質感だが、B2301Lとは違う質感だし、透明度が高い。それだけに派手過ぎる傾向もある。メル・トーメの声はハスキーさとウェットさがほどよくバランスして大変好ましかった。

サンスイ B-2301L

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ダイヤトーン DS10000での試聴)
 かなり脂ののった甘口なクレーメルになる。アルグリッチのピアノも艶っぽくなる。音が重量感をもち、どっしりと響く。モーツァルトのコンツェルタンテを聴くと、この傾向が魅力として活きる。ふっくらとしたアンサンブルの厚い響きが実に暖かく美しい。豊潤な女体美に通じる感覚である。それだけに木管の音色の鳴らし分けがやや鈍くなる。メル・トーメの声はハスキーな味がやや殺されウェットでファツトになる。この辺は、かなりアンプの個性が出た音。

マランツ Sm-11

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ダイヤトーン DS10000での試聴)
 クレーメルのヴァイオリンがややねばりのある音になるし、あの厳しさがマイルドになるようだ。アルゲリッチのピアノもおだやかに聴こえ、演奏のムードが小春日和的になる傾向。そして、このスピーカーのもつ明るい透明さにややバタ臭さと脂がのって肉感的になるのがオーケストラを聴くと感じられた。そしてメル・トーメのヴォーカルなどは子音の強調が少なく渋い味わいとなる。なかなか味のある音で、このスピーカーの音の表現の大きさを知らされる。

テクニクス SE-A100

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ダイヤトーン DS10000での試聴)
 これは素晴らしい組合せといえる。弦が大変しっとりして柔軟でしなやかな美しさを聴かせる。JBLで鳴った高域とは同じアンプとは思えない違いである。清々しく端正で、しかも力強い音だ。大編成のオーケストラでは各楽器の特色の響き分けに優れ、金管は鋭く、弦はしなやかに、そしてffでの安定度が高く重厚なバランスをくずさない。このスピーカーシステムのもつよさをもっとも素直に出してくるというような鳴り方に好感が持てた。

パイオニア M-90

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプとスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

(ダイヤトーン DS10000での試聴)
 DS10000の音としては華麗に演出された傾向で、音像のエッジがかなりシャープになる。クレーメルのヴァイオリンの厳しさはよく出すが、ややうるおいに欠ける傾向がある。音場空間の透明度は高く、細かいディテールが実によく出る。弦合奏の質感がメタリックだし、木管の響きも少々金属的になる傾向が気になった。大編成オーケストラの造形は確かで、ffでの安定度も高い。ブラスはまばゆいばり。このスピーカーの明るさと明晰さを強く出すアンプ。

マークレビンソン No.20L

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「CDプレーヤー・ダイレクト接続で聴く最新パワーアンプ48機種の実力テスト」より

 柔軟な質感をよく再現し、木目の細かい粒立ちや、滑らかなニュアンスは魅力的である。ただ、明るく抜けきった屈託のない音とは違って、どこか、生ぬるい感触が個人的には違和感として感じられる。カンタータでのヴォーカルのドゥエットはソフトな質感だが、やや鮮烈さが不足し、瑞々しさとリアリティに不満が残った。耳障りな刺激性は皆無といってよいが、肌合いが私には合わないのだろう。ベースの音色やピアノのリアリティは見事で、アナリティカルに聴くと大変優れているが。

音質:9.2
価格を考慮した魅力度:8.8