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パイオニア S-955III

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶での総奏がふっくらひびくところにこのスピーカーの特徴がありそうである。❸でのコントラバスのひびきが、ひきずることはないが、まろやかで、コントラバスならではのゆたかさが感じられる。❷でのヴァイオリンの音にしても、決してきつくならず、あくまでもやわらかい。❺ではもう少し音場感的なひろがりが示せてもいいとは思うが、さまざまな楽器のひびきのバランスはこのましく示せている。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノの音はいくぶんふくらみすぎの気味がある。❷での声は音像的に多少大きめではあるが、声そのもののなまなましさをよく示す。❸でのギターの音は繊細さという点で不足する。太くくっきりひびきすぎるためである。❹でのストリングスは、ひろがりも充分であり、ストリングス本来のひびきのしなやかさもこのましく示しえている。❺での声も余裕をもって示している。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
このレコードでのきこえ方をとりまとめていうと、力強い音にこのましく対応しながらも、決して表現がごりおしにならないということになる。ただ、ひびきそのものがいくぷん重めなので、❹で求められる疾走感は稀薄である。重層的にかさなる音の感じはよく示している。❺ではもう少しくっきり示されてもいいように思う。ポコポコいう音がどうしてもふくれてしまう。その点が少しものたりない。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの下の音とベースの音とのきこえ方のバランスが大変このましい。❷での提示も自然である。きめこまかい音への対応力がすぐれているために、個々のひびきの特徴をあきらかにできていると考えるべきであろう。❸や❹での高い音も、もう少しきらめいてもいいとは思うが、それぞれのひびきの特徴は提示しえている。このレコードでのきこえ方は、なかなかこのましかったというぺきであろう。

パイオニア S-955III

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 ①と④のレコードでのきこえ方がすぐれていた。ふっくらとした音の示し方にきくべきものがあったためといえよう。
 このスピーカーのよさは、神経質にならずにおっとりときけるところにあるようだ。ただこれでさらに、たとえば②のレコードの❸のギターのような音をもう少しシャープに示せれば、魅力は倍加するのであろうと思わなくもない。
 つまり、シャープな音に対しての反応でいくぶん甘いところがあるということである。ただ③のレコードでの❶の金属的な音の特徴も示せていたので、スピーカーそのものはシャープな音に対しての反応力をそなえていると考えることもできる。
 使うアンプやカートリッジで工夫することによって、シャープな音への反応力をますこともできなくはなさそうである。いずれにしろ神経質なひびきを決してきかせないのはこのましい。

マークレビンソン ML-7L + パイオニア Exclusive M5

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 精緻な音。よく締まったソリッドな音像感、豊かに迫る押し寄せるかの如き力のある音の幕。ディテールの再現も緻密で透徹であった。少々、マーラーには情緒性に乏しい音の世界のように感じられたけれど、立派な音には間違いない。ストラヴィンスキーなどはもっとよいだろうと感じた。ヴォーカルは、透明で淡彩な中に粘りのある不思議な感覚で聴いた。これは男声にも女声にも感じた。これが正確な音色再現かもしれないが……?

クレル PAM-2 + パイオニア Exclusive M5

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 明晰で、広い拡がりをもったステレオフォニックな響き、鮮かな音色の鳴らし分けは見事といってよい。このマーラーの音としては、やや厚味とこくに欠けるものとはいえ、大変魅力的なサウンドであった。フィッシャー=ディスカウの凛とした声の響きは立派。反面、彼独特の口蓋を生かしたふくらみのある響きは、やや不満がある。つまり、響きに硬さ一色に流れるような傾向があるようだ。ジャズではソリッドで明快な素晴らしさだ。

パイオニア C-Z1a + M-Z1a

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新セパレートアンプ44機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★★
 なめらかなひびきをきかせる。あかるく、あたたかいひびきである。いくぶん力強さの提示に不足がちではあるが、③のレコードでのベースの音がふくらみすぎないところにこのアンプのよさを認めるべきであろう。⑤のレコードでもひびきのデリケートさによく対応できている。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★★★
 総じて音像が大きくなりがちではあるが、ひびきにきめこまかさがるので提示がごり押しにならないところがこのましい。④のレコードで歌い手たちがマイクロフォンの近くでうたっていることをなまなましく示す。①のレコードでの弦のひびきなどは艶があって美しい。
JBL・4343Bへの対応度:★★★
 スピーカーに、あるいはソースにしなやかによりそうアンプとみるべきであろう。それぞれのレコードのあちあじをこのましくいかしていた。ただ、パワー不足ゆえであろうか、もう一歩踏みこんでの力感にみちた音を望みたくなる。全体的に音像は心もち大きめであった。

試聴レコード
①「マーラー/交響曲第6番」
レーグナー/ベルリン放送管弦楽団[ドイツ・シャルプラッテンET4017-18]
第1楽章を使用
②「ザ・ダイアローグ」
猪俣猛 (ds)、荒川康男(b)[オーディオラボALJ3359]
「ザ・ダイアローグ・ウィズ・ベース」を使用
③ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
④「キングズ・シンガーズ/フレンチ・コレクション」
キングズ・シンガーズ[ビクターVIC2164]
A面2曲目使用
⑤「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

パイオニア Exclusive C3a + Exclusive M5

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新セパレートアンプ44機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★★
 みがきあげられた音をきかせた。①のレコードでのヴァイオリンの音には充分ななめらかさがあった。⑤のレコードでの三つの楽器の音色面での、さらに音場面での対比も十全であった。①のレコードでのトゥッティでさらに細部が鮮明になればいうことないのであるが。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★★★
 ①のレコードでの遠近感の提示はすぐれていた。腰のすわった音をきかせはしたものの、③のレコードではスケール感にいくぶん不足する。④のレコードの音場は狭めだが、⑤のレコードではひろがりが感じられた。⑤のレコードでのヴァイオリンはしなやかでとびきり美しかった。
JBL・4343Bへの対応度:★★★
 すばらしい。①のレコードでのトランペットの直進するひびきの提示は見事である。その一方で④のレコードでは音が織りなす綾を立体的になまなましく示した。③のレコードでピアノによってたたきだされる和音には充分な重量感があった。それぞれのレコードの音の特徴をこのましく示した。

試聴レコード
①「マーラー/交響曲第6番」
レーグナー/ベルリン放送管弦楽団[ドイツ・シャルプラッテンET4017-18]
第1楽章を使用
②「ザ・ダイアローグ」
猪俣猛 (ds)、荒川康男(b)[オーディオラボALJ3359]
「ザ・ダイアローグ・ウィズ・ベース」を使用
③ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
④「キングズ・シンガーズ/フレンチ・コレクション」
キングズ・シンガーズ[ビクターVIC2164]
A面2曲目使用
⑤「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

パイオニア S-922II

井上卓也

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 S922は、パイオニア独自の新素材であるカーボングラファイトをウーファー振動系に初採用したパッシヴラジェーター方式採用のフロアー型システムであるが、S955IIIと同様な手法により大幅な改良を受けて、S922IIとして新発売されることになった。
 パッシヴラジェーター方式は、ドロンコーンをもつバスレフ型として、1935年に有名な音響学者H・F・オルソンによってパテントがとられた方式である。この方式は、ウーファー振動板と同サイズの振動板を、ボイスコイルと磁気回路を省いてエンクロージュアに取り付けて低域レスポンスを向上させるタイプで、ウーファーのエンクロージュア内側の音圧により振動板が駆動されるためドロンコーン(怠けもののコーン)方式という別名がある。
 ユニット構成は、低域に26cm口径、中域に6・5cm口径のコーン型ユニットを使い、高域に新開発ベリリウムリボン型ユニットを採用した3ウェイに、38cm口径バッシヴラジェーターを加えた方式である。
 コーン材料は、中域、低域、パッシヴラジェーターともにパイオニア独自のカーボングラファイト振動板採用で、低域はS922より20%磁束密度を向上した磁気回路、ガラス繊維強化積層ポリイミド・ボイスコイルボビン新採用で、耐熱性と弾力性を高め、さらに新開発ダイナミックレスポンス・サスペンション採用でリニアリティを向上、高耐入力、過渡特性に優れ、解像度の高さが特長である。中域は低域同様のボイスコイルボビン材採用。高域はリボン材料の変更が主な改良点だ。
 バッシヴラジェーターは、低域ユニット口径より大きい38cm口径採用が特長で、同口径振動板を使うタイプに比べ重低音再生を狙った設計で、オルソンの方式を発展させた、近代スピーカーシステムによく使われるタイプである。ここでの改良は、コーン支持部のワイヤーサスペンション採用である。
 S922IIは、S922に比べシャープで引き締まったソリッドな音が目立つ。低域はパッシヴラジェータ一方式としてはタイトで、ローエンドでパッシヴラジェーターが効果的に働く。中域はクリアーでコントラストがクッキリとつき、高域は華やかでシャープだ。表情は少し硬いため、柔らかく伸びやかなアンプの併用が決め手だろう。

パイオニア S-955III

井上卓也

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 パイオニアのS955は、国内製品中で際立った、ユニークで高性能なユニット構成をもつ高級スピーカーシステムである。1977年に最初のモデルがCS955として発表されて以来、その改良モデルS955を経て、すでに5年間のロングセラーを誇る優れた製品であるが、今回、来るべきデジタル化されたプログラムソースによる高品質プログラムソース時代に対応した新製品S955IIIに発展して新発売されることになった。
 システムとしての基本構成は、36cmウーファーをベースとし、これにユニークな構造のドーム型スコーカーと特徴的なリボン型トゥイーターの3ウェイユニットをバスレフ型エンクロージュアに組み込んだタイプで、CS955以来変化は見られないが、それぞれのシステムが開発された時点での時代の要求するサウンドに対応して、システムとしての音の狙いにかなりの変化が見受けられる。
 ちなみに、パイオニアが目指した各システムの音の狙いを比較してみると、CS955では繊細さとスケール感の融合、S955は、これをベースとしたエネルギー感の強化が新テーマであった。今回のS955IIIでは、最新のプログラムソースに対応したタイトでパワフルなサウンド、と大幅に変更されている。
 基本的にスピーカーシステムは、ユニットの種類や構成、それにエンクロージュアの外形寸法などが同じであってもテーマとする音の狙いにより、最終的なサウンドキャラクターをかなり自由にコントロールできるユーテリティの広さをもっている。したがって、最適ユニットやネットワーク定数やタイプ、エンクロージュア材料とその構造などの選択には、常に音の狙いが重要な条件として行なわれ、その無限ともいえる組合せの結果から、最終的なそのシステムのサウンドが結果として創造されることになる。このシステムアップの技術や一般的には考えられない程度のミクロの次元でのノウハウ量が、各メーカーそれぞれの独自の世界であり、いわゆるメーカーのサウンドキャラクターができる理由で、新製品を眺める場合に大変に興味深いところである。つまり、逆にいうと、システムをチェックしてみれば、実際に試聴をする以前に大体どのような傾向のサウンドを聴かせるかは、ある経験をつめば自動的に類推することができることになる。
 S955IIIの構成ユニットからその変化を眺めると、ウーファーは、現在入手できるサイズとしては第2位にランクされる外径200mmの大型フェライト磁石と厚さ10mmのT型ポールを採用して磁気回路の飽和を利用した低歪磁気回路やコーン材料、形状はCS955以来同じだが、サスペンション関係は、いわゆるダンパーが従来の平織り布ダンパーから新開発の二重綾織り布ダンパー採用のダイナミックレスポンスサスペンションに改良され、低損失、ハイストローク化が図られた。また、ボイスコイルボビン材料は、CS955のプレスパン、S955のクラフト紙からガラス強化ポリイミド樹脂積層板に変り、耐入力、過渡特性を向上させ、分解能の高いダイナミックなベーシックトーン再生が狙われている。
 外側に独自のワイヤーサスペンションを採用した特徴のあるベリリウム振動板採用のドーム型スコーカーは、まず、ダイアフラム材料がCS955でのベリリウムとアルミの二重構造からS955でのベリリウムのみの軽量化を今回も受け継ぐ。ボイスコイルボビン材料は、ウーファー同様の新素材で耐入力を50%以上向上する設計だ。なお、磁気回路の外径156mm大型フェライト磁石は、S955時点で厚みを従来の22mmから25mmに増し、強化されている。
 リボン型トゥイーターは、CS955でのPT−R7相当、S955での磁気回路を強化したPT−R7A相当タイプから、今回は、振動板材料がアルミ系から新しくベリリウムに変更されたPT−R7III相当品が採用され、独特の繊細さに加えて芯のある反応の速い魅力が加わった。
 ネットワークは、想像以上に構成、部品、取付場所などが音質を大きく左右する重要なポイントであるが、意外に注目されない部分でもある。今回、S955IIIでは新しく並列・平衡型が採用されている。このタイプは600Ωラインに代表される伝送系には標準で、特に珍しいタイプではなく、スピーカーシステムへの応用も一部では早くから試みられ、特に音場感的情報量の多さやダイナミックな表現力などの魅力で、アマチュアレベルでは使われていたが、製品として採用されたのは今回が初めてである。
 エンクロージュア関係はバスレフ型のダクト形状の変更が主で、従来の折曲げ型から平らな矩形断面をもつ直線型に変っている。なお、新システムの定格上の特徴は、最大入力と高・中域間クロスオーバーの変更である。
 試聴システムはプリプロかそれ以前の実験室段階の製品で、詳細な試聴リポートは避けたい。基本的な音の狙いであるタイトでパワフルな方向への展開は明確で、従来とは印象を一変した大幅なサウンド傾向の変更が感じられた。潜在的能力は充分にあるシステムだけに、その完成された姿での結果を期待したい注目のシステムである。

パイオニア PL-50LII

パイオニアのアナログプレーヤーPL50LIIの広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

PL50

パイオニア H-Z1

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 超高性能部品を最大限に投入し、独自のMC用スーパーリニアサーキット採用の無帰還ヘッドアンプ。ゲインは2段切替、負荷抵抗切替は4段切替の汎用型。
 帯域バランスはナチュラルだがトランスとは一線を画したレスポンスだ。音色はやや暖色系に思われるが、明るく反応の速いタイプである。このアンプの最大の特徴は繊細さとダイレクトなストレートさを両立させた点で、情報量が多く、トランス独特の力強く分離のよい低域から中域と、爽やかに伸びたディフィニッションの優れた高域が聴かれる。
 カートリッジの対応の幅は広く、それぞれの特徴を素直に出すが専用コードでは全体に美化しすぎるようだ。最適のコードを選べばさらに好結果が期待できる。

パイオニア Exclusive ED-915, Exclusive EL-403

パイオニアのスピーカーユニットExclusive ED915、Exclusive EL403の広告
(スイングジャーナル 1981年9月号掲載)

EL403

パイオニア M-Z1

菅野沖彦

’81世界の最新セパレートアンプ総テスト(ステレオサウンド特別増刊・1981年夏発行)
「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」より

 あらゆる点でユニークなパワーアンプである。独自の回路により、NFBを避けて音の鮮度を図った発想だ。60Wのモノーラルアンプで、そのボディは、プリアンプ、プリプリアンプと共通のタテ長のプロポーションでシステムイメージをもたせている。プリアンプでは不自然さを指摘したそのプロポーションも、パワーアンプでは問題するに当るまい。ガラス越しに見えるピークインジケーター、トランスも面白い。

音質の絶対評価:9

パイオニア C-Z1

菅野沖彦

’81世界の最新セパレートアンプ総テスト(ステレオサウンド特別増刊・1981年夏発行)
「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」より

 Zシリーズとして登場した、ノンNFBアンプのプリアンプ。パワーアンプM−Z1と共通のプロポーションにまとめたシステム・デザインだが、必ずしも、これが使いやすさにつながるともいえないようだ。ガラス越しにブロックダイアグラムが見え、これにダイオードが点灯するというマニア好みの味つけは楽しいし、好ましい。ヘアライン・ブラックフィニッシュが、少々緻密感とデリカシーを損なっているのが惜しい。

音質の絶対評価:8.5

パイオニア Exclusive M4a

菅野沖彦

’81世界の最新セパレートアンプ総テスト(ステレオサウンド特別増刊・1981年夏発行)
「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」より

 M4をリファインしたモデルなので、マーケットにおけるキャリアの長い高級アンプ。A級で50Wのパワーだが、実力は相当なもの。緻密で美しい仕上げは、内外ともに高い次元の感じられる製品である。木枠に入った落着いたムードは、日本間においても違和感がなさそうなもので、いかにも日本の製品らしいキメ細かさをもっている。A級のため発熱が相当なもので、冷却ファンの音が気になるのが惜しい。

音質の絶対評価:8.5

パイオニア Exclusive C3a

菅野沖彦

’81世界の最新セパレートアンプ総テスト(ステレオサウンド特別増刊・1981年夏発行)
「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」より

 今やクラシックといってもよい、オーソドックスな操作レイアウトをもったコントローラーで、その仕上げは緻密である。パーツ類も厳選され、細部まで丹念に作られた高級品らしい風格をもっている。ただ、製品として強い個性的魅力に乏しく、やや凡庸な印象が、このアンプの存在を内容に比して地味なものにしてきたようだ。オリジナル設計の古さは否定できないが、リファインされたa型は現役として立派に存在理由をもつ。

音質の絶対評価:8

パイオニア M-Z1

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 Zシリーズのパワーアンプで、独特の奥行きの深いプロポーションを共通してもっている。ノンNFB思想によって開発されたのが、このZシリーズ共通のコンセプトである。このアンプも、実際上はNFBループをもたないストレートアンプであって、音もきわめて直裁感に満ちていて、屈託のないものである。純Aクラスアンプで、出力は大きくないが、音の力感は充実している。独創性と完成度が、高い次元で一致した優れた製品だ。

パイオニア S-933

菅野沖彦

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 ブックシェルフとしては高級大型システムに属する。32cmウーファー、6.5cmドーム型スコーカー、リボン型トゥイーターの3ウェイ・3ユニット構成をとり、エンクロージュアはバスレフタイプである。朗々とした明るい響き中にも、緻密な音像のエッジが明快に再生される。コーン、ドーム、リボンと各ユニットの構造のちがいを、巧みに調和させ、質感もよく統一されているのが見事である。

パイオニア CT-970

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 基本的な性能をCT770におき、内容を高級機にふさわしく一段と充実させた本格派のカセットデッキである。オリジナリティが豊かで使いやすく優れたデザインは、視覚的にも実用上でも、従来のカセットの範囲を超えたもので、リールが回転し走行状態を示すディスプレイは視覚的にも楽しい。音質はCT770の上級機らしく同じラインではあるが、音の粒子は一段と細かく滑らかになり、分解能の高い中域から高域は類例のない見事さだ。

パイオニア CT-770

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 パイオニアのメタルテープ対応第二世代を代表する、非常に意欲的な開発方針に基づいたカセットデッキだ。デュアルキャプスタン方式走行系に、リボンセンダストヘッド採用の3ヘッド構成AUTO BLEを加えた性能と機能は、この価格帯では他の追従を許さぬ実力を備える。テープとの対応性は幅広く、テープのキャラクターに適度にデッキの音を加えて聴かせるタイプであり、この価格帯のリファレンスデッキである。

パイオニア PC-70MC

パイオニアのカートリッジPC70MCの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

PC70MC

パイオニア Exclusive P3

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーはパイオニアの高級ブランド、エクスクルーシブで出ているプレイヤーの最高級のもので、同社のプレイヤーに対する永年の技術を投入して作り上げたプレイヤーということになっている。確かに相当な力作であって、プレイヤーとしての備えるべき条件をがっちり守って作られたという、非常にオーソドックスなプレイヤーだ。
 まずベースが非常に重く、しかも剛性の高いものであって、全体のムードは非常にソフトなファニチャーライクなものになっているけれども、中身は相当たくましいものだ。トーンアームは軽くオイルダンプを施した、少し実効長の長めのトーンアームで、これもなかなかシンプルで、かつオーソドックスなもの。もちろんモーターはDDだけれども、考え方としては重量と剛性というものを追求していって作り上げたマニュアルプレイヤー。ハイクラスマニアにとっては非常に魅力のある製品だと思う。
音質 実際にこのプレイヤーでまず感じることは、ターンテーブルにレコードを置いて針を下ろした時に出てくるノイズが大変に静かだ。つまりSN比がいいということだ。そして、非常にエネルギーバランスが妥当で、各楽器の質感をよく出してくれる。少し感覚的に音の評価をすると、適度に温かい音、それでいて透明感がある。透明感のある音というのはともすると冷たくなりがちだけれども、それが冷たくならないのだ。もう少し細かくいうと、例えばピアノの音なんかは十分にピアノらしい輝きを持っていながら、決して鉄のハンマーでたたいているといった感じではない。それからベースがよくはずむ。リンリンデックのところでも触れたが、この場合は上へはずむ感じが出てくる。楽器の音色感とエネルギー感が非常に自然だ。その代わり低音は重量級の割にはそれほどたくましく、馬力のある音ではない。もちろん決して弱々しくはない。「ダイアローグ」を聴くと、バスドラムの締まり具合とふくらみ具合のバランスが非常にいい。芯がはっきり締まっていて、しかもその回りにつきまとう楽器のブーミングとステージの床に共振しているそのブーミングが非常によく出ているが、このへんのバランスの大変にいいということが、このプレイヤーの性格を示しているのではないかと思う。ベースの弦による音色の変化、これも非常によく出ている。それから、ブラシワークはちょっと細みで硬質になる。ブラシによるシンバルとか、ハイハットの音、あるいはスネアをブラシすると、やや細みだ。もう少し豊かさが出てもいいな、という感じがしたけれども、問題になるほどではないと思う。むしろ透明感とか繊細さというふうな感じで、リアリティーがあるように聴こえた。いかにも日本のち密な製品という感じがする。
 オーケストラを聴いても、全体に大変響きのバランスがよく、特に低音楽器群の響きはとても好ましいと思った。ここでも締まりとふくらみがほどよいバランス。つまり基音と倍音のバランスが非常にうまく出てくるといっていい。ホール感も大変にプレゼンスがよく、抜けもよくて全体的に濁りの少ない品位の高い音という感じだ。こういうとベタボメになってしまうけれども、中域の豊かさがもう少し充実してくれば、これは文句のつけどころがない。

パイオニア CT-770

パイオニアのカセットデッキCT770の広告
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

CT770

パイオニア Exclusive P3

パイオニアのアナログプレーヤーExclusive P3の広告
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

P3

パイオニア A-780, F-780

パイオニアのプリメインアンプA780、チューナーF780の広告
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

A780

パイオニア S-F1 (S-F1 custom)

井上卓也

ステレオサウンド 58号(1981年3月発行)
特集・「第3回《THE STATE OF THE ART 至上のコンポーネント》賞選定」より

 一昨年の全日本オーディオフェアに出品されて以来、約一年の歳月を経て発売されたS−F1は、現時点で考えられる最新の技術と材料を駆使し、スピーカーシステムのひとつの理想像を現実のものとした、まさに画期的な製品である。
 マルチウェイ方式のスピーカーシステムは、スピーカーとしての原型であり、一つの振動板から可聴周波数帯域全体を再生する、フルレンジユニットの性能の向上する目的から考えられた方式である。この方式は、現在のスピーカーシステムの主流の座を占めているように、その性能・音質は帯域分割の多い、2ウェイ方式より3ウェイ方式になるほど向上し、現実的なシステムとしては4ウェイ方式まで製品化されている。が、反面において、マルチ化が進むほど音源が分散しやすく、指向性の面で左右方向と上下方向の特性を揃えにくく、ステレオフォニックな音場感の再現性や音像定位の明確さをはじめ、聴取位置の変化による音質の違いなどでデメリットを生じることは、日常しばしば経験することである。
 この点では、各ユニットを同軸上に配置した同軸型ユニットが古くから開発され、業務用のモニタースピーカーをはじめ、コンシュマー用としても音像定位のシャープさというメリットが認められている。ユニット構成上は、歴史的に有名な3ウェイ方式のジェンセンG610Bが生産中止となったため、現在ではアルテックやタンノイの2ウェイ構成に留まるにすぎず、使用ユニットも、コーン型ウーファーとホーン型ユニットという異種ユニットの混成使用であるのが、同軸型としては問題点として挙げられる。
 今回のS−F1は、世界最初の同軸4ウェイ構成と、全ユニットを平面振動板採用で統一するという快挙をなし遂げた異例の製品である点に注目したい。
 平面振動板ユニットは、分割振動を制御するために一般的に節駆動を採用するが、このため駆動用ボイスコイルは巨大な寸法を必要とし磁気回路も比例して大きく、しかも同軸型とするためには、非常に複雑な構造が要求されることが最大のポイントである。つまり、磁気回路の占める面積が大きくなるために、振動板背面の空気の流通が妨げられるわけだ。
 現実には、低音と中低音用にストロンチュウムフェライト磁石を使う新開発直線磁気回路を、中高音と高音にはアルニコ7磁石を2個スタック構造に使う複合磁気回路を使用し、難問に見事な回答を与えている。ちなみに、低音用ボイスコイルは32cm角という巨大なものである。
 振動板材料は、ハニカムコアにスキン材を接着したサンドイッチ構造だが、コア部分のみにエポキシ系の接着剤を表面張力を利用して、接合箇所以外に接着剤のデッドマスをなくし、スキン材を直接貼り合せた独自の構造を採用している。このため振動系は超軽量であり、システムとして94dB/Wの高能率を得ている点に注目したい。スキン材は低音、中低音がカーボングラファイト、中高音と高音がベリリウム箔採用である。なお、低音と中低音は角型ボイスコイル、低音ボビンは平面性、耐熱過度が高い集成マイカを使用する。
 エンクロージュアは230ℓのバスレフ型で、重量68kgの高剛性アピトン合板製。仕上げは2種類用意され、ネットワークは各帯域独立配置で基板を使わない端子板配線と各帯域毎に最適の特殊な無酸素銅線を選択使用しているのが目立つ。なお、マルチアンプ端子は、これによる音質劣化を避けるため廃止されている点にも注目したい。
 S−F1は、平面振動板システムにありがちな振動板の固有音の鳴きが見事にコントロールされ、スムーズなレスポンスと立上りが早く、それでいて滑らかで分解能が優れた音をもち、前後方向のパースペクティブを見事に再現する能力をもつ。同軸型本来の特長を最大限に引き出した世界に誇れる製品である。