Category Archives: 筆者 - Page 8

ジェフ・ロゥランドDG Cadence

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

同社のプリ、コヒレンスやシナジー用のフォノイコライザーであり、汎用製品とは言えないかもしれない。デザインもアルミ削りだしの筐体も共通だ。入力はバランスが本来であるが、アンバランス変換アダプターも付属している。その透徹な音はプリアンプと同質の音触で、アナログディスクとは思えない透明感さえある。

オルトフォン SPU-Royal N

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

伝統的なSPUを最新の素材と設計でリファインしたカートリッジ。金と銀の混じった自然金にヒントを得たエレクトラム合金を採用し、これをコイルに使ったもの。柔軟なしなやかさと繊細感を持つSPUである。インテグラル・トーンアームでも使えるSPUで、その顔とも言える例のシェルには取り付けられていない。

オルトフォン MC Jubilee

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

デンマークのオルトフォンが発売した最新設計によるもので、素晴らしいパフォーマンスを持つ。高性能で高品位な傑作である。従来のオルトフォンとは違って音もより現代的で、すっきりしてしなやかだが、決して弱々しいものではない。意欲的な設計と精密な作りは、さすがにオルトフォン・カートリッジの名門の貫禄である。

トーレンス TD320MkIIIB

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

TP90スタティックバランス型トーンアームを付属するカートリッジレスのセミオート・プレーヤーシステムである。ほどほどの価格で、さりげなくアナログディスクを楽しみたい人達に広く薦められる製品である。トーレンスらしいバランス感覚が好ましいし、ブラックアッシュ仕上げも地味だがブラックディスクによく似合う。

ノッティンガム・アナログ・スタジオ The Mentor

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

イギリスで作られるユニークな手作りのアナログプレーヤーである。これはカーボンファイバー製のトーンアーム付システムである。スタート時はターンテーブルを手で回してやらなければならない。負荷がなくても自身では起動不可能な弱いトルクのモーターで、自重25キロのターンテーブルはベルト駆動される。実に静粛である。

マッキントッシュ XRT26

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

XRTシリーズの上級機種。23基のトゥイーターを持つコラムとメイン・エンクロージュア部がセパレートされている。低音を歪なく20Hzまで確実に再生する数少ない既成のシステムだ。全帯域のタイム・コヒレント、無指向性に近い高域の拡散、そしてエネルギー・フラットを実現する再生音は自然感に満ちている。

トーレンス TD520RW + 3012R

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

SMEのトーンアーム3012Rを装備したセミオート・プレーヤーでカートリッジは付いていない。本格派のアナログプレーヤーの標準的な製品といったところである。音はトーレンスらしい適正なダンピングとQのコントロールにより、大人の雰囲気を持ち、柔軟性と高解像感のバランスは中庸を保っている。

B&W Nautilus 801

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

クラシックの録音モニターとして広く使われている同社のMatrix801シリーズの後継機となる最新モデルだが、今回は大幅な変更を受けて801という型番が不自然なほどである。作りも音も充実した力作である。従来の801にあった甘さと繊細さは姿を変え、より精緻な解像力を持ちスケールもいちだんと大きくなった。

カーマ Ceramique 2.0

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

オランダの製品で、この2.0は現在本邦に輸入販売されているCeramiqueシリーズのミドルクラス機である。このシリーズはセラティック・コーンを使っているのが特徴で、音は精緻である。本機は13cmのセラティック・コーンを3ウェイの中域用に使ったものだ。

ソナス・ファベール Guarneri Homage

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

このイタリアのメーカーは、まさに工房と呼ぶに相応しい。特にヴァイオリンの名工の名前が付けられたオマージュ・シリーズは同社を主宰するフランコ・セルブリンの思い入れが作らせた入魂の作品。気の遠くなるような入念な手仕事によるエンクロージュアは芸術品だ。音は明晰かつ豊潤で音楽が生き生きと躍動する。

アヴァロン Arcus

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

アメリカのアヴァロンはティールと並び現代アメリカ・スピーカーメーカーの代表的な存在。この製品は同社の中核を担うミディアムサイズのもので、ノーメックスとケブラーの複合材による22cm口径ウーファーは、この上のエクリプスと同じものだが、トゥイーターはチタン製逆ドーム型。すっきりと明るい高解像度の音だ。

アクースティック・ラボ Stella Opus (Lacquer)

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

ボレロ・シリーズの馴染みの深いスイスのメーカーの最新製品である。同シリーズは今年、全面的にステラ・シリーズに入れ代わったが、これはその上級機種である。従来のボレロ・グランデに相当するものだ。美しいエンクロージュアとチューニングの巧みなバランスの音がさらに洗練され、いっそうの特性向上が感じられる。

BOSE 901WB

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

前面に1基、背面に8基のユニットを持つ、この901シリーズこそ、BOSEスピーカーシステムの基本的コンセプトが体現されたモデルであり、今も創業以来、ユニットの改良を重ねて常にトップモデルとして存在させているのは立派である。このWBは美しい仕上げのシリーズ最高のモデルである。実にユニークで素晴らしい。

タンノイ Turnberry/HE

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

プレスティッジ・シリーズの中では手頃な価格の製品だが、100リッターの内容積を持つ。天然無垢材によるクラシックで上質のエンクロージュアはディストリビューテッドポート型である。25cmデュアル・コンセントリック内蔵の本機はスターリングの系譜である。

ソナス・ファベール Concerto

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

伊ソナス・ファベール社は工芸的とも言える上質のシステムを作るメーカーだが、これはその中では普及型のブックシェルフ機である。とは言え、やはりエンクロージュアはウォールナットの無垢材で皮張りの本体を両サイドから挟み込んだ手の込んだものであり美しい。ぴりっとしたエッジとグラマラスな中低域が魅力だ。

ダリ Evidence 470

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

デンマークのダリの代表機種と言ってよいポジションにあるトールボーイ型の新製品。このメーカーらしいバランスのよさが特徴であるが、これは質も高い。ブックシェルフ並みの床の専有面積ながらトールボーイの利点を生かし、音のスケール感は大きいし、このタイプにあるこもりがちな不明瞭さはなく、解像力もいい。

ダリ Menuet Royal 2

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

’95年発売のデンマークの製品でコンパクト・ブックシェルフ型の傑作と言っていい。メヌエットの上級機で良質のチェリーのつき板張りのエンクロージュアは品位が高いし仕上げも上質である。11cm口径ウーファーはポリプロピレン製で、トゥイーターはソフトドーム型。小型スピーカーの生命であるバランスが絶妙だ。

BOSE 314

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

20cm口径のウーファーをベースにした3ウェイ3ユニット構成のスピーカーシステム。同社の214をスケールアップしたもので、ボーズ独自のステレオ・ターゲッティング・トゥイーターは、指向性可変のダイレクト・リフレクティング方式で臨場感の豊かな再生を聴かせる。

ビクター SX-500DE

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

オブリ型ドームをトゥイーターに採用し、20cm口径ウーファーとの2ウェイでまとめられた中型のブックシェルフシステム。この大きさとしては異例のワイドレンジ感と情緒的な音の魅力を兼ね備えるものだ。500シリーズ初のバスレフ・エンクロージュアのチューニングが成功している。

BOSE AM-5III

菅野沖彦

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

サテライトスピーカー+アクースティマス・ベースボックスというボーズ独自のシステムは常に進化している。これは’98年発売のものでサテライト部が音質的に向上し、より豊かな再生を可能にした。置場所に限界のある6畳以下のスへースで威力を発揮するが、かなり広い部屋でも外見から信じられないほどのスケール感の大きな再生が可能。

BOSE MDW-1

井上卓也

ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より

家具調のデザインの採用でイメージを一新したウエストボロウシリーズ用MDデッキである。誰にでも使いやすくするコンセプトに基づき、機能を制約した開発は、とかく機能の多さを優先しがちなMDデッキのなかでは注目したい。さすがに、完結したシステム対応モデルだけに、明るい活気のある音は心地よく充分に楽しめる。

ソニー TA-E1, TA-N1

井上卓也

ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「TESTREPORT ’99 話題の新製品を聴く」より

 ソニーとフィリップスが共同開発したスーパーオーディオCD(以下SACD)は、DVDオーディオとはことなるフォーマットの、次世代の新しいピュアオーディオのプログラムソースである。現在のCDフォーマットは、PCM方式で44・1kHzのサンプリング周波数と16ビットの量子化でアナログ信号をデジタルデータとして記録・再生を行なう。高域周波数のフォーマット上の再生限界は、20kHzとなっているために、アナログLPフォーマットのほうが、単純に高域レスポンスがすぐれていることになる。したがって、CD再生ということでいえば、再生系のアンプやスピーカーは、従来のアナログLP再生用でも、なんら問題はないといえる。
 ところが、今回のSACDでは、1ビットDSD(ダイレクト・ストリーム・デジタル)方式で、サンプリング周波数は、2・8224MHzと高い手法が採用されている。これは原理的に約1・4MHzまで高域の帯域を伸ばすことが可能。しかしかりに高域の再生限界が100kHzであっても、アンプ、とくにパワーアンプは、30kHz程度以上のフルパワー再生は難しく、その意味では、単純にSACDの登場を喜んではいられないともいえる。
 今回、ソニーがSACDプレーヤー発売にあわせて発表したセパレート型アンプが、プリアンプTA−E1およびステレオパワーアンプTA−N1である。
 TA−E1は、SACDの最大の特徴である高域の再現を最優先させるため、必要最小限の機能に絞り、信号の流れを単純かつ最短にするための内部レイアウトが採用されている。
 メカニズムの基本となるシャーシは、ベース部に10mm厚アルミ板と2mm厚の銅板2枚を積層した構造である。7mm厚のフロントパネルと、10mm厚とフロントパネルよりも厚いリアパネルは、ともにアルミ系の非磁性体を採用している点が特徴といえる。また、トップパネルの2分割構造からもわかるように、信号系と電源系とを、構造的に分離・独立した点も大きな特徴。
 信号系には、アルミ合金製金属基板に耐熱絶縁処理を行ない、銅の回路パターンおよび表面実装した部品をもつメタルコアモジュールを採用。これは熱バランスがよく、振動にも強いという特徴をもつという。
 さらに、高域周波数特性と位相特性にすぐれた新開発リニアフェーズ回路を採用し、音質的にもっとも重要なボリュウムは、コンダクティヴプラスティック抵抗型で、そのハウジングは直径50mmの真鍮削り出し加工製である。
 電源部は、セラミックケース入りのアモルファス電源トランスを採用。整流ダイオードからの入力端子と、増幅部への出力端子とを分離構造とした、3端子型電解コンデンサーの搭載にも注目したい。
 TA−N1は、重量16kgのヒートシンクを左右に配置し、15mm厚のフロントパネル、10mm厚のリアパネルによるフレーム構造が特徴。回路構成は、プリアンプ同様のメタルコアモジュールをプリドライブ段に使用している。また、出力段には、オーディオ専用非磁性金メッキ処理が行なわれた、パワーMOS−FETを各チャンネル5個並列接続で使用。
 電源部は、重量13kgのNF(非焼成)セラミックハウジングに収められた、容量1・5kVAの新トーラストロイダル電源トランスと高速大容量ダイオード、4N高純度のアルミニウム電極箔をもつ電解コンデンサーで構成される。
 試聴は、CDソースと、スピーカーにB&Wのマトリクス801S3を使用した。スッキリと伸びた広帯域型の見事なレスポンスをもったアンプだ。音の粒子は細かく磨かれ、粒立ちがよく、このタイプとしては異例の表現力豊かな楽しい音を聴かせる。
 音場感情報はひじょうに豊かで、SN比の高さが活かされた見事なまとまりである。高剛性筐体採用のため、設置方法で音の変化が激しい点は要注意。

CSE A-3000

菅野沖彦

ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「SPUND SCOPE」より

 オーディオの周辺機器には様々なものがあって、にわかには、どれを信じていいやらと惑わされることが多い。「君子危うきに近寄らず」ではないが、日頃はできるだけ、そうした自分に明確に判断できないものは避けている。とはいえ、何かのチャンスで使ってみて、わずかでも効果があると無視できないのが、この道に狂ったものの人情であろう。音というものは、瞬間、直感、実感しかない抽象の世界だからである。
 じつは最近、珍しいものに出会った。スピーカーの周囲の空気をマイナスイオン化することで音がよくなるという、信じていいのやら悪いのやら……、つまり僕の知識では、その動作原理は理解困難なものなのだが、しかし、文字通り、論より証拠、機会が与えられたので聴いてみることにした次第。
 それが、ここにご紹介するCSEのA3000というトゥイーターシステムである。わが家でも本誌試聴室でも、これをつなぐとたしかに音が澄んで、魅力的になるのを体験してしまった! これを実際に体感した以上、否定するわけにはいかない。
 無論、なにかをすれば音は変る。問題はよく変るか、悪く変るかの判断である。
 トゥイーターは最近輸入されたスイス製の「エルゴ/AMT」というヘッドフォンが採用しているものと同じハイルドライバーを搭載。トゥイーターとしては、メインスピーカーにあえばいいユニットだと思う。僕の家ではJBL/075にパラレルにつないで実験したのだが、再生帯域15kHz〜30kHzをもつこのユニットは、うまくつながった。しかし、それは別にどうということはない。ただたんに、「いいトゥイーターがあらたに一つ見つかった」というだけのことで、マジックはないのである。
 問題は、これが音声信号に同期してその発生量を変化させるマイナスイオン発生器をもっていることだ。かつてない代物である。つまり、ポイントはマイナスイオン化によって音がよくなるという現象の真偽である。そこでトゥイーターの接続をはずして、イオン発生器だけを動作させて音を聴いてみたのだが、これがいいのである! 音が明らかに、独特の柔らかさ、滑らかさ、清々しさに変って聴こえるのだ。
「スピーカー周辺の空気をマイナスイオン化することの効果である!」と、開発者である、クリーン電源システムでおなじみのCSEの真壁社長はいわれるのだが、そんなものであろうか? さらに、「振動板の微小振動を妨げている原因は、振動板周辺の空気の粘性にある。その空気をマイナスイオン化すれば、粘性が低減して微小振動が生かされる」のだそうだが、理論的な証明はまだできないともいわれるのだ。
 したがって、商品としてはトゥイーターシステムとして発売されるのであろうが、しかし、マイナスイオン化による効果を経験すると、音声信号同期式の「マイナスイオン発生器」単体で少しでも安く発売されるほうが有り難いと、私は思うのだが……。

アキュフェーズ P-1000

菅野沖彦

ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「EXCITING COMPONENT 注目の新着コンポーネントを徹底的に掘り下げる」より

 日本における真の意味でのオーディオ専業メーカーといえる存在はいまや数少ないが、アキュフェーズは創業以来、脇目も振らず、高い理想と信念で、オーディオ技術と文化の本道を、独立独歩、誇りを持って毅然と見続けているメーカーである。
「たとえ、それが量産の産業製品であるにしても、良きにつけ悪しきにつけ、製品には人が現われる。その背後に人の存在や、物作りの情熱と哲学の感じられないものは本物とはいえないし、そのブランドの価値もない。物の価値は価格ではなくその情熱と哲学、それを具現化する高い技術である」
 というのが、昔からの私の持論だ。人といっても、それは、必ずしも一人を意味するのではなく、企業ともなれば、複数の人間集団であるのは当然だが、その中心人物、あるいは、その人物によって確立された理念による、明確な指針と信念にもとづくオリジナリティと伝統の継承が存在することを意味することはいうまでもない。
 アキュフェーズというメーカーは「知・情・意」のバランスしたオーディオメーカーであると思う。これはひとえに創業者で同社現会長の春日二郎氏のお人柄そのものといってよいであろう。個人的な話で恐縮だが、春日氏は私が世間に出てオーディオの仕事を始めた昭和30年頃にお会いして以来、もっとも尊敬するオーディオ人である。技術者であり歌人でもあり、もちろん、熱心なオーディオファイルでもある春日氏はすぐれた経営者でもある。長年にわたり、春日無線〜トリオ(現ケンウッド)という企業の発展の中心人物として手腕を発揮されてきたが、初心である専業メーカーの理想を実現すべく、規模の大きくなったトリオを離れられ、創立されたのが現在のアキュフェーズだ。
 すでに周知のことと思えるこれらのことをあらためて書いたのは、ここにご紹介する新製品であるP1000ステレオパワーアンプの素晴らしい出来栄えに接してみて、その背後に、まさにこの企業らしさを強く感じさせるものがあったからだ。
 P1000のベースになったのは’97年発売のモノーラルパワーアンプM2000と’98年発売のA級動作のステレオ・パワーアンプA50Vである。これらのアンプはアキュフェーズの新世代パワーアンプの存在を、従来にもまして高い評価を確立させた力作、傑作であった。
 この世代から、すぐれたパワーアンプが必要とする諸条件の中でアキュフェーズがとくに力を入れたことの一つが、低インピーダンス出力によるスピーカーの定電圧駆動の完全な実現であった。ご存じのようにスピーカーのボイスコイル・インピーダンスは周波数によって大きく変化するし、また、スピーカーは原理的にモーターでありジェネレーターでもあるために、アンプによって磁界の中で動かされたボイスコイルは、同時に電力を発生しそれをアンプに逆流させるという現象を起こす。パワーアンプが安定した動作でスピーカーをドライブして、そのスピーカーを最大限に鳴らし切るためには、これらの影響を受けないようにすることが重要な条件なのである。
 われわれがよく音質評価記事で「スピーカーを手玉にとるように自由にドライブする……」などと表現するが、これを理屈でいえば前記のようなことになるであろう。
 アキュフェーズは、このパワーアンプの出力の徹底した低インピーダンス化こそが理想の実現につながるという考え方をこの製品でも実行している。低インピーダンス化にはNFBが効くが、スピーカーの逆起電力がNFBのループで悪影響をもたらすので、出力段そのものでインピーダンスを下げなければならない。
 またスピーカーのボイスコイル・インピーダンスの変化には、出力にみあう余裕たっぷりの電源回路を設計・搭載しなければならない。現在のスピーカーはインピーダンスが8Ωと表示されていても周波数帯域によっては1Ωまでにも下がるものが珍しくない。これを全帯域で完璧に定電圧駆動するとなると8倍の出力を必要とすることになる。つまり、8Ω負荷で100Wという出力表示をもつアンプでは、負荷インピーダンスが1Ωになった時、800Wの出力段と電源がなければ十全とはいえないということになる。このような出力段と電源の余裕がなければ、プロテクションが働き、音が消えることはなくても、最高の音質を得ることはできないであろうというのがアキュフェーズの考え方である。事実、堂々たるパワーアンプでも、簡単にプロテクション回路が働いてしまう場合もある。自信がもてなければ安全確保が優先するのもやむをえない。いいかえれば、一般的な8Ω100Wと表示されたプリメインアンプなどでは、その1/8の10W少々が実用範囲だといえるかもしれないのだ。それでも4Ω以下とインピーダンスが下がるほど、発熱が辛い。だからプロテクション回路が働くわけである。これがなければ出力素子が破損する。
 これが、P1000でアキュフェーズが訴求する最重要項目で、このためにこのパワーアンプの出力は8Ω125WW+125Wだが1Ω1kW(実測値1250W)が保証される。コレクター損失130W、コレクター電流15Aの素子11個のパラレルプッシュプル出力段構成は、カレントフィードバック回路とともにアキュフェーズのお家芸ともいえる技術を基本としている。
 これらの素子や回路を搭載する筐体、ヒートシンクがフェイスパネルとともにみせるこのアンプの風格は堂々たるものであるだけではなく、繊細感をも兼ね備えていて、そのオリジナリティが、じつに美しい日本的なアイデンティティを感じさせるものだと思う。それは作りの高さ、精緻な質感によるもので、海外製品とは、趣をことにする魅力を感じさせる。そして、その特質はサウンドにも顕著に現われていて、力と繊細さがバランスした独特の美の世界を持っていることを聴き手として嬉しく思う。なにかと同じような……、ということは、けっしてメーカーにとってもユーザーにとっても好ましいものではあるまい。
 ヴェルディのマクベスのプレリュードにおけるオーケストラの深々とした低音に支えられた力強いトゥッティ、サムエル・ラミーのバスの凛とした歌唱、ピアノはやや軽目のタッチに聴こえるが、透明感は素晴らしい。ホールトーンの漂いと抜けるような透明感も豊かであった。
 清々しい響きには濃厚な味わいの表現にはやや欠ける嫌いはあるが、これが日本的な美しさとして生きていて、ツボにはまると海外製品にない、あえかな情緒が心にしみる音触である。

ラックス C-10II

菅野沖彦

ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「EXCITING COMPONENT 注目の新着コンポーネントを徹底的に掘り下げる」より

 ラックスというメーカーは日本のオーディオ専業メーカーとして最古の歴史と伝統を持つことはご存じの通り。同社の社歴は、そのまま、わが国のラジオ、オーディオ産業の発展の歴史を語るものといってもよい貴重な存在だ。多くの経営的な困難を体験しながらも、初心を忘れず、ひたすらアナログ高級アンプを中心に磨き続けてきた不屈の精神には感服せざるを得ない。
 現会長である早川斎氏は先代の築かれたこの仕事を天職として、全生涯をかけ一路邁進し続けてこられた人である。氏はオーディオを高邁な趣味としてとらえ、その製品には徹底的にこだわり抜く社風を築かれてきた。したがって、ラックスの製品には、まさに入魂ともいうべき作り込みの精神が伝統として脈々と流れているのである。
 いまや、マネージメントのトップ自身が真にオーディオ・マインドを身につけておられるという日本のオーディオメーカーは少なくなってしまった。もともと特殊な趣味であるオーディオが、1960年代あたりから大きくスケールアップして産業化し、わが国の高度経済成長にともなって一部上場企業化するところが多くなりはじめて以来、オーディオ専業メーカーの体質は変りはじめたのである。それにともない、レコード・オーディオ文化も爆発的に大衆化し、本誌の読者諸兄にとってのオーディオは、頭に「本格」の2文字をつけなければラジカセやミニコンポなどと、区別ができないような時代になった。
 大衆化自体は結構なことだし、産業の発展も喜ばしいことには違いないのだが、本来のオーディオの核心が希薄になっては、喜んでばかりもいられない。まことに痛し痒しといった感があるが、ラックスやアキュフェーズのような企業にとっては嵐に巻き込まれたような戸惑いがあることも否めない。しかしこの環境下での新製品C10II、またすでに発売されたパワーアンプB10IIをみると、ラックスらしい磨き込みが如実に感じられ、頼もしい限りなのである。
 高級アナログプリアンプC10IIは、従来モデルのC10が、1996年の発売であるから3年日のリファインでありヴァージョンアップである。今回は、とくにあらたなローノイズ・カスタム抵抗器の採用と回路定数の全面的な見直し、外乱ノイズへの対策などにより、さらなるS/Nの向上がはかられたという。プリアンプのサウンドにとって決定的な影響を与える要素はすべてといってよいが、なかでも素子の持つ物性は、その影響が大きい。
 C10で開発された、例の多接点式精密アッテネーター(スーパー・アルティメット・アッテネーター)は58接点の8回路4連式のもので、これに取りつけられる456個の抵抗のすべてが一新されたわけである。このアッテネーターでは信号経路には2個の抵抗が入るだけであるから、その純度はきわめて高い。個人的には音楽のフェイドを段階的に行なうのは、けっして好きではないし、接点間ではわずかながらノイズが発生する。
 しかし、今、あえてこの芸術的ともいってよい、手間暇とコストのかかるアッテネーターにこだわるところが、いかにもラックスらしく貴重である。これらのリファインメントは、たんにS/Nの向上としてかたづけるわけにはいかないもので、その音質のリファインも顕著で、プリアンプのもつ魅力を再認識させられるほど、いい意味での個性を感じさせられた。
 プリアンプに限らず、オーディオ機器はすべてがことなる個性をもっているが、メインプログラムソースがCDの時代になってプレーヤーの出力がラインレベルなるとプリアンプ不要論が台頭してきた。このため、オーディオファイルの多くが、不便を承知で、プレーヤーとパワーアンプ間にはアッテネーターだけを入れて使うことが、いい音への近道だという短絡的、かつ音の知的理解に偏向しているようである。
 また、プリアンプのあり方に対しても「ストレート・ワイアー・ウィズ・ゲイン」という、いかにも説得力のありそうな、非現実的な理想論を現実論にすり替えて掲げている例が多いようである。音は頭で考える前に、先入観抜きの純粋な感性でとらえ、判断しなくてはならないことはいうまでもあるまい。
 各種の入力切替えに、いちいちパワーアンプのスイッチを切って抜き差しするというのでは、まさにストレート・ワイアー症候群である。そのストイックな心理状態もわからなくもないが、とくに現在のようにメディアが多彩になれば、これらの入力を自由に切替え、スムーズに音楽再生をコントロールすることは必要ではないだろうか?
 また、プリアンプによって、しかるべきバッファー効果とインピーダンスマッチングが得られるものでもあり、プリアンプを使うことで音がより良くなるということは、プリアンプのもつ音の個性と嗜好の関係以外にも理由のあることなのである。
 さらに、有効なトーンコントロールやイコライジングというオーディオならではの便利で効果的なコントロール機能も大切だ。これらを使いこなすこともオーディオ趣味の醍醐味であろう。プログラムソースの録音の癖や部屋のピーク、ディップをそのままにしてケーブルだけを変えるより、よほど効果的なのである。
 こういうコントロール機能をもつプリアンプを、私はオーディオシステムのコックピットと呼んで、システムには絶対必要な存在であると考えている。プリアンプ不要論などは、浅薄な電気理論だけで、オーディオを知らない人のいうことだろう。プリアンプの選び方と使い方こそ、その人のレコード音楽の演奏センスであり、オーディオセンスだと私は考えている。
 C10IIは入力が全部で8系統ある。アンバランスは負荷50kΩの6系統、バランスは100kΩの2系統である。出力はアンバランス300Ωとバランス600Ωの2系統が用意されている。トーンコントロールはトレブルのターンオーバーが3kHzと10kHzの切替え、バスのそれも300Hzと100Hzが選べる。
 これを的確に使えば、かなり広い対応ができるはずで、先述のようにケーブル交換以上に、オーディオファイルにとっては有効な音の調整ツールである。
 なにがなんでも電気的にはいっさい余計なものを廃し、スピーカーシステム、あるいはプレーヤーやアンプの設置だけで、音楽的にいい音が得られるとは思えない。それらは基本的に大切なことではあるが、それだけで音を自身の理想に近づけられるほど、オーディオは単純ではない。
 パソコンに例えれば、OSと同時にアプリケーションソフトが機能してはじめて有効に使えるように、オーディオにおいても、CDのような音楽ソフトの重要性はいうまでもないが、オーディオ機器のもつ電子機能への理解と習熟が、いい音を獲得するためには必要であることも知って欲しい。
 オーディオにおいて電子機能を利用することを頭から邪道だとするほうが間違っている。本来、電子機能による録音再生がオーディオであることを考えてみれば明白ではないか。無論、何事もその乱用は慎むべきで、的確にたくみに使いこなすことこそが肝要なのである。
 ところで、このプリアンプの音だが、まず、音触の自然さがあげられる。従来の音より楽音の質感がリアルである。いかにもラックスらしい個性的魅力という点ではオリジナルのC10のほうを好む人もおられるかもしれない。しかし、このレゾリューションの高い音はあきらかに細部のディテールがより精緻である。
 オーケストラを聴くとエネルギーバランスは標準的なピラミッド型よりやや鋭角、つまり中域が締った端正な印象を受ける。B10IIとの組合せはアキュフェーズP1000より低音が豊かになり、高音は繊細な感じの、よりワイドレンジに変化して聴こえたが、パワーアンプとの組合せで多彩に変化するようだ。多くのパワーアンプで試聴したわけではないが、P1000、B10IIの他、アキュフェーズA50V、マッキントッシュMC2600などでの印象である。ドヴォルザークのドゥムキー・トリオの冒頭のメナヘム・プレスラーのピアノやキャスリン・バトルのコロラチューラソプラノでは高域の倍音が豊かで美しく、繊細の極みといいたいような美音であり、鳥肌が立つように感じられたものだ。