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タンノイ Cheviot

菅野沖彦

ステレオ別冊「あなたのステレオ設計 ’77」(1977年夏発行)
「’77優良コンポーネントカタログ」より

 イギリスの伝統的なスピーカー・メーカー、タンノイの新しいシリーズ中の中間機種がこのチェビオットである。使用ユニットは、タンノイの伝統的なコアキシャル・2ウェイの全帯域スピーカー・ユニットで、これはこの一つ下のクラスのデヴォンと共通のHPD315Aという31・5cm口径のもの。エンクロージュアがデヴォンより大きく、チェビオットから上が、台座つきのフロアー・タイプとなる。堂々とした重厚な再生音だ。

タンノイ Arden(組合せ)

瀬川冬樹

世界のステレオ No.2(朝日新聞社・1977年夏発行)
「オーディオ・コンポーネントを創る」より

 最近の新しいオーディオ装置の鳴らすレコードの音にどうしても馴染めない、という方は、たいてい、SP時代あるいは機械蓄音器の時代から、レコードに親しんできた人たちだ。その意味では、このタンノイの〝ARDEN〟というスピーカーと、クォードのアンプの鳴らすレコードの世界は、むろん現代のトランジスター時代の音でありながら、古い時代のあの密度の濃い、上質の蓄音器の鳴らした音色をその底流に内包している。
 〝古き酒を新しき革袋に〟という諺があるが、この組合せはそういうニュアンスを大切にしている。
 ピックアップに、あえて新製品でないオルトフォン(デンマーク)のSPU−GT/Eを選んだのも、そういう意図からである。
 こういう装置で最も真価を発揮するレコードは、室内楽や宗教音楽を中心とした、いわゆるクラシックの奥義のような種類の音楽である。見せかけのきらびやかさや、表面的に人を驚かせる音響効果などを嫌った、しみじみと語りかけるような音楽の世界の表現には、この組合せは最適だ。
 むろんだからといって、音楽をクラシックに限定することはなく、例えばしっとりと唱い込むジャズのバラードやフォークや歌謡曲にでも、この装置の味わいの濃い音質は生かされるだろう。
 しかしARDENというスピーカーは、もしもアンプやピックアップ(カートリッジ)に、もっと現代の先端をゆく製品を組合せると、鮮鋭なダイナミズムをも表現できるだけの能力を併せもった名作だ。カートリッジにオルトフォンの新型MC20、プリアンプにマーク・レヴィンソンLNP2Lを、そしてパワーアンプにスチューダーのA68を、という組合せを、あるところで実験してたいへん好結果が得られたこともつけ加えておこう。

スピーカーシステム:タンノイ Arden ¥220,000×2
コントロールアンプ:QUAD 33 ¥83,000
パワーアンプ:QUAD 405 ¥156,000
チューナー:QUAD FM3 ¥87,500
ターンテーブル:ラックス PD-121 ¥135.000
トーンアーム:フィデリティ・リサーチ FR-64 ¥50,000
カートリッジ:オルトフォン SPU-GT/E ¥43,000
計¥994,500 

タンノイ Berkeley

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 タンノイの新シリーズの5機種の中で、チェビオットを除いてはすべて価格に見合った出来栄えのよさで、いずれも人に奨めて間違いはない。バークレイは、設置スペースや価格の制約でアーデンをためらうような場合に、その良さを受けついでいる中型の優秀な製品として、一聴の価値のある佳作といってよい。

タンノイ Devon

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 イートンより一クラス上のシステムで使用ユニットが、25cmから30cm口径にスケール・アップされる。それだけに、再生音も、一段と豊かさが加わって、外観以上の大きなスケール感の再生音が得られる。クラシック、ジャズ、もちろんポピュラーにも、立派な再生を果す。ただし、決して気楽な音ではない。立派だ。

タンノイ Arden

井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 従来のレクタンギュラー・ヨークの後継機種に相当する、英タンノイ社製のトップモデルである。使用ユニットがHPDタイプになり、とくに低域レスポンスの改善がおこなわれているため、いわゆるタンノイファンに好まれたサウンドと変化が感じられるが、より近代的な方向に発展しているのは明らかである。コンシューマー用としては量感タップリの低域は、実用レベルでは利点であり、制動を効かせるアンプ選びがポイントだ。

タンノイ Eaton

井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 使用ユニットHPD295Aは、30cm口径のHPD315Aと同じ磁気回路を備えた、シリーズ中最も注目すべき製品。エンクロージュアが小型で、同軸ユニット採用であるだけに、音像の定位は抜群であり、比較的に近い距離で聴くステレオフォニックなプレゼンスは、他のシステムにはない魅力である。

タンノイ Devon

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 外形はEatonよりほんのひとまわり大きいだけだが、ユニットが12インチ型になっているせいか、音のスケールが大きくなり、低音の量感も増し、そのためかEatonよりも高域を素直に延ばしているので総体のバランスははるかによく、モニター的な聴き方・使い方にも十分に耐えるクォリティを持っている。

タンノイ Eaton

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 タンノイのシリーズ中、最も小型な、低価格製品ながら、音は、まぎれもないタンノイである。重厚で品のいい、落ち着いた雰囲気を漂わせる。25cm口径の同軸型コアキシャル・ユニットを使ったシステムで、バランスがよく、明瞭度の高いスピーカーだから、モニターとしても優れたもの。中身の濃いお買徳品だ。

タンノイ Eaton

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 言うまでもなく旧IIILZの新版だが、音はかなり大幅に変わった。IIILZが中〜高域にウェイトを置いて、反面重低音が出にくかったのに対して、Eatonでは高域をやや抑えて低音は位相反転の助けをかりて量感を出しているので、聴感上のバランスが良くなっている。新シリーズの中では、やや甘口にできている。

タンノイ Arden

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 イギリス製品の殆どがいまやドームタイプを採用している中で、ホーン型の鳴らす中〜高域域の確かな手ごたえは、手をかけた料理あるいは本ものの良酒を味わったような充実感で聴き手を満足させる。同じようなホーンでありながら、アメリカ製のそれよりも弦の音に金属質の混じる弱点の少ないところがふしぎだ。エンクロージュアがこの大きさになると、オーケストラやグランドピアノのスケール感にも悠揚たる味わいが出てくる。

タンノイ Berkeley

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 タンノイ・シリーズの旗艦はアーデン。それに続くのが、このバークレイである。この両者は、使用ユニットは共通で、38cm口径の同軸型コアキシャル・ユニットというタンノイのお家芸の代表的製品である。エンクロージュアがバークレイでは、よりコンパクトとなり、質はアーデンに劣らない。

タンノイ Arden

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 タンノイが、新しい経営体制に入って発表したシリーズの最上級モデルが、このアーデンである。38cmウーファーの同軸型コアキシャル・ユニットは、タンノイの歴史的、伝統的傑作ユニットをリファインしたもので、スピーカーのサラブレッドと呼ぶにふさわしい。往年のタンノイのようなクラシックな雰囲気は消えたが、これはこれで高く評価できる。癖はずっと少なく、おだやかでありながらタンノイの風格がある。

タンノイ Arden, Eaton

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ARDENを、レクタンギュラー・ヨークとくらべてタンノイの堕落と見る人があるが、私はその説をとらない。エンクロージュアの木質や仕上げが劣るというのなら、初期のオートグラフからIIILZに至る一連の製品のあの艶のある飴色のニスの光沢──その色と艶は使い込むにつれて深みを増したあの仕上げ──にくらべれば、チークをオイル仕上げして日本で広く普及しはじめてからのレクタンギュラー・ヨークの時代から、堕落はすでに始まっていた。そういう見方をするなら、JBLも〝ハーツフィールド〟以前の高級機では、木部のフィニッシュに四通りないし五通りの種類と、それに合わせてグリルクロスが指定できた。いまはそういう時代ではない。残念なことには違いないが、しかしそれはスピーカーに限った話ではなく、もっと大局的にものを眺めなくては本質を見あやまる。
 すでにヨークの後期から、タンノイはユニットの改良に手をつけている。最大の変化はウーファーのコーン背面の補強リブの新設。それにともなって全体が少しずつ改良され、呼び方も〝デュアル・コンセントリック・モニター〟から、単にHPD385A……というように変ってきている。が、そこに流れる音の本質──あくまでも品位を失わない、繊密でしっとりした味わい──には、むしろいっそうの磨きがかけられ、現代のワイドレインジ・スピーカーの中に混っても少しも聴き劣りしないどころか、ブックシェルフのお手軽スピーカーから聴くことのできない音の密度の高い、味わいの濃い、求心的な音楽の表現で我々に改めてタンノイの良さを再認識させる。
 新シリーズはニックネームの頭文字をAからEまで揃えたことに現れるように、明確なひとつの個性で統一されて、旧作のような出来不出来が少ない。そのことは結局、このシリーズを企画しプロデュースした人間の耳と腕の確かさを思わせる。媚のないすっきりした、しかし手応えのある味わいは、本ものの辛口の酒の口あたりに似ている。

タンノイ Cornetta(ステレオサウンド版)

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「マイ・ハンディクラフト タンノイ10″ユニット用コーナー・エンクロージュアをつくる」より

 完成したコーネッタのエンクロージュアには、295HPDとIIILZ MKIIの新旧2種のユニットを用意して試聴再確認をおこなうことにする。この場合、295HPDは、このユニットのデータを基準としてエンクロージュアが設計してあるため問題は少ないが、IIILZ MKIIについては、まったく振動系が異なるため、あくまでテストケースとして使用可能かがポイントになる。なお、IIILZ MKIIでは、低域に何らかのコントロールをする必要があるが、バスレフのポートの全面もしくは一部に吸音材を入れる方法か、板をポートの幅か高さに合わせてカットし、その量を調整する方法が考えられるが、今回は、ポート断面の半分に吸音材を入れた状態が、かなり好結果をしめした。
 295HPDをプロトタイプに入れると壁面を離れたフリースタンディンクの状態でも、低域から中低域にかけて量感が増し、中域が薄く聴える、いわゆるカブリをおこし、ネットワーク補正後でも、コーナー位置ではかなり低い周波数にウェイトをおいたバランスで、音としてはグレイドが高いものであったが、いわゆるタンノイの音のイメージとは、かなり異なった音である。
 最終モデルのコーネッタは、コーナー位置でオートグラフを想い出すバランスと音色を狙っただけに、低域が柔らかく量感があり、中域はわずかに薄く、高域が輝く、タンノイ的バランスの音である。しかし、ユニット自体がワイドレンジ型であるため、トータルの音は、柔らかく、キメが細かいソフトなものとなり、いわゆるタンノイの硬質な魅力とは、やや異なった現代型の音色である。この音はスケール感が大きく、コーナー型特有のピンポイント的なクリアーな音像定位と、充分に引きがある空間のパースペクティブを聴かせる特長があり、あきらかに、ブックシェルフ型エンクロージュア入りの295HPDとは、大きく次元が異なった別世界の音である。
 IIILZ MKIIにすると低域の伸びは抑えられるが低域はソリッドに引き締まり、中域が充実した密度が高く凝縮した音になり、タンノイ独得の高域が鮮やかに色どりをそえるバランスとなる。この音は、すでに存在しない旧き良きタンノイのみがもつ燻銀の渋さと、高貴な洗練さを感じさせる、しっとりとした輝きをもったものだ。まさしく、甦ったオートグラフの面影であり次から次へとレコードを聴き漁りたい誘惑にかられる、あの音である。
 カートリッジは、エレクトロ・アクースティックのSTS455Eや、オルトフォンのVMS20E、M15Eスーパーが柔らかく透明になるソフトでデリケートな音であり、オルトフォンのSPUシリーズが音のくまどりが鮮やかで密度が濃く格調の高い音となるが、とりわけSPU−Aが抜群の音である。アンプは、295HPDには50Wクラス以上のハイクォリティなソリッドステートタイプが現代的な伸ぴやかで粒立ちが細かい音で相応しく、IIILZ MKIIには、ソリッドステートタイプでも充分であるが、パワーアンプには、少なくとも30Wクラス以上の管球タイプを使うと磨きこまれたまろやかな、柔らかく拡がる音場空間をもった立派な音となって、素晴らしい音を聴かせる。

タンノイ HPD385

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 タンノイという名称が意味するのは、今やスピーカーの中でも、もっとも英国的、ジョンブル的な色合いを強く残した響きを感じさせる。事実、タンノイは昨年、米国企業に合併された今日といえども、もっとも英国的なスピーカーを作るメーカーとして日本の高級ファンに受け止められている。戦前は英国の車載用音響機器のメーカーとして知られたキャリアーをもつが、戦後はもっばら高級ハイファイ・スピーカー・メーカーであるとされてきた。
 その作るユニットはたった3種、10インチ、12インチ、15インチのそれぞれの口径のコアキシアル2ウェイ・ユニットで、特長とするところは中央軸にホーン型高音用ユニットを備えており、低音のマグネットを貫通したホーンが、そのまま低音コーンのカーブを利用して大きな開口となっていて、1500Hzという比較的低いクロスオーバーをそなえた2ウェイ・ユニットなのだ。これは、アルテックの604を範にして作られたものだが、細部は独創的で音響的にも英国製品としての生すいの血筋を感じさせる。中音のやや高めの音域の充実感は、いかにもクラシック音楽の中核たる弦楽器をこの上なく、よく再生する。
 タンノイのこうした魅力は、かなり米国的になった現在のニュータンノイといわれるもの以前の製品に色濃く感じられるので、できることなら、その旧タイプのユニットが望ましい。ワーフデルとかグッドマンとかの、かつての英国サウンドが今やみる影もなく、ちょう落してしまった今日、僅かにタンノイにおいてのみ、その栄光が残されているうちに、マニアならば入手しておきたいという心情は、単なる良い音へのアプローチという以上のノスタルジックなものも強くこめられている。それは今日の隆盛をきわめるハイファイの引金となったに違いない英国のオーディオ技術、サウンド感覚の没落を悲しむ、ひとつのはなむけでもあるし、日本武士のたしなみでもあろう。じゃじゃ馬ともいわれるその使い馴らしの難しさも、今や大きな魅力となろう。

タンノイ Cornetta(ステレオサウンド版)

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「マイ・ハンディクラフト タンノイ10″ユニット用コーナー・エンクロージュアをつくる」より

 試聴は例により、ステレオサウンド試聴室でおこなうことにする。用意したスピーカーシステムは、今回の企画で製作した〝幻のコーネッタ〟、つまり、フロントホーン付コーナー・バスレフ型システムとコーナー・バスレフ型システム2機種で、それぞれ295HPDユニットが取り付けてある。また、これらのシステムとの比較用には、英タンノイのIIILZイン・キャビネットが2モデル用意された。一方はIIILZ MKII入りのシステムで、もう一方は英国では “CHEVENING” と呼ばれる295HPD入りのシステムである。
 試聴をはじめて最初に感じたことは、2種類の英タンノイのブックシェルフ型が、対照的な性質であることだ。
 まず、両者にはかなり出力音圧レベルの差がある。それぞれのユニットの実測データでも、295HPDが出力音圧レベル90dB、IIILZ MKII93dBと3dBの差があり、聴感上でかなりの差として出るのも当然であろう。それにしても、295HPDの出力音圧レベルは、平均的なブックシェルフ型システムと同じというのは、HPDになりユニットが大幅に改良されていることを物語るものだろう。
 第二には、IIILZが聴感上で低域が量的に不足し、バランスが高域側にスライドしているのと比較し、295HPDでは低域の上側あたりがやや盛り上がったような量感を感じさせ、高域にある種の輝きがあるため、いわゆるドンシャリ的な傾向を示す。しかし、質的にはIIILZ MKIIのほうが、いわゆるタンノイの魅力をもっているのはしかたがない。量的には少ないが、質的にはよく磨かれている。一方295HPDでは逆に、とくに低域が豊かになっているが、ややソフトフォーカス気味で、中域から中高域の滑らかさが、IIILZ MKIIにくらべ不足気味に聴こえる。
 次に、295HPDの入ったオリジナルシステムと、今回製作した2機種とでは、当然のことながらブックシェルフ型とフロアー型の間にある壁がいかに大きいかを物語るかのように、少なくとも比較の対象とはなりえない。同じユニットを使いながら、この差は車でいえば、ミニカーと2000c.c.クラス車との間にある、感覚的な差と比較できるものだ。まだく両者のスケール感は異なり、やはりフロアー型の魅力は、この、ゆったりとした、スケール感たっぷりの響きであろう。
 2種類のコーナー型システムは、フロアー型ならではの伸びやかな鳴り方をするが、予想以上に両者の間には差がある。
 フロントホーン付コーナー型は、低域がよく伸び、中低域あたりまでの量感が実に豊かであり、とても25cm型ユニットがこのシステムに入っているとは思われないほどである。また、高域はよく伸びて聴こえるが、中域の密度がやや不足し、中高域での爽やかさも少し物足りない。ただ、ステレオフォニックな音場感は、突然に部屋が広くなったように拡がり、特に前後方向のパースペクティブの再現では見事なものがある。音質はやや奥まって聴えるが、くつろいでスケール感のある音楽を楽しむには好適であろう。聴感上バランスではやや問題があるが、ステレオフォニックな拡がりの再現に優れている。
 一方、コーナー型では全体に線が細い音で、中域の厚みに欠けるために、ホーン付にくらべかなりエネルギーが不足して感じられる。いわゆるドンシャリ傾向が強い音であり、ステレオフォニックな拡がりも、とくに前後方向のパースペクティブな再現が不足し、音像は割合に、いわゆる横一列に並ぶタイプである。
 スピーカーシステムの構造としては、フロントホーンの有無だけの差であるが、フロントホーンの効果は、ステレオフォニックな空間の再現で両者の間に大幅な差をつけている。オーバーな表現をすれば、一度フロントホーン付のシステムを聴いてしまうと、ホーンのないシステムは聴く気にならなくなるといってよい。つまり、豊かさと貧しさの差なのだ。
 概略の試聴を終って、次には幻のコーネッタに的をしぼって聴き込むことにする。このシステムの低域側に片寄ったバランスを直すためには、高域のレベルを上げることがもっとも容易な方法であるが、実際にはもっともらしくバランスするが、必要な帯域では効果的ではなく、不要な部分が上がってしまうのだ。いろいろ手を加えてみても解決策は見出せない。次には仕方なく、ネットワークに手を加えることにする。
 狙いは、高域側の下を上昇させ、低域側の下を下降させことにある。合度&と来で決定した値にしたところ、トータルバランスは相当に変化し、鈍い表情が引き締まり、システムとしてのグレイドはかなり高くなる。しかし好みにもよろうが、ローエンドはやや締めたい感じである。方法は、バスレフポートをダンプするわけだが、これはかなり効果的で、ほぼ期待したような結果が得られた。補整をしたシステムは、ますますホーンなしのシステムとの格差が開き、ほぼ当初に目標とした音になったと思う。ここまでの試聴は、レベル、ロールオフとも0位置に合わせたままで、特別の調整はしていないことをつけくわえておきたい。
 このシステムに使用するアンプは、中域の密度が高く、中低域から低域にわたりソリッドで、クォリティが高いタイプが要求される。少なくとも、ソフトで耳ざわりのよいタイプは不適である。逆に、ストレートで元気のよいものも好ましくない。プリメインアンプでいえば、少なくとも80W+80Wクラスの高級機が必要であろう。

タンノイ Arden, Berkeley, Cheviot, Devon, Eaton

タンノイのスピーカーシステムArden、Berkeley、Cheviot、Devon、Eatonの広告(輸入元:ティアック)
(オーディオアクセサリー 1号掲載)

Tannoy

タンノイ New Rectangular York

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 旧ヨークより高域のレインジも広がりクセも少なくなっているにもかかわらず、たとえばスペンドールのような音のクセをできるだけ取り除いてフラットで色づけの少ない自然な音を目指したスピーカーを聴いたあとでは、しばらくのあいだ聴けないくらい、中域の張り出した(最近のイギリス製品には少ない)、ホーン特有の色のついた個性の強い音なのだが、しかしそういう尺度を当てはめて退けるにはあまりにも見事に磨かれた、格調の高い、緻密でスケールの大きい、味の濃い音質である。総体にランカスターより重量感のある、悠揚せまらざるという感じの音を聴かせ、左右に4m近くもひろげて、目の前いっぱいに並んだ小沢の「第九」を聴くうちに、いつのまにかテストを忘れて聴き惚れてしまった次第。エンクロージュアの工作やグリルクロスの品位が以前より落ちているのは残念だが、ヨーク健在なりの意を強めた。こうした性格の良い面を生かすには、少し旧い音だがオルトフォンSPUやラックス38FDIIといった組合せが好ましいと思う。

採点:94点

タンノイ New 12″ Lancaster

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 タンノイに限ったことではないが。、中~高域に英国系の振動板を持ったスピーカーは、数ヵ月鳴らしこまないと、どこかトゲの生えたような鋭さの取れない音を鳴らす。この製品もそうだったので、トランジスターアンプをやめて、ラックスのSQ38FDIIとオルトフォンのSPU-GT/Eを組み合わせてみたら、弦や声の金属的な響きが一応抑えられた。にもかかわらず本質的な性格として、中音域がやや薄手であると同時に高音の倍音領域の高い方に細い刺が残っていることが、特徴というよりはやや弱点として、少し音にクセをつけすぎるように思える。あるいはそれが特徴のある個性というところまで仕上っていないといった方が正しいかもしれない。以前の12インチにもこの傾向はあったが、基本的には同じ線のようだ。エンクロージュアのサイズがもうひとまわり大きくないと、たとえばピアノでも、もうひと息スケール感が出にくい。低音の一部で少々ふくらみすぎる音を置き方などでうまくおさえないと気になりそうだ。

採点:82点

タンノイ 15″ Lancaster

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 旧ランカスターよりも低音の音形が自然になり、中~高域の音質も、ユニット自体の違いもあり特有の光沢感は抑えられたものの、繊細でよく延びた美しい響きを受けついでいる。

タンノイ New IIILZ

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 旧IIILZにくらべて低音のレインジがはるかに広く、パワーを加えたとき中~高域がやかましくなる傾向も改善された旧型の硬質のツヤにくらべるとやや太く重い面もあるが。

タンノイ HPD385

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 HPDタイプになり低域の改善がはかられて、物理的性能は向上している。それでもエンクロージュアとの組合せは容易なユニットではないが、苦労するだけの魅力がある。

タンノイ HPD295

井上卓也

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 低域コーンに補強が加えられて、全体の音の印象が一段と引締まってきた。3種のタンノイユニット中では、自作派には、もっとも興味深い機種である。

タンノイ New Rectangular York

瀬川冬樹

ステレオサウンド 35号(1975年6月発行)
特集・「’75ベストバイ・コンポーネント」より

 うまくこなさないと低音のダブつきが気になりがちだった旧レクタンギュラーより、ずっと改善されている。音の品位や光沢感は旧型に良さを感じるが、総合的にはこの方が上。

タンノイ Autograph

菅野沖彦

ステレオサウンド 31号(1974年6月発行)
特集・「オーディオ機器の魅力をさぐる」より

 ガイ・R・ファウンテンのシグナチュアーで保証される英国タンノイの最高級システム。大型コーナーのフロント・バックロード・ホーンに同社が長年手塩にかけて磨き込んだ傑作ユニット、〝モニター15〟を収めたもの。音質は、まさに高雅と呼ぶにふさわしく、華麗さと渋さが絶妙のバランスをもって響く。ただし、このシステム、部屋と使い方によっては、悪癖まるだしで惨憺たるものにも変わり果てる。