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マッキントッシュ XRT22S, XRT18S

菅野沖彦

オーディオ世界の一流品(ステレオサウンド創刊100号記念別冊・1991年秋発行)
「世界の一流品 スピーカーシステム篇」より

 マッキントッシュはアンプの専門メーカーであるため、スピーカーシステムはまだ十分認識されていないように感じられる。このXRTシリーズではXRT20を第一世代として登場したもので、現役製品は22Sがトップモデルで、18Sがそのジュニアモデルである。しかし、18には22と違って、ウーファー、スコーカー、トゥイーターが縦一列に並ぶというメリットもあって単なる普及モデルとして把えられない魅力も存在する。ともあれこのXRTシリーズは、同社が2チャンネルステレオの完全な立体感の再生を目指して実に20年以上の開発期間の末に製品化したもので、そこには数々のユニークで新しい発想による技術が盛り込まれている。歪みの少ない、位相特性の素直なタイムアラインメントの施されたこのシステムの音場感の豊かさと、素直な質感のよさは特筆に値するものだ。アンプメーカーらしい技術の追求によって生まれた理論追求型の製品だが、数あるスピーカー中でアコースティックな魅力を最大限に聴かせるものだといえるだろう。しかも、MQ107というイコライザーのコントロールで、部屋の特性への対応はもちろん、ユーザーの好みへの対応の可能性ももっているのが特徴である。入念に調整されたXRTスピーカーの音はすべての人を説得する普遍性をもっているものだと思うし、手がけると実に奥が深い。
 XRT22Sは3ウェイ26ユニットから成るが、トゥイーター・コラムによる半円筒状の放射パターンにより豊かなステレオ空間が得られる。XRT18の方は3ウェイ18ユニットで、トゥイーター・コラムがスコーカーとウーファーの真上に配置できるのがメリット。XRT22Sのリニアリティの高さは特筆に値するもので、大型のホーンシステムに匹敵する大音量再生から、小レベルの繊細な再生までをカバーする。XRT18は大音量で一ランク下がるが、一般家庭では余りあるもの。

マッキントッシュ XRT18

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

特集・「最新パワーアンプはスピーカーの魅力をどう抽きだしたか 推奨パワーアンプ39×代表スピーカー16 80通りのサウンドリポート」より

 XRT18というスピーカーはマッキントッシュ独自のユニークな開発思想と技術をふんだんに盛り込んだステレオフォニック・ペアー・システムであって、その外観上からも理解されるように、他に類例を見ない特徴をもったシ
ステムである。前作XRT20のジュニアモデルとして登場したが、トゥイーターアレイの個々のユニットにまで時間調整が及んだ点など、XRT20を上廻る綿密なコントロールが見られるものだ。真の立体音場を家庭で再現するためのシステムとして、これ以上のものはない。綿密な時間特性の調整の結果、その再生音場の立体感は録音時の位相差をほぼ1100%再現することによ
り、きわめてリアルで豊かなものだ。また時間特性は正確な音色再現にとって決定的要素となるもので、このスピーカーの音の自然さは注目に値する。この他、多くの点で独特な設計思想を反映したシステムであるし、私自身、XRT20を常用していることからして、それと同質のXRT18でアンプの差がどう出るものかという興味で5台の性格の異なるアンプを選択した。つまり、ここではJBLの4344での結果とどう違ってくるかがひとつの目的であり、さらに、このXRT18がアンプによってどう変化して、どんな音が得られるかという興味につながっているのである。いいアンプはスピーカーが変わってもいいと再認識したと同時に、XRT18によって格段とよさを認識したものもある。

マッキントッシュ XRT18

菅野沖彦

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 XRT18という新しいスピーカーシステムがマッキントッシュから発売された。そのモデルナンバーからしても、また、全体のサイズからも、あのXRT20の弟分であることを想像する人が多いだろう。それは、しかし、全面的に正しい推測ではない。理由は、この製品が、XRT20にない、一歩進んだテクノロジーに裏打ちされたものだからである。ウーファー以外のユニットは全く新しいものに代っている。それだけではない。トゥイーターコラムが、一段と進歩し、時間特性の向上を見ているのである。
 もともと、このユニ−クなマッキントッシュのスピーカーシステムは、全帯域にわたって、位相特性を精密に調整し、ステレオフォニックな空間イメージと、楽器の音色の忠実な再現を実現したところに大きな特徴があった。真のステレオスピーカーと呼ばれる所以である。XRT18ではこれを一歩進め、トゥイーターコラムを構成する16個のユニット相互の関連にまでメスを入れたのである。つまり、XRT20では24個のユニットを使ったトゥイーターコラム全体を、スコーカー、ウーファーとタイムアライメントをとるにとどまっていたのであるが、今回は、そのコラム内でのアライメントまでとっている。そして、トゥイーターコラムは、スコーカー/ウーファーエンクロージュアとインラインで使うようになった(XRT20は、エンクロージュアのサイドにコラムを置いていた)。トゥイーターは、上下二個ずつ一組として順次時間調整がほどこされているのである。これには、ハーバード大学の大型コンピューターを使って膨大な計算をおこなったということだ。この結果、高域は一段と滑らかで、しなやかなものとなり、音色の再現はより忠実になった。XRT20もそうだが、もはや、そこにはスピーカーの存在が意識されなくなった観がある。
 また、このシステムも、マッキントッシュらしい細かなノウハウがみられ、〝よい音〟のための技術の柔軟性が大人の考え方として現われている。一方において、緻密な計算と測定によるテクノロジーの追求がおこなわれ、他方において、そうした経験によるコツとでもいったものが無視されていないのである。つまり、剛性といえば、それ一点張り、軽量化といえば、他に目もくれないといった近視眼的なアプローチに傾くメーカーのような子供っぽさはないのである。
 その一例として、このシステムのウーファーのエンクロージュアへの取付けを御紹介しておこう。ウーファーはエンクロージュアのバッフルボードに強力に締めつけるのが一般的である。特に密閉型の場合、エアータイトの面からも、この傾向が強い。しかし、XRT18のウーファーのフレームは直接バッフルボードに固定されていないのである。フレームのエッジは、エアーシールドも兼ねた弾性材のガスケットを介してバッフルボードに密着し、その上から別の弾性材を二重に介して、リング状のキャストフレームで圧着されている。今時、こんな非常識とも思える方法で、しかも手間暇かけて、ウーファーをマウントしているのは、マッキントッシュとしての理由があるからこそだ。何が何でも剛性一点張りの考え方で、ギューギュー締めつけ、補強のかたまりのような箱に改造し悦に入っている中途半端なエンジニアやアマチュア諸君の顔が見たい。どんなに剛性重視でやってみても、所詮は、物質や形状の本性をコントロール出来るものではないし、やればやるほど自然性から離れ、アンバランスな弊害が音となって現われる。肩肘張った、ガチガチのオーディオ的低音が好きならそれもよかろう。しかし、いい加減に不自然なオーディオサウンドから脱脚したほうがよい。ものごと全て、バランスが大切であり、トータルとしての視野をもって、音の自然な質感を追求すべきではないだろうか。このXRT18の方法がベストとも思わないし、未来に向って絶対的だとも考えられないが、少なくとも、音を目的とした行為である以上、見習うべき姿勢であろう。
 MQ107とう専用イコライザーを使って、部屋との総合特性を調整する点はXRT20と同様であり、入念な調整で部屋の欠点をカバーし、かつ、聴き手の感性にぴたりと寄りそわせる努力は必要である。私はXRT20と、もう三年も取組んでいるが、確実にその努力は報いられ、しかも、まだまだよくなりそうな可能性を感じているほどである。スピーカー自体に強引な主張と個性がないように感じられるが、実は、自然に、素直に鳴るという性格こそ、最も重要なのである。