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2トラック19cm/secテープデッキのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「読者の質問に沿って目的別のベストバイを選ぶ」より

 オープンリールのテープデッキを概念的に考えると、10号メタルリールを装着し、38cm/secで廻す2トラ38は、やはりテープデッキを入手しようとすれば、それ自体にこだわりたくなる存在である。
 たしかに、2トラック38cm/secの魅力は、業務用機器ではディスク制作用のマスターテープに使用される例に代表されるように、その情報量の大きいことはカセットデッキの約32倍であり、ディスクとはまったく異なった次元の音そのものにある。しかし、業務用機とコンシュマー用機との格差は非常に大きく、当然の結果として、それだけの価格差があるわけだ。これが2トラック38cm/secのデッキを考える場合の前提条件である。
 また、コンシュマー用機であったとしても、2トラック38cm/secの、これならではの世界を実感として味わうためには、特別の例でもないかぎり、マイク録音をしないかぎり鮮度の高いエネルギー感にあふれた音は得られない。平均的なFM放送のエアチェック用としては、送り出し側が19cm/secのことが多く、FM放送という電波の介在したプロセスを経れば、2トラック38cm/secでの録音は完全に録音側がオーバークォリティとなり、一般的には無意味といってもよい。
 さらに、テープのランニングコストを考えれば、コンシュマー用機には2トラック38cm/secは荷が重すぎ、現実の使用側をみても10号リールのテープは最初の1〜2本で、以後は7号が中心となるのが一般的な傾向である。
 最近の新しいデッキでは、2トラック19cm/secに焦点をあわせた製品が数を増す傾向が見受けられる。ルボックスB77がそれであり、デンオンDH510も38cm/secで使用できるが、基本的には19cm/sec指向型である。また、ポータブル機ではあるが、ウーヘル4200REPORT・ICやソニーTC5550−2も、このタイプの製品として貴重な存在である。
 2トラック19cm/secのデッキでの良い音を望む場合に必要なことは、そのデッキにピッタリとマッチしたテープの選択が重要である。ウーヘルとBASF・DP26HS、ソニーとDUADの組合せは定評があり、独特のテープオーディオの魅力をもった音を聴かせる。最近のテープには、従来の38cm/secを対象とした製品ではなく、19cm/sec専用のスコッチ♯1500/2000のようなユニークな製品が出ていることも19cm/secの魅力を一段と高めている。各社からこのタイプの製品が発売され、5号から10号にいたる選択の自由が得られれば、2トラック19cm/secは、コンシュマー用の主流となるはずだ。

ソニー TC-5550-2

菅野沖彦

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

高品位な生録に欠かせないユニークなコンパクトなオープン。

ソニー TC-5550-2

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

オープンリールポータブル機として国内製品唯一の存在時代が魅力。

ソニー TC-5550-2

井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 国内製品としては、現在唯一のオープンリール・ポータブルデッキである。サーボコントロールされる走行系はさすがに抜群の安定度を誇り、ワウ・フラッターも大変に少ない。歪み感がなく、スッキリとした粒立ちの良い音は、やはり、2トラック・19cmならではのもので、生録音などでの音場感はナチュラルに拡がり、とくに前後方向の奥行きをクリアーに聴かせる。やや重いのが気になるが、38cmが使えればと望みたくなる。

ソニー TC-5550-2

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ソニーが世界の一流ブランドであることには異論はないだろう。私自身も日本人として、ソニーを多方面から眺めているので、外国人が信頼するほどには必ずしもソニーを見てはいないが、やはり、世界の最高級ブランドであることには違いないと思う。そのソニーの製品を一流品に挙げるとすると、私自身は〝ジャッカル〟のような、テレビとラジオとカセットを組み合わせてコンパクトにまとめた製品をソニー的一流品だと思うのだが、残念ながらこの製品はオーディオの分野にはいれられない。
 コンパクトということからいえば、ソニーが昔からデンスケという名称を付けた製品を持っていたぐらい、携帯用の録音機に関しての技術的キャリアは非常に古いのである。現在でも放送局などで活躍しているEM3というプロフェッショナルユースのオープンリール・デンスケは、その分野では有名な存在である。
 コンシュマーユースのオープンリール・デンスケを挙げるとすると、やはりTC5550-2という製品になる。外形寸法は、333×136×296(W×H×D)mmとコンパクトに仕上げられ、重量も乾電池を入れた状態で6・8kgと軽量だ。ポータブル型テープレコーダーであるだけに、電源も一般的なAC100Vのほか、乾電池8個、充電式電池、カーバッテリーの4電源方式で、どこででも使用可能である。このように、機動性がよく、高性能な、このTC5550-2を一流品として推選したいと思う。

ソニー TC-5550-2

菅野沖彦

スイングジャーナル 3月号(1975年2月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 音をとる楽しみは大きい。オーディオの世界は長い間、音を聴く世界であった。専門家だけが音をとることを許され、一般アマチュアは、それを聴く楽しみに限定されていた。レコード、ミュージック・テープ、そしでラジオというように、全て与えられたプログラム・ソースの再生に楽しみの世界があった。無論、そこには大きな趣味の世界があった。一般にいわれるように、必らずしも、聴くことは受身の行動だとはいい切れない。まして、自分で再生装置を構成して、同じプログラム・ソースからありとあらゆるバリエーションをもった音を再生するオーディオの楽しみは、再生とはいいながら、かなり創造性の強い趣味の世界だといえるのである。しかし、自分で録音をするということになると、その性格は一段と明確になってくる。写真の楽しみは撮影にあるし、写真というメカニズムは、素人が撮影するというプライバシーと共に今日のような大きな発展を見た。もし、写真が、オーディオのように、撮影済みのフィルムを再現するという範囲に限られていたら、とても現在のような発展は望めなかったであろう。そして、この音をとるということの楽しさは、録音機をうまく操ったり、S/Nのいい音を録音再生するというメカニックな楽しみと共に、自分の頭の中にイメージとしである音を具現化するところに、その真骨頂があるといってよいのである。実際には自分の外にある音を対象として、これを録音するのに違いないが、ただそこに音があるから録音するというのでは次元が低くすぎるし、楽しさも浅い。自分のイメージに合った対象を求め、それをイメージ通りに録音すること、あるいは思いがけない対象を発見して、それを瞬間的に自分のイメージに火花を散らせ、自分の感じた音として適確に把えること、時には強引に自身のイメージに合わせるべく音をつくり変えてしまうこと、こうした録音の楽しみこそ、まさに創造的な制作としての楽しみであり、その世界は大きく深いといえるであろう。
 ところで、そうした目的には世の中の多くのテープレコーダーがあって、それぞれ目的と用途が設計思想の基本となっているが、ここにご紹介するソニーの新製品TC5550−2は、そうした高級な趣味層向けに、ハイ・クォリティ・サウンドで、サウンド・イメージをクリエイトするための道具として作られた高級デンスケである。同社でも、オープン・デンスケ、TypeIと称しているが、この分野での経験の豊富なソニーらしい立派なマシーンが登場して嬉しい。その昔、デンスケの呼称の元となった、ゼンマイ式の重いデンスケをかついで肩をこらせた筆者にとって、あらゆる点で、これは理想のマシーンだと思える程なのである。この種の機械の最も重要なポイントはパワー・サプライだが、これは4電源方式という便利なもので、単一乾電池8個、充電式バッテリー、カー・バッテリー、AC100Vと万全である。まず、どこへ行こうと電源に悩むということはない。メカニズムは少々繁雑だが、それだけ機能は豊富である。筆者としてはもっとシンプルなもののほうが好ましいが、メカニズムの好きな人にはその欲求が充分満たされるであろう。デザイン、仕上げにはマニア好みの格好よさが溢れているのである。トランスポートの要めはがっしりとダイカストで固め、19cm/sec、9・5cm/secの2トラック・2スピードの録音特性は素晴らしい。音楽録音にも全く心配なく使えるほどだから、野外の自然音などは完璧。あまりよいので家庭用のデッキとしても使いたくなるほどでなぜ7号リールがかけられるようにしなかったのだろうなどと、少々見当はずれの欲が出てくるほどなのである。ヘッド構成は3ヘッドの独立式、駆動モーターはDCサーボのワン・モーター、44×94mmのダ円型スピーカーがモニターとしてついている。マイクの入力はロー・インピーダンスで−72dBの感度を持つ本格的なプロ仕様。ラインは勿論、100Ω以上で−22dBである。音質は明解で安定し、バイアス、イコライザー共に3段切換で、テープに対する適応性も広く、高性能テープも使いこなせる。重量は6・8kgと決して軽くはないが、この内容としてはよく押えられている。19cm/secは勿論、9・5cm/secの音質のよさは特に印象的で、基本性能をかっしりと押えたメカニズムとエレクトロニクスのよさを感じた。