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スペックス SD-909

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スペックスのMC型カートリッジは、音の腰が強く、ストレートな男性的な力強い音をもっているのが特長である。
 SD909は、低出力型であり、SDT77トランスを使用する。このカートリッジは、中低域がしっかりしているために音に安定感があり、力感が充分に感じられる。ピアノはいかにもグランドピアノのようにスケール感があり、ヴォーカルはあまり子音を強調せず、押出しがよく迫力がある。ステレオフォニックな音場感は固い壁の小ホールで聴くような感じで、音像は少し大きくなる傾向があるが、音の腰が強くエネルギー感が充分にあり、低音の姿・形をクリアーに表現するのは大変に好ましい。音の性質が健康で明るく、ストレートに割切って音を聴かせる魅力がある。

スペックス SD-909

岩崎千明

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スペックスは、古くからMC型のみを製品化してきたという長いキャリアをもちながらも、その名は一部のマニアだけに知られている程度であった。その生産数もメジャーにくらべると日産にして数十個と少ない。もっともスペックスは海外での人気の方が高く、特にアメリカでは、このところMC型カートリッジがもてはやされているようだが、その先鞭をつけたのは、ほかならぬこのスペックスだ。
 SD909は、一言でいうとオルトフォンばりの低音感、高音のブライトネスをもつといえよう。全体に昔のオルトフォンのイメージに似た力強さも感じさせてくれる。しかも帯域は、比較的広くとられ、スクラッチも少ない点で良いといえる。音像の定位は良いのだが、左右、前後の音の拡がりは普通だ。
 MM型のように、周波数によってあやふやな表現をすることがなく、いかにも高級品らしさをもっている。日本製品には珍しく音の特徴をはっきりともち、海外製品と間違えるようなキャラクターをもっている。それだけに嫌われる要素ともなるかもしれない。

スペックス SD-909, SDT-77

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 スペックスからは、MC型のSD−909である。このカートリッジは、共振を防ぐために、カートリッジのボディに、航空機用の軽合金を使い、共振点の異なる2つの材質が共振を打ち消す構造である。
 振動系は、78・5%PCパーマロイを使った巻枠に巻いたコイル、つまり発電系と、カンチレバーの振動支点が一致するワンポイント支持方式を採用し、温度変化にたいして一定のダンピング係数を保つために、異なった性質の材料を2枚合わせてプッシュプル方式を採用している。
 SD−909は、MC型で、精密な作業をおこなうために、少数生産でつくられ、一日に21個しかつくれないとのことだ。
 SD−909などの低出力MC型カートリッジの昇圧用トランスとして、スペックスでは、SDT−77が用意されている。このトランスは、SDT−180newのトランス本体をベースとし、より使いやすくよりスペースをとらない小型にするために、かずかずの改良が加えられている。
 この種の昇圧トランスは、入力インピーダンスのマッチングを、切替によっておこなうのが一般的であるが、ここでは、切替不要の独得のトランス設計により、2〜50Ωのインピーダンス範囲では、切替なしで使用できるとのことである。
 SD−909を、SDT−77をペアにして使ってみる。従来からも、スペックスのMC型カートリッジは、音色が明るく、力強い音を特長としていたが、SD−909は、この系統を受継ぎながら、さらに、音の密度が高くなり太い線も表現できるMC型としてユニークであると思う。