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ロジャース PM110SII

黒田恭一

サウンドボーイ 10月号(1981年9月発行)
特集・「世界一周スピーカー・サウンドの旅」より

 重い音への対応ということでは、このロジャースのPM110SIIは、これまでのイギリス出身のふたつのスピーカー、スペンドールのBCIIとKEFの303と、かなりちがう。このスピーカーの大きさからは考えられないような低い、そして重い音がでるのには、感心させられた。しかも、ここで示される低音には、ぼけた感じがない。それがこのましい。
 たとえば、デイヴ・エドモンズの『トワンギン』できける音楽の、敢えていえばロックとしての迫力とでもいうべきものは、実に見事に示した。そのかぎりにおいて、これは、これまでのイギリス出身の2機種にまさる。この表情の変化なども、大変になまなましく示した。ただ、問題がひとつある。表現の重心が中高域より中低域にかかりすぎているためと考えるべきか、いずれにせよ、シャカシャカいう音よりドンドンいう音の方が拡大されがちなことである。
 きいてみたレコードの中で、特にきわだって結果のおもわしくなかったのが大滝詠一の『ロング・バケーション』であった。音像が拡大されがちなことと関係して、声そのもののなめらかさはあきらかになっているとしても、声は楽器の音にうめこまれがちで、きいていて重くるしさが感じられる。そいうきこえ方というのは、この音楽のめざす方向とうらはらのものといえよう。
 似たようなことのいえるのが、ハーブ・アルバートの『マジック・マン』であった。ここでのきこえ方は、お世辞にも颯爽としているとは表現しがたいものであった。たしかに、低音のきこえ方などには独自ものがあり、アルバートのトランペットの特徴ある音色を巧みに示していたが、音楽がさわやかに走る気配を感じとらせにくいものであった。
 本来なら、スライ&ロビーの『タクシー』あたりが、もう少し軽くきこえてほしいところであったが、音楽としてもったりしたものになってしまった。そのようなことから、このスピーカーは、いまのサウンド、あるいはいまの音楽、とりわけここできいたようなレコードにおさめられている音楽にはあわないスピーカーといえるのかもしれない。ご存じの方も多いと思うが、ロジャースのスピーカーは、総じて、クラシック音楽を中心にきく人の間に支持者が多い。たしかに、この腰のすわった、それでいてきめこまかいところもあるスピーカーの音が効果的なレコードもあることはわかるが、すくなくとも今回きいたようなレコードでは、ロジャースのスピーカーのよさがいきなかったといってよさそうである。
 スピーカーの音としていくぶん暗めであるのは、イギリス出身のスピーカーに共通していえるわけで、このロジャースのPM110SIIについてもそことはあてはまるが、それに加えて、このスピーカーでは、もうひとつ音ばなれがすっきりしないために、全体としてさわやかさの不足したものとなったようである。
 いまの音楽は、ウェストコースト出身のレコードできかれる音楽にしろ、イギリス出身のレコードできかれる音楽にしろ、一種の軽みを共通してそなえていると思われるが、その点での反応でいささかものたりなさを感じさせた。

ロジャース PM510, PM410, PM210, PM110SII

ロジャースのスピーカーシステムPM510、PM410、PM210、PM110SIIの広告(輸入元:オーデックス)
(オーディオアクセサリー 21号掲載)

PM510

ロジャース PM110

瀬川冬樹

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 同じロジャース・ブランドでも、従来から定評のあるLS3/5Aとは系列が異なり、チャートウェルの工場を買収してからの新製品なので、ウーファーには例のポリプロピレン振動板が採用されていて、そのためかどこかキリッと引締った艶やかな音が聴きとれる。中域が張り出さないようよくおさえられ、エンクロージュアの小さいせいもあってか、どちらかといえば線の細い、小造りな音といえる。ただしロジャースの一般製品に共通の、よく弾み唱う響きの良さはこの製品も受け継いでいるから、聴いていてなかなか楽しめる。アンプやカートリッジは、音色の特徴をそれぞれに生かし、選り好みは少ない。ただこのサイズでは、たしかに見た目以上の音量もパワー感もあるにしても、しかしどうしても小型スピーカーという枠を出ることはできないようだ。何か良いメインスピーカー持っているという前提の上で、セカンドシステムとして楽しむという使用目的をはっきりさせることなら、ちょっと目をつけたい製品だと思う。

総合採点:8

●9項目採点表
音域の広さ:7
バランス:8
質感:8
スケール感:6
ステレオエフェクト:7
耐入力・ダイナミックレンジ:5
音の魅力度:8
組合せ:普通
設置・調整:普通

ロジャース PM110

菅野沖彦

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 小型スピーカーらしい、きちんとまとまった端正な音で、KEF303と比較すると、豊潤さでは劣るが、端正さでは勝ると思う。ヴァイオリン・ソロなどは大変品位の高い立派な音で、この楽器の特質をよく再現してくれる。触感のリアリティまで精緻に聴くことができる。ピアノになると、ややスケール感の点で不満が出るが、控え目ながら美しい鳴り方で、キメの細かいタッチが美しい。ジャズやロックになると、さすがにスケールと迫力の点で物足りなく、イメージとしてもKEF303の敵ではない。しかし、極端に低域が不足するというようなアンバランスさはないのが立派である。シンバルやブラシングの繊細な音色の鳴らし分けはたいしたもので、そうした音色のデリカシーの点では高く評価してよい。これもまたKEF同様、しかるべき低域システムを付加してかなり本格的なスピーカーとして組み上げてみたい意欲を感じさせるに十分な魅力を持っている。もちろん、このままでも十分魅力があることはいうまでもない。

総合採点:8

ロジャース PM110

黒田恭一

ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より

 さまざまな点でKEF303とまったく逆の性格をもつスピーカーといえよう。音色的には、KEFよりこっちの方が暗い。しかし、力強い音に対しての反応は、このスピーカーの方がすぐれている。声のつや、あるいはきめこまかさということでも、KEFより、ひとランク上という印象だ。いくぶん図式的ないい方が許されるとすれば、❷のレコードで、グルダの右手がひかれる高い音の特徴はKEFでよりあきらかになり、左手でひかれる低いたっぷりひびく音はこのロジャースではえるということになるだろう。そために、❶のレコードできけるような、さわやかなサウンドを身上とする音楽では、どうしても、このレコードのマイナス面がでてしまう。しかし、個々の音のエネルギーをあやまたず示すということでは、このスピーカーには、なかなかすぐれたところがあり、それが魅力になっている。

総合採点:8

試聴レコードとの対応
❶HERB ALPERT/RISE
(ほどほど)
❷「グルダ・ワークス」より「ゴロヴィンの森の物語」
(好ましい)
❸ヴェルディ/オペラ「ドン・カルロ」
 カラヤン指揮ベルリン・フィル、バルツァ、フレーニ他
(好ましい)