井上卓也
ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
「BEST PRODUCTS」より
ハイフォニツクのカートリッジは、最新の力−トリッジ技術を象徴する軽量振動系を採用した、軽針圧、広帯域、高SN比の設計が特徴であり、創業以来短期間ですでに高い評価を受けているが、今回、新製品として登場したモデルは、既発売のMC−A3、A5、A6、D10という一連の空芯高インピーダンスMC型をベースに、左右チャンネルのコイルの中点を引出して、通常のアンバランス4端子型から、業務用機器などで採用されているバランス型6端子構造を採用したMC−A3B、A5B、A6B、D10Bの4モデルで、型番末尾のBは当然のことながらバランス型の頭文字を表わしている。
このカートリッジのバランス化に伴ない、昇圧トランスもバランス入力をもつ専用タイプが開発され、従来のRCAピンプラグ型に変わりDIN4ピン型の入力コネクターが採用されている。
また、バランス型を採用すると最大のネックになるのはトーンアームである。この解決方法としては、デンマークのメルク研究所とハイフォニツクで共同開発したといわれる、低重心型の支点が高い位置にある一点支持オイルダンプ方式トーンアームHPA4を6端子型に改良したHPA6Bが用意されている。このアームは、一般のいわゆるオルトフォン型ヘッドシェル交換方式ではなく、回転軸受部近くにあるコネクターを含み、アームのパイプ部分を交換するタイプで、一点支持型で不可欠なラテラルバランスは、偏芯構造となっているバランスウエイトを回転させて行なうタイプである。
今回試聴したモデルは、MC−A5Bで、原型は特集のカートリッジテストに取上げたMC−A5である。発電コイルの構造は、非磁性体の十字型コイル巷枠を使ったMC型で、センタータップは右チャンネル橙色、左チャンネル空色がピンにマーキングしてあるため、通常の左chが自/青、右chが赤/緑の端子のみを使えば、4端子型のMC−A5とほぼ同等に使えるわけだ。
業務用機器関係でも一部では、信号系が一般オーディオ機器と同じくアンバランス化の傾向があるのに、何故オーディオ用のカートリッジのバランス化が必要なのであろうか。この疑問への簡単な解答は、バランス型の最大の特徴である『SN比が優れている』の一言につきるだろう。
つまり、SN比が向上すれば、ローレベルでのノイズのマスキングが減少し、音に汚れが少なく、透明感、織細さが向上し、音場感的には、ノイズが少なくなっただけモヤが晴れたかのように、見通しのよいプレゼンスが得られる、ということになる。
プレーヤーにトーレンスTD126を選び、HPA6BをセットしてMC−A5Bを聴いてみる。広帯域型の典型的なレスポンスをもつ、やや中域を抑えた爽やかな音と、ナチュラルだがコントラストが薄い傾向のMC−A5に比べて、本機は一段と表現がダイナミックになり、さして中域の薄さも感じられず、一段とナチュラルでリッチな音を聴かせる。試みに6端子中点を外しセミバランス型として比較をしたが、この差は誰にでも明瞭に判かる差だ。
最近のコメント