瀬川冬樹
ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より
EMTは Elektromesstechnik の頭文字をとったもので(最近の同社発行の資料には Elektronik, Mess-& Tonstudiotechnik となっているが)、1940年にウィルヘルム・フランツが創立した。プロフェッショナルのスタジオ用機器と測定器が主要製品で、日本のプロの間ではターンテープルよりもむしろエコーマシン(EMT140、240。鉄板共振型のリヴァブレイションユニット)の方がよく知られているほどだ。
ドイツの有名な Schwarzwald(黒い森)に本拠を置き、スイスにも工場を持っている。スチューダーやルポックス、トーレンス等とも親戚の関係にある。
EMT930スタジオターンテーブルの原形は25年以前に作られているが、ステレオ用の#930stになってからでもすでに10年以上を経過している。この製品の特長を列挙すると—-
(1)きわめてトルクの強く、ダイナミックバランスの完璧で振動皆無といえる大型のシンクロナスモーターによって、超重量級のアルミ鋳造のターンテーブルをリムドライブで回転させている(78、45、33の3スピード)。周辺にストロボスコープを目盛ったプレクシグラス(硬質プラスチック)のサブターンテーブルと電磁ブレーキによって、クイックスタート(スイッチONから500ミリセコンド)とクイックストップの働作は明快。スタートとストップはリモートコントロールが可能で、そのためのスイッチと連動したリニアスライド型のアッテネーターが用意され、このアッテネーターをミクシングコンソールに組み込める。
(2)専用のカートリッジTSD15と、ダイナミックバランス型のアーム#929を標準装備し(アメリカ向きにカートリッジ/アームレスのUSAモデルもある)、さらに、イコライザーカープの切替えと遮断周波数を2〜20kHzまで変化できる高域フィルター(10dB/oct)を内蔵したイコライザーアンプ#155stが組み込まれ、200Ωまたは600Ωのラインアウトプットで、+17・5dB(約6V)までの出力が得られる。
(3)全体が強化プラスチックの堅固なシャーシに高い精度でマウントされている。針先を照明する強力なランプがついているが、ランプハウジングの凸レンズの巧妙な設計によって、アーム先端の可動範囲をきわめて明るく有効に照明する(専用カートリッジ・シェル先端のレンズは、このランプによって針先と音溝の観察を容易にするためのもの)。
(4)カートリッジは、モノーラルLP用のTMD25、SP用のTND65を追加できる。旧型のOFD、OFSシリーズもある。また最近になって新型のイコライザーアンプ#153stが発表され、交換が可能である。
#928型はトーレンスの125を強力型に改造し、イコライザーアンプ、ブレーキ装置、照明ランプなどを加えた簡易型だが、操作感はトーレンスとは別もので、コンシュマー用とは明らかに一線を画している。
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